福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2012年11月13日
会長日記
会長日記
平成24年度福岡県弁護士会 会 長 古 賀 和 孝(38期)
予想したとおり、残暑は厳しく、天高い青い空も見ることが未だできない陽気です。9月度の日弁連理事会に向かう前の福岡市は気温30度でしたが、東京は随分涼しくなっており上着も必要ではないかと案じ、取りあえずは、手に持って出かけました。ところがどっこい30度を超えるオレンジ色の気候で、とても難儀しております。
格別、映画を見るわけではありませんが、20年ほど前に「依頼人(ザ・クライアント)」という映画が上演されました。ストーリーは、とある少年が妙な成り行きで犯罪に巻き込まれ、警察、マフィアに追われることとなってしまい、絶体絶命の窮地を脱するため、なけなしの「1ドル」で弁護士を依頼するというものです。依頼者が少年であること、弁護料が「1ドル」であること、この安価な弁護料でも主人公の女性弁護士は命を懸けて少年を守るために、全力を尽くし、活動を行うところが、単なるサスペンス、アクション映画とは異なり、それなりに好評を博しました。やりがいがある仕事であれば、銭金ではない、ということでしょうか。
さて、来年1月1日から従来の家事審判法に変わり、新たに家事事件手続法が施行されることは皆さんご承知のことと思います。この法律は戦後直ぐの時期に制定された家事審判法が条文も少なく、当事者の関与、主張の突き合わせ、証拠の閲覧謄写など近時の当事者参加という時代の趨勢にそぐわないところがあるとして、新法化されたものです。家事関係立法の大きな転換ということができ、また、内容面でもこれまでの取扱を大きく変えるものであるため、私たち実務家である弁護士も習熟が必要となります。当会でも家庭裁判所の協力を得て、研修を行うことにしております。
9月度の日弁理事会の審議で、家事事件手続法によって、弁護士費用の負担をすることになった子の費用は、当然に国が負担すべき場合があり、それは国選弁護に準じて、総合法律支援法に基づく法テラスの本来業務として取り扱うべきであるとの意見を採択することになりました。
今少し敷衍しますと、新法によれば、子の監護に関する調停、親権者の指定、変更に関する調停において子は法定代理人によらず、独立して手続を行うことができるとされております(法252条1項2号、4号)。また、行為能力が制限されているものがこれらの手続をおこなう場合、必要があるときは、裁判長は、申立てにより、弁護士を手続代理人として選任することができると定められております。申立てがない場合には選任命令を発したり、職権で選任することも規定されています(法23条1項、2項)。ここまでは良いとして、さらに、子は選任された弁護士に裁判所が認める相当額の報酬を支払わなければならないとされています(同条3項)。驚くべきことです。
監護の仕方についての要望や、親権者として自分にふさわしい人はだれか、自ら判断したい、また、その補助が必要だという場合にあって、弁護士に手続を依頼するという、尤もなことが自己負担というのでは、手続代理人の選任が躊躇されることにも繋がりかねません。勿論、私選弁護と同様、費用負担をしてくれる成人があればよく、案ずるに足りないとの見解もありましょうが、例えば離婚に際しての子の親権の取り合いという例を取ったとき、必ずしも両親に資力があるとも言えません。仮に、両親に資力があったとしても、双方が親権を取りたいばかりに自ら出費すると言い張り、新たな紛争を生じさせることも予想されます。
法テラスの本来業務とすることには、法テラスと契約していない弁護士は手続代理人に就任できないのかなど、様々な問題もあります。しかし、弥縫策として、喫緊の課題を乗り越えるため法テラスによる負担はやむを得ません。本来、家事事件手続法自体で根本的に子に負担させない制度を策定すべきでしょうが、最高裁も如何ともし難いといい、また、法テラスも中々承諾しないが故に、日弁連からの意見書発出という方法を取らざるを得ず、今回の審議および可決となったものです。
冒頭、「1ドル」で事件受任をした映画「依頼人」の話しは、銭金ではない、やらなければならないことはやる、それがおよそ弁護士と名の付く者の「this is my job」ではないかと思ったからです。但し、国の無策により、いつまでもタダ働きをさせられるのはまっぴら御免です。