福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2012年4月 1日
会長日記
会長日記
平成23年度 福岡県弁護士会 会長 吉 村 敏 幸(27期)
1.今年度最後の日記になります。ちょうど3月下旬のこの時期は、会館東口の沈丁花が甘い香りを放って陽春をたたえています。
執行部に入ると、たくさんの会員の方々が献身的に弁護士会のために粉骨砕身努力しておられることに驚きます。皆様に感謝申し上げます。
また、今年度実現できなかった各委員会の課題は、次年度の課題と引き継いでいかざるを得なかったことをお詫び申し上げます。
2.好きな本のこと
3月に入り、弁護士会の全県職員と現・新執行部との懇親会が開かれ、その折に女性職員から会長日記の本の話を読んでいること、とりわけ上橋奈緒子の「守り人」シリーズが好きで嬉しかったとのお話を伺うことができました。プライベートと会務メッセージとの調整に若干気を遣いながら日記を書いています。
子どもの絵本で気づくのは、大人が求めるのは人生に役立ちそうな、教育的・教養的なものになりがちですが、子どもが好きになるのは単純にかわいらしい、楽しい、面白い(驚きのあるもの)、絵がきれいなものです。
自分は子どものころ、動物ものがすきで、椋鳩十やシートンの動物記を好んで読んだ記憶がありました。ときどき読み返してみたいなと思っていたのですが、本の文庫棚には見当たらないので忘れていました。ところが、娘が小3になり、いろいろな本を漁っているうちに、児童書コーナーにはたくさんの椋鳩十とシートンシリーズがあることに気づきました。狼王ロボ、キザ耳坊や(うさぎ)、熊野犬、愛犬カヤなどの短編です。自分で読み返すつもりでも、心は親子の会話を求めているので、動物ものを好きになってほしくて読んであげます。動物ものは生きるために他の生きている動物を襲い、食らう行為の連続ですから残酷です。ここに人間の行為(狩り)が関わりあいます。生き延びるためには動物の生存本能、智恵が発揮され、相手の裏をかき、九死に一生を得ます。ギザ耳坊や(うさぎ)は前進した足跡をそのまま後進して戻り、途中で横道にステップして枯れ木の上に飛び乗り、あるいはイバラの茂みに隠れて逃げます。熊野犬の物語は、戦時中の食糧難を理由としてすべての飼い犬を殺した話で、犬は頭部を棒で殴打されて頭から血を流しながらも自宅にたどり着いて息絶えたという、涙なくしては読めない物語でした。
このような話を読むと、子どもはやはりギザ耳坊やのようなかわいらしい話は好きなようですが、凄惨・残酷な殺戮場面は苦手です。しかし、共通の話題ができて、一時の幸せを得ました。
3.この月報が出るころには、私たち執行部はすでに退任し、古賀和孝新会長の執行部がスタートしています。平成23年1月から3月、市丸前会長と引き継ぎ作業で併走しながらの助走期間を経て、早1年間が過ぎました。怒涛のような1年間でした。
記憶に残るのは、日弁連レベルでは給費制存続および少年事件全件国選付添人実現のための国会議員あての要請行動、法曹人口政策会議の取りまとめにあたっての議論の経過、死刑廃止についての意見書の採択、ひまわりホットダイヤル無料期間延長の可否の議論、裁判員裁判3年目検証の意見書採択、脱原発へ向けた意見書、などです。このように書いてくると、そのほかにも布川事件の弁護人の活動についての批判意見書や、公訴時効廃止に関しての捜査終結宣言なども含めて、たくさん思い出されてきます。
県弁レベルとしては、新会館建設へ向けての土地取得の総会議決と、北九州部会所属の会員の刑事事件と福岡部会所属会員に対する会立件を行なったことです。しかし、非違行為を疑わせる事例はほかにもあり、私たちとしては重大な関心をもって一般市民、依頼者の信頼を損ねたり、損害を与えたりすることのないように会員を監督し、指導していかなければなりません。しかしながら、弁護士会は強制捜査権を有していませんので、現実に非違行為の存否確定は困難です。弁護士会および日弁連に対する信頼と信用は、個々の弁護士に対する一般市民の信頼と信用を源泉としているものと理解しています。したがって、会員は依頼者の信頼を損ねることのないように、一層、密な経過報告と連絡、および(方針策定にあたっての)相談(打ち合わせ)を励行していただくようお願いします。/
4.3月19日の朝刊に、民主党は秘密保全法の今通常国会への提出を断念したとの記事が掲載されていました。
「新聞等マスコミ、日弁連などの反対が強く、党内にも反対論が強いため、消費税乗り切り策としての決断」との報道です。当会は既に平成24年1月の常議員会において、もしも秘密保全法案が国会に上呈された場合に備えて反対決議の承認をいただいていましたが、平成24年3月8日の常議員会に於いては、法案上呈前に反対決議をなすべきとの判断に基づいて承認をいただき、直ちに会長声明を出していました。この法案の問題点は、秘密の内容そのものが不明確であり、構成要件が特定できないことであり、共謀・共犯として一般市民も犯罪主体となりうる恐れがあることです。新聞報道によると、今通常国会への提出は断念されたとのことであっても、その以後に提出される恐れがあることから、当会としても反対運動は継続する必要があると思います。当会は、平成24年4月28日に秘密保全法反対の市民集会を開催する予定ですので、多くの会員のご参集をお願いします。
5.破産事件の減少
金融法務事情(1941号2012.3.10号91頁)によると、福岡地方裁判所における破産事件の運用状況が紹介されています。「新受事件数は平成17年から減少を続け、平成21年、22年とわずかに増加したが、平成23年は大幅に減少した。法人の件数は、この間大きな変動はないが、自然人の減少が大きい。平成23年自然人件数は平成22年の84%」とのことです。
この意味は、結局、貸金業法の総量規制の効果が表れて来たものと前向きに評価することができると思います。現在、法人破産には大きな変動はないということですが、これは中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)のもとで、元金支払の繰り延べ猶予がなされている状況もあり、あと1年後にソフトランディングの政策がとられない場合は、一挙に事業者の支払困難事例が表面化してくる恐れもあり、貸し渋りや貸しはがし等、重大な懸念を抱いています。
6.タスキをつないで
私たち執行部の活動は駅伝がタスキをつないでいくのと同じような継続的運動です。
今年度の重点課題であった取調べの全過程可視化と少年の全件国選付添人制度は、いずれも実現には至りませんでした。しかし、まさにタスキをつないで次年度に託します。取調べ可視化の検察事案については、たとえば特捜事件、障害者事件等については、全過程の可視化へ向けた取組みが相当に進んでおり、すべての事件、全過程可視化へ向けての活動がさらに必要とされます。
これに対して、少年事件のほうは、年間約10億円の予算規模にて実現との国会議員の理解も相当に進んでおり、2~3年後には実現しそうな勢いであるとの感触です。給費制は一層運動を盛り上げる必要があります。
これらについてもさらに全会員のご支援をお願いします。