福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2011年12月 6日
会長日記
会長日記
福岡県弁護士会会長日記
平成23年度 会 長
吉 村 敏 幸(27期)
1.ポカ、当会弁護士作家
宮本輝という作家がいます。私とほぼ同時代人であるために、登場する人物の個性や家庭、時代状況が懐かしく憶い出され、好きな作家のひとりです。
泥の河(太宰賞)、蛍川(芥川賞)、優駿(吉川英治賞)と、連続受賞しました。
その後、流転の海という連作物が文庫として出版され、これも文庫化されるのを待って、出版のたびに購入しますが、概ね3年間隔であるため、続刊が出るころには前作を詳しくは憶えておらず、困ります。今回、続刊が出版されたとの新聞広告を見て、高松人権擁護大会への車中の読み物として楽しみに購入しました。博多駅構内の書店には文庫の帯に「新刊」と記してありました。数頁読み進み、前作(第5巻目)のような疑いを抱き、後で確認したところ、続刊は6巻目とのこと、ポカでした。
これだから連続物はやめようと思っていたのに、と悔しい思いを抱きましたが、主人公一家の波乱万丈、清冽な生き方が面白くて、結局また買う破目になります。
小説といえば、当会会員「法坂一広」氏(ペンネーム)作の「懲戒弁護士」が宝島社の「このミステリーがすごい」の今年第1位を受賞しました。「このミス」シリーズというのは、たくさんの読者層を持っているもので、その中の1位は大変に価値あるものです。たとえば、チーム・バチスタの海堂尊も「このミス1位」からです。筑後部会の「剣持鷹士」氏(ペンネーム)も第1回創元推理短編賞を獲得されています。「あきらめのよい相談者」です。
2.タイムチャージ制
今年10月1日から刑事訴訟法廷における「公判時間等連絡メモ」が導入されました。
これは、法テラス対象の国選事件について、裁判の開始時刻、終了時刻を記述し、法テラスに報告するものです。裁判所は、弁護士とは別途、法テラスあて各時刻を報告します。
既に法テラスからお知らせ文書が届いていましたので、ご存知かと思いますが、刑事裁判の費用がタイムチャージ制になったものと理解して、できるだけ正確に記述していただきたいと思います。従来、国選事件は、金銭に関係なく、安い費用でも被告人の権利擁護に尽力すべきと考えられたものでしたが、安い費用はそのままなのに、余計な確認作業だけは増えてメンドウだ、などの愚痴が聞こえてきそうです。
3.弁護士業務とTPP、EPA
TPPとは、Trans-Pacific Partnership(環太平洋戦略的経済連携協定)です。
加盟国間の経済制度(サービス、人の移動、基準認定など)における整合性を図り、貿易関税については例外品目を認めない形の関税撤廃を目指しています。例外がないとすると、この中に弁護士業務等のサービスも入ってくることになりそうです。
10月18日の日弁理事会の冒頭、宇都宮会長報告があり、オーストラリアの関係者からEPAの申し出があり、意見を聞かれたとのことでした。EPA(経済連携協定)とは、物流のみならず、人の移動、知財の保護、投資、競争政策など、様々な協力や幅広い分野での連携と、両国または地域間での親密な関係強化を目指す条約です。具体的な申し入れの内容は、例えばオーストラリア弁護士が日本国内のホテルに90日間滞在して、同所を事業所として弁護士業務を行なうことの認可や、テンポラリーライセンスの取得を認めることなどです。
宇都宮会長の回答は当然「No」(ノー)でした。TPPを受け入れると、あらゆる障壁を撤廃することになるといわれますが、司法制度は国家の基本をなすものですので、弁護士業務がサービス業とはいえ、種々の制度が障壁として撤廃されるなどの事態に至ることは、到底了解できるものではありません。
4.刑務所の老人施設化
人権大会が高松市で開催され、第1分科会「死刑廃止について国民的議論を」の中で、刑罰をどのような視点で捉えるかが議論されました。この点は、応報なのか、更生・教育なのかが、古くから常に議論されています。
この中の浜井浩一龍谷大学教授の話をご紹介します。同氏は法務省出身、矯正施設、保護観察所勤務、法務総合研究所研究官、国連犯罪司法研究所研究員などを歴任。同氏によると「犯罪は従来、若年・壮年世代層が最も多いが、我国は少子高齢化に伴い高齢者層の犯罪者が増加している。本来は社会福祉の面からケアされれば犯罪にしないでもよい事柄が犯罪として立件され、刑務所でメンドウを見なければならなくなってくる。刑務所は福祉施設のようにノーとは言えないところであって、老人施設となっている。刑事政策は社会政策であり、社会福祉と係る事柄である」とのお話です。
これから寒い季節を迎えると、軽微犯罪を起こして刑務所を目指すお年寄りが増えてくるでしょう。地域生活定着支援センターが各地に設置されていますので、高齢者の生活支援を求めていく必要があると思います。
また、エリスキルスセン教授は、ノルウェー刑務所の解放処遇政策の成功をお話しされ、憎しみよりも融和を目指そうということを強調されていました。
5.福岡−釜山フォーラム
9月2日〜3日と2日に亘って、第6回福岡−釜山フォーラムが開催されました。
福岡県弁護士会と釜山地方弁護士会が今回から新たにメンバーとして加わり、福岡で開催されたものです。これは、日韓海峡圏の将来像を模索する、として成長戦略を語るものです。今回は、東日本大震災・原発事故が日韓に与えた影響を中心に意見交換がなされました。詳しくは、松井副会長の報告に譲ります。
6.給費制の闘いと全件国選付添の要請
給費制の闘いが昨年と同じような展開を辿っています。国会議員には、与野党ともに理解と支援をいただいていますが、お役所の抵抗が強いようです。
しかし、10月18日〜19日と2日間に亘り私たち(市丸信敏、_橋直人、吉村)は、熊本の高島会長、野口九弁連理事長らと粘り強く議員要請活動を続けています。
10月18日は当会の大谷、尾_大会員らとともに議員会館へ、少年身柄事件の全件国選付添人化の要請も行ないました。この問題についても、衆参議員から今後かなりの支援を得られるものとの感触を得ました。