福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2011年10月20日
会長日記
会長日記
平成23年度福岡県弁護士会会長日記会 長吉 村 敏 幸(27期)
今月も月報原稿締切に遅れ、日弁理事会の後、東京のホテルで会長日記を書いています。いつの間にか、会長就任後、半年が経とうとしています。
1.原発問題日弁連では震災・原発関係の議論、決議が多く、また現実の東京行動は給費制運動に時間を多く割いています。当会の原発問題としては、弁護士・弁護士会のエネルギー問題として問題提起がなされています。弁護士・弁護士会は、人権、公害、環境等につき、かねてより先駆的活動や少数者の人権擁護活動に取り組み、時代を切り開いてきました。在野にあり、旺盛な批判的精神を発揮してきました。他方、内なる弁護士個々人の人権、環境意識についてはやや弱かった点も認めざるを得ません。皆様は、身近な環境問題について、どのように考えてこられましたか。今、新会館建設にあたって、公害・環境委員会から「脱原発を目指し、環境に配慮した新会館を作っていただきたい」との意見書があげられています。既に日弁連は脱原発へ向けた決議を出していますが、当会としても日弁連と同様に脱原発に向けた環境エネルギー政策への転換を求める以上、自らの環境意識を変えるべきであるということです。そのためには、六本松への移転、新会館建設にあたっては、再生可能エネルギー(自然エネルギー)の利用を可能な限り促進すべきであるとの立場です。九弁連大会決議案として、当初は太陽光発電の設置を求めるとの具体的内容が盛り込まれていましたが、高層の裁判所ビルが南側、法務検察ビルが東側に位置する状態で、低層の当会弁護士会館としては、太陽光発電は効率および費用負担からも現実的ではない、との批判もあり、現時点では具体的内容には入らず、今後、可能な範囲内で環境エネルギーに配慮していくとの努力目標となったものです。内なる環境意識といっても、現実に生活様式を変更することは容易ではありません。私の若いころの理想とする環境・生き方は、脱エネそのものでした。「野原ノ松ノ林ノ蔭ノ小サナ萱ブキノ小屋ニヰテ」(宮沢賢二「雨ニモ負ケズ風ニモ負ケズ」)、「煙たなびく苫屋こそ我がなつかしき住家なれ」(「われは海の子」文部省唱歌)です。しかし、このような苫屋は田舎の一人暮らしであれば可能であっても、お年寄り、子どもを含めた家族の生活は到底成り立たないのが現実です。都会暮らしの人間にとっては、精々電気をこまめに消すとか、紙を節約するとかの実践しかないのかなと思います。当会の公害・環境委員はKES(環境エネルギー)システムを事務所として取り入れているとの報告もありました。初期費用はかかるとしても、省エネルギー効果が果たせるのであれば、一考に値すると思われます。因みに私は、今年の夏もエアコンなしで就寝しました。エアコンなしの夏の夜は3年目になりました。人間の力では制御不可能な現実を実態として目の前で確認できた今回の福島第一原発事故のこの恐怖感を大事にしていきたいです。
2.新会館の規模、機能、概要について-大阪会館の教訓新会館建設問題については、現在の会費以上の負担は新たに求めないという強い決意で臨むつもりです。大阪弁護士会、広島弁護士会と当会の三会交流会が広島の会館で行なわれました。広島は既に会館を所有していますが、手狭になったために近所の角地を購入して新会館を建設予定とのことでした。大阪弁護士会は平成18年に新会館を建設しました。この時も、賛成派と反対派に分かれて激論が交わされたそうです。反対派は、新会館の規模が大きすぎることを理由としていたということでした。当会の月報6月号23頁、7月号27頁に会員アンケートの結果の記載があり「大阪弁護士会館では現状空き室が多い」との記述があります。この点について福岡から大阪の会長にお尋ねしたところ、中本会長は驚いて「新会館を作るときは、当然反対はあったけれど、今は全員喜んでくれており、さらにこの会館でさえも既に手狭になっているため(研修が年に300回ないし400回)、もう少し大きな会館を作っておくべきだったと言われているくらいです。部屋が余っているとか批判が多いなどの話は全くありませんよ」ということを強く話されました。大阪は平成18年7月に新会館建設、新会館は地下2階、地上14階建て、建築面積2,276.90・、延床面積17,005.29・、建設費約55億5,000万円ということでした。太陽光発電も設置しているとのことです。
3.給費制8月31日に政府の法曹養成フォーラムは給費制を廃して、貸与制移行を打ち出しました。しかしそれ以前の8月23日、民主党の法曹養成に関するPTは、給費制のみを先行して結論付ける点には反対であって、法曹養成に関する全体議論が終了するまでは、給費制を暫定的に存続させる方針を打ち出していました。その後、野田新内閣が発足し、財務、法務、文科の新大臣も新たに決まって、今後の行方も予断を許しません。しかし、当会は引き続き日弁連と一体となって、給費制を勝ち取るまで闘い続ける覚悟でいます。今後は、国会での戦いになります。また法曹養成問題としては、いよいよロースクール問題へと議論が及びつつあります。今後、弁護士会はつらい決断をしなければならないでしょうが、ロースクール生は既にこれまでに、もっとつらい立場におかれ続けてきたということも言えるような気がします。
4.人権プレシンポ・死刑シンポ人権大会プレシンポとして、 9月 5日 死刑シンポ 9月 10日 患者の権利シンポ 9月 17日 生存権シンポが開かれました。いずれのシンポも100名前後の一般市民や会員の参加があり、熱心な討論がなされました。私は九弁連や日弁理事会と重なったため、残念ながら死刑シンポしか出席できませんでした。死刑については、日弁連は平成14年11月に死刑執行停止の理事会決議をしていますが、今回は「死刑廃止について国民的議論を」をテーマに高松市で開催されます。死刑制度は弁護士としても思想、信条にかかわる事柄であって、容易に結論が出せる課題ではありません。諸外国でも死刑廃止決議や死刑執行を事実上停止した時代的背景としては、ほとんどすべての国で死刑賛成派が60%~80%の国民世論でした。それを時の政治家がリーダーシップによって、死刑廃止なり死刑執行停止を断行したということです。国民世論は自然的感情や素朴な正義感から死刑賛成派が多数を形成します。それにも拘わらず国会議員として死刑制度に異を唱えることは、選挙にとってはマイナスにしか働きません。諸外国はそれにも拘らず、なぜ死刑廃止・執行停止を断行できたのか。それにはまず、議論を巻き起こし、次に政治家のリーダーシップにより断行するという諸外国の例にならうことが必要だといわれています。千葉景子元法務大臣は、死刑を執行して議論を巻き起こすという誤ったリーダーシップをとりました。今後の平岡秀夫法務大臣(弁護士/山口県弁護士会所属)は死刑制度について「執行するかしないかだけでなく、制度を国民と一緒に考えたい。国民的な問題提起をどう受け止めるかも考えたい」と述べています。今後の新大臣の言動が注目されます。