福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2011年9月22日
会長日記
会長日記
平成23年度福岡県弁護士会会長 吉 村 敏 幸(27期)
1.「皆さんは、憲法の自由権保障は大変重要だと考えているでしょう。じゃ、社会権保障についてはどうですか。最高裁や有力学者はこの点の違憲審査基準について二重の基準を作ったのが誤りです。自由権=厳格基準、社会権=合理性基準=緩やかな基準、という二重の基準です。食うに困らない人は自由権を重要だといい、社会権保障を緩やか基準でいいといいます。しかし、食うに食えない人、生きていけない人は自由の前に食うこと、生きていくことのほうが大事なのです。したがって、違憲審査基準の二分論は誤りなのです」。 これは、委員会合宿の講師の先生のご発言です。久しぶりに憲法の講義を聞いています。 今日は、生存権本部委員会の夏合宿帰りに、この日記を書いています。場所は、佐賀古湯温泉でした。金曜日に日弁理事会から帰福し、土曜日午前は九弁理事会があり、午後から松井副会長の車に便乗しての古湯行きです。久しぶりの委員会合宿なので、若かったころの委員会共同作業を思い出し、気分が高揚してきました。 参加者は約20名。登録2~4年目前後の人が多く、10年、20年、30年前後の会員が各1名ずつくらい。今回は、金沢大学大学院人間社会社会環境研究科長、井上英夫教授の講演も予定されており、大変楽しみでした。この合宿は9月17日13時15分(天神センタービル8階)からの人権大会プレシンポ(生存権)に向けての準備作業も含まれています。シンポの獲得目標は次のとおりです。・ 日本の社会保障がどうあるべきか、普通に働けば普通に生きていける社会を作るためにはどうすべきかというのが大テーマ。・ 大テーマを基本において、あるべき社会保障ないし国の進むべき道-労働を基本にして国をどう持っていくかを議論する。また、東日本大震災を契機とする生存権保障にかかわる価値の転換、今後の日本の在り方を問う。・ 働いて生活していける国づくり-ナショナルミニマム、最低賃金、年金、税と社会保障の一体的改革、規制緩和、地方分権、福祉国家型の社会保障とは何か。・ 社会保障の重要テーマである労働現場、雇用関係はどうあるべきか。市民・弁護士はどういう視点を持つべきか。・ 労働と社会保障との密な連携が前提になるという視点。労働市場の健全性、就労支援、社会保障という3つが揃うことが必要不可欠であること。 人権大会プレシンポは、ほかに、 9月5日18時(アクロス円形ホール)「死刑制度の我国における現状と国際的動向」等、 9月10日13時30分(博多区千代町ガスホール)「患者の権利の法制化を目指して」等 が予定されています。
2.執行部に入ると、自分の個人的業務のみではおよそ関与しないはずの文書に接することが多くなります。私の分野では、憲法に関する講演録や公害、環境に関するものです。 秋田弁護士会から平成18年3月11日に樋口陽一教授を招いた憲法講演会講演禄が送られてきました。明治憲法制定時「臣民ノ権利」を入れるか入れないかに関して闘わされた伊藤博文と森有礼との論争、夏目漱石の個人主義的人権観などが述べられていて面白かったです。可能であれば、追而月報等に転載できればと考えています。 公害、環境に関するものとして、日弁連は7月15日理事会で、原子力発電と核燃料サイクルからの撤退を求める意見書を採択しました。この問題は、今年の九弁連大会の宣言・決議にも提案されることになると思われます。 原発は補償問題もあり、発電と送電網を分離しての売却論など初めて聞く議論であり、興味深い論点がたくさんです。
3.東日本大震災の問題については、二重ローンからの解放の問題に漸く目途がつきそうです。 7月15日日弁理事会における報告によると、ADRにおいて債務者と金融機関、保証会社と合意することによって債務免除を認める方式とすること、当該保証人に対しても求償しないこと、とされています。多くの金融機関、リース会社、保証会社、信用保証協会も同意しています。以上が骨子です。ただし、3月11日以前に既に期限の利益を喪失する等の遅滞者の場合は利用ができないこととなっています。 この問題は、震災直後に復興のためには避けて通れない重要な課題として宇都宮日弁連会長がマスコミ等にアピールし、政府、国会等に働きかけてきたものであり、今回、漸く実現に向けた見通しがたち、日弁連として復興への重要な役割が果たせたことを嬉しく思います。
4.給費制問題7月13日法務省の検討会議(フォーラム)において、貸与制の問題の議論がなされました。日弁連からは丸島委員と川上明彦委員が意見を述べましたが、法務省からは弁護士登録5年目会員の平均所得が約1,100万円であることの報告がなされたそうです。このことが、多くの委員に驚きとともに、充分返済可能であり、貸与制が大勢であるとの佐々木毅座長の意見に連なったとの報告もありました。しかし、このアンケート報告は、わずか回収率が13%であることから、日弁連としては早急かつ正確なアンケートのやり直しをすることを決めて、直ちに作業に入りました。対象会員は、57期、62期です。次回のフォーラムは8月4日ですので、執行部としても全力をあげて、対象会員にはアンケートの作成報告の協力をお願いするつもりです。
5.夏は合宿の季節です。九弁連理事会も鹿児島合宿です。テーマは法曹人口問題、原発問題等です。生存、消費者、刑弁なども合宿をします。この合宿は若手会員が基礎的問題から応用まで幅広く研究し、かつ意見交換できる場として、大変重要な機会です。ここから委員会と弁護士会、日弁連を牽引していく会員が育っていきますので、多くの会員の参加を願っています。古湯合宿では、近くの渓流で2日続けて24cm、25cmのやまめをゲットした幸せな弁護士もおられました。