福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2011年9月 9日
提携リース契約を規制する法律の制定を求める意見書
意見
2011年(平成23年)9月8日
福岡県弁護士会
会 長 吉 村 敏 幸
意見の趣旨
第1 提携リース契約において,不適正,違法な勧誘ないし契約内容による被害が多発している状況に鑑みて,これを適切に規制する下記の立法措置を早急に行うことを求める。
1 民事法の規定
(1)サプライヤーによる詐欺,不実告知,違法行為がリース会社が行ったものと同視し,リース契約における取消原因となるなどの規定の創設
(2)不実告知等一般民事法より立証負担の軽減された取消権の創設
(3)クーリングオフ制度の創設
(4)リース料がリース物件の市場価値に対して著しく高額なリース契約の取消権の創設
2 行政規定
(1)提携リースを行うリース会社及びサプライヤーの登録制
(2)リース会社のサプライヤーに対する管理義務
(3)リース料がリース物件の市場価値に対して著しく高額でないか調査する義務
(4)リース契約の書面交付義務,説明義務
(5)これらの義務に違反していないか,報告義務を課し,行政の立入調査,義務違反の場合の行政命令の創設
第2 法制審議会における民事(債権)法改正の検討作業において,提携リース被害について考慮しないまま,ファイナンスリースが典型契約として規定されることのないよう十分慎重に議論を行うことを求める。
意見の理由
1 提携リースとは
本来,リース契約は,設備投資のために資金を必要としている企業(ユーザー)にとって,資金調達手段のひとつとなりうるという社会的機能を有している。すなわち,設備投資を検討するユーザーは,借入など様々な資金調達手段の中から,リース契約をもっとも適切なものとして積極的に選択し,物件の選定,リース料率などの契約条件を,リース会社,物件の販売事業者(サプライヤー)との間で,対等な事業者同士の交渉の中で行い,契約内容を決定する。
これに対し,提携リース契約は,上記のような本来のリース契約とはまったく事情を異にする。
提携リース契約とは,一般的に以下のような契約締結過程をたどる。
まず,リース会社とサプライヤーは,業務提携契約を締結する。サプライヤーは,リース会社に代わり営業活動を行い,ユーザーが契約に同意した場合は,予め定型書式として用意されているリース契約書にサインさせ,事後的にリース契約が申込を承諾することにより契約が成立する。リース会社は,営業活動を全面的にサプライヤーに任せており,この段階でリース会社がユーザーと接触を持つことはなく,ユーザーからの契約の申込みの受付も上記の方法でサプライヤーに代行させている。この様に,リース会社は,営業行為(勧誘行為)及び契約締結に必要な手続の多くをサプライヤーに依拠しており,このようなサプライヤーの活動を利用して,利益を得ている。多くのリース会社が,サプライヤーと業務提携契約を締結した上で,上記のような営業を行っており,ひとつのビジネスモデルとして,定着している。
2 提携リースの特徴
提携リースの特徴として,
①ユーザーには,資金力,情報収集力,契約交渉能力に乏しい小規模零細事業者が多い。
②勧誘行為,物件,契約内容の説明等は,もっぱらサプライヤーが行い,ユーザーが契約の申し込みをするまでは,リース会社との接触がない。
③ユーザーから積極的に希望して契約にいたるケースもあるが,被害事例においては,サプライヤーがユーザーを訪問することにより契約交渉がスタートし,サプライヤーの勧誘に応じる形での契約締結が多い(訪問販売が多い。)
④リース物件は汎用品である。
⑤被害事例においては,リース物件の市場価格に対して,リース料が高額であることが多い。
3 提携リースが被害の温床となりやすいこと
以上のような提携リースの特徴から,被害の温床となりやすい。
すなわち,被害事例においては,提携リースは,訪問販売で行われることが多いので,ユーザーとしては,当初は当該物件のリースを積極的に望んでいなかったのに,セールストークでその気にさせられ契約にいたる。このセールストークの中に詐欺文言があり,だまされて契約に至ることがある。そして,多くは,中小零細起業者であり,資金力,情報収集力,契約交渉力は,一般消費者と変わらず,知識の不足から,リース料が適正か,リース物件が適切なものかという判断もできず,詐欺文言を見破れず,不要なもの,割高なものをリース契約させられることが多い。資金力がないため,総額数百万円,月額数万円に及ぶこともあるリース料の支払いに苦しむケースがある。中には,事業者とは名ばかりで,ほとんど廃業したものや,事業はしているものの,もっぱら家庭用として使用する物件を事業用のリースとして契約しているケースすらある。
4 被害の実態
(1)上記の通り,提携リースは,被害の温床となっており,国民生活センターに寄せられた悪質なリース契約の相談事例件数は
平成12年度 2618件
平成13年度 3511件
平成14年度 4853件
平成15年度 5830件
平成16年度 7352件
平成17年度 8696件
平成18年度 5498件
平成19年度 3806件
平成20年度 2972件
平成21年度 2975件
である。
平成18年度以降減少傾向にあるが,これは,後述する経済産業省の通達や全国でリース被害弁護団が結成され,救済に当たった効果であるが,未だ決して少ない件数ではない。
(2)具体的な被害事例
ア 電話機リース
サプライヤーの従業員が,従業員は家族中心の数名の会社に訪問し,「現在使用している電話機は,もうすぐ使えなくなる。」とか,「某大手電話会社の関連会社である。」と偽り,電話機のリースの勧誘をした。その会社は,電話で営業をしたり注文を取ったりすることもまれで,一般の電話機で十分対応できる状態であったが,サプライヤーの「もうすぐこの電話機は使えなくなる。」との詐欺文言にだまされ,主装置とビジネスフォン数台のセットをリース期間5年,リース料総額100万円超のリース契約を締結した。あとで,電話機が使えなくなるとの説明は虚偽であることを知り,解約を申し出たが,リースなので中途解約は出来ないと断られ,必要もない主装置とビジネスフォンのセットのリース料の月々の支払いを強制されている。
イ ホームページリース
個人で飲食店を経営している人の下にサプライヤーが訪問した。ホームページでお店の宣伝をしてはどうか,通販も出来るようになるし,検索上位に来るようにするので,売り上げは倍増する,などと勧誘された。ホームページ作成ソフトを提供した上,ホームページの作成,更新,SEO対策などのサービスも行うといわれたので,自分ひとりでは不可能でも,そのようなサービスを行ってくれるのならホームページによる店の宣伝になり,売り上げも上がると誤信し,リース契約を締結した。しかし,契約書上は,リースの物件はソフトのみであり,市場価値が数万円しかないソフトのリース料総額は数百万円だった。ホームページ作成などのサービスもしてくれるということだったので,高額なリース料も了承して契約したが,その後そのサプライヤーは破産して消滅した。サービスが受けられなくなったため,リース契約の解約を申し出たが,リース物件であるソフトの提供は行っており,サービスはリース契約の対象ではないので,その不履行があってもリース契約には何の影響もない,と言われた。
5 被害予防に向けた取組
(1)経済産業省の通達
この様な中,平成17年12月6日付で、経済産業省のホームページに、「悪質な電話機リース訪問販売への対応策について」と題するニュースが掲載された。その内容は被害実態の紹介ならびに、対策として特定商取引法の通達改正、業界団体への指導、相談窓口体制の整備及び個人事業者等に対する注意喚起であった。
経済産業省は、上記ニュースリリース同日の平成17年12月6日、特定商取引法の通達改正(現平成19年4月12日付通達、以下同じ)を行った。
まず、法2条関係の販売業者等の解釈等の明確化において、「リース提携販売」を例示し、「一定の仕組の上での複数の者による勧誘・販売等であるが、総合してみれば一つの訪問販売を形成していると認められるような場合には、(販売業者、リース業者)いずれも販売業者等に該当する」とし、提携リースにおいては、販売業者とリース業者の一体性が認められることを述べている。
また、26条関係の営業のため若しくは営業としての解釈の明確化において、事業者名で契約を行っていても、事業というよりも主として個人用、家庭用に使用するためのものであった場合は、本法が適用される可能性が高いとした。
(2)リース事業協会に対する指導
経済産業省は同日,殆どのリース会社が加盟している社団法人リース事業協会に対して「電話機等リース訪問販売に係る総点検等について」と題する文書を発し,傘下会員に「リース事業者において,電話機等リースに係る提携販売事業者の管理を厳格に見直す」ことを指導するよう命じていた。
(3)社団法人リース事業協会の対応
社団法人リース事業協会は,いずれも平成17年12月6日付のニュース発表,特定商取引法通達改正及び「電話機等リース訪問販売に係る総点検等について」発布に対して,これらと同日付にて「電話機リースに係る問題事例の解消を目指して」と題する文書をホームページに発表した。
さらにその後も同協会は,平成20年9月24日に「小口提携リース取引に係る問題事例と対応について」,同年11月26日に「小口リース取引に係る問題事例の解消を目指して」,同21年4月22日から継続的に「小口リース取引に係る問題の解消を目指して-当協会の取組状況-」,平成23年1月26日に「小口リース取引問題の新たな対応策について」,平成23年3月28日にサプライヤー向け啓発資料「サプライヤーの皆様方へのお願い」と題する文書を発表している。これらの文書によれば,リース事業協会に対する苦情件数は,平成19年度が3,778件,平成20年度が4,249件,平成21年度が4532件,平成22年度が3524件であり,平成21年度まで増加しており,平成22年度になって減少しているものの,依然件数は多い。
また,同協会は対応策として,問題のあるサプライヤーに対して「取引停止」や「改善指導」を行っていることを件数と共に公表している。
(4)以上の通り,経済産業省,リース事業協会による取り組みが行われ,苦情件数は減っているもののまだ多数に上っている。
6 全国の弁護団の取組
この様な中,全国で被害者弁護団の結成が行われ,全国一斉110番の実施,相談窓口の常設,具体的事例における交渉,訴訟による解決など被害救済の試みが行われている。
福岡においても,福岡県弁護士会所属の弁護士有志により平成19年に被害者弁護団が結成され,同年2月と7月に110番を行い,また相談受付を常時行い,これまで約160件の相談を受け,うち約50件を受任し,交渉,訴訟における和解などにより,被害救済を行っている。
7 事後的救済の困難性(法的整備の必要性)
以上の通り,被害事例について,事後的な被害救済が必要な状況であり,全国の弁護団によりこれに取り組んでいるところである。
しかし,経済産業省の通達によりクーリングオフを行うなどの方法で解決できた事例がある一方で,事案により被害救済が難しいものも少なくない。
被害救済が難しいことの原因のひとつが,リース契約が事業者通しの契約であることもあり,消費者契約のように救済のための法整備がされていないことにある。
例えば,特定商取引法でのクーリングオフは,経済産業省の通達の事例以外(家庭用,個人用ではない場合)では適用除外にあたり,行使が難しい。
消費者契約法の不実告知による取消などの規定も,消費者契約ではないとの理由から適用に疑義を呈されるため,一般法の詐欺取消規定によらざるを得ず,立証に困難を生じる。
サプライヤーによる詐欺の立証に成功しても,リース契約は,サプライヤーとは別の法人格のため,サプライヤーの従業員による詐欺は,第三者による詐欺として,リース会社が悪意でないとリース契約の取消が難しい。経済的な効用は,割賦販売とほとんど変わらないのに,割賦販売法のように,サプライヤーの違法行為をリース契約の効力に影響させるような法制度がない。消費者契約法の媒介法理は,消費者性に疑問を呈され,直接適用には壁がある。よって,サプライヤーがリース会社の代理人に当たるなどの一般規定の適用を主張する必要があるが,立証が難しい。
不法行為に基づく損害賠償請求による救済を目指すにも,実際に詐欺行為を行ったのはサプライヤーなので,リース会社の不法行為を主張するのは難しい。業務提携契約の存在,リース会社が営業および契約締結の手続きの多くをサプライヤーに依拠しているという関係から,共同不法行為,使用者責任等を追及するが,リース会社がサプライヤーの違法な勧誘行為の実体をどれくらい把握していたか,業務提携契約の実体は,内部事情のため,ユーザー側にはわからず,両者の関係はどのようなものかの立証は困難で,共同不法行為,使用者責任も簡単に認められるわけではない。
サプライヤーの詐欺,不法行為が認められれば,サプライヤーに被害回復のための経済的負担をさせる形での解決は見込めるが,サプライヤーが小規模な会社のことも多く,既に破産,廃業しており,損害を賠償する能力がないことが多い。従って,資金力の豊富なリース会社において被害救済の責任を取ってもらうことが,リース被害救済の重要な点である。しかし,上記の理由により,リース会社に責任を負わせるのは,簡単ではない。
以上の通り,現在,提携リース被害の多くの事例においては,事後的な救済を図るために民事法の一般規定以外に方法がないが,一般規定のみによる被害救済には多くの壁がある。
8 民法改正について
また,現在,法制審議会において,民法(債権法)改正に向けた議論がなされ,その中で,リース契約を典型契約に取り込もうという意見もある。しかし、提携リースには本意見書にあらわしたような問題があり、上記議論の中でも、この点を指摘する意見が出されているところである。従って,民法改正の議論において,このような提携リースの問題点という視点を取り入れて,これを解決するための何らかの法的規制の必要性について議論すべきである。このような視点を欠く改正となれば,リース契約に法のお墨付きが与えられたということにしかならず,かえって提携リース被害の救済にとっては,法制度の後退になりかねない。
9 まとめ
以上の通り,提携リースが被害の温床となっている実態から,被害事例を事後的に救済できるようにするために,意見の趣旨記載の通りの民事法規の整備を求める。
提携リースの被害者は,交渉能力,情報収集力において,一般消費者と同等の能力しかないので,消費者契約には認められている不実告知による取り消しなど,一般規定より立証負担が緩和された規定をおくべきである。
その上で,不実告知や詐欺が認められる事例においては,リース業者がサプライヤーの営業活動により利益を得ているという報償責任の観点,契約に必要な手続のほとんどをサプライヤーに代行させているという実体から,サプライヤーの不実告知,詐欺行為がリース契約の法的効果に影響し,例えば取消ができるなどとする法規制を設けるべきである。
また,多くの提携リース契約が訪問販売により行われているという実体からして,サプライヤーのセールストークを鵜呑みにすることなく,不適切な契約を排除する機会を与えるべく,クーリングオフの制度を創設すべきである。
また,ホームページリースなど,ソフト等他の物件をリース物件としながら,実際には,それに伴うサービスの対価をリース料に転嫁させ,リース料が多額になっている事例もある。また,別のサービスの対価を転嫁させるものでなくても,リース料がリース物件の価値に見合わない高額なリース料になっているものも珍しくない。従って,この様な契約自体を防止するため,リース物件に見合わない高額なリース契約の締結を禁止し,これに違反した場合は,取消権を認めるべきである。
また,提携リースが被害の温床になりやすいという点から,これを予防するため,意見の趣旨記載の通りの行政規定の整備を求める。
まず,提携リースを行うリース会社,サプライヤーを登録制とし,違法な提携リースを行おうとする者を未然に排除すべきである。
また,提携リースにおいては,リース会社がサプライヤーに営業行為,契約締結に必要な手続の代行をさせている点からして,リース会社にサプライヤーの管理責任を課すべきである。
また,リース料がリース物件の市場価値に対して著しく高額である点は,提携リース被害の特徴であり,リース契約書から比較的調査が容易な事項であるので,リース会社にかかる調査義務を課し,これにあたる場合は,リース契約を禁止し,違反した場合は,取消を認めるべきである。
また,提携リース被害の被害者の多くは,中小零細事業者であり,実際には一般消費者と同様に情報収集能力,契約交渉能力に乏しいのであるから,リース会社,またはその代行をするサプライヤーに,記載事項の法定された契約書面の交付義務を課し,かつ,契約書面の法定記載事項についての説明義務を課すことにより,ユーザーに契約内容を理解させ,提携リース被害を未然に防止すべきである。
最後に,これらの規定の実効性を確保するため,監督官庁に対する報告義務,立入調査権,違反した場合の行政命令の規定を創設すべきである。
以上