福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2011年4月 1日
検察の在り方検討会議の提言に対する会長声明
声明
昨日、検察の在り方検討会議の提言が発表された。
当会が必要性を強く訴えてきた取調べの全過程の録音・録画についてどのような提言がなされるか注目していたが、その内容については、深く失望せざるを得ない。
検察の在り方検討会議については、平成22年11月に始まった当初は、検察の問題について深く鋭い見識をもった委員も多く選任されたことなどから、同会議による議論が、厚労省元局長無罪事件によって露呈した現在の検察が抱える問題点を正面から受け止め、取調べの全過程の録音・録画を含む抜本的な解決策を提示することに繋がることが期待されていた。
実際、公開された議事録を見る限り、多くの委員が現在の検察が抱える問題点について厳しく指摘するとともに、取調べの全過程の録音・録画の必要性を指摘している。 中には取調べの全過程の録音・録画に否定的な意見を述べた委員もいたが、その多くは検察や警察出身者、あるいは一部研究者であり、「国民の声」と評価するのに疑問を持たざるを得ない意見であった。
さらに、同会議のために行われた現職検事に対する意識調査では、「取調べについて、供述人の実際の供述とは異なる特定の方向での供述調書の作成を指示されたことがある」という質問に対して、「大変良くあてはまる」という回答が6.5%、「まあまあ当てはまる」という回答が19.6%、「どちらともいえない」という回答が16.1%も存在したという結果が明らかとなった。
そもそも、これは最高検が実施した意識調査であり、そのような身内の意識調査においてさえ上述したような数値が出ているということは、驚愕に値することである。
このように実際の供述と異なる供述調書の作成を部下に指示する上司は、これまでに自らが取調べをする際にも、実際の供述と異なる供述調書を何通も作成し続けてきた可能性が高い。また、部下の検事に指示することまではせずとも、自分が取調べをする際には、実際の供述と異なる供述調書を作成したことがあったという検事は、上記回答よりもさらに多く存在するのではないかと疑われる。
さらにいえば、検察庁の中で少なくない上司が部下に対して指示しているということは、実際の供述と異なる供述調書を作成するということについて、これを容認する空気が存在していることを示している。
以上のように、この意識調査は、厚労省元局長無罪事件が、単なる個別の検事の問題、あるいは大阪地検特捜部の問題なのではなく、検察全体に存在する病理的な問題であることを明らかにしたものであった。
ところが、上述したような同会議内での意見や、意識調査の結果であったにも関わらず、昨日発表された提言では、取調べの可視化の基本的考え方について「被疑者の取調べの録音・録画は、検察の運用及び法制度の整備を通じて、今後、より一層、その範囲を拡大するべきである」とするだけで、取調べの全過程の録音・録画に踏み込まない内容となっている(知的障害のある被疑者に限って例示として触れられているにとどまる)。
議事録で見る限りは、捜査機関出身者や一部研究者を除けば、取調べの全過程の録音・録画に踏み切るべきだとする意見が大勢を占めていたにも関わらず、提言においては、あたかも「国民の声」が賛成と反対に二分したかのような記載がされている。
また、上述した意識調査において明らかとなった重要な問題については、提言の中では一切触れられていない。
さらに、提言は、特捜部における取調べの録音・録画について「1年後を目途として検証を実施」するとか、「制度として取調べの可視化を含む新たな刑事司法制度を構築するため、…十分な検討の場を設け」るなど、結論を先送りして時間稼ぎをしていると言わざるを得ない。
当会は、平成23年3月10日に、「今、改めて取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を求める決議」をし、国に対して、すみやかに取調べの全過程を録画する制度の導入に向けて早急に法律を整備するよう求めた。
すでに検証や議論の時期は過ぎており、すぐに立法に向けた具体的な作業に移る段階にある。
法務大臣にあっては、本件提言の内容をそのまま受け容れるのではなく、同会議において捜査機関出身者や一部研究者以外の委員らが述べた意見にこそ耳を傾け、同会議での意識調査の結果から明らかとなった検察の病理的問題を真摯に受け止め、すみやかに取調べの全過程を録画する制度の導入に向けて早急に法律を整備するよう努力されたい。
また、現場の捜査機関は、現在試行している取調べの一部のみの録音・録画を改め、対象とする事件においては取調べの全過程を録音・録画する運用を直ちに開始するよう求める。
2011年(平成23年)4月1日
福岡県弁護士会 会長 吉村敏幸