福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2010年6月 9日

横浜弁護士会所属会員殺害事件に関する会長声明

声明

本年6月2日午後2時40分頃、横浜市において横浜弁護士会に所属する前野義広弁護士が、事務所を訪ねてきた男に襲われ、サバイバルナイフのような刃物で胸や腹を刺され、搬送された病院で死亡するという痛ましい犯罪が発生した。
 事件後に犯人が逃走したために、現在も犯人の特定はなされておらず、事件の背景や犯行の動機などは、今後の適正かつ厳格な捜査を待つ以外ないが、法律事務所において、昼の執務時間帯に、業務遂行中の弁護士を襲撃したことから、今回の犯行は、弁護士業務に関連したものである可能性が高いと考えられる。
 このような行為は、民主主義社会において決して許してはならない蛮行である。また、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、市民の権利の護り手である弁護士の業務に対する重大な挑戦であり、このような業務妨害や暴力行為は、いかなる理由があっても許されるものではない。
 当福岡県弁護士会は、横浜弁護士会、そして日本弁護士連合会や全国の弁護士会とともに、今後とも、いかなる暴力行為に対してもひるむことなく毅然として対処し、弁護士の使命を全うしていく所存である。

     2010年6月9日
                  福岡県弁護士会
                   会長 市 丸 信 敏

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2010年6月18日

会長日記

会長日記

平成22年度    会 長 市 丸 信 敏(35期)


薫風の季節。風に乗った新緑の香りは命の息吹を感じさせてくれ、また、咲き誇る花々は心を癒し人としての優しさを取り戻させてくれるように感じます。5月12日をもって怒濤の挨拶回りに終止符を打ち(笑)、時間的には少し余裕をもって会務に向かうことができるようになりました。 司法修習生の給費制維持のための闘い  さわやかな五月晴れとなった5月16日は、本年度の新司法試験の最終日でした。その九州会場である福岡市内のビル入り口前に、夕刻、日曜日にもかかわらず当会会員10数名が結集して、試験会場からあふれ出る受験生に、ビラ配り・署名集めを致しました(写真)。司法修習生の給費制維持に向けた当会の救急対策の取り組みのスタートです。  司法修習生に対する国庫による給与・手当の支給制度(給費制)は、修習専念義務の制度的担保として、昭和22年にわが国で司法修習制度が始まって以来続いてきた制度です。給費制は、法曹一元の理念に裏打ちされた統一修習制度とあいまって、法曹の卵である司法修習生に対して法曹として求められる高い公共心、使命感を涵養することに貢献してきました。わが国の司法修習制度は、国内外からも高く評価されています。実際、修習生時代に国から給与を頂いて生活の保障を受けながら一人前の法曹になるべく大事に育てて貰ったという経験に基づく感謝の念が、その後の法曹・弁護士としての社会的・公益的諸活動の原点にあると感じておられる会員も少なくないはずです。  ところが、残念ながら、平成16年12月の裁判所法改正の結果、その給費制は廃止され、国が生活資金を貸し付ける制度(貸与制)に変更されることが決まりました。その改正法の施行日が本年11月1日に迫っています。日弁連や当会を含む全国の弁護士会は、この裁判所法の改正に反対し、給費制を存続させるよう運動を続けてきましたが、効なきまま今に至りました。  ところで、平成21年11月における日弁連調べ(回答数1528名)によれば、司法修習生(新63期生)の半数以上の人(52.8%)が貸与制の奨学金や教育ローンによる返済債務を抱えており、その平均額は318万8,000円で、1,000万円を越える人が11名もいます。こうやって、修習生が現実に多額の負債を背負っている実態、しかも、相談件数・事件数・裁判件数等々が伸び悩み、むしろ収縮傾向さえ顕著になるなど弁護士の業務基盤が伸び悩み、また、司法全体の容量の拡大も期待したところにはほど遠い状況下にあって、昨今の司法修習生が厳しい就職難にさらされている現実などを思うと、心が痛みます。  今後は、このうえ更に、給費制の廃止によって司法修習の1年間のために約300万円もの借金の上積みを余儀なくされるであろう人が相当割合に及ぶことを思うと、到底、事態を看過することはできません。  このままでは、合格率の逓減等によりただでさえ司法試験を目指す人が激減しているなか、給費制の廃止は、経済的に余裕のある人しか法曹を目指さないような社会を招きかねません。これでは、経済的に困難にある人も含めて、多様な人材を法曹界に迎え入れることを目指した司法改革の理念に反します。給費制の廃止は、司法を支える法曹全体の変質をも来しかねない、極めてゆゆしき事態なのです。  日弁連の会長に就任した宇都宮健児さんは、永年、多重債務問題、貧困問題等に取り組んできた市民派の弁護士らしく、市民の理解を得て、市民を味方にした闘いを展開してその中に勝機を見いだすとの強い決意で、司法修習費用給費制維持緊急対策本部を設置しました(4月15日の日弁連理事会)。早速、翌日の毎日新聞(朝刊)では、「金持ちしか法律家になれない?」「修習生 無給 あんまり」との見出しで、6段抜き記事で大きく取り上げました。  当会執行部としても、やっぱり最後まであきらめてはいけないとの思いを強くし、日弁連の対策本部と呼応しつつ、5月の連休中にも臨時の執行部会議を開くなどしながら、急ぎ対応を検討・準備しました。そして、5月14日の常議員会で、当会「司法修習費用給費制維持緊急対策本部」の設置が承認されたことを受けて、早速、冒頭のビラ配り等の行動に臨んだ次第です。  緊急対策本部には、60期~62期生の全員に加わって頂く等、会を挙げての取り組みとなります。5月25日の当会定期総会では、給費制の維持に向けた緊急決議を、昨年総会に引き続き、採択して頂く予定です。7月31日(土)午後3時からの市民集会(福岡市中央区の中央市民センター)には、宇都宮日弁連会長も出席します。そして、ビラ配り・署名集めなど街頭行動や、関係諸団体への協力要請、国会議員要請等々に取り組みます。9月に見込まれる参院選後の臨時国会での法改正を目指します。当会の緊急対策本部の実質責任者である本部長代行は、市民運動でならした羽田野節夫会員(司法修習委員長)です。  すでに、地元新聞でも給費制廃止の問題状況を「司法修習生「返済」ムリ」「給与廃止、11月から貸付制」「奨学金と二重苦に」などの大きな見出し、9段抜きの記事で大きく取り上げるなど(西日本新聞5月10日夕刊)、マスコミも、この問題が司法制度のありようや市民にとっても大変重要な問題であることについて、かなり理解が進みつつあります。  給費制問題は、市民のため、司法制度を守るための戦いです。最後まであきらめない!との弁護士の本領を発揮して、皆さんとともに戦いましょう。 「新人ゼミ」  今月(5月)から、新人ゼミ(正式名称は「新規登録弁護士研修支援者制度」)が始まりました。新規登録後1年以内の会員(本年度は62期生)を対象に、毎月1回(4月以降(今年は5月以降)12月まで、小分けした班単位でのゼミを開くというものです。新人研修プログラムの新メニューで、必修科目になります。新人を10人以内程度に班分けをして(福岡に5班、北九州・筑後・飯塚に各1班)、各班には、執行部や司法修習担当などの経験のある会員から講師が2名、研修委員会から幹事役の会員を1名が張り付けます。テキストには「即時(早期)独立開業マニュアル・Q&A集福岡版」「新規登録弁護士のための民事弁護実務ハンドブック」「弁護士懲戒議決事例集」を原則として使用して、1時間を講義、1時間を質疑応答や討議などにあてます。また、ゼミ終了後には懇親会(任意参加)を開きます。新たに創設された主任指導弁護士制度とも相まって、新人研修の実をあげようというものです。 司法改革による新しい法曹養成制度のもとでは、司法修習期間が1年に短縮されており、前期修習もありません。新人の質の向上を課題として指摘する声も根強くあります。しかも、司法試験の大量合格を受けて、当会でも沢山の新人を迎え入れています(当会の60期~62期の会員は合計191名)が、修習生の就職活動は困難を極め、タク弁(ソク独)、ノキ弁など、弁護士登録後も以前のように先輩弁護士の指導を十分に受けながら育っていくという環境は急速に変容しつつあります。新人弁護士に対する指導・支援や研修は、全国の弁護士会に共通する目下の重要課題です。決して大げさではなく、新人弁護士をキチッとフォローして皆で育ててゆくということは、わが弁護士制度・弁護士自治を堅守するための、大切な取り組みにほかならないのです。  会員の皆さまのご理解を頂きますとともに、ゼミの講師・幹事役の会員各位には大変なご苦労をお掛けしますが、どうかよろしくお願いします。 裁判員制度1年  昨年5月21日に施行された裁判員制度が1年を迎えます。会員の皆さまの精力的なお取り組みのおかげで、おおむね順調に推移していると理解しております。もちろん、実務的な諸課題も見えてきております。その中身は、紙幅の都合上、別稿(「会長談話」)などに譲らせて頂きます。

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2010年6月21日

老齢加算廃止違法判決に対する会長声明

声明

2010(平成22)年6月18日

福岡県弁護士会
会長 市丸 信敏

1 福岡高等裁判所第1民事部は、2010年6月14日、北九州市内在住の74歳~92歳の生活保護受給者39名が、老齢加算の段階的廃止に伴う保護変更決定の取り消しを求めた裁判において、同決定の違法性を認め、これを取り消す判決を言い渡した。
  老齢加算の段階的廃止をめぐっては、全国8カ所の裁判所(4地裁、3高裁、1最高裁)において約100名の原告により裁判が闘われているが、本判決は初めての原告側勝訴判決である。
2 老齢加算は、高齢者に特有の生活需要を満たすために、原則70歳以上の生活保護受給者に対して、1960年の老齢加算制度創設以来、40年以上にわたり支給されてきたものである。
  しかし、国は、2004年に、その段階的廃止を決定し、2006年にはこれを全廃した。
3 福岡高等裁判所の今回の判決は、生活保護の受給が単なる国の恩恵ではなく法的権利であるとした最高裁昭和42年5月24日大法廷判決を確認し、生活保護の受給が法的権利である以上、保護基準が単に改定されたというだけでは生活保護法56条にいう「正当な理由」があるものと解することはできず、その保護基準の改定(不利益変更)そのものに「正当な理由」があることが必要であるとした。
  その上でまず、老齢加算について廃止の方向で見直すべきであるとの中間取りまとめを行った「生活保護に関する在り方専門委員会」(以下「専門委員会」という。)での議論をはじめ、廃止に至る判断・決定の経過を詳細に検討している。そして、専門委員会が中間取りまとめのただし書きで求めた「高齢者世帯の最低生活水準が維持されるよう引き続き検討する必要がある」との部分や、同じく専門委員会が指摘した「被保護世帯の生活水準が急に低下することのないよう、激変緩和の措置を講じるべきである」との部分を、老齢加算の廃止という方向性と並んで重要な事項であると指摘している。
  その重要な事項について、①中間取りまとめが発表されたわずか4日後に、国は老齢加算の段階的廃止を実質的に決定したこと、②老齢加算の段階的廃止が決定された過程において、中間取りまとめのただし書きが求めた「高齢者世帯の最低生活水準が維持されるよう引き続き検討する必要がある」という点については国により何ら検討されていなかったこと、③同じく激変緩和措置についても、被保護者が老齢加算の廃止によって被る不利益等を具体的に検討した上で決定されたという形跡はないとの事実を認定した。
  これらの事実を前提として、本判決は、老齢加算の段階的廃止は考慮すべき事項を十分考慮しておらず、又は考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠き、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものであるということができるとし、保護受給権とも称すべき原告らの法的権利を正当な理由なく侵害したこととなり、生活保護法56条に違反し違法であるとの判断を下したものである。
4 当会は、生存権の擁護を急務と考え、生活保護の受給要件を充たすにもかかわらず受給できていない市民に対し生活保護申請手続の援助を行うなど、生存権擁護と支援のための取り組みを強めてきた。
  そして、2009年5月14日、今日の世界同時不況という事態の下で現在我国において雇用不安、貧困・生活窮乏などが一層深刻化していることにより、生存権、人間らしく働き生きる権利、ひいては個人の尊厳など本来日本国憲法によって保障されている重大な権利が危機的な状況にあることに鑑み、すべての人が個人の尊厳をもって人間らしく働き生活していけるようにするために、生存権の擁護と支援に必要な諸活動を行うことを目的として、当会に「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を設置した。さらに、同年5月25日に開催した定期総会においては「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」を採択し、高齢者はもとより非正規雇用労働者・母子・障害者家庭等の貧困の拡大と生活の窮乏化が進行している一方で、これを補うべき社会保障分野のセーフティネットも崩壊状況にあり、極めて深刻な社会不安が広がっていることへの危惧を表明し、国及び地方自治体に対し、社会保障費の抑制方針を改め、また,ホームレスの人も含め社会的弱者が社会保険や生活保護の利用から排除されないように、社会保障制度の抜本的改善を図り,セーフティネットを強化することを強く求めてきた。
  今日の貧困の広がりの中、国は社会保障を強化することこそあれ、安易な切り下げを行うことはあってはならない。
  この点で、当会は、福岡高等裁判所が安易な切り下げを認めない判断をしたことを高く評価するものである。
5 そこで、当会は、北九州市に対しては、上告することなく本判決を確定させることを要請する。また、厚生労働大臣においては、原告ら対象世帯の高齢化が一層進んでいることを深刻に受け止め、老齢加算を元に復するための措置を速やかにとることを要請する。

                              以  上 

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