福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2010年5月18日
会長日記
会長日記
その12 <小さく生んだ器に、新たな酒が盛られることを期待して> 2月15日~3月14日
平成21年度 会 長 池 永 満(29期)
活動を集約しつつバトンを渡す 会長日記も12回目となり最終回を迎えました。(残る3月の半月分については、5月号掲載予定の退任挨拶で触れることになると思います。) 今回の日記期間は、初日(2月15日)に次期執行部への引継書の作成を完了するための執行部会議を開催し、2月21日には執行部各位が分担執筆し冨山総務事務局長が編綴した190ページに及ぶ引継書(門外不出、執行部限りの「平成22年度用福岡県弁護士会会務マニュアル」)を手渡しての引継会議(第1回)と懇親会、2月23日は次期執行部のため県弁各委員会の今年度の到達点と次年度の課題を報告することを主目的とした第4回委員長会議の開催、3月6日は県弁職員の皆さんの1年間のご苦労に感謝して慰労するとともに次期執行部の紹介を兼ねての懇親交流会、そして3月13~14日、大丸別荘で開催された横浜弁護士会、愛知県弁護士会と当会との現・次期執行部メンバーが勢揃いしての3会交流会を前にして13日午前中一杯使っての引継会議(第2回)により執行部としての引継を完了させる期間となりました。 と同時に、この期間は、今期執行部がその実現のために関連委員会の皆さんとともに1年を通じて努力してきた諸課題を総達成して活動を終局させるとともに、次年度執行部における活動の円滑なスタートを支援するための土台を築くという、最後まで「死に体」内閣になれないという過酷さを抱えつつも極めて充足感に満ちた時期ともなりました。 大連市律師協会との交流提携協定を調印 2月26日~28日、張耀東会長を始めとする大連市律師協会代表団18名が来福し、両会の「交流に関する合意書」を調印しました。代表団を歓迎しての記念行事等の詳細については別項記事に委ねますが、北九州で開いた前夜懇親会には北橋北九州市長が、調印式後の記念祝賀会には吉田福岡市長、郭中国総領事館首席領事ら多数のご来賓に出席いただき、また、多くの会員の皆さんが多忙の中、ご参集いただき成功のために尽力いただきましたことに心から感謝申し上げます。 とりわけ両会の調印式と記念祝賀会に、当会との交流提携協定を締結してから満20年が経過する釜山地方弁護士会の代表(2名)に参加いただいて、一衣帯水の間柄である日本・中国・韓国の3国において活動する弁護士会が、国際的な3会交流をスタートさせることにつき、互いに賛意を表明しあったことは極めて重要な意義があることだと思います。次年度は6月と11月に釜山地方弁護士会との間で交流協定20周年記念行事が計画されており、そのいずれかで3会交流を実現できればすばらしいことです。 なお私が記念祝賀会で行った挨拶は後掲のとおりです。 「パパ・ママ弁護士支援」の会費免除制度を創設 ~4月1日から適用へ 朝日新聞で標記の呼び名がつけられた「育児期間中の会費免除規程」が3月11日の臨時総会で採択されました。その実施規則も同日の常議員会で承認されました。1歳未満の子供さんを抱えている会員(男性女性を問いません)が、1月平均で週あたり35時間未満まで就業時間を削減しながら育児に励む場合に、その支援のために会費等を免除する制度です。その申請方法や免除される会費等の範囲等については別途詳細に連絡していますが、当初女性会員のみに対する会費免除提案から出発したものが、両性の平等委員会を中心とする会内討議の中で、男女が共同して育児にあたることを支援するという思想に基づいた会費免除制度として結実できたことに深い感慨を覚えるとともに、男女共同参画時代の弁護士会づくりという観点からも一歩を踏み出すことができたのではないかと喜んでいます。 新規登録弁護士への「指導弁護士制度」を会則に明記 ~新62期以降の新人全員に「主任指導弁護士」を選任します。 3月11日の臨時総会において「会員研修規程」の改正が採択されました。改正点は、新規登録弁護士が研修に励むように援助する「指導弁護士」を配置する制度を会則上明記したことです。 指導弁護士の選任方法等については、同日の常議員会で採択された「新規登録弁護士研修規則改正案」で定められていますが、従前、新規登録弁護士に義務付けられていた個別研修を支援するための個別指導弁護士とは別に、やはり研修が義務付けられている集合研修や会務研修等を含め、1年間を通して新規登録弁護士の研修への参加等を指導援助する役割を持つ「主任指導弁護士」を新規登録弁護士の全員を対象として選任配置することにしたものです。 主任指導弁護士は、事務所に就職している会員については、原則として新規登録弁護士を雇用している弁護士や先輩弁護士が就任することになりますが、同一事務所内に適任者を確保できない場合や即独の会員に対しては会長が適切な主任指導弁護士を選任することとしています。なお、会長は指導弁護士の選任等に関する事務を新規登録弁護士が所属する部会の部会長に委託することができることとされています。 なお新規登録弁護士に対する1年間の研修内容の充実策については、現在、研修委員会を中心として司法修習委員会、法科大学院運営協力委員会を含めた関連委員会の協議会を開催して検討を進めています。また、研修の拡充に必要な予算を確保する方策として、3月11日の常議員会において「財務に関する規則」を改正して弁護士会の一般会計における勘定科目の中に「研修費」の中科目を新設するとともに、執行部において各部会が運営している相談センター会計の中から研修費の実質増額を支えるための一般会計への繰り入れ(600万円前後)を行う方向での予算協議を始めています。5月定期総会において協議の結果を反映した予算が採択され、当会における新人研修を含む会員研修計画を抜本的に拡充していく一歩が切り開かれることを期待しています。 弁護士会として初めて会員に対する義務的研修を定めた従前の会員研修規程は16年前の総会で制定されましたが、実は当時の研修委員会担当副会長であった私自身が起案したものです。会員研修規程に基づいて、会長は毎年「会員研修基本計画」を定めて周知するとともに、それを実行する体制を確立し、予算措置を講じることとされています。 会員研修規程が制定されて以降、研修委員会を中心とする関係者の努力の中で、会員研修自体は年々拡充してきましたが、その制度枠組みにはほとんど手を加えられず、前述のように勘定科目には「研修費」という費目すら設定されないままに推移していました。今回新規登録弁護士に対する研修体制の強化を検討する中で、会員研修規程の改正を総会に提案することになりましたが、何か不思議な因縁のようにも思えます。 地域に開かれた新会館建設への夢を語り合おう 3月12日、九州大学が六本松跡地をURに売却する契約を締結したと新聞発表されました。法曹三者も、それぞれURとの間で、URが取得する六本松跡地への移転に関する協定を締結しています。新会館を建設するための準備を本格的に、かつ公然と進めることができる段階に入りました。 そうした中で当会の公害環境委員会が、「福岡県弁護士会の新会館建設に関する、地球温暖化防止対策の観点からの提言書」を執行部宛に提出しました。そこでは、・太陽光発電システムを導入すること、・無駄な空調や照明の使用を避けるために、会館自体を自然の風や太陽光等を利用しやすい構造とすること、・その他、二酸化炭素排出量削減の取組に配慮した構造とすること等が提言されています。 私も、提言書が指摘しているように「環境に配慮する弁護士会」を社会にアピールしていくという観点はもとより、弁護士会自身も地域社会を構成する一員として地球温暖化防止のための社会的責任を担うという立場に立って、ぜひともこの提言が生かされることを願っています。また他の委員会や会員におかれても、これから数10年にわたる弁護士活動の拠点となるべき新会館のあり方や備えるべき機能等に関して、多くの意見や希望を持たれているのではないかと思います。 もとより、そうした希望を生かそうとすれば、当然のことながら新会館建設費用の高額化を招き、短期的にはより多額の資金負担を会員にお願いしなければならないということにもなろうかと思いますので、そうした点も含めて、会内における積極的な検討を進めることが不可欠であろうと思います。 併せて考えなければいけないことは、地域に開かれた弁護士会として市民の信頼の中で活動してこそ、弁護士・弁護士会の将来があるとすれば、その活動拠点である新会館の建設に関しては、会内議論だけではなく、末長い隣人となる六本松地域の住民の方々との話し合いも必要不可欠ではないかと思います。その際にも今回の公害環境委員会の提言等をふまえた姿勢を確立しておくことは、地域住民の方達の理解をいただく上で一つのポイントになるのではないかと思われます。 私は、この提言書を常議員会に報告するとともに、新会館取得本部(本部長は会長です)において、なるべく早期に広く会内議論を巻き起こすための重要な討議資料として取り扱っていただけるよう次期会長に対して引継を行いました。 日弁連会長の年度内決定を喜ぶ 史上初の再投票となった日弁連会長選挙。3月10日の再投票でも決まらず、4月の再選挙必至かとの悲観的な予測を覆して、宇都宮健児弁護士が会員票において劇的な逆転勝利をおさめて当選されました。 今後の会務運営という点では、日弁連執行部内の調整はもとより、日弁連執行部と日弁連各委員会、あるいは日弁連と単位会等の間において、司法制度改革課題を推進していく上での方針上の調整など相当困難な事態が予測されますが、私は、日弁連のために、とにもかくにも年度内に決着がついて会長が選出されたこと自体を心から喜んでいる一人です。 いずれにしても、当会選出の田邉宣克日弁連副会長のご苦労が偲ばれますが、健康に留意されて御奮闘いただきますよう祈念しております。 (3月14日記)
会長日記
会長日記
平成22年度会 長 市 丸 信 敏(35期)
はじめに 「会長日記」執筆の命を受けました。元来、遅筆で、広報委員泣かせで恐縮ですが、一所懸命に責めを果たすように頑張ってみたいと思います(実は、早速、初回から大幅な期限遅れです。スミマセン!)。 今年度の重要課題については、先月号の月報(就任挨拶)で簡単ながらご披露させて頂き、また、先日も「2010(平成22)年度重点課題(執行部会務執行方針)」を会員の皆さまにお届けさせて頂いた次第ですので、会務に関するご報告は現時点ではそちらに譲らせて頂き(なお、ご高覧を頂きまして、執行部に対するご意見等、なんでも忌憚なくお寄せ頂きますようお願い致します。)、さしあたりは初心者マーク会長としての雑感を少し述べさせて頂きます。 バトンゾーン 任期が始まってまだ3週間ですが(4/21執筆時点)、すでに半年は優に過ぎたような気分です。この3月も終わりの頃、某副会長(当時はまだ「副会長予定者」)が某会合の挨拶で述べた「この2ヶ月が2年ほどにも感じます。考えてみれば、まだ任期も始まっていないのに…。」という絶句(?)に象徴されるように、準備期間も結構忙しいのです。挨拶回りの時に、弁護士会の役員の任期は全国的にも1年限りであることを弁明しますと、相手先は、大抵は驚かれたり、あきれられたりします。しかし、「1年が限界なんですよ。」と話しますと、「ハハーン」と大方は納得顔です。 私なりには、弁護士会執行部はトラックリレーの走者としてのイメージです。トラック1周を全力で駆け抜けて、次の走者にバトンリレーをする、無限にその繰り返しである、と。そうしますと、2月、3月の準備期間は、さしずめバトンゾーンです。このゾーンでバトンを受けてトップスピードまで持ってゆかねば、と自分に言い聞かせて準備にあたった積もりでした。…が、トップスピードどころか、駆け出してみますと、いかに足腰がか弱いかを早速に痛感しています。分からないことだらけです。そもそも、リレーに加わるまでのトレーニング不足が決定的に響いているようです。そんな訳で、謙遜ではなく、本当に他の執行部メンバーや常議員、各部会長、委員会の皆さん等々、会員の皆さんに支えて頂きながらの会務執行にならざるを得ませんので、どうかご支援の程を重ねてお願い致す次第です。 眠らない弁護士会 8年ぶりの執行部入りで感じていることのひとつに、弁護士会は眠らない、ということがあります。昔ですと、年度変わりの頃に委員会も一息つく、という感じでしたが、今では、すっかり様変わりをしています。いまや多くの委員会で利用されているMLでも、ほぼ24時間近くメールが飛び交っている感じがします(因みに、新執行部専用のMLだけでも、1月末頃に立ち上って以降の80日余でやりとりされたメールが早くも1200通を超えてしまいました)。 シンポジウムその他の行事が4月早々に予定されていたり、日弁連からの意見照会も年度をまたいで4月×日期限での回答を求めてくる等々。まして、この4月1日スタートした「中小企業法律支援センター」事業は、年度またぎ事業の最たるものでした。世の中全体が何かにつけスピードアップしており、日弁連や弁護士会自体が極めて短期日の即応を求められてきているこの時代、当会の常議員会も、やむなく年間23回の開催予定です(常議員の皆様、申し訳ありません)。 あいさつ廻りの苦しみと喜びと (あいさつ廻りの実態) 新執行部にとって、任期中(任期前を含めて)でもっとも忙しく肉体的にもつらいのは、おそらく、執行部立ち上げの準備と就任の挨拶回りが重なるこの時期です。今年度執行部は、初日(3月23日)の県知事、県警本部長などへの訪問から始まって、日程が許す限りは終日を費やして挨拶回りに努めてきました(実は、このスケジュールの調整に追われる井上・吉野の両事務局長がもっとも大変です!)。それでも常議員会の日や執行部会議の日、日弁連理事会出席で留守の日などは予定が組めず、結局、4月21日までの約1ヶ月間で延べ14、5日間ほどしか動けませんでした。しかも、4月に入ってからは第1回委員会が目白押しで始まり、その開始時刻までには会館に戻るように努めましたので、どうしても1日に回ることのできる訪問先数は限られてしまいます。 主な訪問先としては、裁判所・法務検察関係、自治体関係(首長さんや消費者センター)、社協など公的福祉団体、各種経済団体、金融機関、主要企業、政党、労働団体、マスコミ各社、専門職団体、法科大学院等々、約150~160箇所が目標です(4/21現在で140箇所程度の訪問を終えました)。今年は、訪問先を絞り込む作業の一方で、中小企業支援を重点課題に掲げさせて頂いておる関係上、各種中小企業団体や金融機関、各地の商工会議所等10箇所以上を新規の訪問先に加えました。その訪問先の示唆・紹介で新たな訪問先を加えたりしたことも幾度かありました。実は、訪問できていない大事なところがまだありますので、4月末頃までは追加して動き回ります。 (伝統の重み) 最近、幾人かの他会会長と話をする機会がありましたが、他会では、福岡県弁のようには挨拶回りをしていないところが多いようです。知る限りでは、ほとんどが法曹関係者先だけで済ませておられるようです。福岡が100数十箇所に回っていると話しますと一様にビックリされます。そして、名刺交換だけではなく、きちんと15分から20分程度(状況によって30分近く)は話をしている、と話しますと、2度ビックリされます。福岡のやり方が当然と思っておりましたので、他会の実情には、私こそビックリです。 挨拶回りでは、実は、当会の最近の重点活動などをレジュメやパンフレット類などを示しながら、さながらミニ・プレゼンテーションをさせて頂く時間が多くを占めています。当会で抱える委員会が55個に及び、沢山の会員が手分けして人権擁護その他多方面の市民向けリーガルサービス活動等を支えていることをアピールさせて頂きます。首長さん、会長・社長さん、会頭・専務さん、長官・所長・検事長・検事正さん等々、お会いさせて頂くみなさんは、実に誠実に耳を傾けて頂けます。そして、弁護士会に対してお世話になっていることの感謝を述べて頂き、あるいはこれからの期待を述べて頂き…。もちろん課題を頂いて帰ることもあれば、今後の連携強化に向けての有り難い糸口を頂くことも少なくありません。特に、今年は、中小企業支援活動についての今後の各団体等とのパイプ作り、連携について種蒔きができたと思っております。 当会が、日弁連でも、もちろん地元でも、活発な活動振りに高い評価を頂くことができているのも、これまで努力して来られた歴代執行部や本当に多くの会員の皆様の尽力の成果であり、そして、日頃からの地元の各界各層、市民の皆さんの理解と支援があったからこそであることは言うまでもありません。この挨拶回りを通じて、弁護士会が本当にいろんなところで受け容れられ、支えられているのだということを痛感します。あいさつ廻りは、苦行ではありながらも、実は新執行部のメンバー一同にとって新鮮な感動の日々であり、そして、担うべき責任の重大さが身に染み入ってくる貴重な体験でもあるのです。 (役員就任披露宴にご協力を) 今年は、実は、挨拶回りに際して、来る5月25日の役員就任披露宴(会場:ホテルニューオータニ)の仮案内書をお渡しして参りました。この役員就任披露宴も、弁護士会のことを地元のいろんな方に広く知って頂くための大事な行事にほかなりません。できるだけ多方面から多くの人に足を運んで頂いて、弁護士会・弁護士と接して頂きたいと願ってのことです。どうか、会員の皆さまにおかれましても、当日の総会・記念講演会ともども、是非ともご参加を頂きますよう、最後のお願いです!(今からでも、お申し込みを受け付けます。) 穏やかな船出 さる4月15・16日の両日、日弁連で第1回の理事会が開催されました。注目の宇都宮新会長でしたが、冒頭の会務執行方針の説明を終えた時点で理事席(各会会長)からは拍手が湧きました。また、その後の議事も波乱なく進行し、温かい空気のもとで2日間の審議を無事に終えました。日弁連新執行部の具体的施策については今後順次に繰り出されてきます。当会としても、逐次、ご報告・ご相談を致しながら進みます。
民法(家族法)改正の早期実現を求める会長声明
声明
民法(家族法)改正の早期実現を求める会長声明
1 選択的夫婦別姓制度等を盛り込んだ民法(家族法)改正案は、1996年(平成8年)に法制審議会において決定され、法務大臣に答申されているにもかかわらず、現在に至るも法律改正が実現していない。
この問題については、2009年8月には、国連の女性差別撤廃委員会が、第6回日本政府報告に対する最終見解において、家族法における差別的法規定の改正を最優先課題として早急な対策を講じることを厳しく勧告し、2年以内に詳細な報告を行うことを求めるに至っている。選択的夫婦別姓制度、再婚禁止期間の撤廃ないし短縮、非嫡出子の相続分差別の撤廃を内容とする家族法部分に関する民法改正は、以下に述べる通りいまや喫緊の課題である。
2 第一に、氏名は人格権の一内容を構成するものであって(最高裁昭和63年2月16日判決)、婚姻後も自己のアイデンティティとしての氏を継続して使用する権利は、憲法13条等に照らしても尊重されるべきである。それにもかかわらず、現行夫婦同姓制度により改姓を余儀なくされ(2008年人口動態統計によれば96.2%の夫婦が婚姻時に夫の氏を選択している)、職業上・社会生活上様々な不利益を被る者が多数存在し、その多くは女性である。こうした現状は、真の両性の平等と男女共同参画社会を実現する上で早急に解決される必要があり、選択的夫婦別姓制度が導入されるべきである。
第二に、女性にのみ課されている6か月間の再婚禁止期間は、父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあるとされるが、民法上、父性推定の重複は100日間しか生じ得ないうえ、そもそも科学技術の発達により、DNA鑑定等による父子関係の確定が容易になっている現在において、もはや再婚禁止期間を定める合理的根拠は失われている。同規定は、早期の結婚を希望する女性の男女平等(憲法14条1項)はもとより、同女性との婚姻を希望する男性をも含めた、結婚の自由(憲法24条)を侵害するものであり、速やかに撤廃されるべきである。
第三に、非嫡出子の相続分差別は、非嫡出子自身の意思や努力によってはいかんともしがたい事由により不利益な取り扱いを行うものであり、憲法13条、14条及び24条2項に反することは明らかである。最高裁判所においても違憲の疑いが繰り返し指摘されている。国際人権規約自由権規約、同社会権規約、子どもの権利条約等も、出生によるあらゆる差別を禁止しており、かかる差別規定は速やかに撤廃されるべきである。
3 以上、当会は、選択的夫婦別姓制度の導入、離婚後の女性の再婚禁止期間の撤廃ないし短縮及び非嫡出子の相続差別の撤廃に関する民法(家族法)の改正が、今通常国会において実現することを強く求めるものである。
2010年(平成22年)4月22日
福岡県弁護士会
会長 市 丸 信 敏
2010年5月21日
裁判員裁判施行後1年を振り返って
会長談話
裁判員裁判施行後1年を振り返って
裁判員裁判施行後1年を振り返って
昨年5月21日に裁判員裁判が施行されて1年が経過しました。 市民の皆様が刑事裁判に直接参加することによって、無罪推定などの刑事裁判の原則に忠実な「よりよい刑事裁判」が実現するとの観点から、当会は、司法への市民参加の意義を訴え続けてきました。 実際に、市民感覚が裁判に活かされていることは、判決の「量刑の理由」に現れています。従来は当然のように情状として斟酌されていた被害弁償の事実や被告人の年齢も、裁判員裁判では、なぜそれが量刑に影響するのかということが評議の場で議論され、裁判員の納得を得てはじめて量刑の理由として記載されているようです。このことによって、法律専門家にとって当たり前だった事実の評価、すなわち法律専門家の常識が、本当に常識といえるのかが、問い直されつつあります。 また、裁判員にとっては、裁判員裁判はおそらく一生に一度の体験です。実際の事件で、裁判員は、長い審理時間、集中し、真摯に裁判に参加していたと報告されています。裁判員のその集中力や、審理に対する意識の高さは、審理に緊張感を与えます。このことが、法律専門家の、ひとつひとつの裁判に対する意識を高め、内容の充実をもたらすことが期待されます。
一方、裁判員の負担軽減の要請の許に、審理時間の短縮、法廷に顕出する証拠の制限が強調されすぎているのではないか、という懸念が、実際に裁判員裁判を担当した弁護人から示されています。確かに、長時間の審理は、裁判員の負担となるでしょう。しかし、それを避けるために被告人の防御権を侵害するようなことになっては本末転倒です。また、判断に必要な証拠が不足している状態で、被告人の有罪、無罪や量刑について評議することは、むしろ裁判員にとって心理的な負担となり、かつ、評議に要する時間の負担も増す可能性があります。内容の充実した審理こそ、刑事裁判の本来あるべき姿であり、裁判員裁判の目指すところでもあります。当会としては、裁判員裁判において本当に充実した審理がなされているかを検証し、改善に努めていきたいと思います。
被告人の権利を擁護し、充実した審理を実現するために、弁護人の役割が重要であることは言うまでもありません。検察庁が裁判員裁判に組織的に対応し、その公判に複数の検察官が立会っていることに鑑みても、複数弁護人体制が必要不可欠です。この間、当会では、被告人国選事件ではほぼ全件で複数弁護人体制を実現して来たところであり、今後もこの方針を継続し、そのためのサポート体制も拡充強化する予定です。
ただし、充実した審理を実現するためには、起訴される前の被疑者段階から弁護人が複数選任されることが必要不可欠です。しかし、刑事訴訟法上の障害等もあって、被疑者国選段階での複数弁護人は例外に止まっています。当会は、これまでも裁判所に被疑者段階での複数選任を要請して来ましたが、今後も積極的に求めていきます。 なお、当会は部会制をとっており福岡地裁久留米支部管轄地域には筑後部会、同飯塚支部管轄地域には飯塚部会があります。現在は、これらの支部管轄地区内で発生した裁判員裁判対象事件は、全て福岡地裁本庁に起訴されることになります。当会は、そのような事件については、やむを得ず、上記各部会と福岡部会が協力して弁護人を選任していますが、弁護人相互間や被告人との打ち合わせなどでの支障があることは否めません。また、筑後、筑豊地域の方が、裁判員候補者として福岡地裁本庁に呼出を受けている現状があります。これらの支部においても裁判員裁判が実施されるよう、裁判所の支部体制の整備を含めて、裁判所に要請していきたいと考えます。 さらに、未だに実現していない重大な課題として、自白偏重主義の撤廃、取調べの可視化(取調べの全過程の録音・録画)があります。志布志事件や足利事件などの冤罪事件では、捜査機関が虚偽の自白調書を作成していたことが明らかになっています。虚偽の自白調書により、市民が誤った判断をしないためにも、取調べの可視化が是非とも必要です。
当会は、被疑者・被告人の権利が十分保障された適正な刑事手続の実現を目指し、これらの課題の実現に引き続き全力を尽くします。
本年度は、いよいよ否認事件や極刑求刑事件などの重大・困難事件が次々と審理にかかることが想定され、裁判員裁判の定着をはかる上での正念場を迎えます。 当会では、さらなるノウハウの蓄積、経験交流を通じて会員の弁護技術を研鑽するとともに、弁護人アンケート、市民モニター、弁護士モニター等の情報の分析、裁判員裁判検証運営協議会での議論等々を通じてその運用改善に努め、また、施行3年後の見直しに向けての取り組みを持続していく所存です。
2010年5月21日
福岡県弁護士会
会 長 市 丸 信 敏
2010年5月27日
中小企業への積極的な法的支援を行う宣言
宣言
福岡県弁護士会は、司法改革の真の目的が、社会の隅々まで法による紛争の予防や解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会、すなわち法化社会の実現にあるところ、企業数、雇用に占める割合、技術力等において、わが国の経済や雇用の主要な担い手である中小企業に対して、必要な法的情報やサービスの提供が行き渡り、わが国全体が等しく法化社会となることを目指し、福岡県弁護士会中小企業法律支援センターを中心として、中小企業への積極的な法的支援を実施すべく、以下のとおり宣言する。
1 諸団体等との協力関係の構築
中小企業が、その抱える法的問題に関して容易に弁護士にアクセスし、弁護士による法的助言や支援、ひいては必要かつ有益な司法制度を的確に利用し、法律の擁護を十分に受けられる環境を整備するため、行政官庁及び自治体並びに中小企業諸団体等との間で適切な協力関係を構築する。また、福岡県弁護士会と関連する専門士業団体等との間のネットワークを有効に構築・増強し、そのネットワークが円滑に機能するための基盤の整備に努める。
2 研修制度・紹介制度の充実
中小企業の法的問題に積極的に取り組む精通弁護士を養成するため、専門研修制度を充実させる。また、弁護士相互間のネットワークやサポートシステムを構築しつつ、中小企業が抱える法的問題に応じて適切な弁護士を紹介等できる態勢を作る。
3 広報・啓発及び継続的な調査・研究と提言
中小企業が抱える法的問題について、中小企業から司法制度や弁護士へのアクセス障害を取り除き、弁護士が適切かつ効果的にその役割を果たすため、上記の取り組みや中小企業を巡る独占禁止法をはじめとする諸法令の徹底について広報や普及・啓発に努める。また、総合法律支援(2004(平成16)年,総合法律支援法)や権利保護保険の中小企業への拡大適用の可能性を探ることを含め、中小企業に対する法的支援制度のあり方について継続的な調査・研究を開始するとともに、その成果をふまえて日本弁護士連合会や法務省、経済産業省等の関係機関に対してその導入や改善を求める等、適時に、中小企業を支援する立法上・行政上の措置を求める提言等の活動を行う。
2010(平成22)年5月25日
福岡県弁護士会定期総会
提 案 理 由
1 司法改革(法化社会の実現)と中小企業
司法改革の真の目的は、社会の隅々まで法による紛争の予防や解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会、すなわち「法化社会」の実現にある。その目的を達成するために、国民がプロフェッションたる弁護士と豊かなコミュニケーションを図る場が設けられること、弁護士が「国民の社会生活上の医師」として、国民にとって「頼もしい権利の護り手」であるとともに「信頼しうる正義の担い手」として、高い質の法的サービスを提供することが求められている。これは言うまでもなく、福岡県弁護士会(以下「当会」という。)が、日本弁護士連合会及び各地の弁護士会とともに掲げて取り組んできた「市民のための司法改革」に通じる。
中小企業は、全国で420万社、福岡県内だけでも15万社以上ある。中小企業が我が国の企業全体に占める割合は90パーセント以上、雇用でも70パーセント以上であり、日本の経済は中小企業で支えられていると言っても過言ではない。「市民のための司法改革」が社会の隅々まで法による紛争の予防や解決に必要な情報やサービスの提供が受けられることを目指すものである以上、法律専門家である弁護士が、個人のみならず、中小企業を含む企業の諸活動全般において、相談・助言を含む適切な法的サービスを提供すること、企業の活動が公正な法的ルールに従って行われるよう助力すること、紛争の発生を未然に防止すること、紛争が発生した場合には、法的ルールの下で適正・迅速かつ実効的な解決・救済が図られることが必然の理である。
2 中小企業への法的援助の必要
ところが、未だ中小企業の現場では、「弁護士の敷居の高さ」、「弁護士に相談するのは最後の最後」という感覚が払拭されていない実情がある。この点は、先に日本弁護士連合会が全国の中小企業を対象として行ったアンケート調査において、回答した中小企業のほぼ半数が弁護士利用経験がなく、その理由のほとんどが「特に弁護士に相談すべき事項がない」という理由であったこと、しかしながら、一方で80パーセントの中小企業が法的問題を抱えておりながら、相談相手がないか、もしくは相談する相手先としても多くは弁護士以外に相談しているという結果が出ていることにも表れている。
実際、我々弁護士が日常の相談業務で接していると、中小企業の多くに未だ法的援助が行き渡っていない実情を実感する。取引契約書の不存在・不備、大企業や親企業などからの優越的地位を背景とした不利な取引条件の甘受、経営危機に遭遇しての専門的援助の欠如、事業承継に関しての不理解や法的援助の不足等々の事態が往々にして見られる。まして、昨今の深刻な世界的不況や国内市場の収縮傾向のもと、中小企業の経営は困難を窮めており、中小企業の疲弊がすなわち我が国経済の沈滞を招いているといっても過言ではない。
もちろん、これまでの個々の弁護士の業務活動によって、中小企業を含む企業活動に弁護士が関与する意義の認知度が向上してきた経緯はある。
しかし、弁護士の中小企業への関与は、個々の弁護士による個別の中小企業へのアクセスに委ねるだけでは不十分であり、弁護士会が組織的・積極的に中小企業にアクセスし、弁護士側の中小企業問題に関する精通度を高めつつ必要とする企業に適切な弁護士を紹介できるシステムを構築すること、そのための基盤を整備すること、そして中小企業から司法制度や弁護士に対するアクセス障害を取り除くことが重要である。
我が国の企業全体に占める割合が90パーセント以上、雇用でも70パーセント以上を占める中小企業の経営安定に寄与することは、新たな産業の創出に与し、就業の機会を増大させ、市場における公正な競争を促進し、地域経済の活性化を促進することとなる。また、下請法はじめ独占禁止法その他中小企業関連法規の徹底が促進されることにもなる。中小企業支援は、市民の立場に立つ法曹たる弁護士の社会的使命ともいうべきである。
中小企業支援に関して、弁護士が果たすべき役割については、日本弁護士連合会が経済産業省中小企業庁と発表した「中小企業の法的課題解決支援のための中小企業庁と日本弁護士連合会の連携について」(2007(平成19)年2月)、「中小企業の法的課題解決支援のための経済産業省中小企業庁と日本弁護士連合会の連携強化について」(2010(平成22)年3月18日)の各共同コミュニケにも指摘されているところである。
3 中小企業からのアクセス障害の克服のために
当会は、「市民とともに」を合言葉に、県内20か所という全国の弁護士会の中でも有数の法律相談センターを開設し、市民の司法へのアクセス障害を解消するべく努力を続けてきた。1991(平成3)年には、隣接専門士業団体との間で福岡専門職団体連絡協議会を設立し、以降、相互理解に努め、相互に専門職を紹介する制度を備え、また共同研究会、定例の共同相談会など着実な協力関係を構築して地域社会に貢献する努力を重ねてきた。
さらに、当会は、日本弁護士連合会と共催で、中小企業向けシンポジウム・セミナー、無料法律相談会を開催するほか、当会独自に、中小企業支援機関・団体(九州経済産業局、各地の商工会議所、福岡県商工会連合会、中小企業基盤整備機構九州支部、中小企業診断協会福岡県支部、福岡県中小企業再生支援協議会等々)と意見交換会、勉強会を開催するなど、地道に活動してきた。
そのような活動の中で、中小企業のあらゆる場面において弁護士が担うべき役割について、未だ十分な理解が得られておらず、弁護士が「身近な相談相手」として意識されていない現実にも直面した。とりわけ、県下の中小企業が今次の深刻な経済不況下、ひどく疲弊して呻吟しているなか、当会としては、中小企業からの支援の要請に応えるべく、さらなる取り組みの強化に努めることが必要であることを痛感するに至った。
そこで、当会は、中小企業支援を積極的に推進する組織として、本年4月1日、当会に「中小企業法律支援センター」を設置した次第である。
4 積極的な支援活動への取り組みの決意
当会は、今後「中小企業法律支援センター」を中心として、中小企業に対して次のとおりの法的支援活動に精力的に取り組む決意である。
(1)関係諸団体等との協力関係の構築
中小企業が、その抱える法的問題に関して容易に弁護士にアクセスし、弁護士による法的助言や支援、ひいては必要かつ有益な司法制度を的確に利用し、法律の擁護を十分に受けられる環境を整備するため、これまでにも増して、行政官庁及び自治体並びに中小企業諸団体等との間で適切な協力関係を構築する努力を払う。
また、1991(平成3)年に福岡専門職団体連絡協議会を設立して以降、当会が進めてきた隣接専門士業団体との協力関係を、今後は、中小企業支援の観点から、さらに有効なネットワークとして構築・増強し、そのネットワークが円滑に機能するための基盤の整備に努めることとする。
(2)研修制度・紹介制度の充実
中小企業の法的問題が広汎で専門的であることに鑑み、中小企業の法律問題に積極的に取り組む精通弁護士を養成することを目指すこととして、そのための専門研修制度を充実させることとする。
また、弁護士相互間のネットワークやサポートシステムを構築・活用して、中小企業が抱える法的問題に即応して適切な弁護士を紹介する等の態勢を作ることとする。
(3)広報・啓発等及び継続的な調査・研究と提言
中小企業が抱える法的問題について、中小企業から司法制度や弁護士へのアクセス障害を取り除き、弁護士が適切かつ効果的にその役割を果たすためには、独占禁止法関係法規その他中小企業関係法制に関して中小企業やこれに関連する企業・団体等に周知することが重要であることにかんがみ、これらの広報や普及・啓発に努めるものとする。
また、総合法律支援(2004(平成16)年,総合法律支援法)や権利保護保険の中小企業への拡大適用の可能性を探ることを含め、中小企業に対する法的支援制度のあり方について継続的な調査・研究を開始するとともに、その成果をふまえて日本弁護士連合会や法務省、経済産業省等の関係機関に対してその導入や改善を提言する等、適時に、中小企業を支援する立法上・行政上の措置を求める提言等の活動を行うこととする。
5 よって、上記のとおり宣言する次第である。
司法修習生の修習資金給費制の維持を求める緊急決議
決議
わが国の司法制度を担う法曹である裁判官、検察官及び弁護士になるには、司法試験に合格した後、司法修習を終えることが必要である。司法修習は、法律実務に関する汎用的な知識や技法のみならず、市民の権利に直接関係する法曹として求められる高い職業意識と倫理観の修得をも目的とするもので、裁判官、検察官、弁護士のいずれの道に進む者に対しても同じカリキュラムで行われ(統一修習制度)、国際的に見ても特徴があり、高い評価を受けている。
そこで、司法修習生には、全力で修習に専念すべき義務(修習専念義務)が課されている。そして、この修習専念義務を担保するため、司法修習生には、1947(昭和22)年に司法修習制度が創設されて以来、一貫して、国庫から給与が支給されてきた(給費制)。この給費制があればこそ、司法修習生は経済的な不安を持たずに司法修習に専念することができ、また、貧富の差を問わず、国民のあらゆる階層から有為で多様な人材が法曹界に輩出されてきたのである。
ところが、2010(平成22)年11月1日から、この給費制が廃止され、必要な者に生活資金を国が貸与する制度(貸与制)が実施されることとなった。給費制の見直しは、司法制度改革審議会の意見書等を受け、2004(同16)年11月に裁判所法が「改正」されて定められたものである。
しかるに、裁判所法「改正」後、新たな法曹養成制度の出発点である法科大学院への志願者は年を追うごとに減少し、法学を学んでいない者(未修者)や社会人など他分野からの有為な人材の集まりにもかげりが見られる。この背景には、法科大学院(2ないし3年間)の費用が多額に上り、生活費の負担も大きく、また急激な法曹人口増により弁護士の就職が困難になるなどの経済的問題があることが指摘されている。
このような現状のもとで給費制を廃止した場合、法科大学院時代の負債に加えて司法修習中にも更に負債を抱えることを余儀なくされ、経済的事情から法曹への道を断念する者が一層増大する事態が強く危惧されるとともに、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれ、司法改革審議会意見書が目指した、貧富の差なく多様な人材を法曹に求めんとした新しい法曹養成制度の基本理念にも背理する結果となる。
司法修習制度は、司法修習生が裁判官、検察官、弁護士のいずれになるかを問わず、わが国の司法制度を支える重要な社会的インフラ(基盤)であり、これを支える費用を負担することは国の当然の責務である。給費制を廃止することは、司法制度を支える法曹養成の責任を国が放棄することを意味し、これによって害を被るのは、優れた資質を備えた多様な人材からなる法曹、市民の目線にたった弁護士による援助の機会を奪われる市民である。
よって、当福岡県弁護士会は、直ちに司法修習生に対する給費制を継続する法改正を行うよう、政府・国会・最高裁に強く求めるとともに、その実現のために全力を尽くす決意である。
以上のとおり決議する。
2010(平成22)年5月25日
福岡県弁護士会定期総会
提案理由
1.貸与制の導入に関する裁判所法「改正」に至る経緯
(1)司法制度改革審議会意見書
司法制度改革審議会は、2001(平成13)年6月12日、意見書において、給費制についての在り方を検討すべきであるとして「修習生に対する給与の支給(給費制)については、将来的には貸与制への切替えや廃止をすべきではないかとの指摘もあり、新たな法曹養成制度全体の中での司法修習の位置付けを考慮しつつ、その在り方を検討すべきである。」と述べた。
(2)裁判所法「改正」
国会は、2004(平成16)年11月、給費制を廃止し修習資金の貸与制を実施することとして裁判所法を「改正」した(裁判所法67条の2 修習資金の貸与等)。ただし、実施時期は当初の法案では2006(同18)年11月1日からの実施予定であったが、貸与制について周知徹底するためとして実施が4年間延期され、附則で2010(同22)年11月1日が施行期日とされた。
(3)附帯決議
その際、衆参両議院共通の附帯決議がなされ、1項で、改革趣旨・目的が、「法曹の使命の重要性や公共性にかんがみ、高度の専門的能力と職業倫理を備えた法曹を養成する」ものであること、3項で「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと。」が明記された。
2.裁判所法「改正」後の実情
(1)多様な入学者・志願者全体の減少傾向等
新たな法曹養成制度の出発点である法科大学院について、司法制度改革審議会が望ましいとした法学部出身者以外の未修者や社会人入学者は、実情は、例えば2006(平成18)年度と2009(同21)年度を比較すると、法学未修者が3605名から2823名へと782名減少し、社会人が1925名から1298名へと627名減少しており、他分野からの有為な人材の集まりにかげりが見られる。
そればかりか、法科大学院への志願者全体につき、初年度の2004年(同16)度では7万2800名、2005(同17)年でも4万1756名であったものが、2010(同22)年度では2万4014名(暫定値)と大幅に減少している。
(2)法曹志望者の減少の背景
この背景には「法曹を目指すに当たり、投下する負担に比して危険が大きすぎる。」という心理が一般化し始めているとの指摘がある。
すなわち、法科大学院の学費として、国立大学の場合、入学金が約28万円、年間授業料は約80万円となっており、私立大学の多くは、入学金が20万円から30万円程度、年間授業料は100万円から150万円程度になっている。このほかに教科書などの教材費がかかるほか、生活費も必要である。それに、社会人入学者は家族の生活を支えなければならない。現実には未修者が法科大学院で学ぶということは「1000万円もかかる大事業」となっている。
日本弁護士連合会が2009(平成21)年11月19日、20日に実施した司法研修前研修(事前研修)の際、受講者である新第63期司法修習生候補者を対象に実施したアンケートによれば、回答者1528名中807名(52.81%)が法科大学院で奨学金を利用したと回答し、そのうち具体的な金額を回答した783名の利用者が貸与を受けた額は、最高で合計1200万円、平均で合計318万8000円にも上っていた。
他方で、司法試験合格後の司法修習生時代においては、修習専念義務により兼職が禁止され、アルバイトを行うこともできない。
更に、司法修習生には就職難が待っている。すなわち、急激な法曹人口増により弁護士事務所への就職が困難になっている上、公務員・社内弁護士など他分野への進出も現状では増員に見合うものにはなっていない。裁判官、検察官の増加もわずかである。
その上に、現在の給費制が廃止されれば、兼職を許されない司法修習生は、相当の貯蓄がない限りは貸与制を利用せざるを得なくなる。仮に貸与制を利用した場合、基本額で月額23万円の貸与額は1年間の修習終了時点では合計276万円に上ることになり、上記アンケート結果を前提にすれば、新規弁護士の50%を超える者が、弁護士登録した時点で平均して600万円近くの借金を負っていることになる。給費制の廃止と貸与制の導入により、司法修習生を取り巻く経済環境は更に悪化するのである。
近時、弁護士の就職難から、司法修習終了後直ちに独立する弁護士(いわゆるタク弁、ソクドク)や他の法律事務所の一角を借りて業務を行う弁護士(いわゆるノキ弁)が増加していることも指摘されており、これらの弁護士にとって、弁護士開業後の収入は極めて不安定で厳しいものがある。法科大学院や司法修習生時代の借金を返済することは容易ではないのである。
このような現状では、多くの有為な人材が「法曹は、人生をかけて目指すべきものだろうか。」という疑問を持つのは当然の成り行きである。あるいはまた、高い志と能力を有しながら、経済的な理由だけで、法曹となることを断念せざるを得なくなる者が多数出てくることも容易に想像される。このままでは、法曹を目指す有為の人材が減少していくことに拍車がかかることは必至である。
3.司法修習生に対する給費制の廃止に伴う弊害
(1)有為な人材の確保
わが国における従来の法曹の人材確保は、法曹資格の取得については貧富の差を問わず広く開かれた門戸であり、従来の法曹養成制度は、決して「金持ちにしか法曹になれない制度」ではなく、多様な人材が裁判官、検察官、弁護士として輩出されてきた。この点は非常に高く評価すべきであり、また、将来もそのようでなくてはならない。司法制度改革審議会も「資力のない人、資力が十分でない者」が法曹となる機会を求めている。
貧富の差なく国民の各層から広く法曹が誕生することにより、真に市民のための開かれた司法が現実化し、市民の権利実現が果たされることになるのである。
給費制が廃止されれば、21世紀の司法を支えるにふさわしい資質・能力を備えた人材が、経済的事情から法曹への道を断念する事態も想定され、その弊害は極めて大きい。
(2)司法修習生の修習専念義務
最高裁判所は、従来から修習の実効性を挙げるために、司法修習生に対し兼業の原則禁止をはじめとする厳しい修習専念義務を課してきた。2004(平成16)年の裁判所法「改正」でも、その理念・方針には何ら変わりはない。司法修習期間が段階的に短縮され、近々1年に統一される状況において、司法修習生の質の低下を防ぐためにも、この義務は重要かつ不可欠である。
この修習専念義務を担保するために、1947(昭和22)年に司法修習制度が創設されて以来、一貫して、司法修習生には国庫から給与が支給されてきたのであり、給費制があればこそ、司法修習生は経済的な不安を持たずに司法修習に専念することができたのである。
この給費制を廃止しておきながら、他方で修習専念義務を課したままアルバイト等を禁止するというのでは、司法修習生に経済的に過大な負担を強いることになり、制度として無理がある。
(3)社会的責任(公共性)等公共心の醸成 ―弁護士の社会への貢献・還元―
給費制は、現行司法修習制度の下で、法曹、とりわけ弁護士の公共性を制度的に担保する役割を歴史的に果たしてきた。
すなわち、逮捕勾留された人に無料で接見に赴く当番弁護士制度、少年鑑別所に収容された少年に無料で面会に赴く当番付添人制度、市民相談の要となる法律相談センター事業の拡充、弁護士へのアクセスが難しい過疎地における公設事務所の開設など、弁護士・弁護士会による各種の公益活動は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の公共性・公益性を具体的な形として結実したものである。また、弁護士の人権擁護のための諸活動(例えば、人権救済、子どもの虐待防止活動、消費者保護運動、犯罪被害者支援活動、民事介入暴力対策、法教育等々)をボランティアで支えてきたのは、個々の弁護士の強い使命感にほかならない。
しかし、経済的に困窮する弁護士が増えれば、公共心、使命感を持って、このような公益活動を担う余裕が失われ、ビジネスを優先せざるを得なくなることが危惧される。給費制の廃止、貸与制の導入が、多くの弁護士の資質や仕事の在り方に深刻な影響を与え、恵まれない人々、虐げられた人々のために社会正義を実現するという市民が期待する弁護士像から遠ざかってしまうおそれもある。
4.「国民の社会生活上の医師」としての法曹・弁護士
司法制度改革審議会は、法曹の質を求め、法曹教育の在り方及び弁護士の役割について「国民の社会生活上の医師」であることを求め、弁護士に社会的責任(公益性)の自覚を求めている。司法制度改革審議会は、いわば弁護士を医師とパラレルに考えて制度設計をなすことを求めているとも言える。
そこで、医師の養成制度と対比してみると、2004(平成16)年度から国家試験に合格した医師には2年間研修を義務づけられているところ、研修中はアルバイトなしで専念して研修することができる制度が設けられた。その後、医師の養成のためには、2008(同20)年度まで教育指導経費・導入円滑化加算費として毎年約160億円から171億円の予算措置がなされている。この医師は公務員だけではなく、もちろん民間医師も含まれている。2009(同21)年度からは臨床研修に国家予算が導入されており定着化している。
このように、医師は民間人であっても市民の生命と健康を守る社会的インフラであるから、研修医の給与には国費が投入されている。「国民の社会生活上の医師」である弁護士をはじめ、市民の権利の実現ないし擁護者である裁判官、検察官を含む法曹養成のためにかけがえのない司法修習制度を医師の研修と並行して考えれば、現在の給費制を維持すべきは明らかである。
5.給費制を維持した場合の国家予算
司法修習生の手当予算は、2007(平成19)年度において2376名の100億3000万円、2008(同20)年度において2408名の104億9900万円、2009(同21)年度において2327名の108億9400万円である。
司法試験合格者は、当初2010(同22)年度には年間3000人となることが目指されたものの、現実には過去3年間は2100名から2200名程度で推移しており、その背景には、日本弁護士連合会の2008(同20)年7月の法曹人口問題に関する緊急提言のとおり、司法改革全体の統一的かつ調和のとれた実現をするためには、数値目標にとらわれず、法曹の質に十分配慮すべき状況にあることが指摘される。
また、今後、旧司法試験制度が終息し、修習期間が全面的に1年間となることも併せ考えれば、司法修習生の手当予算は現状の100億円程度から大幅に増加することはないと考えられる。
このように、今後の法曹人口問題も流動的であり、裁判所法改正時に予想された2010(同22)年度における年間3000名合格者による支出の増大予想は、その前提事実に大きな変動が認められる。
6.結論
司法修習制度は、司法修習生が裁判官、検察官、弁護士のいずれになるかを問わず、わが国の司法制度を支える重要な社会的インフラ(基盤)であり、これを支える費用を負担することは国の当然の責務である。給費制を廃止することは、司法制度を支える法曹養成の責任を国が放棄することを意味する。また、弁護士は民間人ではあるが、そうであるからこそ、強い法曹倫理を背景に、国や地方公共団体と市民が対立する場合にも、市民の権利を擁護することができるのである。給費制を廃止することは「法の支配」を社会の隅々まで行き渡らせるという司法制度改革の目的にも背馳し、これによって害を被るのは、優れた資質を備えた多様な人材からなる法曹、市民の目線にたった弁護士による援助の機会を奪われる市民である。
当福岡県弁護士会は、法曹養成を担う責任ある立場から、次世代の法曹を育成するため、2009(平成21)年5月25日に、「司法修習生に対し給与を支給する制度(給費制)に代えて2010(同22)年11月1日から実施される修習資金を国が貸与する制度(貸与制)の実施時期を相当期間延期し、給費制の復活を含めどのような援助措置が適切か制度全体の再検討に着手すべきである。」ことを政府・国会・最高裁に求める決議をなした。
しかし、大変遺憾ながら、政府・国会・最高裁は、給費制廃止を何ら見直そうとはせず、他方で、法科大学院受験者の減少傾向は強まるばかりであり、状況は改善されることなくむしろ悪化している。
また、法務省及び文部科学省は、法曹養成制度に関する制度ワーキングチームを設置し、2010(同22)年3月1日に第1回会議が開催されたが、貸与制を見直す方向での議論は見受けられない。
以上の状況を踏まえ、日本弁護士連合会は、2010(同22)年4月15日に司法修習費用給費制維持緊急対策本部を設置し、各弁護士会と連携しつつ給費制維持のための運動を展開することを表明した。これを受けて、当福岡県弁護士会も、2010(同22)年5月14日に緊急対策本部を設置して、この問題に会を挙げて全力で取り組む方針を確認した。
当福岡県弁護士会は、直ちに司法修習生に対する給費制廃止を撤回し、給費制を継続する法改正を行うよう、改めて政府・国会・最高裁に強く求めるとともに、その実現のために全力を尽くす決意である。
以上
2010年5月28日
国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議
決議
国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議
2007年の少年法改正により,一定の重大事件(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪及び死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪)については,家庭裁判所が弁護士である付添人の関与が必要であると認めるときという条件があるものの,国選付添人が選任されることになった。
こうして,国選付添人制度が発足したことは,大きな前進とはいえるものの,その他の事件により観護措置決定を受けている多くの少年は,付添人が選任されないまま少年院送致などの重大な審判を受けるという事態が続いている。
とりわけ,被疑者国選対象事件が拡大され,いわゆる必要的弁護事件については,すべて被疑者の段階で国選弁護人を選任することができるようになった。そのため,少年についても,被疑者段階では国選弁護人が選任されていたにもかかわらず,家庭裁判所に送致されると同時に当該少年には弁護士が選任されなくなるという事態を生じさせている。これは,法の不備といわざるを得ない。
少年事件に弁護士付添人を選任することは,冤罪を防ぐという観点から不可欠であるだけでなく,適正な手続きの下で,適正な保護処分に付するという観点からも,そして,何よりも少年の更生を図るという少年法の理念を実現するうえでも不可欠である。
これまで,日弁連は,弁護士自らが費用を出し合い,法律援助という方法で多くの少年が弁護士付添人を選任できるように努力してきた。しかしながら,冤罪を防止し,適正な手続きの中で適正な保護処分に付すること,そして,少年の更生を期すことは,すべて国の責務である。
そこで,福岡県弁護士会は,少年が家庭裁判所に送致され,観護措置決定を受けて身体拘束されている事案については,すべて国選付添人が選任される制度,すなわち全面的国選付添人制度を早急に実現することを求めるものである。
以上のとおり決議する。
2010(平成22)年5月25日
福岡県弁護士会定期総会
提 案 理 由
1 福岡県弁護士会は,2001年2月,全国に先駆け「全件付添人制度」を発足させた。この制度は,観護措置を受けた少年については,その少年が弁護士付添人の選任を希望する限り,すべて弁護士会の責任において,弁護士付添人を選任するという制度である。
少年事件においても,検察官送致(少年法20条)や少年院送致,児童自立支援施設等への送致など長期間に渡る身体拘束を伴う重大な処分がなされる可能性がある。特に,観護措置決定を受けた少年については,その期間中身体拘束を受けるだけでなく,上記の重大な処分を受ける可能性が高くなる。
しかしながら,それまで多くの少年が,弁護士の関与のないまま,少年院送致等の重大な処分を受けていた。
そのため,福岡県弁護士会は,少年を冤罪から守り,適正手続きと適正な処分を保障し,少年の更生の援助をするため,上記全件付添人制度を発足させたのである。
2 我々弁護士は,家庭裁判所の理解と協力を得て,多くの観護措置を受けた少年の付添人に選任されてきた。
そして,少年の人権を守り,少年の更生を期すための付添人活動を実践してきた。その活動の中で,多くの少年が自立・更生する姿を見ることができた。そうした付添人活動によって,少なくとも観護措置決定を受け,身体拘束されている少年については,重大事件だけではなく,窃盗事件や傷害事件,さらには少年法特有のぐ犯事件などすべての事件について弁護士付添人が不可欠であることを実感している。
3 確かに,少年法は,「少年の健全な育成を期す」という保護処分を課すものである。しかし,「保護処分」といっても,相当期間少年院に収容するなどして,少年の自由を大きく制限する処分も含まれており,その処分は適正な手続きの下での,適正なものでなければならない。
また,家庭裁判所には調査官がいて,調査官が少年の資質,生育歴,家庭環境などを調査し,適正な処分を図るシステムがある。しかしながら,弁護士付添人は,少年の立場に立って,真相を解明するとともに,時には被害者と直接接触し,被害回復のための措置を講じたり,その被害実態を少年や保護者に説明して少年やその保護者に反省を促し,さらに,社会環境の調整を試みるなどして少年の早期更生を図る活動を実践している。こうした活動は,弁護士付添人にしかできないものであり,かつ,少年の更生にも極めて有益である。
4 そして,こうした地道な活動が一つの契機となって,2007年には,ようやく国選付添人制度が発足した。
しかしながら,この国選付添人制度は,その対象が① 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪,② 死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪,という重大事件に限定されており,しかも,「家庭裁判所が弁護士である付添人の関与が必要であると認めるとき」という条件が付されている。
弁護士付添人が少年事件において不可欠であることは,先に述べたとおりである。つまり,少年の人権を守り,少年の早期更生を図る必要は,重大事件に限られるものではないし,少年法特有のぐ犯事件においても,とりわけ観護措置が必要なほどぐ犯性が進んでいる少年については弁護士付添人の存在が不可欠である。
5 また,2009年5月21日から,いわゆる必要的弁護事件については,被疑者段階から国選弁護人を選任できる制度に改められた。そのため,少年も,窃盗,傷害などの必要的弁護事件について,被疑者段階においては,国選弁護人を選任することができるようになった。
成人であれば,起訴されると同時に,被告人国選弁護人が選任されることになる。しかし,少年の場合は,上記のとおり国選付添人制度の対象が極めて重大な事件に限定されているため,多くの少年については,家庭裁判所に送致されると同時に弁護士の関与がなくなるという結果になる。
日弁連は,こうした状況を回避するため,被疑者段階で国選弁護人が選任されていたケースについては,少年が家庭裁判所に送致されてからも,法律援助を利用して,できる限り弁護士が付添人に選任されるように努力している。
もっとも,この法律援助は,我々弁護士の拠出した資金によって運用されている。したがって,国選付添人制度が拡大されない限り,我々弁護士の拠出は永遠に継続されることになる。しかし,上記のとおり,観護措置決定を受けた少年には,弁護士付添人は不可欠であり,弁護士付添人を選任することは国の責務である。
6 被疑者国選弁護制度を拡大した趣旨からしても,国選付添人制度の拡大は必然である。
被疑者国選弁護制度も,当初はその対象が短期1年以上の重大な事件に限定されていた。
しかし,冤罪を防止するために被疑者国選弁護人が不可欠であることは,こうした重大事件に限られるものではなく,窃盗事件や傷害事件など他の多くのいわゆる必要的弁護事件においても同じである。弁護士の対応能力などの問題から,当初は重大事件に限定されていたが,最終的には必要的弁護事件すべてを被疑者国選弁護制度の対象に拡大した。同様に,少年事件についても,国選付添人制度の対象を拡大しなければならないことは当然である。
そもそも,被疑者段階での弁護活動は,起訴されるべきでない被疑者を起訴させないための活動は当然のこととして,起訴されたのちを想定して活動する。すなわち,無実の被疑者が将来有罪判決を受けることがないように,被疑者に虚偽の自白をさせないように,また,被疑者に有利な証拠を収集する活動を行なう。被疑者が当該犯罪を実行している場合であっても,必要以上に重い刑が言渡されることがないように,適正な判決がなされるように活動する。特に,少年事件の場合は,家庭裁判所に送致されてから原則4週間以内に審判が行なわれるため,被疑者段階から,少年や保護者と信頼関係を築き,反省を深めたり,被害弁償をしたり,環境調整に取り組む。
つまり,被疑者弁護は,それ自体が目的ではなく,将来の裁判(審判)を見据えて,最終的に当該被疑者の権利が侵されることがないように活動をするのであって,起訴(家庭裁判所送致)後の活動と不可分一体のものである。ましてや,少年事件の場合には,家庭裁判所送致後時間的猶予がないため,被疑者段階から,少年の更生を目指した活動を実践しているのである。
そうであるにもかかわらず,被疑者段階にのみ国選弁護人が選任され,家庭裁判所に送致されると同時に弁護士の関与がなくなるという現在の法制度はあまりにも不合理で,早急に是正されなければならない。
7 以上のとおり,非行を犯していない少年を冤罪から守り,非行を犯した少年であっても,適正な処分が課せられるべきであり,かつ,その更生のために可能な限りの援助がなされるべきである。そのためには,国選付添人選任の対象を,少なくとも観護措置決定を受けたすべての少年とすべきである。
福岡県弁護士会は,この間,全国に先駆けて全件付添人制度を立ち上げ、この制度を全国に広げるために先頭に立って努力してきたが、国選付添人制度の対象が拡大されたのちは,マンパワーを一層充実させて,その対象となるすべての少年の権利を守り,その更生を期すために最大限の努力を惜しまないことをここに誓うものである。
よって,政府,国会,最高裁判所及び法務省に対し,すみやかに全面的国選付添人制度の実現のための法改正を行なうことを求めるものである。
以上