福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2010年2月16日

会長日記

会長日記

福岡県弁護士会会長日記
平成21年度会 長 池 永   満(29期)

その9 
<「こうあるべき世界を目指し」つつ、新年を展望する>
        11月13日〜12月13日

新年あけましておめでとうございます。
自身が「2つの戦争のただ中にある国の軍最高司令官という事実」の中で、「戦争を平和に置き換える努力についての難問」を弁明しつつも、「核なき世界」を求める努力を放棄しないことを鮮明にしたオバマ大統領は、昨年12月10日、オスロでのノーベル平和賞受賞演説をこう結んでいます。
「ガンジーやキング牧師のような人々がとった非暴力は、いかなる状況でも現実的で可能なことだとはいえなかったかもしれない。しかし、彼らが説いた愛——人間の進歩に関する彼らの根源的な確信、それこそが、常に我々を導く北極星であるべきなのだ」「我々には出来る。なぜなら、それこそが人間の進歩の物語であるからだ。それこそが全世界の希望だ。この挑戦のとき、それこそが、この地球で我々がやらなければならない仕事なのだ」
今、マスコミの多くが普天間基地の移転問題で「北極星」を設定しないままに「早期決着」を求めていますが、日本防衛ではなく海外への殴り込みを目的とし、沖縄県民に対する暴行凌虐やヘリコプターを大学に墜落させるなど危険きわまりない普天間基地の米海兵隊は、沖縄から即時無条件に撤退させるという視点こそ「1丁目1番地」ではないのでしょうか。今から42年前の1968年6月2日、在学中の九州大学にベトナム帰りのファントムが墜落し、全学と県民挙げての怒りと運動の中で板付基地撤去を実現した経験を持っている私には特にそう思えるのです。
2010年は日米安保改定から50年。折しも九弁連大会(10月22日)が沖縄で環境問題を主テーマとして開催されます(福岡での九弁連大会には沖縄弁護士会から80名を超える参加をいただきました。福岡からも沖縄大会に大挙して参加しましょう)。戦後60年余が経過したにもかかわらず、沖縄を始め首都東京を含む全土に外国軍隊が駐留し続けている日本。世界では軍事同盟は縮小の一途をたどり、非軍事の平和条約機構が急速に拡大しています。その中心となりつつある「東南アジア平和機構」(TAC)は「外圧に拠らずに国家として存在する権利」「締約国相互での内政不干渉」「紛争の平和的手段による解決」「武力による威嚇または行使の放棄」など日本国憲法9条と同様の平和主義理念を掲げています。日本は2004年にTACに加入しており、2009年には域外のEUとアメリカの加入も承認され、今や、東南アジアを中心として地球を一周する帯のように27カ国・組織による巨大な平和友好地帯が出現しているのです。  
そうした激動する国際情勢の中で、いつまでも軍事同盟中心の日米関係で良いのか、鳩山政権は何を道標として、アジアにおける日本の信頼を高め、対米交渉を進めるのかについても、交渉相手のオバマ大統領にならって理想を掲げた挑戦を続けて欲しいものです。

先輩法曹と若手が一堂に会した忘年会
ところでオバマ受賞演説の日は、ちょうど福岡部会の忘年会の日でもありました。2009年に米寿と喜寿を迎えられた9名、在職50年と40年の表彰を受けられた7名の先輩法曹がおられますが、忘年会の冒頭に行う恒例の表彰式には、米寿を迎えられた司法修習1期、法曹経験50年を超える松村利智先生、弁護士在職40年の九弁連表彰を受けられた司法修習21期の半田萬、大原圭次郎、髙木茂の各先生が出席いただきました。記念品贈呈の後に、皆さんから語られた簡潔の中にも含蓄があるお話とあふれる気概にふれて、参加者一同笑いと元気をいただきました。
引き続く懇親交流会も楽しい福引きをはさみながら、先輩、同僚、若手が隔てなく互いの労をねぎらい、新年に向けた弁護士業務や弁護士会活動の展望を語りながら、激励し合い、杯を交わすという福岡らしい忘年会の姿が再現され、個人的にも晴れ晴れとした「望年会」となりました。
私たちの任期も余すところ3ヶ月です。やりかかっている作業課題を確実に結実させ、次期執行部に過大な宿題を引き継がないようにがんばるつもりですので、会員の皆様のご協力をよろしくお願いいたします。

新63期の受け入れ準備と実務修習の開始
昨年11月14日、新63期生の実務修習開始を前にして、5年目になる福岡県弁護士会主催の合同事務所説明会が開催され、過去最高の110名を超える修習予定者が全国各地から参加したことは、月報12月号で伊藤功示会員(司法修習生就職問題及び新規登録弁護士支援対策室長)が既に報告しているとおりです。参加いただいた14事務所と情報提供いただいた7事務所に感謝しますとともに、次年度に向けて参加事務所の拡大についても会員の皆様の積極的な協力をお願いいたします。
福岡を修習地とする新63期生82名については、11月25〜26の両日、弁護士会主催の事前研修を行い、27日から司法修習が開始されました。司法修習委員会や多くの指導担当弁護士の会員各位には、ご苦労をおかけしますが、修習生の進路に関する助言や支援を含めて、よろしく御指導のほどお願い申し上げます。
なお、新62期の新規登録(12月17日付け)は54名を予定しており、全員が登録されれば福岡県弁護士会の会員数は880名となります。

裁判員裁判検証・運営協議会始まる
昨年12月1日、裁判所・検察庁・弁護士会の法曹三者による「裁判員裁判検証・運営協議会」が正式にスタートしました。これに先立って、常議員会は11月の2回にわたる審議をへて、「裁判員裁判検証・運営協議会設置要綱」を採択しました。
裁判員裁判は、日本の刑事司法にとって歴史的な改革の実行であり、法曹三者にとっても全く新しい経験ですから、従前の議論や想定の範囲を超えて色んな問題や解決すべき課題が生起するであろうことは言うまでもありません。裁判員法自身も付則において3年後の制度見直しを予定しています。
従って、実際に裁判員裁判に取り組んでいる現場において都度の検証を行いながら、必要な制度の改善や改革を提言し実施していく必要があります。問題によっては、制度改革を待つまでもなく、法曹三者がそれぞれの立場から運用を改善することにより、裁判員裁判の充実を図ることが出来ることも少なくないでしょう。そうした意味において、法曹三者が具体的な経験を通して都度の検証活動を行う意義は極めて大きいと思います。設置要綱を文書で確認して公式に協議会を立ち上げたのは九弁連管内では始めてですが、全国的にもモデル的な役割を果たすことが期待されています。
弁護士会としては、この協議会に協議員を出す関連委員会を、裁判員本部、刑事弁護等委員会、子どもの権利委員会、犯罪被害者支援委員会等とすることや協議の内容と結果を会員に周知する方法等に関して、常議員会申し合わせ事項も採択していますが、実際に裁判員裁判の弁護人として活動された会員の皆さんが、積極的に協議題等を提起していただき、裁判員裁判の運用改善や制度改革につながるようご協力いただければ幸いです。
また、この協議会では、裁判所からは最高裁が集約している裁判員に対するアンケート調査の結果が都度報告されるとともに、弁護士会が実施している市民モニターによるアンケート結果の内容についても随時情報提供して協議の参考に供することにしています。
なお、設置要綱や申し合わせ事項については、全文を本月報に掲載していますが、設置要綱第6項において、「協議の結果、各庁会の意見が一致したものについても、個々の訴訟活動、弁護活動、訴訟行為等を制約するものではない」ことが確認されていますので、念のために申し添えます。

多重会務の解消とリーガルサービス活動
の強化に向けて
昨年12月1日、第3回委員長会議を開催しました。
テーマの一つは、本年度執行部が採用した「多重会務の解消と全員野球による委員会活動の活性化」を目的とする委員委嘱方針等の検証でした。会員自身の希望を基本として1会員につき2〜3委員会の委嘱を原則としましたが、その後の委員会からの追加委嘱希望との調整もあり、上限5委員会に達している会員も相当数残っています。データ的には、委員会への出席会員数も出席率も共に昨年度より向上している委員会が多数に昇っており、多重会務の解消についても一定の成果はあげていますが、幾つかの委員会からは、委員会推薦で対外的な業務に従事していた会員が上限に達していたために委員に追加委嘱されなかったために善後策で困難があったこと等も報告されました。但し、そのことによって委員会活動自体に具体的な支障が起こったとの報告はなく、多重会務の解消に向けての取り組みは継続的に実施されなければ元の木阿弥になりかねない性質のものだから、少なくとも3年は継続したうえで検証することが大切であるとの意見も出されました。
現執行部としては意見交換の結果を次期執行部にお伝えし、委嘱方針を策定する上での参考に供したいと思います。
第2のテーマは、委員会が関与して実施されている第三者に対するリーガルサービス活動(面談や電話による法律相談、学校や団体に出向いての講師活動等)については、原則として担当会員に対して日当を支払うことにしたいという執行部方針に関する意見交換を行うものでした。
執行部が、そうした方針を検討している背景としては、面談による法律相談では原則として担当者に対する日当が支払われているのに、11月30日に行ったハローワークにおけるワンストップサービスなどのように日弁連等の要請で全国的、臨時的に取り組まれる出張相談等の場合には全く支払いがないものもあること、逆に電話相談では多くの場合支払いはなされていないが、一部には日当が支払われているものもあること、外部団体における講師活動等では、相手方からの支払いがあることも多く、原則として担当者に対する日当支払いがなされているものが多いが、相手方の予算措置が困難な(学校や団体での)講師活動等には支払いがないものもある等、担当者に対する手当の仕方にアンバランスが生じていることがあります。
そうしたアンバランスを解消したいとする執行部方針については、多くの委員長から概ね賛成の意見が出される中で、担当者に日当支払いを行って相談活動を行うのであれば相談後に受任に至った場合には負担金の納入を求めるべきであり、そのためには相談記録等の作成による事件管理を行うことが不可欠であること、日当支払いをすることにより委員会が適宜実施しているホットライン等の活動が自由に出来なくなるのは良くないとする意見等も出されました。
また、法律相談や講師活動など直接的なリーガルサービス活動ではないが、一部の会員に過度な負担を強いている会務、例えば人権擁護委員会の調査活動等に対する手当を同時に行うべきであるという意見も出されました。
執行部としては、上記の意見交換をふまえて、以下のような方針を固めました。
即ち、直接的なリーガルサービス活動にたいしては、前述のとおり既に原則として担当者に対する日当等の支払いが行われていますが、その出所は法律相談センター特別会計やリーガルサービス基金特別会計、或いは県弁一般会計等まちまちであり、その支払い基準についても必ずしも統一されていないので整理する必要があること、日当支払いを行う場合には、その支払額や、支払いの対象とする活動を認定する基準や手続を定めるとともに、委員会が実施を予定しているリーガルサービス活動で、事件管理システムを確立した上で担当者に対する日当支払いを行うことを希望する活動の規模をあらかじめ集約して予算規模のシミュレーションを行うなど、年間予算を策定するための作業が不可欠であること、従前のリーガルサービス活動のカテゴリーに含まれていなかった、つまり日当等の支払いを想定していなかった会務の一部に対する支払いを行うとすれば、出所となる会計規定等の改正やその財源を確保するための機構財務の改革も行う必要があること等、いくつかの検討課題をふまえた執行部案を作成した上で、新年明け可及的速やかに常議員会に提起して3月までに新たなルールの策定につき会内合意を得て、次年度からの全面実施をすすめたいと考えております。
なお今年度においては、11月以降2010年3月までの間、担当者に対する日当支払いを行うことについて委員会からの事前の要請があり、執行部において支払いが相当であると判断されるリーガルサービス活動に対しては、執行部の責任において県弁一般会計の特別活動費から支払いを行うこととし、既に執行を始めました。支払いの基準は、法律相談活動については現在支払われている相談活動日当の最低額と同額の時給計算とし、講師活動については現在実施されている講師料の最低保証額と同額とします。
これらの措置が、委員会が主催するリーガルサービス活動の一層の活性化と、多少なりとも担当会員の活動に対する支援になればと考えています。

(12月13日記) 

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