福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2009年9月 9日
改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明
声明
改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明
経済・生活苦での自殺者が年間7000人に達し,自己破産者も18万人を超え,多重債務者が200万人を超えるなどの深刻な多重債務問題を解決するため,2006(平成19)年12月に改正貸金業法が成立し,出資法の上限金利の引下げ,収入の3分の1を超える過剰貸付契約の禁止(総量規制)などを含む同法が2010年(平成22)年6月19日までの政令で定める日に完全施行される予定である。
改正貸金業法成立後,政府は多重債務者対策本部を設置し,同本部は①多重債務相談窓口の拡充,②セーフティネット貸付の充実,③ヤミ金融の撲滅,④金融経済教育を柱とする多重債務問題改善プログラムを策定した。そして,官民が連携して多重債務対策に取り組んできた結果,多重債務者が大幅に減少し,2008(平成20)年の自己破産者数も13万人を下回るなど,着実にその成果を上げつつある。
他方,一部には,消費者金融の成約率が低下しており,借りたい人が借りられなくなっている,特に昨今の経済危機や一部商工ローン業者の倒産などにより,資金調達が制限された中小企業者の倒産が増加しているなどを殊更強調して,改正貸金業法の完全施行の延期や貸金業者に対する規制の緩和を求める論調がある。
しかしながら,1990年代における山一証券,北海道拓殖銀行の破綻などに象徴されるいわゆるバブル崩壊後の経済危機の際は,貸金業者に対する不十分な規制の下に商工ローンや消費者金融が大幅に貸付を伸ばし,その結果,1998年には自殺者が3万人を超え,自己破産者も10万人を突破するなど多重債務問題が深刻化した。
改正貸金業法の完全施行の先延ばし,金利規制などの貸金業者に対する規制の緩和は,再び自殺者や自己破産者,多重債務者の急増を招きかねず許されるべきではない。今,多重債務者のために必要とされる施策は,相談体制の拡充,セーフティネット貸付の充実及びヤミ金融の撲滅などである。
そこで,今般設置される消費者庁の所管乃至共管となる地方消費者行政の充実及び多重債務問題が喫緊の課題であることも踏まえ,2006(平成18)年9月1日の当会の「例外なき金利規制を政府に強く求める会長声明」を実効化させるため、当会は国に対し,以下の施策を求める。
1 2010(平成22)年6月19日までに施行予定の改正貸金業法を早期(遅くとも本年12月まで)に完全施行すること。
2 自治体での多重債務相談体制の整備のため相談員の人件費を含む予算を十分確保するなど相談窓口の充実を支援すること。
3 個人及び中小事業者向けのセーフティネット貸付をさらに充実させること。
4 ヤミ金融を徹底的に摘発すること。
2009年9月9日
福岡県弁護士会
会長 池 永 満
労働者派遣法の抜本改正を求める意見書
意見
労働者派遣法の抜本改正を求める意見書
2009年9月9日
福岡県弁護士会
会長 池永 満
厚生労働省の本年8月28日付「非正規労働者の雇止め等の状況について」によれば,昨年10月から本年9月までの間に,全国で23万2448名の非正規労働者に対して雇止め等が実施され,または実施される予定であり,うち,派遣労働者は14万0086名(60.3%)に上っている。しかも,派遣労働者の場合,うち約44%の6万1435名が契約期間満了による雇止め等ではなく,派遣契約の中途解除に基づく解雇である。さらに,派遣労働者の場合,判明しただけでも1983名が雇止め等と同時に住居を喪失している。ちなみに,わが福岡県の場合,上記期間中に雇止め等された労働者は4082名,うち派遣労働者は,2460名(60.3%)である。以上のとおり,昨年から今年にかけて,派遣労働者が大量に失職しており,しかも,その一部は職を失うと同時に住居まで失うという状況にある。
上記の事態の直接的要因は,昨秋からの世界同時不況によって,多くの派遣労働者等が雇用調整のために,契約を中途解約されるなどしたことであるが,より根本的な原因は,労働者派遣法が実効的な労働者保護規定を欠いていることである。そのため,派遣労働者を安価な雇用の調整弁として位置づけることが可能とされ,常用雇用の代替が促進されている。加えて,期間制限の潜脱や,二重派遣など,違法派遣が横行している。さらに,正社員と同様の仕事に従事しながら,派遣労働者に対しては差別的低賃金が押しつけられるなどの事態は,年収200万円以下のワーキングプアを大量に生み出す原因ともなっている。かかる事態はすでに,日本国憲法が保障する生存権を侵害していると言うべきであり,到底看過できない。
そこで,当会は,労働者保護の見地から労働者派遣法を改正すべきことについて意見を述べる。
第1 意見の趣旨
国会は,労働者保護の観点に立って,労働者派遣法を抜本改正すべきである。とりわけ,以下に掲げる点については,緊急に改正すべきである。
① 法律の目的に派遣労働者保護を明記すること。
② 派遣対象業種を専門的なものに限定すべきこと(なお,専門性の判断について,現行26業種を全面的に見直し,さらに限定すべきである。)。
③ 派遣利用要件として,臨時的・一時的事由を加えるべきこと。
④ 登録型派遣は禁止すべきこと。
⑤ 日雇い形態の派遣は全面禁止すべきこと。
⑥ 賃金・福利厚生に関して,派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇を義務づけること。
⑦ 派遣可能期間経過後や,違法派遣,偽装請負について,直接雇用のみなし規定を設けるべきこと。その際の労働条件は,派遣先労働者と同等の内容とすること。
⑧ マージン率の上限規制を設けること。労働者に対するマージン率の開示を義務づけること。
⑨ 労働者保護規定は原則として強行的効力をもつものとし,とくに派遣先に対する罰則規定を強化すべきこと。
第2 意見の理由
1 当会や民間ボランティア等の取り組み
この間,昨年末からの“年越し派遣村”をはじめ,全国各地で民間ボランティア,有志弁護士らにより同様の活動が取り組まれ,炊き出し,生活相談,一斉生活保護申請等々が取り組まれてきた。
当会も,本年3月から生活保護申請同行の当番弁護士制度を開始し,本年9月2日現在,129件の要請を受けた。また,本年3月9日には,日本弁護士連合会の全国一斉「派遣切り・雇い止めホットライン」相談活動の一環として,電話相談を実施し,67件の相談を受けた。
また,ここ福岡県では,当会会員弁護士を含む県内の民間ボランティアによって,本年3月1日には福岡市内で,本年6月28日には北九州市内で,“1日派遣村”の活動が取り組まれた。
こうした活動の結果,本文に述べたような悲惨な現状及びその背景事情が明らかになってきた。
2 厚生労働省の対策等
こうした状況を受けて,厚生労働省は,本年2月6日,離職者住居支援給付金制度を創設し,いわゆる“派遣切り”にあった派遣労働者の住居支援の制度を打ち出した。しかしながら,同制度は,解雇や雇止めを行った雇用主が,当該派遣労働者に引き続き住居を提供するなどした場合に,その事業主を支援する制度であり,住居を失った派遣労働者を直接支援する制度ではない。その結果,同制度がスタートしてから本年4月までの間で,同制度の計画対象に挙げられた派遣労働者の数が全国で1万3212人であるにも関わらず,実際に計画認定された派遣労働者数はわずか755人に留まっている。福岡県の場合,計画対象労働者数は累計で227名,うち計画が認定された労働者数はわずか13名に過ぎない。このような実績から明らかなとおり,同制度は,住居を失った派遣労働者に対する救済措置として,ほとんど機能していないと言わざるを得ない。
また,同省は,本年1月28日,緊急違法派遣一掃プランの実施を打ち出したが,それは違法派遣の温床とされている日雇い派遣に限定されており,また,各都道府県の労働局の担当者等組織人員体制に何らの手当もなされていないと見られることからすれば,その救済範囲および実効性に多くを期待することはできない状況にあると言わざるを得ない。
3 改正へ向けた基本的な考え方
そもそも,労働者は使用者に対して交渉力が劣り,労働契約を労使の自由な交渉に委ねると,労働条件が際限なく切り下げられ,労働者の生存すら脅かされかねない。このような意味において,国際労働機関の目的に関する宣言(ILOフィラデルフィア宣言,1944年)が「労働は商品ではない」と宣言したとおり,労働を他の商品と同様に扱うことは許されない。だからこそ,労働者を保護する労働法制が必要とされる。このような労働者保護の必要に鑑みれば,労働契約は雇用主と労働者との直接契約,すなわち直接雇用が原則とされねばならない。
1947年に施行された職業安定法は労働者供給事業を罰則をもって禁止している(同法44条,64条)。
同法が労働者供給事業を罰則をもってまで禁止したのは,戦前の日本において,労働者供給事業が横行しており,過酷なまでの中間搾取が行われ,労働者が無権利状態にあったことから,労働法制の民主化,すなわち近代的労使関係の確立こそが戦後日本の民主化のテーマの一つとされたからである。富山の女工哀史や“ああ野麦峠”などからも知られるとおり,戦前は労働ボスが貧困層を束ね,各雇用主に労働力として供給し,酷い中間搾取を行いながら,一方,供給先である雇用主は,廉価な労働力の供給元および雇用調整の手段として,労働者供給事業を利用していたのである。
こうした封建的労使関係にメスを入れ,近代的労使関係はあくまでも直接雇用が原則であること,すなわち,労働力の提供を受ける者は直接労働者を雇用すべしとすることで,賃金その他の労働条件を明確にするとともに,責任の所在等を曖昧にさせないという原則が罰則をもって導入されたのである。
労働者派遣法は以上のような原則に対し,あくまで特殊例外的立法として導入されたものであった。ところが,1986年に労働者派遣法制がわが国に導入され,さらに数次にわたり規制緩和・適用拡大がなされた結果,大量のワーキングプアを生み出し,しかも職と同時に住居を失うという悲惨な事態を招くに至り,そのことがひいては社会不安さえ招来している事態ともなっている。
かかる経緯に鑑みるならば,あくまでも根本原則である労働者供給事業の禁止に沿う方向で労働者派遣法は改正されなければならない。
4 具体的な改正項目
以上を踏まえれば,労働者派遣法を労働者保護の観点に立って抜本改正することが必要である。とりわけ,以下の点については緊急に改正する必要がある。
① 法律の目的に派遣労働者保護を明記すること。
上記のとおり,この点を欠くことが現行法の最大の欠陥である。
② 派遣対象業種を専門的なものに限定すべきこと(なお,専門性の判断について,現行26業種を全面的に見直し,さらなる限定を加えるべきである。)。
本来,労働者派遣法は,臨時的・一時的な業務の必要のため,専門的知識・技能を有する労働者を確保するという要請から,労働者供給事業の例外として導入されたのであるから,派遣対象業務は,このような本来の趣旨及び要請に沿って限定されるべきである。
また,現行の対象業種中,例えば5号(OA機器操作)などは,単にOA機器を操作するだけで何らの専門性もない業務に,期間制限を潜脱する目的で,名目だけ利用されている例もある。こうした実態からすれば,専門業種の見直しにあたっては,さらなる限定を加えるべきである。
③ 派遣利用要件として臨時的・一時的事由を加えること。
直接雇用が原則であること,労働者派遣はあくまでも,専門業種についての臨時的・一時的雇用形態であるべきことからすれば,臨時的・一時的事由を要件とすることが法本来の趣旨に添うものである。
④ 登録型派遣は禁止すべきこと。
登録型派遣は,派遣先と派遣元との間の派遣契約が存続している間だけ,当該派遣元と派遣労働者の間の雇用契約を認めるものであるが,派遣先の自由な派遣契約の解除によって派遣労働者の解雇が事実上合法化されてしまう。その結果,派遣労働者には労働基準法上の保護が及び難くなってしまっている。
こうした細切れ雇用とも言うべき登録型派遣は,派遣労働者の雇用を極めて不安定にすることから,禁止すべきである。
⑤ 日雇い形態の派遣は全面禁止すべきこと。
派遣労働者の身分を究極にまで不安定にし,労働条件を劣悪化するおそれのある日雇い派遣は明文をもって全面禁止すべきである。
⑥ 賃金・福利厚生に関して,派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇を義務づけること。
派遣労働者の賃金は派遣先従業員のそれと比較して,格段に低いのが一般的であり,酷いところでは,同じ作業に従事しながら,派遣労働者の賃金は派遣先従業員の賃金の2分の1という場合もある。
この点,ドイツ,フランス,イタリア,韓国の派遣法は,いずれも派遣先従業員との同一待遇保障あるいは差別待遇の禁止を明記している。我が国労働者派遣法にも均等待遇を明記することが求められる。
⑦ 派遣可能期間経過後や,違法派遣,偽装請負について,直接雇用のみなし規定を設けるべきこと。その際の労働条件は,派遣先労働者と同等の内容とすること。
この点について,現行法の直接雇用規定は,派遣先企業の努力義務や,制限期間経過後の直接雇用申込義務にとどまり,現実には,直接雇用されるケースは極めて稀である。
この点,派遣法をもつヨーロッパの国々では,一定期間経過後には直接雇用のみなし規定を設けている国も多く,わが国も派遣可能期間経過後は直接雇用のみなし規定を設けることが必要である。違法派遣,偽装請負についても,直接雇用のみなし規定を設けることにより是正を図るべきである。
⑧ マージン率の上限規制を設けること。労働者に対するマージン率の開示を義務づけること。
労働者派遣法は,中間搾取を禁じる労働基準法6条の例外規定であり,原則としての中間搾取禁止が重視されるべきである。
派遣労働者が低賃金に苦しむ状況を改善するため,派遣元のマージン率を労働者に開示させるとともに,マージン率に上限規制を設けるべきである。
⑨ 労働者保護規定は原則として強行的効力をもつものとし,とくに派遣先に対する罰則規定を強化すべきこと。
現行労働者派遣法のうち,労働者保護に関する規定については,それを担保すべき罰則がほとんどなく,そのため,現実には多くの派遣労働者が無権利状態におかれている。これら派遣労働者にも労働基準法・労働者派遣法等の保護規定が実効的に及ぶように,保護規定に強行的効力を持たせ,法違反に対しては罰則をもって臨むなど,その実効性を格段に強めることが必要である。
とくに,現行労働者派遣法では派遣元に対する規制が中心で,派遣先に対する規制が乏しい。しかし,現実の商取引上の力関係では派遣先が格段に上位にあることからすれば,実効性確保の観点からは,派遣先に対し,法違反について罰則をもって規制することが必要である。
5 生存権の擁護と支援のために
当会は,本年5月25日の総会で「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」をなし,今般,生存権の支援と擁護のための緊急対策本部を設置した。
当会は,格差と貧困の大きな原因ともなっている労働者派遣法の抜本改正を行うことなしには,「すべての人が尊厳をもって生きる権利」は実現されないと考え,本意見書を発する。
以上
2009年9月25日
会長日記
会長日記
福岡県弁護士会会長日記
その3 <峠越えから稜線歩きへ> 5月10日〜6月11日
平成21年度 会 長 池 永 満(29期)
はじめに
5月13日常議員会で定期総会議案が承認され、5月21日裁判員裁判と被疑者国選拡大のスタートと25日定期総会における宣言・決議を含む全議案の採択と役員就任披露宴の開催という、本年度執行部にとって最初の峠をなんとか無事に通過しました。
お力添えをいただいた全ての会員の皆様に深く感謝いたします!
全会一致の会長声明
この数年、当会はもとより日弁連を始めとする全国の弁護士会執行部と裁判員実施本部や被疑者国選対応本部、刑事弁護等委員会など関連委員会と多くの会員が、「裁判革命?その歴史的大改革を乗り切るために〜」(『月刊大阪弁護士会』の表紙見出し)という意気込みで「その日のために」準備がすすめられてきました。
巡り合わせとはいえ、そうした作業に何の寄与もしてこなかった私が、歴史的な刑事司法改革が全面実施される日に弁護士会の代表者として立ち会うことになりました。
裁判員制度については、消極的賛成論から粉砕論まで含め、会の内外で多様な意見が闘わされてきたことは百も承知ですが、弁護士会としては、法制度として実施される以上は、多くの会員が全力でこれに取り組むことを支援しながら、裁判員裁判における審理の長所を発展させるとともに、問題点の改善や制度改革を求めていく以外にありません。
できれば様々な意見の相違を乗り越えて共通認識をつくり、弁護士会として主体的なスタートを切りたい。そんな希望を胸に秘め、4月当初から数度の関連委員会での検討をお願いした後、2回の常議員会における激しい議論をへて会長声明案が練り上げられ(と言うより切りきざまれというべきか)、遂に出席常議員全員一致の賛成により採択された会長声明を、5月21日の裁判所長・検事正・弁護士会長の三者による共同記者会見において発表することができました。今期執行部としても第1号となる会長声明において弁護士会としての裁判員裁判に臨む統一した姿勢を明確にアピールすることが出来たことは本当にうれしいことでした。
なお2番目の会長声明は、消費者庁関連法の成立を歓迎するもので、こちらの方は日弁連としても20年来の悲願を実現したものであるために、6月4日の常議員会で何らの異論もなく満場一致採択されました。
動き出した2つの重点課題
今年度の重点課題に関連して、5月25日の定期総会において『すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現を目指す宣言』が採択され、弁護士会における推進部隊として「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」が立ち上がり活動を開始しました。これは、日弁連定期総会(5月29日)が採択した『人間らしい労働と生活を保障するセーフティネットの構築をめざす宣言』と連動するもので、野田部副会長は、役員就任披露パーティでプレゼンテーションを行ったのにひきつづき日弁連定期総会でも当会の取り組みを紹介しつつ積極的に宣言案に賛成する発言をされました。
また総会は『福岡県弁護士会における人権救済機能の抜本的拡充に向けた決議』を採択しました。これを受けて人権擁護委員会は、未処理案件に対する特別調査体制を確立するとともに、国際委員会の協力も得て、多様な分野における人権侵害申立に的確に対応しうる機能を持った「人権救済センター」(仮称)の創設を視野に入れた調査検討作業に着手しています。
日弁連は今秋の人権大会で採択予定の『新しい人権のための行動宣言2009』のとりまとめ作業に入っていますが、当会の動きは「行動宣言」を担うにふさわしい実践的なシステムを創造していく上でも貢献になると思います。
前執行部からの宿題にも着手します
前執行部からの引き継ぎ事項の中に「福岡地域司法計画(第2次)」の取り扱いがあります。当会は2002年11月に第1次計画を公表していますが、第2次計画案は2008年2月に提出されたもので(当会ホームページの会員ページにアップされていますので、是非ダウンロードしてお読みください)、第1次計画から5年間の取り組みを総括するとともに、司法改革の現状と課題を点検しつつ、これからの取り組み方を提起したものです。
「地域司法計画」は言うまでもなく、地域の隅々まで公正かつ透明な法的ルールに基づく紛争解決の仕組みを整備していくうえでの、当会としての社会に対する提案であり、かつ、その一端を担おうとする弁護士・弁護士会としての決意の表明でもあります。
しかしプランを提示するだけでは画餅に終わりますし、かえって弁護士会の社会的評価を損ねる結果にもなりかねません。第2次案自体も「第1次の反省にたち、計画倒れに終わらせることのないよう、これから毎年の当会の活動における羅針盤にしながら、より具体的な年次計画を立て、実行に移すものと位置づけられなければならない」「(そのためには)執行部直属の恒常的な組織を設け、計画の進捗状況を確認し、当会内外の意見を集めてこれを整理し、新たな実行課題を発信し続けていく必要がある」と記しています。
第2次案が示している課題は全面的であり、すべてに着手するのは今期執行部の力に余りますが、その中には既に今年度の重点課題として取り組んでいる事項も少なくありません。
また、今期の執行部は発足直後から、県下20カ所に展開している法律相談所の拡充強化策の検討を進めていますし、さらに被疑者国選対応体制の整備に止まらず民事法律扶助のアクセスポイントの拡充や生存権支援活動における共同など、新たな視点からの日本司法センター(法テラス)との連携強化やスタッフ弁護士の位置づけの見直し等に関して、法テラス福岡事務所との協議を継続していますが、これらの問題も地域司法計画の重要な柱を構成しています。
こうした問題への取り組みを強化することを含めて、この機会に1年以上前に提起されている第2次計画案をたなざらしにすることなく推進していく体制づくりに関して、執行部としての提案を行い、会内における検討を開始したいと思います。
力まずに中盤戦に入ります
5月25日の定期総会を終えた週末の5月30日、31日の両日、NPO法人患者の権利オンブズマンの10周年記念事業<ボランティア全国交流集会、国際シンポ、記念レセプション等>が開催されました。患者の権利オンブズマン理事長として自らが主導的に企画し、1年半くらい前から取り組みを始め、海外から三名のゲストを招くという超ビックな企画に、まるでお客さんのような気分で臨むことになるとは夢にも思いませんでした。
大成功のうちに終わったことについても、うれしいというよりも複雑な気持ちなのです。これだけは自分がいなければと考えてきていたのに、いなければいないで、ちゃんと他のボランティアの方達が力を出してくれるということです。弁護士会だって同じことかも知れません。
いずれにしても総会を終えて、ほっと一息つき気分的にゆとりがでてきた感じです。会館での毎日の文書決済も苦になりません。単に慣れてきただけなのかも知れませんが。また、執行部の面々はもとよりですが、着々と作業を進めておられる職員の横顔や会館に出入りする弁護士の活動ぶりを身近にすると、今更ながら頼もしい限りです。6月に入ってから事務所でも時々事件の打合せに同席して、お客さんと言葉を交わす時間的余裕がでてきました。平常心で中盤戦に歩を進めたいと思うこのごろです。
会長日記
会長日記
福岡県弁護士会会長日記
その4 <凛として鎮座する「天賦人権」> 6月12日〜7月13日
平成21年度 会 長 池 永 満(29期)
友、遠方より来たり
6月12日、九州大学で開催された家族法学会に参加した機会にということで、韓国の李点任弁護士が私の事務所に立ち寄りました。李さんと知りあったのは今から15年前に遡ります。
私が副会長だった1994年度の定期交流として福岡を訪問していた釜山地方弁護士会一同の歓迎会が稚加榮で開催されました。そのとき私と妻が対席に座って言葉を交わしたのが若き李弁護士と奥さんでした。以来、定期交流の機会を利用して相互に自宅を訪問するなど、家族ぐるみの交流と文通が始まったのです。その仲を取り持ってくれているのが弁護士会の定期交流における専任通訳とも言うべき本村さんで、今回の李さんの来訪も本村さんを通じて連絡をいただきました。
その後の経過は本年度の釜山地方弁護士会との定期交流のところで述べることにいたします。
熱烈歓迎の中で市民モニター制度が発足
ところで5月21日に裁判員制度がスタートして今日までに1ヶ月半が経過し、既に福岡本庁では10件の裁判員裁判対象事件が起訴されていますが、何故か小倉支部には1件も起訴されていません。福岡本庁では7月中旬以降次々に公判前整理手続の期日が入っていますので、9月上旬頃には第1号事件の公判審理が開催されることになりそうです。
当会としては、そうした日程をにらみながら、裁判所や検察庁との協議も含め、裁判員裁判の検証を如何に進めるかという検討と準備作業を5月に新しく発足させた「裁判員本部」を中心に進めてきました。
一言で裁判員裁判を「検証する」と言っても、そう簡単ではありません。そもそも法曹三者のすべてにとって未知の制度であるために想定外の事態が発生することも不可避であり、問題が発生する都度、現場での運用改善努力が求められることは言うまでもありません。しかし全て出たとこ勝負というわけにもいきません。事件を担当した弁護人から得られる情報とつきあわせることにより、裁判員裁判における弁護人の活動改善にも役立ち、かつ、新しい制度の問題状況を把握しつつ運用改善や制度改革を促進する契機になるような検証の方策はないのだろうか? そうした熱い議論の中で「市民モニター制度」が考案されました。
市民が参加する裁判員裁判の審理では、いわゆる「調書裁判」を排して公判中心の直接証拠主義に基づく運営がなされる必要があることには異論がないところでしょう。検察側の主張が公判廷に提出された直接証拠等により合理的な疑いを残さない程度に立証されているか否かが裁判員に判断できなければなりません。とすれば傍聴席に座った市民により裁判員裁判の審理の実情をモニターしてもらい、現実の検察の主張立証や弁護人の主張反証が市民に理解できるものになっているか否か等をつぶさにチェックしてもらう意義は決して小さくありません。
この構想は西日本新聞により1面トップで報道され(5月20日)、6月15日には説明会開催の記者レクが行われました。その翌日から市民の問い合わせが殺到し、6月29日の説明会には140名を超える市民が詰めかけました。説明会の様子は、<「第7の裁判員」制度点検/福岡で全国初「市民モニター」/弁護士会公募 120人登録/立証や量刑 傍聴し意見>という大見出しが躍る7段記事でも紹介されました。(日経新聞7月4日夕刊)
長期にわたり裁判員裁判を巡る国民的な議論が継続してきたなかで、裁判員候補者に選ばれなかった人を含め、自分の目で裁判の実情を見つめてみたいという多くの市民から熱烈に歓迎されて市民モニター制度が発足することは、弁護士会における検証作業に一つの基軸を据えることになったと思います。
熱烈歓迎をいただいた釜山地方弁護士会の皆さんありがとう
1990年3月に当会と釜山地方弁護士会との姉妹提携協定がなされて以来、今日まで20年に及ぶ国際交流が継続しています。今年度執行部においては、これからの20年を見据え成熟した交流方式に発展させるために事前に釜山側との協議を行いました。その結果、釜山会の役員任期は2年なので不都合はないけれども当会の役員が1年任期であることが考慮されて毎年の相互訪問をしてきた方式を改め、今後は隔年の相互訪問として企画の充実化を図ること、但し韓国の習慣により20周年となる来年については双方で記念行事を行うこと等、新しい交流方式について合意しました。
新たな方式の第1回目となる今年度の定期交流として7月10〜12日の3日間19名の訪問団で釜山を訪ねましたが、釜山地方弁護士会の慎鏞道会長、金泰佑国際委員長を始め釜山会の皆さんからいただいた心のこもった熱烈歓迎にはただただ感動するだけでした。こうした歓迎をいただく背景には、これも姉妹提携以来20年という長期にわたる国際交流を継続するなかで、大塚先生や安武先生を始めとする当会国際委員会の諸先生方が中心となり地道な努力を続けてこられ、釜山会との間で人間的にも厚い信頼関係が構築されてきた賜物であり、この場を借りて感謝の意を表したいと思います。
定期交流の模様は別途報告がありますので、私は李さんとの再会について書いておきます。李弁護士は、私がエセックスに遊学したのと入れ替わりにアメリカに留学され、帰国後は釜山にある東亜大学で民事法の教授に就任していますが、兼業禁止のため弁護士は休業しており、釜山地方弁護士会との交流会にも出られないとのことでした。そこで、自由行動日の7月11日、私たち夫婦がそろって本村さんとともに李弁護士の新居(2〜3年前に豪華マンションに移転)を訪問することにし、奥さんや外交官をめざすという娘さんにも10数年ぶりに再会し旧交を温めることができました。これもまた感謝です。
大韓民国「国家人権委員会」の活動に触れて
ところで、5月の定期総会が採択した『福岡県弁護士会における人権救済機能の抜本的拡充に向けた決議』にもとづく調査活動の一環として、釜山地方弁護士会のお世話により、韓国の「国家人権委員会/釜山地域人権事務所」を訪問することができました。訪問日の7月12日は日曜日であったにもかかわらず、李所長を含む3名の所員が予定の時間を超えて対応してくれました。プレゼンテーションに使われた日本語のパワーポイントとそこに盛り込まれたデータも、私たちのために独自に準備されたものでした。
その内容も極めて興味深いことばかりでした。国家人権委員会についてはホームページ(www.humanrights.go.kr)で組織と活動の概要を知ることもできますし、釜山地域人権事務所への訪問記録の詳細は、別途当会国際委員会から調査報告として出されると思いますので、ここでは簡単に触れておきます。
国家人権委員会は、国連総会が1993年に確認した「パリ原則」に基づいて、いわゆる政府から独立した人権機構として2001年法律により制定されたもので、独立機構(立法・行政・司法のどこにも属しない)、人権に関する総合的機構(人権の保護・向上に関するすべての分野を担当する)、準司法機構(人権侵害・差別行為に対する調査および救済)、準国際機構(国内における国際人権規範の実行)という4つの性格を有しています。
委員会は、大統領推薦4名、大法院長推薦4名(全員弁護士)、立法院(与野党)推薦3名の計11名から構成されており、そのもとに常任委員会、侵害救済委員会や差別是正委員会等の委員会と事務所が設けられ、事務所には政策教育局や調査局等があり、総員164名で構成されています(昨年までは210名いたが新政権の構造改革のために減員させられたそうです)。
国家人権委員会の活動概況は、2001年11月26日から2009年6月30日までの7年7ヶ月分で、陳情、相談、案内、民願を含む総計で246,552件(1年平均約32,000件)の多数に及んでおり、そのうち調査を行った案件(陳情)は15.5%の38,306件です。調査案件は90日で結論を出すことが原則であり、その内訳は、「人権侵害」の訴えが30,275件(79%)、「差別」の訴えが6,229件(16%)、その他が1,798件(4.7%)となっています。
人権侵害の訴えの対象は、拘禁施設42.8%、警察・検察26.8%、多数人保護施設7.7%、地方自治体4.9%であり、刑事拘禁施設や捜査機関で約7割を占めています。これに対して「差別」の訴えについては、株式会社17.8%、教育機関13.5%、地方自治体12.4%、公共機関7.1%の順であり、民間における差別事象(セクハラを含む)が上位を占めており、陳情の中でも差別の訴えが増加傾向にあるとのことです。
調査事件中、人権委員会が勧告を行うに至った事件の割合は7〜9%ですが、勧告の前に事実上解決する事案もあり、また勧告したケースの95%は相手方から受入れられているとのことです。人権委員会の勧告には強制力はありませんし、調査においても強制調査はできませんが、陳情等がなくても拘禁施設等にも自由に立ち入って調査を行ったり、関係者を事務所に呼び出して調査する権限があり(地域事務所内にも取調室がありました)、調査に応じなかった者には過料の制裁があります。
李所長は、政権との関係での困難な局面に関する私の質問に対して明快に答えました。「国家人権委員会が三権に属さず、国家権力による人権侵害を監視・是正させる役割を持っていることからしても、政権との緊張関係は必然であり、仲良く済ませるわけにはいかないこと。人員の削減がなされても、自分たちは同じ課題を同じ方法で活動することができていること。政権との緊張関係が報道されることにより、逆に国民の国家人権委員会に対する理解が深まっているという側面もあり、人権委員会に対する相談や陳情の内容も多様な人権分野に広がりつつある」と。
ミーティングが終わった後、広い事務所の中を案内してもらいましたが、人権を啓発するユニークなポスターが多数展示されているなかで、部屋中央の壁沿いに、ひときわ大きな額縁の中で「天賦人権」の文字が凛として鎮座しているのが目にとまりました。