福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2007年12月10日
生活保護基準の引き下げに反対する声明
声明
厚生労働省は、本年11月30日、同省が設置した「生活扶助基準に関する検討会」(以下「検討会」という)が報告書をまとめたのを受け、厚生労働大臣の記者会見において、来年度予算から生活保護基準の引き下げを行う予定である旨を発表した。しかし、当会は、生活保護基準の引き下げに強く反対すると共に、その拙速な断行を中止するよう要求するものである。
生活保護基準は、憲法25条が規定する国民の生存権保障の水準を決する重大な基準であり、その引き下げは、生活保護利用者の生活を直撃し、破壊しかねないものであるばかりでなく、最低賃金、地方税の非課税基準、公立高校の授業料免除基準などの労働、医療、福祉、教育、税制などの多様な施策に連動しており、低所得者全般の生活に多大な影響を及ぼす重大問題である。当会は、本年10月29日付当会会長声明において、その点を指摘し、厚生労働省及び「検討会」に対して、拙速な検討を慎み、慎重な審議を行うよう要請してきた。
にもかかわらず、生活保護利用者や幅広い国民の意見を聴取することもなく、わずか1ヶ月半足らずの期間の検討によって、引き下げの詰論を出していることは、拙速以外の何ものでもなく、”初めに結論ありきの検討”と言わざるを得ず、手続的にも極めて問題である。
今回「検討会」報告書は、わが国の全世帯のうち、最も収入が低い一割の低所得世帯の消費支出水準と生活保護基準とを比較した上で、保護基準の方が高いとして、その引き下げに根拠を与える内容となっている。しかし、日本弁護士連合会が、第49回人権擁護大会決議で指摘したように、わが国では違法な窓口規制が広汎に行われていることから生活保護の補足率が極めて低いために、本来であれば生活保護を受け得るのに受けられず、生活保護基準以下の収入で生活することを余儀なくされている世帯が多数存在している。にもかかわらず生活保護世帯や低所得世帯の生活実態を十分考慮することなく、単純な比較検討を行うという今回のような手法は、著しく妥当性を欠くものと言わざるを得ない。そのような世帯の消費水準との均衝を理由として生活保護基準を引き下げることは国民の生存権保障の水準を際限なく引き下げていくことになりかねない。
当会は、厚生労働省に対し、現在行なわれようとしている生活保護基準の引き下げを中止するよう強く要求するものである。
2007(平成19)年12月5日
福岡県弁護士会
会 長 福 島 康 夫