福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2007年8月 8日

死刑執行の停止を求める声明

声明

2007年(平成19年)8月7日
                 
福岡県弁護士会 会長 福島康夫


1 我が国では、過去において、4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)について再審無罪が確定している。また、本年4月にも、佐賀県内で3名の女性が殺害されたとされる事件(いわゆる北方事件)で死刑求刑された被告人に対する無罪判決が確定した。このような実例は、死刑事件についても誤判や誤った訴追があることを明確に示している。
  また、死刑と無期刑の選択についても、裁判所の判断が分かれる事例が相次いで出されており明確な基準が存在しない。
  我が国の死刑確定者は、国際人権(自由権)規約、国連決議に違反した状態におかれ、特に過酷な面会・通信の制限は、死刑確定者の再審請求、恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなって来た。今般、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが、未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど、死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難い。
  このような状況のもとで直ちに死刑が執行されることは重大な問題があると言わざるを得ない。
2 国際的にも、1989年(平成元年)に国連総会で採択された死刑廃止条約が、1991年(平成3年)7月に発効して以来、死刑廃止が国際的な潮流となっている。すなわち、すでに死刑制度を全面的に廃止した欧州地域をはじめとし死刑廃止国が130か国であるのに対し死刑存置国は67か国(本年7月31日現在)である。そのような潮流の中で、国連規約人権委員会は、1993年(平成5年)11月4日及び1998年(平成10年)11月5日の2回にわたり、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
  国内的にも、1993年(平成5年)9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見では、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされている。
3 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえて、日本弁護士連合会も、死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし、また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱している。
  当会も、これまで、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件処理を通じて、死刑制度の存廃を含めた問題に積極的に取組み、死刑が執行されるたびに、会長声明において、死刑執行は極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望も重ねてきた。
4 しかし、日弁連や当会の度重なる要請にもかかわらず、死刑執行が繰り返されて来たが、最近の社会の重罰化傾向も反映してか死刑確定者数が100名を超える事態を迎え、死刑執行が急がれているとの印象も免れない。
  長勢甚遠法務大臣は、就任後の記者会見で「確定した裁判の執行は厳正に行われるべきものである」から「法の規定に沿って判断して行きたい」と発言し、昨年12月には4名、本年4月27日には3名の死刑執行を行った。
5 2007年(平成19年)5月18日に示された、国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち、死刑確定者の拘禁状態はもとより、その法的保障措置の不十分さについて、弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で、死刑の執行を速やかに停止すること、死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと、恩赦を含む手続的改革を行うべきこと、すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと、死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと、すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。我が国の死刑確定者が、同条約上の保護を与えられていないことが明確に指摘され、それゆえ、勧告の筆頭に死刑執行の速やかな停止が掲げられているのであって、その意義は極めて重い。
  参議院選挙を終えて、今また、新たな死刑執行が危惧されるが、死刑の執行は、我が国が批准した条約を尊重しないことを国際社会に宣言するに等しい。
6 このような状況を踏まえ、当会は、法務大臣に対し、死刑確定者106名(本年8月2日現在)に死刑が執行されないよう強く要請する。

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2007年8月20日

割賦販売法改正についての会長声明

声明

産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会が本年6月19日に中間整理案を発表した。
この整理案では,従来からの加盟店管理を求める行政指導や業界の自主的取組にもかかわらず,悪質販売業者による高齢者等を狙った強引又は詐欺的な勧誘による被害が多発し,それにクレジット会社が安易に与信をして救済が十分なされないケースが相変わらず発生しているという現状が指摘され,このようなクレジットトラブルの背景にはクレジットシステムの構造的危険性があり,クレジットシステム提供者として一定の責務があるという認識を示している点は十分評価できる。
この整理案で議論されている論点のうち,このようなクレジット被害救済や防止に不可欠な不適正与信の防止,過剰与信防止の2つの論点では複数の意見が併記された形になっており,今後の議論次第ではどのような結論になるのか予断を許さない状況になっている。
当会は,本年6月9日に九州弁護士会連合会との共催でクレジットシンポジウムを開催し,アピールを採択したところであるが,改めてクレジットトラブルを真に救済し防止できるような制度改正が是非とも必要であると考え,この中間整理案の2つの論点について以下のような意見を述べる。


1,不適正与信の防止について
中間整理案で,不適正与信を行ったクレジット事業者に対して経済的不利益をもたらすような何らかの民事ルールが必要であると指摘している点はその通りである。しかしながら,その方策として信義則を拠り所にした過失「損害賠償責任」説と,日弁連が提唱する無過失「共同責任」説が両方紹介されている点については,前者は妥当でなく,あくまで後者こそが妥当であると考える。
  まず,同整理案がクレジットシステムの構造的危険性を指摘し,システム提供者の責務を議論しているところからすると,それで利益を得ているクレジット事業者には被害防止の責任を負わせるべきことが当然導かれるものと考える。
  そして,悪質商法と結びついたクレジット被害の予防・救済の見地からは,現行の抗弁対抗規定(割賦販売法30条の4)だけでは,クレジット事業者が加盟店への与信を適正に行う動機付けとしては不十分であり,既払金の返還という法的効果を定めるべきである。
  その際,消費者側がクレジット会社と加盟店との間の内部事情を知ることは極めて困難であることから,既払金返還に伴ってクレジット会社の故意・過失の証明 を要求すると現実の救済には繋がらないことは明らかであり,過失損害賠償責任説は妥当とは思われない。
  よって,実効的な被害の予防・救済のため,クレジット会社の無過失の共同責任を定めることが不可欠である。


2,過剰与信の禁止について
中間整理案が次々販売等による過剰与信を防止する責務があると指摘している点,信用情報調査による支払能力の調査及びその結果による信用情報機関への登録を義務づけるべきとの指摘はその通りである。
 しかし,現在多発している次々販売等の過剰与信被害を予防するためには,ク レジット会社の明確な過剰与信基準を法律で定めた上で,これに違反したクレジ ット会社に対しては厳しいペナルティを課す必要があると考える。過剰与信基準については,顧客の債務額が一定の基準を超える場合はそれ以上クレジットの利用ができないよう厳しい審査を求めるとともに,販売信用の特性に見合った基準を設けることでバランスをとるべきである。
  また,個々の販売行為が詐欺や特商法違反などに当たらなくとも,高齢者等を狙った著しい過剰与信被害が発生している現状からして,このようなケースを救済するためには,クレジット会社の請求権制限等の民事的効果を明文で定めるべきものと考える。
  当会は,このような割賦販売法の改正が実現されて初めてクレジット被害が根絶され,消費者が真に保護される安全なクレジット社会を構築できるものと考える。その結果として,消費者とクレジット業界双方に利益がもたらされることになり,健全なクレジット社会の発展が実現できると確信する。


3,結論
  以上をふまえ,当会は,割賦販売法の改正においては,下記の制度を設けることを要望する。

 ? 不適正与信による被害の予防・救済のため,クレジット会社の無過失の共同責任を定めること。
 ? 過剰与信による被害を防止するため,クレジット会社の明確な過剰与信基準を定め,かつ,これに違反した場合には,請求権制限等の民事的効果を定めること。


  
                2007年(平成19年)8月8日
                      福岡県弁護士会
                       会 長  福 島  康 夫

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2007年8月24日

死刑執行に関する会長声明

声明

2007年(平成19年)8月23日

福岡県弁護士会 会長 福島康夫


1 本日、東京拘置所及び名古屋拘置所において3名の死刑が執行された。
  今回の死刑執行は、昨年12月の4名、本年4月27日の3名に続くものである。
2 我が国では、過去において、4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)について再審無罪が確定している。また、本年4月にも、佐賀県内で3名の女性が殺害されたとされる事件(いわゆる北方事件)で死刑求刑された被告人に対する無罪判決が確定した。このような実例は、死刑事件についても誤判や誤った訴追があることを明確に示している。
  また、死刑と無期刑の選択についても、裁判所の判断が分かれる事例が相次いで出されており明確な基準が存在しない。
  我が国の死刑確定者は、国際人権(自由権)規約、国連決議に違反した状態におかれ、特に過酷な面会・通信の制限は、死刑確定者の再審請求、恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなって来た。今般、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが、未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど、死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難い。
  このような状況のもとで、今回死刑が執行されたことには重大な問題があると言わざるを得ない。
3 国際的にも、1989年(平成元年)に国連総会で採択された死刑廃止条約が1991年(平成3年)7月に発効して以来、死刑廃止が国際的な潮流となっている。すなわち、すでに死刑制度を全面的に廃止した欧州地域をはじめとし死刑廃止国が130か国であるのに対し、死刑存置国は67か国(本年7月31日現在)である。そのような潮流の中で、国連規約人権委員会は、1993年(平成5年)11月4日及び1998年(平成10年)11月5日の2回にわたり、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
  国内的にも、1993年(平成5年)9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見では、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされている。
4 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえて、日本弁護士連合会も、死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし、また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱している。
  当会も、これまで、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件処理を通じて、死刑制度の存廃を含めた問題に積極的に取組み、死刑が執行されるたびに、会長声明において、死刑執行は極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望も重ねてきた。
5 さらに、2007年(平成19年)5月18日に示された、国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち、死刑確定者の拘禁状態はもとより、その法的保障措置の不十分さについて、弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で、死刑の執行を速やかに停止すること、死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと、恩赦を含む手続的改革を行うべきこと、すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと、死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと、すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。我が国の死刑確定者が、同条約上の保護を与えられていないことが明確に指摘され、それゆえ、勧告の筆頭に死刑執行の速やかな停止が掲げられているのであって、その意義は極めて重い。
6 以上述べたように国内的にも国際的にも、日本の死刑制度に対する非難が高まった状況下において断行された今回の死刑執行は、我が国が批准した条約を尊重しないことを国際社会に宣言するに等しい。
7 当会は、今回の死刑執行に関して、法務大臣に対し、極めて遺憾であるとの抗議の意を表明するとともに、更なる死刑の執行を停止するよう強く要請する。

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