福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2007年7月19日

生活保護の適正な運用を求める声明

声明

 本年7月10日、北九州市小倉北区で52歳の男性が自宅で死後1ヶ月経った状態で発見された。新聞報道によれば、この男性は、昨年12月26日から生活保護を受給していたものの、本人から「辞退届」が出されたということで本年4月10日に保護廃止となったとのことであり、2ヶ月後には孤独死したことになる。
 当会では、昨年、日本弁護士連合会において採択された「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」を受けて、生活保護をめぐる相談・援助体制を構築するためのプロジェクトチームを発足させるなど、生活保護の運用が適法・適正に行われるよう求める活動に取り組んでいるところである。
 ところが、北九州市では、生活保護申請が認められなかった人が孤独死する事件が相次ぎ、本年5月に生活保護行政検証委員会(第三者機関)が設置され、検証・審議が進められているのであるが、今回またしても救済できたはずの人命を孤独死に至らしめたことは極めて遺憾である。また、新聞報道によれば、北九州市に限らず、「辞退届」を提出させ、保護を打ち切るという運用が全国的に蔓延していることも指摘されているが、生活保護法上、廃止を行いうる場面は限定されていることからして、非常に問題のある運用と言わざるを得ない。
 生活保護はあらゆる社会保障制度の中でも最後の砦ともいうべき制度であり、対象者の生命にかかわる問題であるから、一度は要保護性が認められた者の保護を廃止するにあたっては、特に慎重な調査が要求されることは言うまでもない。
 すなわち、たとえ「辞退届」なる書面が提出されたとしても、それが任意かつ真しな意思に基づくものでなければ、生活保護を廃止する理由とはなり得ない。広島高裁(2006(平成18)年9月27日判決)も、要保護状態が解消したのか否かについて必要な調査を行わないまま自立の目途があるとして提出させた辞退届は錯誤によるもので無効であるとした上で、廃止は保護受給権を侵害するとして東広島市の不法行為責任を認めている。
 新聞報道によれば、男性は「働けないのに働けと言われた」等と日記に記していたとのことであり、「辞退届」が真意に基づくものでなかった可能性が強く、小倉北福祉事務所が、男性に自立するための仕事や収入源があるか否かについて慎重な調査確認を行ったとは考えられない。
 報道が事実であるとすれば、このような運用は、人の生きる権利を奪うものであって、生存権を保障する憲法25条に照らしても、絶対に容認できるものではない。
 当会は、北九州市に対し、再びこのような事件が起きることのないよう、早急に徹底的な真相解明を行うよう求めるとともに、生活保護制度の適法・適正な運用のための具体的な改善策を直ちに講じることを強く求めるものである。

2007(平成19)年7月18日
                 福岡県弁護士会
                   会 長   福  島  康  夫

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刑事弁護における弁護人の責務についての理解と弁護活動の自由の確保を求める声明

声明

広島高等裁判所に係属中の殺人事件(いわゆる「光市母子殺害事件」)に関して、先日、日本弁護士連合会宛に「元少年(被告人)を死刑に出来ぬなら、元少年を助けようとする弁護士たちを処刑する」などと記載された脅迫文書が届き、さらに同様の脅迫文書が新聞各社にも届いたとのことである。
 憲法第37条3項は「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる」とし、国連の「弁護士の役割に関する基本原則」(以下「基本原則」という)も、「すべて人は、自己の権利を保護、確立し、刑事手続きのあらゆる段階で自己を防御するために、自ら選任した弁護士の援助を受ける権利を有する」(第1条)と定めている。このような被告人の権利は、刑事裁判において被告人に十分に防御の機会を与えることによって被告人に対し適正な裁判を受ける権利を保障するものであって、歴史的に確立されてきた大原則である。
 弁護人は、被告人のこのような権利を守るために最大限の努力をする責務を負っている。
 ところが、今回の日本弁護士連合会や弁護人に対する脅迫行為は、被告人が弁護人の援助を受ける権利を否定し憲法の保障する適正手続きを根幹から揺るがす行為である。
 基本原則16条も「政府は、弁護士が脅迫、妨害、困惑あるいは不当な干渉を受けることなく、その専門的職務をすべて果たし得ること、自国内及び国外において、自由に移動し、依頼者と相談し得ること、確立された職務上の義務、基準、倫理に則った行為について、弁護士が、起訴、あるいは行政的、経済的その他の制裁を受けたり、そのような脅威にさらされないことを保障するものとする」と定めている。
 当会は、今回の脅迫行為に強く抗議する。
 さらに、当会は、こうした弁護士や弁護活動への妨害や脅迫行為が、被告人の弁護人の援助を受ける権利を否定し適正手続きを保障した憲法の理念に反するという認識を広く市民と共有できるよう最大の努力をするとともに、刑事弁護における弁護人の責務について理解を求め弁護活動の自由を確保するために、全力を尽くす決意である。

2007年(平成19年)7月18日
              福岡県弁護士会
              会  長  福  島  康  夫

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2007年7月24日

監視社会を招かないためのルール確立を求める宣言

宣言

1 今、全国各地で、治安悪化対策を理由に生活安全条例が制定され、監視カメラの設置がすすめられている。
しかし、犯罪防止は、貧困や差別など犯罪の根本原因を取り除くための福祉施策の充実も含め、総合的な防止策を多角的に検討すべきであり、市民に対する監視の強化が有効な手段であるかは甚だ疑問である。
かえって、警察等による市民監視や不透明な個人情報の収集・利用は、個人のプライバシー権を侵害するばかりか、民主主義社会を支える言論・表現の自由に対する重大な萎縮効果をもたらす危険がある。
そもそも、犯罪検挙のための警察権の行使であれば、対象者の人権を制約するものであるから、犯罪の発生を待って、具体的犯罪の嫌疑に比例した限度でしか許されないというのが原則であり、基本的人権を制圧する捜査手段は、法令の根拠を必要とし、令状がなければ原則として行えないというのが憲法以下の法令の考え方である。
犯罪防止のための監視が一定の場合に許されるとしても、具体的にその場所で起こり得る犯罪の軽重や蓋然性を度外視し、抽象的な「安全」や、単なる主観にすぎない「安心感」のために人権を制約することまで許されているのではない。
従って、警察や自治体は、防犯対策を図るうえで、必要最小限度を超えて個人の自由を侵害することのないよう万全を期すべき義務があり、警察や行政機関が、適正な手続に基づかず個人情報の収集・利用をしないための措置をとる必要がある。

2 福岡市の場合、本年度中に中洲地区に設置されようとしている監視カメラの設置・運用は極めて不透明である。
  監視カメラの設置を承認した中洲地区安全安心まちづくり協議会には、博多警察署長が副会長、県警の担当者3名が会員として参加し、福岡市は、同協議会の事務局を務め、自ら600万円を支出する予定であるのに、福岡県弁護士会人権擁護委員会の聴き取りに対しては「中洲地区における犯罪率等のデータは持っていない。監視カメラの詳細は設置主体である商店街に聞いてほしい。」等と回答しており、公金を支出する自治体としての説明責任を果たしていない。
 また、福岡市の上川端商店街(調査当時)に設置された監視カメラにおいては、警察が要請して頻繁に監視カメラのビデオ画像を取得していたという経過がある。
  警察自身による監視カメラの設置の場合は、京都府学連事件判決(最判昭44.12.24)、山谷ビデオカメラ判決(東京高判昭63.4.1)、西成ビデオカメラ判決(大阪地判平6.4.27)など、令状主義を重視する判決があり、これらの判決によれば、?犯罪の現在性または犯罪発生の相当高度の蓋然性、?証拠保全の必要性・緊急性、?手段の相当性がある場合を除いて、警察が自ら公道に監視カメラを設置することは認められない。
警察自身の設置ではない場合でも、市民の自由が確保されるべき公道に設置する監視カメラは、真にその場所における犯罪を防止する必要性が認められ、かつこれにより侵害される通行人の人権よりも上回る利益が得られる場合に限られるべきである。
 従って、そのような監視カメラの設置に関する基準をはじめ、捜査機関に自由に情報が提供されないよう、適正な手続きを定めてプライバシー権を保障する条例の制定が必要不可欠である。

3 以上の観点から、当会は、警察や自治体等に対し、防犯対策等の策定にあたり、以下の事項に留意するよう提言する。
(1) 防犯対策等の策定にあたっては、制圧される人権の侵害を必要最小限度にするため万全の対策を行うべきである。
(2) 警察や自治体が、直接・間接に市民情報を網羅的に取得したり、取得した情報を統合するなどして、市民生活を監視することを防止するため、条例により、警察や自治体から独立した個人情報保護機関を設置し、同機関に警察や自治体の個人情報の収集・利用のあり方をチェックする権限を付与すべきである。
(3) 公道への監視カメラの設置・運用には、警察が関与すべきではない。
  警察が、監視カメラを設置している団体に対して任意に情報提供を求めうる範囲は、少なくともそこで起こった犯罪に限定し、その他の場所で起こった犯罪のための情報は、令状に基づいて取得されるべきである。
(4) 福岡市は、監視カメラの設置・運用等に関し、適正手続やプライバシー権に十分配慮した条例を定めることなく、街頭への防犯カメラの設置・運用を自ら行ったり公金を支出すべきではない。

  以上、宣言する。

   2007年7月21日
    福岡県弁護士会
   九州弁護士会連合会

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和白干潟・今津干潟を含む福岡湾の保全に関する意見書

意見

2007年(平成19年)7月23日

福岡市長 吉田 宏 殿
                       
   福岡県弁護士会 会長 福島康夫

第1 意見の趣旨
1 福岡市は,福岡湾(特に和白干潟・今津干潟)の重要性に鑑み,ラムサール条約の趣旨に沿って湿地環境を保全し,これ以上の環境悪化を防止すべきである。
2 福岡市は,和白干潟・今津干潟のラムサール条約への登録を目指して,国へ積極的に働きかけをすべきである。

第2 意見の理由
 1 湿地保全の重要性
(1)干潟の価値と機能\nア 湿地とは
干潟を含む湿地の保全を図る上でもっとも重要な国際的取り決めであるラムサール条約によると,「湿地」とは「天然のものか人工のものであるか,永続的なものであるか一時的なものであるかを問わず,さらには水が滞っているか流れているか,淡水であるか汽水であるか鹹水(かんすい)であるかを問わず,沼沢地,湿原,泥炭地又は水域をいい,低潮時における水深が6メートルを越えない海域を含む」(1条)とされている。
イ 干潟とは
干潟とは,川や波の働きによって運ばれてきた砂や泥が堆積して形成され,潮の満ち引きにともなって水没と干出を繰り返す自然環境である。干潟が形成されるためには,入り江や湾によって十分に遮断され,波浪の作用が弱いという地形的な条件と,流入河川による砂や泥の堆積作用がなければならない。わが国では,潮位差の大きい太平洋岸で発達し,また,内海や内湾でより発達する。
ウ 干潟の機能\n(ア)生物多様性の宝庫
干潟には,貝類(アサリ,ウミニナなど)・甲殻類(カニ・エビ・ヤドカリなど)・多毛類(ゴカイなど)などの,多種多様な動物が生息している(これらの動物は砂の中に隠れていることが多く,ベントスと呼ばれている)。
このようなベントスを狙って,シギ・チドリ類やガンカモ類・サギ類・ワシタカ類等多様な鳥類が干潟には生息している。
そして,湿地(干潟)は,渡り鳥によって,世界的につながっている。ラムサール条約が「水鳥が,季節的移動に当たって国境を越えることがあることから,国際的な資源として考慮されるべきものである」と述べているのは,このような渡り鳥と湿地の関係の重要性を踏まえたものである。
(イ)漁業生産機能\\
干潟には,ヨシや付着藻類に支えられてアサリ・シオフキガイ・アカガイなどの二枚貝類やクルマエビ・シバエビなどのエビ類が多数生息し,干潟に潮が満ちると,クサフグ・コノシロ・マコガレイなどたくさんの魚類が入ってくるなど,有用魚種が高密度に生息しており,良好な漁場となっている。
また,干潟は,魚類の産卵・稚仔魚の生息の場であり「海のゆりかご」とも呼ばれ沿岸海域の資源涵養の場としての機能を有している。
このように,干潟は,水産業の面からも欠かせない自然環境である
(ウ)水質浄化作用
近年,干潟の持つ水質浄化作用が注目されているが,それは物理的要因(潮汐の干満による水質ろ過機能)と生物的要因(食物連鎖による有機物や栄養塩類の系外排出)に区別される。これらの作用によって栄養塩類や有機物が減少し,干潟が浄化されるというわけである。
(エ)レクリエーションでの活用
干潟は,古くからの潮干狩り,海水浴,釣りなどのレクリエーションだけではなく,近年のバードウォッチングなど,多様な形で人々のレクリエーションに利用されている。
(2)日本の干潟の現状
干潟や浅海域は,開発が容易であるために,特に第二次世界大戦後,埋立や干拓の危機にさらされ続けてきた。1992年9月に発表された環境庁の干潟調査によると,わが国で現存する干潟の総面積は5万1462haであるが,戦前には8万2600haの干潟が存在したと推定されており,戦後47年間に実に40%もの干潟が消失していることになる。前回の干潟調査の1978年から13年間における消失面積は4076haにも及び,消失の理由は埋立46%,浚渫9%,干拓2.1%などで,自然の変化による消失はわずかに6.2%である。その後,1997年諫早湾干潟(3550ha)の潮受堤防が干拓のために締め切られて貴重な干潟が消滅した。浅海域も含めればさらに膨大な水辺環境が消失している。残されている代表的な干潟にも開発による破壊の危機が迫っている。
2 福岡湾(和白干潟・今津干潟)の価値及び重要性
(1)福岡湾という名称について
福岡湾は,厳密には博多湾とは異なる海岸ないしその海岸に囲まれる内海を指すが,近年,博多湾とほぼ一致する範囲を指して使用されており,本意見書においても博多湾とは区別しない位置付けにおいて福岡湾という名称を使用し,説明する。
(2)福岡湾の干潟について
福岡湾は,福岡県福岡市の東区,博多区,中央区,早良区,西区に面する内湾であり,湾の東部には海の中道,志賀島が位置し,西部は糸島半島に至る。
東西約20キロメートル,南北約10キロメートル,総面積は約134平方キロメートルであり,海岸線の総延長は約128キロメートルである。昭和の初期までは海岸線の大半が自然海岸であって白砂青松と謳われていたが,近年,その3分の1は港湾施設の整備された人工海岸に変化している。福岡湾の開発により湾中央部から自然海岸が消滅し,その中央部から東西へ押しやられる形で分断されて行った。そのように分断された海岸線の東端に和白干潟,西端に今津干潟が残され,自然海岸の面影を残している。
湾口幅は7.7キロメートルであり,湾口部が狭いため閉鎖性が高く,湾内の波は湾外の波と比較すると穏やかであり,土砂等の陸域からの流入物が堆積しやすくなっている。したがって,干潟を形成する前提条件が整っている点で特徴的であり,干潟が消滅する傾向にある近年の我が国において,貴重な湾内環境を有するといえる。福岡湾内には和白干潟,今津干潟,多々良川河口,室見川河口などの干潟が存在する。
(3)和白干潟の概要・現状
ア 和白干潟の概要
和白干潟は福岡湾の最も奥に位置する前浜干潟であり,北西から南東の方向へかけて約1.5キロメートルの長さがあり,干潮時の最大幅は600メートル,80ヘクタールの広さを有する。東側からは和白川,南側からは唐原川が流入しており,河口付近には河口干潟が発達している。干潟のほぼ全域が砂質であるが,部分的には砂泥質になっており,また,河口付近は主に泥質である。
小規模ではあるが干潟から塩性湿地植物群落とクロマツ林が続くという干潟本来の姿を見ることができ,このような自然環境は他では千葉県の小櫃川河口にのみ残る。和白干潟は日本海側に残された数少ない干潟の一つであるため,日本海沿いに移動する渡り鳥や朝鮮半島から渡ってくる野鳥の重要な中継地及び越冬地となっている。
イ 生物の多様性
かつては,干潟上部の砂浜に塩田もみられ,製塩が当地域の基幹産業となるほどの水質に優れた海であった。また,干潟や浅海域は魚類が産卵し,成育する場所として「海のゆりかご」とも呼ばれ,エビ,カニ,チヌ,カレイ,コノシロ,シャコ,アカガイ,ウナギなどの内海性の魚介類の生息地域であるとともに,タイ,アジ,サバ,イワシなどの外海性魚介類の産卵場であり,周辺海域の生態系を根底から支える地域であった。
さらに,ハマシギ,チドリなどの鳥類の生息地として,またズグロカモメなどの希少な渡り鳥の生息地として重要な意味を有する地域である。
ウ 鳥類の生息地・渡り鳥の飛来地としての重要性
また福岡湾は,大陸から朝鮮半島を経由するルートと,樺太から日本列島を南北に経由するルートの東アジアにおける二つの渡り鳥のルートが交錯する位置にあるため,渡り鳥を中心に観察される野鳥の種類は我が国有数である。
和白干潟一帯では,220種以上の野鳥が観察されており,それらの内には,絶滅危惧?A類とされるクロツラヘラサギ,3種の絶滅危惧種?B類,8種の絶滅危惧?類,1種の準絶滅危惧種,3種の情報不足種が含まれ,ハマシギ,ミユビシギ,シロチドリ,ミヤコドリなどがシギ・チドリ類渡来地ネットワークの基準渡来数をクリアするなど,東アジアの渡りのルートを維持する上で重要な役割を果している。
エ 重要湿地500選
環境省は,我が国における湿地保全政策の基礎資料として,保全地域の指定等に活用したり,開発計画等に際して事業者に保全上の配慮を促したりするものとして,重要湿地500選を選定公表した。
和白干潟も,「春秋の渡りおよび越冬期の種数・個体数が多く,ミヤコドリ,メダイチドリ,チュウシャクシギ,キアシシギ,ミユビシギ,トウネン,ハマシギでは最小推定個体数の0.25%以上が記録されている。RDB種のカラフトアオアシシギ,ヘラシギ,コシャクシギ,ホウロクシギ,アカアシシギ,オオジシギが記録されていること」を理由に重要湿地500選に選定されている。
(4)今津干潟の概要・現状
ア 今津干潟の概要
今津干潟は,福岡湾西部の瑞梅寺川河口にある干潟であり,河口干潟である。干潟は80haであり,干潟を含む河口域の面積は約145haである。
今津干潟には,瑞梅寺川のほか,周船寺川,江ノ口川,今山川の小河川が流入しており,主として瑞梅寺川からの堆積物によって形成された泥質干潟である。
瑞梅寺川の上流に,1977年に瑞梅寺ダムが建設され,河川の流量は減少している。また,その他の河川にも樋門が設けられている。
河口域にはわずかな葦原が残っているが,河口域全体が感潮域であり,満潮時には葦原を除いて全面が水面下になる。河口周辺には農地が広がっており,河口域と一体となって鳥類をはじめとした生態系を形づくっている。
イ 生物の多様性
今津干潟は,干潟,アシ原,ハス田,水田,畑など多様な環境を有し, これらが多くの野鳥の住処になっている。
福岡湾のプランクトンは植物性プランクトンが110種類,動物性プランクトンが節足動物51種を中心に110種類が観察されている。
魚類や甲殻類などの游泳生物は65種で,湾内および玄界灘では沿岸漁業が盛んで,新鮮な魚介類を提供している。
底生生物は,環形動物59種,軟体動物19種,節足動物36種を中心に127種が生息し,潮間帯には環形動物49種,軟体動物47種,節足動物48種など154種類が生息している。海藻類は54種である。
ウ 鳥類の生息地・渡り鳥の飛来地としての重要性
今津周辺では,これまでに300種を超える野鳥が観察されている。百万都市福岡の中にあり,また,さして広からぬこの場所で300を超す観察数は驚くべき数字である。とりわけ,国際的貴重種であるクロツラヘラサギの定期的な越冬地として,バードウォッチャー達の間では全国的に知られている。
エ 重要湿地500選
前記重要湿地500選については,今津干潟も,当然のことながら,「春秋の渡りおよび越冬期の種数・個体数が多く,シロチドリでは最小推定個体数の1%以上,ミヤコドリ,チュウシャクシギでは最小推定個体数の0.25%以上が記録されている。絶滅危惧種のセイタカシギ,ホウロクシギ,アカアシシギ,ツバメチドリ,オオジシギが記録されている。」ということなどを理由に選定されている。

3 両干潟の現状と問題点
(1)和白の現状と問題点
和白干潟は,都市化の波の中で,過去,一貫して埋立の脅威にさらされてきた。
1978年策定の港湾計画では,和白干潟の全面埋立計画が立てられたが,市民の反対の前に挫折した。
代わって登場した和白干潟の目と鼻の先の浅海域を埋め立てる人工島埋立事業(アイランドシティ整備事業)は,内外の強い反対にもかかわらず1994年7月に着工された。埋め立て面積は,401haであり,福岡湾の入口に位置する能古島(396ha)の面積を上回り,福岡市の中心街がすっぽりと覆われてしまう程の大きさである。当初計画で総事業費4600億円のわが国有数の巨大埋立プロジェクトである。
和白干潟を含む人工島周辺地区において,工事着工前後は,冬季において2万5000羽を超える鳥類が見られたが,工事着工後順次個体数は減少し,2001年頃からは1万5000羽程度にまで落ち込んでしまっている。
しかし,福岡市が実施した環境モニタリング調査では,「鳥類の全種の種類がやや少ないなど,変化が見られた項目もありましたが,類別の種数ではそれぞれ変動範囲内であり,特に問題となる変化ではありませんでした」と結論付けている。
周辺海域と干潟の潮流の変化に伴う生物の生息環境への悪影響の可能性と,環境アセスメントの不十分さについて内外から批判の声がわきあがっている。
(2)今津の現状と問題点
九州大学の移転に伴い,今津干潟周辺に急速に都市化の波が押し寄せようとしている。都市化に伴い,人口は急増し,今津干潟及びその周辺地域の野生動植物の生息,生育環境への影響(粉じん,騒音,温室効果ガス,排水の影響など)が懸念され,また,瑞梅寺川の汚濁負荷も上昇し,水質問題も深刻化しつつある。
現在,今津干潟周辺に隣接する場所に,西南学院大学田尻グラウンド(仮称)整備事業が進められようとしており,これも都市化の顕著な表れといえる。
1997年3月に「福岡市西部地域まちづくり構想」が発表されたが,今津干潟の生態系・自然条件の保全という観点からは,極めて貧困な構想であり,環境管理の行き届いたプログラムの策定が強く求められるところである。
このように,今津干潟は,押し寄せる都市化の波の前に,環境悪化の現実的な危機に瀕しており,緊急に保全の措置をとる必要がある。
(3)福岡湾保全の必要性
  このように,和白干潟,今津干潟はともに環境悪化の危機に瀕し緊急に保全措置を取る必要があるが,それは,和白干潟あるいは今津干潟のいずれか1つを保全すれば足りるというものではない。
すなわち,両干潟は,福岡湾の東端と西端に位置し,それぞれの干潟が漁業資源涵養の場として福岡湾全体の漁業生産機能を維持するための役割を果しているが,いずれか1つの干潟の漁業生産機能が失われれば,福岡湾全体の漁業生産に極めて重大かつ深刻な影響を生じさせるものである。
また,両干潟が健全に機能していることによって福岡湾全体の水質が浄化されているのであるから,いずれか1つの干潟の水質浄化機能が低下するならば,福岡湾全体の水質の悪化を招くこととなる。
さらに,渡り鳥は,両干潟のいずれか一つに定着するものではなく,両干潟を行き来することによって,渡りを維持するために必要な食料と休息を得ているのであるから,福岡湾の鳥類の生息地・渡り鳥の飛来地としての重要性を維持する上でも,両干潟そろって保全をする必要があるのである。
よって,和白干潟と今津干潟のいずれか一つではなく,両干潟そろって,緊急に保全の措置を取る必要があり,そのために,両干潟を以下に詳述するラムサール条約に登録し,同条約の趣旨に沿って,両干潟を含む福岡湾の環境を保全する必要があるのである。
4 ラムサール条約登録の意義
(1)条約の概要
ラムサール条約は,特に水鳥の生息地等として国際的に重要な湿地及びそこに生息・生育する動植物の保全を促進することを目的とし,各締約国がその領域内にある湿地を1ヶ所以上指定し,条約事務局に登録するとともに,湿地及びその動植物,特に水鳥の保全促進のために各締約国がとるべき措置等について規定している。現在,締約国は154ヶ国,登録湿地数は1674ヶ所に及ぶ。
ラムサール条約では,3年ごとに締約国会議が開催され,そこで採択される決議や勧告により,条約の実質的内容が順次豊富化されてきている。
条約による湿地保全の基本原則は,「賢明な利用(wise use)」にある。この「賢明な利用」については,第3回締約国会議において,「生態系の自然財産を維持し得るような方法で,人類の利益のために湿地を持続的に利用することである」と定義され,第6回締約国会議で採択された戦略計画では「賢明な利用」を持続可能な利用と同一のものとみなされ,第9回締約国会議(2005年)で「湿地の賢明な利用は,持続可能な開発の範囲内において生態系アプローチを通じて達成される湿地の生態学的特徴の維持である。」と定義され,「湿地の生態学的特徴」については,「ある時点での湿地を特徴づける生態系構成要素,プロセス,および恩恵・サービスの組み合わせである。」とされた。
(2)条約の国際的重要性
1960年代初めに至り,何らの対策も取らないままではヨーロッパの重要な湿地が消失してしまうとの危機感がようやく高まり,湿地の重要性に気付き始めた人々の運動が実って,条約の締結に至った。国際条約の必要性が叫ばれたのは,湿地や水源は国境をまたがることが多く,渡りをする水鳥は,国境を越えて多くの湿地を必要とする等の理由からであった。
その後,地球規模での湿地の消失や破壊という深刻な事態に直面した中で,国際世論の中でも,湿地の持つ価値が再評価され始め,いま残されている湿地を保全し,失われた湿地を回復するという国際世論が形成されてきた。
このような国際世論を背景に,ラムサール条約は水鳥ばかりでなく湿地を保全し復元するための条約としてその国際的重要性が再認識されるに至っており,締約国数も格段に増加した。
(3)わが国の登録状況
日本も,公害事件の多発等を受け,1970年代に入って遅ればせながら湿地保全の重要性に対する社会的認識の高まりを見て,1980年10月に締約国となった。その際,釧路湿原を登録湿地として指定した。
2005年11月の第9回締約国会議において,大分県のくじゅう坊ガツル・タデ原湿原,鹿児島県の藺牟田池,屋久島永田浜,沖縄県の慶良間諸島海域,名蔵アンパルを含む国内20ヶ所の湿地が新たに登録され,わが国の現在の登録湿地数は33ヶ所となった。
(4)日本の環境保全戦略の中における干潟の位置づけ
2000年12月に改訂された環境基本計画では,「湿地の保全」の項目を設け,生物多様性の確保の見地から,(?)水鳥等の多様な野生生物の生息地等として重要な湿地について「適正な評価と積極的な保全」や「渡り鳥飛来地などとして重要な湿地について国際的な生物多様性の観点から保全を推進する」などの目標を掲げている。
さらに,2002年3月に策定された新・生物多様性国家戦略(新戦略)では,あらゆるタイプの湿地が人間活動の影響を強く受けており,その喪失と質的劣化が進行していることから,湿地タイプの特性に従い,かかる影響を適切に回避,低減する必要性及び,湿地の再生・修復の必要性を認識し,湿地の保全が緊急の課題であり,かつ保全を原則とすべきことがうたわれている。
このように,湿地の保全は,現在,日本国の国家戦略としても重要な位置づけを与えられるようになっている。
(5)ラムサール条約登録の影響
ラムサール条約登録については,?国内外に国際的に重要な湿地としてその知名度がアップすることによる効果や?環境保全に対する地域住民の湿地保全の意識が高まり,その保全への取り組みが活性化することが挙げられる。このように地域住民に湿地の保全意識が高まることは,我が国の前記環境保全戦略にも沿うものである。
これに対し住民等の懸念として考えられる農業や工作物の設置の規制についても,?農林水産業に関する新たな規制は原則としてないうえ,水鳥による農業被害への懸念も現状以上になることは考えられず,?工作物の設置についても許可を受ければ可能であるし,事前に計画が分かっている場合には事前に区域から除外することも可能であり十分に対応が可能なものであり,マイナスの影響はほとんど考えられない。
(6)ラムサール条約登録の意義
以上からして,重要な湿地であればラムサール条約に登録することが望ましいことは明らかである。
ましてや自治体等が湿地の重要性を認識し,かつ,その保全等を行っているならば当然に登録を目指すべきである。

5 日弁連・九弁連・当会の取り組み
日本弁護士連合会では早くから湿地保全問題に取り組み,各地の湿地を取り巻く問題状況を調査,研究の上,湿地に対する開発行為の中止や保全策の提言を行ってきた。1997年には諫早湾干拓事業に関し水門開放と事業中止を求める意見書と中海干拓事業中止の意見書を,1999年12月には東京湾三番瀬の埋立中止を求める意見書を,2002年3月には沖縄県泡瀬干潟の埋立事業の中止を求める意見書を,2003年10月には諫早湾干拓事業につき再生に向けた水門開放調査を求める意見書を,2004年2月には中城湾佐敷干潟の埋立て計画の中止を求める意見書を,そして,2005年3月には中池見湿地の保全に関する意見書を公表した。
また,2002年10月には,日弁連の取り組みの到達点として,郡山市で行われた第45回人権擁護大会において,シンポジウム「うつくしまから考える豊かな水辺環境−湿地保全・再生法制定に向けて−」を開催し,?回避・最小化・代償という明確な優先順位をもって保全を行う手法(ミティゲーション),生態学的知見に基づき保全と再生を一体的に行うための湿地管理計画制度及び,保護区制度をその内容とする湿地保全・再生法の制定と?法制定によって保全策が取られるまでの緊急措置として重要湿地500選の湿地及び周辺地域で進行中の開発計画を中止させること等を内容とする「湿地保全・再生法の制定を求める決議」を採択した。
こうした日弁連の全体的な取組に呼応して,九弁連及び福岡県弁護士会は,地元において,沖縄の泡瀬干潟,佐敷干潟,名蔵アンパル,鹿児島県の屋久島永田浜,大分県の九重タデ原湿原,福岡県の和白干潟,今津干潟,曽根干潟などの各湿地の調査を毎年のように行い,それぞれの保全策の研究を進めてきたところである。そうした調査・研究の成果は随時,日弁連の上記取組に反映されてきた。
また,当会は,2005年に,曽根干潟の保全に関する意見書をまとめ,北九州市に対して,曽根干潟の保全措置をさらに進め,ラムサール条約上の登録湿地を目指して積極的に活動すべきであると提言した。

6 和白干潟・今津干潟がラムサール条約登録にふさわしい湿地であること
(1)わが国におけるラムサール条約登録の要件
わが国におけるラムサール条約登録の要件としては,以下の3点が挙げられている。
?国際的に重要な湿地であること(=ラムサール条約で示された基準に該当していること)
?国指定鳥獣保護区特別保護地区等の地域指定により,将来にわたり自然環境の保全が図られていること
?地元自治体等から登録への賛意が得られていること
(2)両干潟が「国際的重要湿地」であること
ア ラムサール条約における国際的な重要湿地の基準
上記?のラムサール条約登録で示された国際的重要湿地の基準として,ラムサール条約 決議VII.11付属書では8つの基準が掲げられているが,本件に関連するものは以下の基準2,3,6である。
基準2:危急種,絶滅危惧種または近絶滅種と特定された種,または絶滅のおそれのある生態学的群集を支えている場合には,国際的に重要な湿地とみなす。
基準3:特定の生物地理区における生物多様性の維持に重要な動植物種の個体群を支えている場合には,国際的に重要な湿地とみなす。
基準6:水鳥の一種または一亜種の個体群において,個体数の1%を定期的に支えている場合には,国際的に重要な湿地とみなす。
イ 和白干潟,今津干潟が「国際的重要湿地」であること
(ア) 和白干潟が「国際的重要湿地」であること
a 和白干潟は,「春秋の渡りおよび越冬期の種数・個体数が多く,ミヤコドリ,メダイチドリ,チュウシャクシギ,キアシシギ,ミユビシギ,トウネン,ハマシギでは最小推定個体数の0.25%以上が記録されていることと,RDB(レッド・データ・ブック)種のカラフトアオアシシギ,ヘラシギ,コシャクシギ,ホウロクシギ,アカアシシギ,オオジシギが記録されている」こと,「スズガモの渡来地」であること,「クロツラヘラサギの渡来地」であることなどを理由に,環境省が選ぶ「日本の重要湿地500」に選ばれているが,この選定理由からすると同干潟が危急種,絶滅危惧種または近絶滅種と特定された種,または絶滅のおそれのある生態学的群集を支えている「国際的重要湿地」であることは明らかであり,基準2に該当する。
また,環境省主催のラムサール条約湿地検討会議においても,クロツラヘラサギ,ズグロカモメ,ヘラシギ,カラフトアオアシシギの飛来が記録されていることを理由に「絶滅のおそれのある種または生態学的群衆の存在にとって重要」としてラムサール条約登録の指定候補地に挙げられており,この理由からすると,同干潟が危急種,絶滅危惧種または近絶滅種と特定された種,または絶滅のおそれのある生態学的群集を支えている「国際的重要湿地」であって基準2に該当することは明らかである。
さらに,福岡市港湾局の平成17年度のアイランドシティ整備事業・環境監視結果によれば,人工島周辺ではズグロカモメが年間43羽飛来し,越冬していることが報告されており,ズグロカモメは,環境省のレッドデータブックで絶滅危惧?類になっている希少な渡り鳥で,世界中で7000羽しかいないといわれているし,日本野鳥の会福岡支部の報告でも,世界で約1700羽しか生息数していないクロツラヘラサギが毎年20ないし30羽飛来するとされ,その他にもツクシガモやミヤコドリなどの貴重種の飛来もみられ,これらの希少な渡り鳥の飛来する和白干潟が特定の生態学的群衆を支えている湿地であることは明らかであり,基準2に該当する。
b 1999年九州・南西諸島湿地レポートによれば,和白干潟を含む福岡湾のプランクトンは植物性プランクトンが110種,動物性プランクトンが節足動物51種を中心に110種が観察されること,魚類やコメツキガニを含む甲殻類などの游泳動物は65種,底生成物はゴカイなどの環形動物49種,軟体動物19種,節足動物36種など150種あまりが生息し,海藻類が54種観察されることが報告されている。
また,環境省が選ぶ「日本の重要湿地500」に和白干潟が選定された理由として「豊富な鳥類と塩生植物。ベントス相も豊富で,ウミニナ,オオノガイ,ツバサゴカイといった希少種も多い」ことがあげられている。
このように豊富な生物群が生息していることからすれば,特定の生物地理区において生物多様性の維持に重要な動植物種の個体を支えているものといえ,基準3に該当する。
c 前述の環境省主催のラムサール条約湿地検討会議において,ミユビシギ(1%基準220羽)が例年,和白干潟に二百数十羽程度飛来していることから,「水鳥の個体数の1%を定期的に支える湿地」としてラムサール条約登録の指定候補地に挙げられており,この理由からすると,同干潟は基準6にも該当する。
d 以上からも明らかなように,和白干潟は複数の観点からラムサール条約上の基準である「国際的重要湿地」の基準に該当する。
(イ)今津干潟が「国際的重要湿地」であること
a 今津干潟は,「春秋の渡りおよび越冬期の種数・個体数が多く,シロチドリでは最小推定個体数の1%以上,ミヤコドリ,チュウシャクシギでは最小推定個体数の0.25%以上が記録されている。RDB種のセイタカシギ,ホウロクシギ,アカアシシギ,ツバメチドリ,オオジシギが記録されている。」こと,「クロツラヘラサギの渡来地」であることなどを理由に,環境省が選ぶ「日本の重要湿地500」に選ばれているが,この選定理由からすると同干潟が危急種,絶滅危惧種または近絶滅種と特定された種,または絶滅のおそれのある生態学的群集を支えている「国際的重要湿地」であることは明らかであり,基準2に該当する。
b シロチドリの最小推定個体数の1%以上の飛来が記録されていることから,基準6にも該当する。
c 以上からも明らかなように,今津干潟は複数の観点からラムサール条約上の基準である「国際的重要湿地」の基準に該当する。
(3)国指定鳥獣保護区特別保護区特別保護地区等の地域指定により,将来にわたり自然環境の保全が図られていること
ア 和白干潟について
 和白干潟は,シギ・チドリ類を始めとする渡り鳥の中継地,越冬地として,国際的に重要なことから,集団渡来地の保護区として,すでに国指定鳥獣保護区に指定されており,将来にわたり自然環境の保全が図られるための法的担保が整っている。
 それゆえ,現時点において,わが国におけるラムサール条約登録の要件?を満たしている。  
イ 今津干潟について
 今津干潟は,現在,福岡県指定鳥獣保護区には指定されているものの,国指定鳥獣保護区には指定されていない。
 したがって,現時点においては,わが国におけるラムサール条約登録の要件?は欠けている。
(4)地元自治体等から登録への賛意が得られていること
 現時点においては,和白干潟・今津干潟のラムサール条約登録について,地元自治体である福岡市などから賛意が得られているかは明確ではなく,わが国におけるラムサール条約登録の要件?を満たしているとは言いがたい。
(5)小括
ア 和白干潟・今津干潟は十二分に国際的重要湿地の要件を充たしており,わが国におけるラムサール条約登録の要件?を満たしている。
その上,和白干潟においては,国指定鳥獣保護区に指定されており同要件?も満たしている。
しかし,和白干潟については,同要件?を満たしているとは言いがたく,今津干潟については同要件?および?を満たしているとは言いがたい。
逆に言えば,和白干潟については?の要件を,今津干潟については?,?の要件さえ満たせばラムサール条約の登録湿地になりうるのである。
そこで,当会は,これまでの日弁連等の取り組みを踏まえた上で,これら残りの要件の充足に対して福岡市が積極的な措置を講ずべく本意見書で求めるものである。
7 和白干潟・今津干潟にはラムサール条約登録を行う条件は整っていること
(1)ラムサール条約登録の素地は整っていること
ア 和白干潟・今津干潟が重要な湿地であること
 すでに繰り返し述べてきたように,福岡湾(和白干潟・今津干潟)は,極めて重要な湿地であり,和白干潟と今津干潟の両干潟そろっての十分な保全が求められている。
 したがって,ラムサール条約の登録湿地として登録されるべきである。
イ 福岡市のこれまでの政策と合致すること
 福岡市は,福岡湾の価値を十分に認めた上で,福岡市新・基本計画において,「豊かな自然環境の保全と生態系ネットワークの形成」を施策の基本的方向として掲げ「和白干潟や今津干潟の保全と創造」を主要な施策として「ラムサール条約登録等は将来的な課題と考えている」と考え方を述べるなど,ラムサール条約登録に向けた福岡湾の保全を市の政策としている。
それゆえ,和白干潟・今津干潟をラムサール条約登録することによって,地域住民の環境保全意識がさらに高まれば,福岡市の政策実現もより円滑となり,将来にわたって福岡湾の一層の保全が可能となるのであり,そのような素地は既に整っているといえる。
ウ 今津干潟の鳥獣保護区指定に阻害要因はないこと
(ア)前記の通り,今津干潟については,現時点においても,福岡県指定鳥獣保護区に指定されており,鳥獣の狩猟について一定の制限がかかっているのであるから,同地域について国指定鳥獣保護区の指定を行ったとしても周辺地域の住民らに新たな不利益はないというべきである。
(イ)上記(ア)で述べたとおり,今津干潟は,すでに福岡県指定鳥獣保護区となっているのだから,その保護政策を通じて周辺地域住民の理解を得ていくことは十分に可能である。そして,福岡市自体も,新・基本計画西区基本計画において,「国設鳥獣保護区について国と協議していきます」と施策目標を掲げ,今後,学識経験者,市民,行政等から構成する懇話会等において検討していくとしており,今津干潟の国指定鳥獣保護区指定に向けた準備は既に整っているといえる。
(2)まとめ
 以上からも明らかなように,和白干潟,今津干潟をラムサール条約に登録することについては,何らの阻害要因もないだけでなく,これまでの福岡市の政策にも合致するものである。

8 結論
よって,当会は意見の趣旨記載の意見を述べるものである。

以上

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2007年7月31日

福岡県弁護士会会長日記

会長日記

                         会長 福 島 康 夫(30期)

1 日弁連第22回司法シンポジウム(6月22日)
 今年の最大のイベントである日弁連第22回司法シンポジウムが福岡市のJALシーホークアンドリゾートホテルで開催された。当日の参加者は1243名。これまでのシンポジウムの中で最大規模の参加者になった。参加していただいた当会の会員の皆さんに大いに感謝したい。
 当日の全体会の冒頭の平山正剛日弁連会長の挨拶の後で地元会を代表して私が挨拶に立つことになった。
 ところで,私の挨拶の中に,多重債務者救済対策本部の春山本部長代行の強い勧めで多重債務のテレビCMを会場に流すことにした。「弁護士会は変わる,福岡県弁護士会は先頭きって大きく変わる」ということを視覚的にアピールしようとしたものである。
 テレビCMは挨拶の途中と最後に流したがどうだったであろうか。会場の反応が心配であったが,何とか失敗はせずにすんだようである(なお,このCMは現在,当会のホームページでも動画で見ることができる。ご覧頂いていない方は是非とも参考にご覧頂きたい)。
 今回のシンポジウムは「市民のための弁護士をめざして いま,弁護士,弁護士会に求められるもの」というテーマであり,法の支配を全国津々浦々に及ぼすために,是非とも議論をしておかなければならない問題である。さらに,今年から弁護士の大量増員が始まる中で,私達弁護士自身のアイデンティティーについて議論することは極めて重要である。
 当日のシンポジウムでは,これまで紛争がなく弁護士なんて必要ないと思われていた地域が実は弁護士が着任して以降依頼が急増している報告がなされ,過疎地域のひまわり基金法律事務所の若い弁護士や法テラスのスタッフ弁護士の溌剌とした活躍ぶりが紹介された。偏在,過疎問題といえば,ともすれば空中戦といった感があったが,全国に活躍する若い弁護士の姿は感動的であり,エネルギーを注入された感じがした。
 しかし,他方で弁護士数は増加しているにもかかわらず,それが偏在解消にはつながっていないことも明確になった。成り行き任せでは偏在問題は解消しないことが共通の認識となったと思う。
 弁護士偏在問題は2009年に始まる被疑者国選弁護制度の対応態勢の確立と密接に関係しており,弁護士の大量増員問題とも密接に関係している。その意味で弁護士偏在問題対策はこの2年で目処をたてなければならない緊急課題である。


2 弁護士偏在問題解消のための経済的支援策の試行について
    (7月12,13日)

 7月12,13日の日弁連理事会において,弁護士偏在解消促進のための経済的支援策の試行に関する実施要綱が承認された。弁護士の偏在問題を早急に解消するためにあらゆる形で経済的支援をするというものであり,偏在問題の解消は際限のない弁護士増員要求に対する歯止めになるはずである。もし,本格的に実施するとすれば10億円を超える大事業となるが,これまで眠っていた特別会計を改組すれば会員からの新たな会費負担を求める必要はないという説明であった。今後,この経済的支援策の本格的実施をする場合日弁連臨時総会に付議されることになり詳細についても説明がなされることになると思う。経済的支援策は偏在問題解決のためのメニューの一つである。大きな構想だけに日弁連執行部の意気込みを感じた。
 九弁連管内の偏在問題,当会の中での偏在問題について,大いに意見を交換して早急に対策を立てる必要がある。この1,2年の重要課題である。


3 あらためて2009年問題について思う
 2009年には裁判員制度が実施され,被疑者国選弁護制度が10倍にまで拡大される。裁判員制度も被疑者国選弁護制度もどちらも刑事分野での司法制度改革に関する問題であるが,単に刑事の問題だけではなく,この問題は司法の将来,弁護士会の将来を左右する問題であると思う。裁判員制度が真の意味での市民のための司法になるかどうかはまだまだこれからの問題である。取調べの可視化を含め克服すべき課題は多い。
 また,被疑者国選弁護制度は2009(平成21)年には対象事件は今の10倍以上,年間10万件にも達することになる。しかし,現在のように偏在問題が解消できない限りは被疑者国選弁護制度の対応は不可能である。偏在問題の解消は特に,被疑者国選弁護制度の対応態勢が確立できるかどうかという問題と密接に関係している。この被疑者国選弁護事件をやりとげることができて,初めて弁護士大量増員問題にも堂々と意見がいえることになると思う。
 今,2009年に向けて全力をあげて準備をすることが最大かつ緊急の課題である。残すところ2年足らずである。精一杯行動するしかないが,やりがいもあると考えたい。これから2009年まで,日弁連全体にとってターニングポイントの年である。


4 情報の共有化のために工夫していること
 本年度の会務執行方針の一つとして情報の共有化を掲げた。700名を超える大きな会となった当会としては,特に会員全員の情報の共有化が不可欠である。そこで,従来からの月報の他に,ホームページ(大石副会長担当)週1回発信のFニュース(吉岡副会長,徳永響業務事務局長担当)でなるべく多くの弁護士会の情報を頻繁に発信することにしている。
 また,執行部内部でも情報の共有化を重要視し,このために執行部全員が工夫している。
 執行部会議は毎週月曜日の午後2時から5時30分頃まで何十という議題について意見を交換し結論を出している。常議員会のある日は別途執行部会議を12時から午後3時迄している。毎月輪番制で副会長が司会をすることになっている。執行部会議の議事録は大神,徳永響両事務局長が1,2日のうちに作成している。 担当副会長,事務局長は担当の部門の情報について日常はメーリングリストを活用しどんな些細なことでも報告をし,日常的な細かい問題はメールの交換で解決を図っている(現在までのメールは1620通)。
 対外的な折衝については執行部では複数で対応し慎重を期している。一見非効率ではあるが,複数で対応することによって折衝内容をより正確に分析することができると考えているためである。
 常議員会は2ヵ月に3回の割合で午後3時から6時までの予定で開催している。川副常議員会議長の手際の良い進行のお蔭で,密度の濃い議論をしながらこれまでのところ時間厳守を励行している。
常議員会の内容は月報の他に毎回常議員会の直後にFニュースでメール配信をし,ホームページの会員のページに出しているので,チエックしていただきたい。
 また,常議員会は日弁連の理事会の直後に開催するようにして,最新の日弁連の情報を常議員会に反映できるようにしている。日弁連理事会は2日間にわたる12時間以上のマラソン会議であるが,河辺副会長が常議員会で日弁連の動きについての簡にして要を得た報告をしている。月報に掲載しているので是非とも一読頂きたい。

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