福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2007年6月 7日
被害者の参加制度関連法案衆議院可決にあたっての声明
声明
2007年(平成19年)6月6日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
衆議院は、2007年(平成19年)6月1日、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」(以下「法案」という)を可決し、参議院に送付した。
この法案は、裁判員裁判対象事件や業務上過失致死傷等の事件について、裁判所に参加を申し出た被害者やその遺族に対し、公判への出席、情状に関する事項についての証人に対する尋問、被告人質問、証拠調べ終了後の求刑を含む弁論としての意見陳述を認めるものであるが、当会は、この法案の定める犯罪被害者等の刑事手続参加制度(以下「被害者参加制度」という)には、次のような問題があり、その創設に反対するものである。
(1)法廷を報復の場にしてしまい近代刑事司法の基本構造を根底からくつがえすことになる。
わが国では、検察官が訴訟遂行を独占する仕組みをとっている。これは、犯罪被害者やその遺族(以下「被害者等」という)による私的報復を禁止し国家が加害者を処罰することによって、被害者等と加害者との報復の連鎖を防いで社会秩序の安定を図ろうとするものである。それによって、被害者等は加害者の再報復から守られることにもなる。
したがって、現行法上、被害者等の意見や処罰感情等は、公益的立場である検察官を通じて理性的に訴訟手続に反映させることが予定されている。
ところが、今回衆議院で可決された法案は、刑事訴訟手続の場に私的復讐を持ち込み、報復の連鎖を招く危険性が高い。
このことは、無罪推定原則に基づき裁判官の予断と偏見を可能な限り排除しようとする近代刑事司法の原則にも反することになる。
(2)被告人の防御権の行使を困難にし真実の発見に支障をきたす。
近代刑事司法は、被告人に十分な防御の機会を保障することによって、真実を発見し適正な量刑を行なおうとするものである。
ところが、被害者等が被告人と法廷で対峙し被告人が被害者側からの感情も交えた厳しい追及にさらされることになれば、被告人は萎縮してしまい自らの正当な反論もできなくなる可能性がある。
さらに、被害者等が不意打ち的な訴訟遂行を行うことも予想され、被告人側は、これら全てに対して防御することを余儀なくされ、防御すべき対象、争点の拡大がもたらされる可能性もある。
このような事態は、被告人の防御活動を著しく困難にし真実の発見と適正な量刑にも支障をきたすことになる。
(3)少年の刑事事件ではさらに深刻な萎縮効果を及ぼし適正手続きに反する事態を生じる。
上記のような事態は、被告人が、心身ともに成長過程にあって精神的・心理的に未発達な少年の場合には、さらに深刻である。
(4)裁判員制度に悪影響を及ぼすおそれもある。
以上のような事態は、2009年(平成21年)から実施が予定されている裁判員裁判にも重大な悪影響を及ぼす可能性がある。
すなわち、被害者等を訴訟に参加させ感情的な訴訟活動を法廷に持ち込めば、市民たる裁判員は目の前の被害者等の感情的な訴訟活動に混乱し、過度に影響を受けて冷静かつ理性的な事実認定が困難になり、かつ、量刑においても過度に重罰化に傾くことは容易に予想される。
以上のように、被害者参加制度は、刑事裁判に対し、その本質に照らし看過し得ない悪影響を及ぼすものである。そのため、犯罪被害者等の中にも「被告人から落ち度を指摘されたり、その場限りの謝罪を受けたりして被害者が傷つく」「声を上げられない被害者が見落とされる」「法廷が復讐の場になれば憎悪の気持ち、苦しみも増すだけ」などという意見が出されている。
このように刑事裁判の根幹に関わる重要な制度改革をわずか2週間程度の審議で決定するのはあまりに拙速過ぎ、慎重さを欠いている。
なお、この法案には3年後に見直すとの条項が盛り込まれはしたが、法案に含まれる根本的な問題は単なる見直しでは解消できるものではない。
当会は、犯罪被害者等の支援が重要であることを十分に認識し、これまでもそのような活動に取り組んできたし今後も取り組む所存である。しかし、以上のような問題をもった被害者参加制度の創設についてはこれを認めることはできない。
当会は、本年3月8日に被害者参加制度の創設に反対する会長声明を発したところであるが、今回、衆議院において慎重さを欠いた法案の可決がなされたことは誠に遺憾であり強く抗議する。参議院におかれては、法案の問題性を十分に認識したうえで慎重に審議されるよう求めるものである。
2007年6月11日
会長就任のご挨拶
会長日記
会長 福 島 康 夫(30期)
1. 2007(平成19)年度の会長として当会の運営をになうことになりました。よろしくお願い致します。
3月26日から新執行部の挨拶回りをしています。その中で,私自身あらためて裁判員制度を成功させるためには取調べの可視化を実現しなければならないという実感を持ちました。
今のままの刑事裁判だと,裁判員の前で延々と取り調べ状況について警察官,検察官,被告人を尋問することになります。安価でビデオ装置を導入できるのに,無意味ともいえる審理を続けて長期間裁判員を拘束することは裁判員となって参加される市民の皆さんに対して失礼ではないかとさえ思うようになりました。検察庁はようやく自己の判断で都合のいい部分だけを録画することを試験的に実施し始めました。しかし,都合の良い部分だけの録画では冤罪はなくなりません。鹿児島の志布志事件や北方事件が良い例です。裁判員制度が実施される前に取調べの可視化を実現させましょう。
2. また昨年10月に法テラスが業務を開始し,半年が経過しました。一方では弁護の自主独立を保ちながら,他方で緊密な連携関係をどのように構築していくのか,具体的運用面も含めて早急に明確にする必要があります。法テラスが業務をしていても中心となって活動するのは私達弁護士であり,誰が助けてくれるわけでもありません。
全国に先駆けて当番弁護士制度を創設した当会としては被疑者国選弁護制度を何としてでも成功させなければなりません。皆さんの更なるご協力をお願い致します。
3. 今年から法曹の大量増員問題が始まります。今年は修習修了者が2500人にも達します。このような中で最もタイムリーなシンポが福岡で開催されることになっています。
来る6月22日(金)に「市民のための弁護士をめざしてーいま弁護士・弁護士会に求められるものー」というテーマでシーホークホテルで開催されます。
過去,日弁連のシンポには大きな歴史的な転換点となったシンポがありました。前回の1992(平成4)年の福岡での司法シンポは司法改革の大きな転換点となる歴史的なシンポになりました。今回の福岡での司法シンポも歴史的な転換点になるものと確信しています。今回のシンポが法曹の大量増員問題を見据えた問題提起です。
今回のシンポは弁護士の大量増員問題の基本的な認識を共通にするという意義を有しています。皆さんの司法シンポへの積極的な参加をお願い致します。
4. ところで,2006(平成18年)度,当会では多重債務者の救済は人権救済だという観点から法律相談センターにおける多重債務者の法律相談を無料化することを決定しました。そして,4月1日から福岡,飯塚で先行して無料化を実施することになりました(北九州,筑後は準備が出来次第追って実施するということになっています)。
多重 債務が原因での自殺者が年間8000人と言われており,今後ますます社会問 題化する様相を呈しています。私は2007年(平成19年)度は会をあげてこの多重債務者問題の解決にあたらなければならないと思います。なお,法律相談センターの財務状況については執行部として十分に注視していくことにしており,今後,逐次ご報告をしたいと思っています。
5 今年は選挙が目白押しの状況です。政治情勢がどうなっていくのか私達弁護士会の活動にも大きく影響があるかもしれません。この他にもたくさんの問題がありますが,会員の皆さんとの間でなるべく多くの情報の共有化を図ることが最も重要だと思っています。
全力を尽くしますので,よろしくお願い致します。
会長日記(4月)
会長日記
会長 福 島 康 夫(30期)
第1回常議員会と花見
第1回常議員会と花見は4月の第1週目の土曜日とすることが慣例となっています。今年は第1週目の土曜日が4月7日です。 桜は3月20日頃が満開ではないかといわれていましたが,まさか前年度の3月末に常議員会と花見をすることもできず, 全く桜のない中での宴を覚悟していました。ところが,3月末から急激に寒くなり,満開の桜が1週間続いてくれ,予想外に絶好の天気の中で花見ができ幸運でした。 飲み干すコップの中に桜の花びらが入り,ゆったりとした雰囲気の中で桜の風情を感じました。
ところで,常議員会は第1回目から最重要案件2件付議しました。1件は多重債務者救済対策本部の設置の件であり,2件目は福岡高裁, 福岡地裁に対して裁判所の記録謄写の公募制導入を撤回するよう意見書を提出する件です。いずれも活発な議論の結果,原案どおり承認していただきました。
多重債務者救済対策本部の設置の件
昨年度の最後の常議員会で,県弁として相談センターにおける多重債務者の相談を無料化すること, 4月1日から福岡地区と飯塚地区で無料化を実施することが議決されました 本年度の執行部で検討しましたが, この問題は県弁全体で会をあげて取り組まなければならない問題だと考え,対策本部方式で解決にあたることにしました。 なお,無料化に伴う相談センター関連の財政については執行部として責任をもって逐一チエックすることにしています。
挨拶回りで消費生活センターの他多くの地方自治体の市長や商工会議所の会頭と懇談をし,その中で弁護士会がこの多重債務問題について解決にあたることを 話しますと喜んでいただき,広報等の協力を約束していただきました。今,多重債務問題は行政等もこれまでにない最大限の対策を立てようとしています。 今後,関係機関との懇談をして相互に連携する必要性を痛感した次第です。
多重債務者相談を無料化にするということは受任後の法的処理までも無料にするものでないことはいうまでもありませんが, 単に相談料が無料というだけで後の法的処理がいい加減では弁護士会への信頼が一挙に喪失してしまいます。法律の専門家である弁護士が責任をもって 法的処理をしなければ解決は不可能です。法テラスの法律扶助等も最大限駆使して解決にあたる必要があります。更なる研修も不可欠です。
第1回目の対策本部は4月13日に開催し,春山九州男会員を本部長代行に選任致しました。早速,合宿の日程が入り,今後は急ピッチで対策本部の活動が始まります。
今後多重債務問題は対策本部を中心として,消費者委員会,法律相談センター運営委員会,倒産業務等支援センター委員会, 弁護士業務委員会等関連委員会が連携して活動することになります。多重債務者救済問題について会員の皆様の結集をお願い致します。
記録謄写公募制問題
2つ目は福岡高裁,福岡地裁に対して裁判所の記録謄写の公募制導入を撤回するよう意見書を提出する件です。 福岡高裁は10月から福岡地家裁管内の謄写について公募性を導入する予定とのことであり,スーパー等で見かけるコインベンダー式にするということです。 しかし,もし,公募制が導入されることになると本庁,支部を問わず,弁護士若しくは事務員さんが自らコピーに行かなければなりませんが, 全く無駄な手間と労力を強いられることになります。訴訟記録の謄写は訴訟当事者の権利です。公募制の導入は迅速かつ確実な謄写を阻害するものです。 また,記録の秘密保持,改ざんの防止の問題や地域の実情を無視しているという点でも到底認めるわけにはいきません。 弁護士会として会をあげて取り組む必要があり,弁護士協同組合の立場とは別の立場から,公募性導入の撤回を求める意見書を提出することに致しました。
今後,予断を許さない状況ですので,逐次報告をしていくことにしています。
挨拶まわり
会長に就任して最初の仕事が恒例の挨拶回りです。挨拶回りでは限られた時間ではありますが,年度の初めに懇談する機会が与えられますので, その年の弁護士会の活動目標等理解していただくための絶好の機会です。
本年度は県知事選挙等の関係で挨拶まわりを2回に分けて行うことにしました。第1弾を3月26日から4月13日まで3週間をかけて行い,既に156ヵ所を訪問しました。 訪問先は裁判所,検察庁等の法曹関係,県警本部,福岡市,北九州市,久留米市,飯塚市等の地方自治体,マスコミ関係,各地の商工会議所, 各地の消費生活センター,企業,労働団体等です。県内全地域を訪問しました。訪問先は昨年よりも増え,第2弾の挨拶回りもあわせれば170ヵ所以上になると思われます。
本年度は特に[1]多重債務者の相談料の無料化の説明とこれに関連した多重債務問題についての懇談 [2]弁護士の大量増員を見据えた6月22日の司法シンポジウム 「市民のための弁護士をめざして― いま弁護士・弁護士会に求められるもの―」の案内 [3]裁判員制度,取調べの可視化についての懇談を中心に懇談をしていきました。
多重債務者問題は自治体,商工会議所,消費者生活センター等で特に懇談をしました。特に法科大学院等で司法シンポについて懇談をし, 今回のシンポが法曹の大量増員問題を見据えた問題提起であり,非常に重要なシンポであることを力説しました。マスコミ関係には裁判員制度, 特に取調べの可視化等について懇談をしました。訪問先で懇談した時間は短時間でしたが,いずれも次につながる有意義な懇談になったのではないかと思います。
挨拶回りは執行部の最初の仕事です。約160ヵ所の訪問先,しかも多忙な各界のトップと懇談する予約をとることは至難の業です。 当日の時間調整を含めマネージメントを担当した大神総務事務局長,徳永響業務事務局長本当にお疲れさまでした。ただし,まだ,まだ挨拶回りは続きます。
お わ り に
今年も前年度に引き続き会長日記を継続致します。その時々の弁護士会のタイムリーな話題を書き綴っていくことにしますので,一読頂ければ幸いです。1年間よろしくお願い致します。
2007年6月12日
被疑者国選弁護制度の対応態勢確立に向けての宣言
宣言
1 昨年10月から被疑者国選弁護制度が始まった。
当会は1990(平成2)年12月全国に先駆けて当番弁護士制度(待機制)を創設し,その後,当番弁護士制度は燎原の火の如く全国に広がった。被疑者国選弁護制度の法制化は,当番弁護士制度(待機制)を創設した私達の悲願であり,長年にわたる運動の成果が実ったものである。当番弁護士の運動は地方から発した司法改革運動であると評価できる。
2 そして,2009(平成21)年には被疑者国選弁護制度の対象事件は必要的弁護事件にまで拡大されて第2段階を迎え,全国的には現在の10倍以上の10万件近くに達することになる。当会においても来るべき2009(平成21)年には被疑者国選弁護事件の対象事件は4000件を超えることが確実視されており,2009(平成21)年に向けての国選弁護の対応態勢作りが急務である。
弁護士の役割に関する原則[1990(平成2)年国連第45回総会決議]は「すべての人は自己の権利を保護,確立し,刑事手続のあらゆる段階で自己を防禦するために,自ら選任した弁護士の援助を受ける権利を有する」としており,被疑者,被告人の弁護人の援助を受ける権利を担保することは弁護士の責務である。
被疑者国選弁護制度の対応態勢を確立し,充実した制度にすることは我々弁護士の責務の履行であることを銘記する必要がある。
3 昨年9月に福岡で開催された第9回国選弁護シンポジウムにおいても,2009(平成21)年に向け,対応態勢の整備に精力的に取り組み,刑事弁護の現場での実践的で全国的な運動を展開していかなければならないことが確認された。
4 当会はあらためて,被疑者国選弁護制度の重要性を確認し,2009(平成21)年の被疑者国選弁護制度の第2段階の実施に向けて,全力を傾注して対応態勢を確立し,充実した刑事弁護を提供できるよう,あらゆる努力をすることを誓うものである。
以上宣言する。
2007(平成19)年5月23日
福 岡 県 弁 護 士 会
多重債務者救済体制整備に関する決議
決議
2006(平成18)年の改正により,貸金業法や出資法の上限金利を利息制限法の制限利息とするなど高金利問題は将来に向けては解決に向けて前進した。しかしながら,この改正によって将来貸金業者を利用する債務者は保護されることになるが,現在の多重債務者は救済されず、その支援が急務である。
政府が設置した多重債務者対策本部作成による「多重債務問題の解決に向けた方策について(有識者会議による意見とりまとめ)」では,現在200万人を超えるともいわれている多重債務者の中で相談窓口やカウンセリングなどにアクセスできているのは2割程度に過ぎないとして,相談窓口の整備・強化の必要性が指摘されている
当会は4月1日から福岡,飯塚地区において法律相談センターにおける多重債務者無料相談を実施し,さらに6月1日からは全県をあげて多重債務者無料相談を実施することにしている。
当会が社会問題化した多重債務問題について市民の期待に応えるためには,相談窓口の設置にとどまることなく,多重債務問題を解決するための体制をさらに整備・強化し,会をあげて取り組む必要がある。また,多重債務問題の解決のために, 国や地方自治体その他関係団体と連携していく必要がある。
当会は,すべての多重債務者が平穏に生活できるようにするために,相談センターの無料相談をはじめとして体制を整備・強化し,多重債務問題の解決に向けて全力を傾注することを誓うとともに,国や地方自治体その他関係団体が当会と連携をして多重債務者救済及び発生防止のための諸施策を至急実施することを求める。
以上決議する。
2007(平成19)年5月23日
福岡県弁護士会
クレジットシンポジウム・アピール
アピール
〜消費者が保護される安全なクレジット社会を目指して〜
一昨年,埼玉県富士見市で,認知症の高齢者姉妹に必要のないリフォーム工事を次々と契約させ,多額のクレジット債務を負わせた事件が発生し,マスコミでも大きく取り上げられた。また,九州においても,年金生活者などに高額の呉服や布団などを次々と購入させ,支払能力を無視したクレジット債務を負わせるという事件が多発している。
さらに,福岡で発生した「たく美屋」事件などに見られるような空売り大量名義貸し事件も,相変わらず各地で発生している。
最近では,暴力団が運営していた絵画レンタル詐欺商法にクレジット会社が与信していたという事件まで発生するに至った。
経済産業省(旧通産省)は,このようなクレジット被害を防止するため,クレジット会社に対して,加盟店管理を徹底するよう求める通達・指導を再三出してきたが,前述のようにクレジット被害は依然多発しており,その効果が上がっていないのが現状である。
このような悪質商法にクレジット会社が与信することで,クレジット会社が悪質商法を助長しているとみられるような事件が後を絶たない。その主な原因は,現行制度上,クレジット会社には悪質商法を行う販売店への与信を打ち切る積極的な動機が働かないことにある。すなわち,割賦販売法30条の4は,未払金債務については支払い拒絶の抗弁を認めるが,既払金については返還義務を課していないため,クレジット会社は販売店の悪質商法を察知しても,加盟店契約を維持したまま立替金の回収を続けることで損失を回避できる。したがって,与信を減らしはしても加盟店契約を直ちに打ち切ることをしないため,その後も消費者が被害に遭うのである。
このような不適正な与信によるクレジット被害を防止するためには,クレジット会社に既払金返還を義務付け,「悪質商法への与信は損失を伴う」という効果を与えることにより与信の打ち切りを促す制度が必要である。
過剰与信の防止においても,信用調査を徹底することを義務付け,過剰与信防止義務の違反には行政罰にとどまらず一定の請求権制限となる民事ルールを設けるなど,実効性を持つ制度が必要である。
このような法整備をすることによって,消費者が安心して利用できるクレジット制度を構築し,クレジット社会の健全な発展を図ることができるものと確信する。
これらを踏まえ,私たちは,次のとおり決議する。
1.クレジット被害の根絶・消費者が保護される安全なクレジット社会の構築に向けて,一致団結して努力していく。
2.その方策として,国に対し,クレジット会社と販売店の共同責任(既払金返還を含む)規定を新設することを求める。
3.また,国に対し,過剰与信を禁止し,これに違反した場合には,クレジット会社の請求権の一部ないし全部を制限する民事的効果を定めた規定を設けることを求める。
平成19年6月9日
九州弁護士会連合会
福岡県弁護士会
クレジットシンポジウム参加者一同
2007年6月22日
犯罪被害者刑事手続参加制度に関する法律成立に抗議する声明
声明
2007年(平成19年)6月21日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
昨日、国会において「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が成立した。この法律は、裁判員裁判対象事件や業務上過失致死傷等の事件について、裁判所に参加を申し出た被害者やその遺族に対し、公判への出席、情状に関する事項についての証人に対する尋問、被告人質問、証拠調べ終了後の求刑を含む弁論としての意見陳述を認める制度であるが、当会は、本年3月8日及び同6月6日の二度にわたって、この創設に反対する会長声明を発した。
にもかかわらず、同法が成立したことは誠に遺憾であり、強く抗議の意を表明する。
同法に定められた犯罪被害者参加制度には、
(1)真実の発見に支障をきたす
(2)法廷を報復の場にしてしまうのみならず無罪推定の大原則を根本的にゆるがし近代刑事司法の基本構造を根底からくつがえす
(3)被告人の防御権の行使を困難にする
(4)少年の刑事事件ではさらに深刻な萎縮効果を及ぼし適正手続きに反する事態を生じる
(5)事実認定に悪影響を及ぼし裁判員制度が円滑に機能しなくなるおそれもある
などの重大な問題があり、この制度は、我国の刑事裁判に対し、看過し得ない重大な悪影響を及ぼすものである。
当会は、今後、政府及び国会におかれて、以上のような同法の重大な問題点を徹底的に究明され、裁判員裁判が実施される前に同法の抜本的な改正がなされることを強く求めるものである。