福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2007年5月14日
憲法改正手続法の成立についての声明
声明
2007年5月14日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
本日、参議院において、「日本国憲法の改正手続に関する法律案」が可決され、成立した。本年4月13日の衆議院可決からわずか1か月という早期の成立であり、参議院において慎重な審議がなされたとは言えない。
国民投票法案に対し、当会は、2006年12月には意見書を、2007年3月と同年4月には声明を発表し、同法案には下記のような多くの問題点が含まれていることを指摘して慎重な審議を求めてきた。
他方で、5月7日にはここ福岡において地方公聴会が実施されたが、一般の国民が公述人に応募したり自由に傍聴できるものではなく、当該公聴会が広く主権者たる国民の意見を反映する機会となったとは言い難い。また、当該公聴会における公述人の発言から、未だ、同法の内容について国民の理解が進んでいるとは言えないことも明らかになったところである。
本日成立した国民投票法は、?罰則は削除したものの、主権者である公務員や教育者の地位利用による国民投票運動を禁止しており、制約しなくてもよい主権者としての意見表明の自由を広範に制約していること、?憲法改正案の広報を行う国民投票広報協議会の構成が、所属議員の比率によって選任されるため、国民に対して反対意見が公正かつ十分に広報されないおそれが強いこと、?国会の発議から国民投票までの期間がわずか60日ないし180日とされているため、重要な争点について国民がじっくり考えて意見を持つ時間が保障されていないこと、?過半数の賛成の対象が全有権者となっておらず、また最低投票率の定めすらないことなど、主権者である国民の「承認」を得るという点では重大な問題を残している。このことは、参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会において、18項にも上る附帯決議がなされ、今後も検討することとされたことからも明らかである。
当会としては、同法が、内容に多くの問題を残し、国民の理解も進まないまま、慎重な審議を欠いて成立したことにつき、遺憾の意を表明するものであり、併せて、国会に対し、この3年の間に、付帯決議がなされた事項にとどまらず、国民投票に国民の意思を反映することができるように、同法を抜本的に見直すことを強く要望するものである。
以上
2007年5月16日
少年法等「改正」法案に反対する会長声明
声明
本年4月19日,衆議院において,少年法「改正」法案(与党修正案)が可決され,現在,参議院において,審議が進められている。与党修正前の少年法「改正」法案に対して,当会は,平成17年以来,2度にわたって会長声明を発表し,少年法「改正」法案に反対したところであるが,以下の1から3までに記載のとおり重大な問題があり,あらためて,この「改正」法案(与党修正案)に対して反対するものである。
1 おおむね12歳以上という下限を示しながらも,14歳未満の低年齢非行少年の少年院送致を可能にするという厳罰化を定めていること
そもそも,少年院は,一定の人格形成がなされていることを前提とし,主として集団的で,かつ,「厳しい規律」を前提とした矯正教育を行う施設である。ところが,14歳未満の低年齢の少年が非行を起こす場合の多くは,心身の発達状況や家庭における生育歴などに問題を抱えている場合が多く,とりわけ,重大な事件を犯すに至った低年齢の少年ほど,被虐待体験を含む複雑な生育歴を有し,このため,人格形成が未熟で,規範を理解し受け容れる土壌が育っていないことが多い。このような低年齢の触法少年に対しては,それぞれの少年が抱える問題に応じた個別の福祉的,教育的対応が可能な児童自立支援施設における処遇が適切である。
少年院送致の年齢の引き下げよりも,児童自立支援施設の一層の専門性強化とこれに要する人的物的資源の充実が求められるところである。
2 触法少年に対する警察官の調査権限を付与していること
そもそも現行法上,触法少年の行為は犯罪ではなく,警察官による調査になじむものではない。
触法少年の特徴は先に指摘したとおりであり,そうした少年に対する調査は,福祉的,教育的な観点から,児童福祉の専門機関である児童相談所のソーシャルワーカーや心理相談員を中心として進め,その実態に迫っていくとともに,適切なケアを図っていくべきである。
3 保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する少年院収容処分を導入していること 現行法においても,保護観察中の遵守事項違反に対しては「ぐ犯通告」制度が存在し,現行の保護観察制度は相応に機能している。
ところが,本法案は,「少年院送致」を威嚇の手段として遵守事項を守るよう少年に求めるものであり,そうした環境では,真実の信頼関係は育たず,かつ,保護観察制度の実質的な変容を迫るものである。
むしろ,保護観察官の増員や適切な保護司の確保といった現行の保護観察制度の充実をはかるべきである。
4 なお,本法案は,ごく限定的ではあるが,従前の検察官関与とは切り離して国選付添人制度を導入し,少年が釈放されたときにも国選付添人選任の効力が失われなくなったとの修正が入ったことは評価できる。 これは,当会が全国の弁護士会に先駆けて実践してきた身柄事件全件付添人活動が,ここ数年,全国に波及していく中で,これらの実績に基づいて有用性が証明され,国としてもその成果に配慮したことによるものであると確信する。その意味で,国選付添人制度の導入は,我々のこれまでの活動が実を結び,将来の全面的な国費による付添人制度への橋渡しになりうるものとして一定の評価をする。
我々は,さらに,全面的な国選付添人制度の実現を強く求めるとともに,今後とも,少年付添人活動の一層の充実に努めていく決意である。
2007(平成19)年5月16日
福岡県弁護士会 会長 福島 康夫