福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2007年4月17日
国民投票法案の衆議院採決に対し反省を求め、参議院における慎重審議を求める声明
声明
2007年(平成19年)4月17日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
本日、衆議院において、「日本国憲法の改正手続きに関する法律案」(いわゆる国民投票法案)が可決された。この採決は、拙速になされたものであると言わざるを得ない。
当会は、2006年12月6日には国民投票法案に関する意見書を、2007年3月20日には国民投票法案の慎重審議を強く求める声明を発表し、国民投票法案には多くの問題点が含まれていることを指摘して慎重な審議を求めてきた。
そのような当会の指摘にもかかわらず、本日可決された法案は、?罰則は削除したものの、主権者である公務員や教育者の地位利用による国民投票運動を禁止しており、制約しなくてもよい主権者としての意見表明の自由を広範に制圧していること、?憲法改正案の広報を行う国民投票広報協議会の構成が、所属議員の比率によって選任されるため、国民に対して反対意見が公正かつ十分に広報されないおそれが強いこと、?国会の発議から国民投票までの期間がわずか60日ないし180日とされているため、重要な争点について国民がじっくり考えて意見を持つ時間が保障されていないこと、?過半数の賛成の対象が全有権者となっておらず、また最低投票率の定めすらないことなど、主権者である国民の「承認」を得るという点では重大な欠陥を残している。
また、公聴会が東京、大阪、新潟の3箇所においてしか実施されなかったことも遺憾である。ここ福岡を含む、より多くの地方において公聴会が実施されるべきであったのであり、わずか3箇所のみでは国民の意見が充分に反映されたとは言えない。
参議院においては、衆議院の轍を踏むことなく、少なくとも、憲法改正という国家の最重要課題について、主権者の意思を反映させるという国民投票制度の本来の目的・趣旨を十分に生かすよう、広く主権者たる国民の声に耳を傾けたうえで、そもそも、いま法制定の必要性が果たしてあるのかどうかも含め、慎重に審議されることを強く求めるものである。
2007年4月27日
長崎市長に対する殺害事件について厳重抗議する会長声明
声明
2007(平成19)年4月25日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
1 今月17日,JR長崎駅前で,伊藤一長長崎市長が,選挙期間中という重要な政治活動の最中に暴力団幹部から銃撃され殺害されるという事件が発生した。
2 報道によれば,暴力団幹部が長崎市に対して執拗な要求を行い,これを拒絶されたことに逆恨みをした挙げくの犯行とのことであるが,いかなる理由があろうとも,有無をいわさず暴力をもって政治活動を圧 殺するという行為は民主主義の根幹を揺るがす暴挙に他ならず,断じてこれを許すことはできない。
また,このような行政の長である市長に対するいわれのないテロ・暴力行為は,公正公平であるべき行政の健全性を阻害するばかりでなく,行政関係者や市民に対して恐怖感を与え社会全体をも萎縮させる危険性がある。私たちは,その卑劣さに対して強い憤りを覚えるものである。
3 福岡県弁護士会会員一同は,基本的人権を擁護し社会正義の実現を図る弁護士の使命に照らし,民主主義社会に対する否定行為であるテロ・暴力を一切否定する。私たちは,市民や関係機関と団結して,暴力の追放と根絶のために最大の決意をもって臨むことを表明するものである。
核兵器の廃絶と平和を世界に訴えてきた伊藤市長が志半ばにして凶弾に倒れられたことを深く悲しみ,衷心から哀悼の意を表する。
死刑執行に関する会長声明
声明
2007(平成19年)年4月27日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
1 本年4月27日、福岡拘置所の死刑囚を含む3名に対する死刑が執行された。
日本弁護士連合会は、2002年(平成14年)11月の「死刑制度問題に関する提言」及び2004年(平成16年)10月の人権擁護大会決議に基づき、法務大臣あてに死刑執行停止に関する要請をしている。
当会でも、九州弁護士会連合会と共に、2004年(平成16年)9月4日、「アジアにおける死刑―死刑廃止の胎動」と題して日弁連人権擁護大会に向けたプレシンポジウムを開催し、隣国の韓国及び台湾(中華民国)が死刑廃止立法に向けた確かな歩みをしている事例を紹介し、日本においても死刑廃止を含めた死刑制度の国民的議論の必要性を喚起してきた。
2 わが国での死刑執行は、1989年(平成元年)11月から1993年(平成5年)3月まで3年以上にわたって控えられていた。
ところが、その後死刑執行が再開され、今回の執行を含め13年9ヶ月の間に、その被執行者数の累計は54名にも及ぶ。
しかし、わが国では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっている。
そもそも、国際的には、1989年(平成元年)に国連総会において採択された死刑廃止条約が、1991年(平成3年)7月に発効して以来、死刑廃止が国際的な潮流となっている。その中で、1993年(平成5年)11月4日及び1998年(平成10年)11月5日の2回にわたり、国連規約人権委員会は、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
国内的にも、1993年(平成5年)9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見では、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされている。それにもかかわらず、その後十分な議論が尽くされないまま死刑執行が繰り返されてきた。
3 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえて、当会は、これまで、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件処理を通じて、死刑制度の存廃を含めた問題に積極的に取組んできた。
そこで、当会は、これまで、しばしば、当会会長声明において、死刑執行に対して極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望を重ねてきた。
4 にもかかわらず、死刑制度存廃につき国民的議論が尽くされないまま、死刑の執行が繰り返されてきたのはまことに遺憾である。
当会は、今回の死刑執行に関して、法務大臣に対し、極めて遺憾であるとの抗議の意を表明するとともに、更なる死刑の執行を停止するよう強く要請する。