福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2007年3月20日
国民投票法案の慎重審議を強く求める会長声明
声明
2007年3月20日
福岡県弁護士会 会長 羽田野 節夫
現在、国会では、本年1月25日に上程された「日本国憲法の改正手続きに関する法律案」(いわゆる国民投票法案)が審議されている。
本年5月3日の憲法記念日までに法案を成立させるという安倍首相の決意に合わせて、与党は強行採決も辞さないと報道されている。
しかしながら、この国民投票法案は、決して単なる手続法案に過ぎないものではなく、今後の国のあり方を決める重要な意義を有するものであるところ、これまでの国会論議においても、当会が指摘した問題点の多くは未解決のままである。
そもそも国民投票は、国民主権の原則にもとづき、最高法規である憲法の改正について、主権者である国民の意思を反映させる手続きである。したがって、国民が自由に自己の意見を述べ、また、他者の多様な意見に触れるなかで、自己の意見をじっくり形成するという主権者の自由な意見形成過程の確保とその正確な反映がもっとも重要である。
ところが、与党の修正案では、?罰則は削除したものの、公務員や教育者の地位利用による国民投票運動を禁止しており、主権者としての意見表明の自由を広範に制約していること、?憲法改正案の広報を行う国民投票広報協議会の構成が、所属議員の比率によって選任されるため、国民に対して反対意見が公正かつ十分に広報されないおそれが強いこと、?国会の発議から国民投票までの期間がわずか60日ないし180日とされているため、重要な争点について国民がじっくり考えて意見を形成する時間が保障されていないこと、?過半数の賛成の対象が全有権者となっておらず、また最低投票率の定めすらないことから少数の賛成によって憲法改正がなされるおそれがあることなど、重大な欠陥がある。
そもそも現在の国会とりわけ衆議院は、主として「郵政民営化」を争点として選出された国会であって、憲法改正に関する国民投票法案を争点として選挙されたものではない。このような重要な法案は、これを争点として選出された新たな国会で審議がなされるべきである。
したがって、国民投票法案が、与党の思惑どおり十分な審議なしに強行採決されるとすれば、それは、将来なされるであろう憲法改正それ自体が、国民に十分な議論を保障せず、不十分な広報のもと、短期間のうちに成立させられる危険を示すものである。
少なくとも、憲法改正という国家の最重要課題について、主権者の意思を反映させるという国民投票制度の本来の目的・趣旨を十分に生かすよう、広く主権者たる国民の声に耳を傾けたうえで、いま法制定の必要性が果たしてあるのかどうかも含め、国会において慎重に審議されることを強く求めるものである。