福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2006年12月27日

死刑執行に関する会長声明

声明

1 本年12月25日、東京拘置所において2名、大阪拘置所及び広島拘置所においてそれぞれ1名の合計4名に対し死刑が執行された。
日本弁護士連合会は、2002年11月理事会で採択した「死刑制度問題に関する提言」及び2004年10月の人権擁護大会決議に基づき、本年6月15日、杉浦法務大臣あてに死刑執行停止に関する要請をし、これに呼応して当会においても、本年7月12日に死刑執行の停止を求める会長声明を発した。さらに、臨時国会が閉会し、これまでの経験上、死刑執行の可能性が高まるとして、本年12月13日に日弁連が死刑執行の停止について長勢甚遠法務大臣に対する要請をした。ところが,今回の死刑執行は、これらの要請を無視してなされたものである。

2 わが国での死刑執行は、1989年11月から1993年3月まで3年以上にわたって控えられていた。
ところが、その後死刑執行が再開され、今回の執行を含め13年9ヶ月の間に、その被執行者数の累計は51名にも及ぶ。
しかし、わが国では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっている。
 そもそも、国際的には、1989年に国連総会において採択された死刑廃止条約が、1991年7月に発効しており、2006年11月21日現在、死刑存置国68カ国に対して死刑廃止国は129カ国(法律で廃止している国と過去10年以上執行していない事実上の廃止国を含む。)に及び、死刑廃止が国際的な潮流となっている。その中で、1993年11月4日及び1998年11月5日の2回にわたり、国連規約人権委員会は、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
 国内的にも、1993年9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見にて、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされているにもかかわらず、その後十分な議論が尽くされないまま死刑執行が繰り返されてきた。

3 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえ、とりわけ、現に死刑確定者が収容されている死刑執行施設を備えた福岡拘置所がある当地において、当会は、これまでに、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件を受理し、同事件処理をとおして、死刑制度の存廃を含めた問題に取り組む必要性を痛感し、より積極的な取組みをするべきであると考えてきた。
 ゆえに、当会は、これまで、数回にわたり、当会会長声明において、死刑執行に対して極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望を重ねてきた。
 また、当会は、九州弁護士会連合会と共に、2004年9月4日、「アジアにおける死刑―死刑廃止の胎動」と題して日弁連人権擁護大会に向けたプレシンポジウムを開催し、隣国の韓国及び台湾(中華民国)が死刑廃止立法に向けた確かな歩みをしている事例を紹介し、日本においても死刑廃止を含めた死刑制度の国民的議論の必要性を喚起した。

4 しかしながら、死刑制度存廃につき国民的議論が尽くされないまま、死刑の執行が繰り返されてきたのはまことに遺憾である。しかも、今回の執行は、これまで国会閉会直後や国政選挙直前あるいは年末など、国会による議論を避け、国民の関心が他に向けられやすい日程で死刑の執行が行われているとの批判を一顧だにしないものであり,その点でも大きな問題があるのといわなければならない。
そこで、当会は、今回の死刑執行に関して、法務大臣に対し、極めて遺憾であるとの抗議の意を表明するとともに、更なる死刑の執行を停止するよう強く要請する。

以上

      2006年12月27日

     福 岡 県 弁 護 士 会
      会長 羽 田 野  節 夫

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