福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2006年11月16日

NHKに対する国際放送命令に反対する会長声明

声明

2006年(平成18年)11月15日

福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫


菅義偉総務大臣は,今月10日,日本放送協会(以下「NHK」という。)に対して,放送法33条に基づいて,短波ラジオ国際放送で,北朝鮮による拉致問題を重点的に取り扱うことを命じた。
従前,NHKに対して放送事項等を指定して国際放送を命じることができる旨の放送法33条の規定に基づき,総務大臣によって,「時事」,「国の重要な施策」及び「国際問題に関する政府の見解」という3点の抽象的な事項を対象とした放送命令がなされてきた例があるが,この度の放送命令は,上記のとおり個別具体的な施策を特定して放送を命じたものである。
そもそも,放送命令制度は,国による放送に対する直接の介入という性格を有するものであるから,この制度自体が,NHKの放送の自由(同法1条),番組編集の自由(同法3条)などの基本原則を侵害し,ひいては憲法が保障する表現・報道の自由(21条)の根本原則をも侵害する問題性を孕むものであるところ,この度の個別具体的事項を特定した放送命令は,この問題性を顕在化させたものであり,その違憲性は看過できない。
そして,今回の事態は,国によるメディアへの介入という側面を持つものであることから,決してNHKだけの問題として矮小化することはできない。
よって当会は関係各機関に対して,以下の事項を求める。

1 総務大臣は,今回の放送命令を撤回すること。
2 政府及び国会は,放送法33条を,憲法が保障する表現・報道の自由を侵害しないように改正する検討を開始すること。

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教育基本法改正に反対する会長声明

声明

2006年11月15日

福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫  

1 教育基本法の改正法案が臨時国会で審議されており,政府は改正案成立を強く企図していると伝えられている。
同法は,日本国憲法と同時期に憲法の理念を実現し,教育の中立性を守るために制定されたものであって,名宛人を国家又は公権力とする点で準憲法的な性格を有し,国際条約との間の整合性を確保する必要性も高い。従って,その改正の要否を含め,慎重な調査と広く国民の議論を経たうえで審議を行うべきである。しかし,これまで国民に向けて開かれた議論が行われたとはいいがたい。
例えば,先般,教育改革タウンミーティングにおいて,政府が同法改正への賛成発言を出席者に依頼していたことが発覚した。これは政府みずからが,教育基本法改正について国民に向けて開かれた議論の場を設けてこなかった証左というほかない。

2 もとより,現在多発するいじめや少年の自殺,不登校など現在の教育が抱える深刻な問題を改善するために現行法が支障となるのであれば,早急な見直しが必要であろう。しかし,政府の国会答弁でも,これらの問題点が現行法に起因するものでないことは,明確に述べられているところである。
そして,当会は,これまでも市民集会やシンポジウムを開催し,さらに,11月10日には150名を越える参加者による市民集会を開催するなど,広く市民に呼びかけて教育基本法改正を議論する場を設けてきた。そうした中で,戦前の教育への国家介入がもたらした惨禍を防ぐために,個人の尊厳を重んじ,真理と平和を愛する人間の育成を根本原則と定めた現行教育基本法が果たして来た役割を再認識し,同法の理念を今後も堅持することを,多くの市民が望んでいることも判明しているところである。

3 さらに,政府の改正案においては,公権力の教育への不介入を定めた現行法10条の改正によって,政党政治の下で多数決によってなされる意思決定に基づく教育が正当化され,教育の自主性・自律性が損なわれかねない。しかも,改正案2条に教育の目標として「徳目」を掲げることにより,子ども達に一方的な価値感が植え付けられ,憲法で保障された思想良心の自由がないがしろにされる恐れもある。
そもそも,「新しい時代に即した教育理念を教育基本法に盛り込まなければならない」との政府の改正目的については,必ずしも国民全体が納得して共有しているとはいえないばかりか,仮にこうした理念を教育基本法に盛り込むのであれば,いっそうの開かれた国民的議論が不可欠である。

4 このように,将来の教育のあり方を定める根本原則を改正するにあたり,未だ十分な調査や議論がなされたとは言い得ない状況にあり,かつ政府の改正案は教育の中立性を損なう重大な問題があると言わざるを得ない。
そこで,当会は,改めて,衆参両院に「教育基本法調査会」を設置し,教育基本法改正の要否を含めた十分かつ慎重な調査と議論を行うことを求めるとともに,政府案に基づく教育基本法の改正には,強く反対の意思を表明するものである。
                                 以    上

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