福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2006年5月30日

福岡県弁護士会役員就任披露宴ごあいさつ

会長日記

2006年(平成18年)5月24日

福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫

1.(序) 只今御紹介に預かりました、福岡県弁護士会会長の羽田野節夫です。
  本日は、皆様には、公私共に御多用の中を、福岡高等裁判所長官龍岡資(すけ)晃(あき)様や福岡高等検察庁検事長佐(さ)渡(ど)賢(けん)一(いち)様、福岡市長山崎広太郎様を初めとして、福岡県弁護士会と関係の深い、各界各層の方々に御出席を賜わり、誠にありがとう存じます。
 本日は、当会の過去の活動を検証し、更に今後の活動を皆様に御紹介し、御理解を願って、皆様から忌憚のない御意見や、御忠告を戴く場として、本日のような宴を催す次第です。皆様におかれましては、当会の役員に対しては元より当会の若い会員に対して苦言、提言又は暖かい励ましのお言葉をかけて下されば幸いでございます。

2.福岡県弁護士会の構成員と
 弁護士会の組織について若干御紹介します。弁護士会は、強制加入団体であって、どのような政治信条を有するかにかかわらず、どこかの単位会に所属すべきこととされています。
  福岡県弁護士会は、伝統的に4つの部会制をとっており、4つの部会は、純粋に独立対等の関係でございます。
  各々の部会と構成員数は、前方の画面に表示されたとおりです。
 また、九州ブロックには8県・8単位会が存在し、九州弁護士会連合会を組織し、九州内の共通の問題を協議しています。
  日本全国には52単位会があり、個々の弁護士と全国の単位会とを構成員とする日本弁護士連合会(所謂、日弁連)という組織を作っています。
(1) 弁護士の自治
 各弁護士会は、自治権があり、所属する個々の弁護士を監督し、更に日弁連が監督する関係にあります。しかし個々の弁護士の日常業務を弁護士会が監督する立場にはありません。個々の弁護士の不祥事に対し、弁護士会が懲戒権を発動し、当該弁護士を懲戒処分することによって、自浄作用を発揮します。
  この弁護士自治制度は、司法権の独立のための制度的保障であり、市民にとっても重要かつ重大な制度です。もし、弁護士や弁護士会が特定の国家機関の統制下にあるとするならば、市民の為に弁護活動をする弁護士に対して個別の圧力が容易に加わり、司法作用がいびつとなり、司法の独立が保てません。
(2) 弁護士の警察に対する依頼者密告制度法案反対特別決議
   本日の定期総会におきまして、皆様のお手元に配布しました「弁護士による警察等に対する依頼者密告制度」(ゲートキーパー問題)法案反対特別決議」がなされました。この制度は、依頼者との話の中で疑わしい取引があれば密告しなさいというものです。これは、弁護士と依頼者との信頼関係を根底からくつがえさせる、とんでもない法案です。いかにテロ予防対策とはいえ、テロの被害国アメリカやその隣国カナダも真っ向からこの法案に反対しています。当会が、政府が作ろうとしている法案に対して堂々として反対意見を申し上げることができるのも、弁護士自治制度があるからです。
 本日御列席の皆様も、弁護士の自治を守ることがゆくゆくは市民の基本的人権を守り、社会正義の実現につながること、そして弁護士自治制度は、市民の権利を守るために必要不可欠な制度であることを御理解下さいますようにお願いします。

3.福岡県弁護士会の特徴
(1) 当会は、熱心な会員による委員会活動を中心として、弁護士会の会務活動が実践されています。
(2) 各種当番弁護士制度の発足と関係機関の連携
  当会は、全国に先駆けて、平成2年当番弁護士制度を創設し、逮捕直後から、弁護士が被疑者のところに駆けつけ、被疑者の権利擁護に努めてきました。その後、全国に広がった当番弁護士制度は、16年の歳月を経て、ようやく今年の10月より、重大事件という限定的ながら、被疑者弁護人国選制度を実らせました。
(3) 当会は、その後も各種委員会が活発な活動をつづけ、常に日弁連をリードしてきました。全国に先駆けて、?刑事の当番弁護士制度のみならず、?精神保健付添当番弁護士制度、?福祉の当番弁護士制度、?少年事件全件当番付添人制度の各々の導入を実現しました。又、当会は、国際委員会による国際交流も盛んです。すでに15年前より始まった韓国釜山地方弁護士会との交流、そして中国大連市の法律家との国際交流も継続されています。私は、このような活発な委員会活動を展開してきた当会の先達の精神に学び、そして、福祉の当番弁護士などの活動を通じて培われた、行政、医療、福祉施設等々の関係機関との連携を大切にして、更に新たな視点で、市民のための司法改革を実践したいと考えています。

4.司法改革と当会の実践目標について述べます。
 平成2年の日弁連・司法改革宣言に始まった市民のための司法改革は、いよいよ実践段階に差し掛かっています。ここで、司法改革の主要課題と当会の実践目標について御紹介します。
(1) 法科大学院と法化社会
(2) 日本司法支援センターの発足
  今年4月から、独立行政法人「日本司法支援センター」が発足しました。10月からは、その業務が開始され、短期1年以上に該当する重大事件のみ、逮捕後勾留されたときから、被疑者に対し国選弁護人を選任します。この弁護人の選任作業を司法支援センターが担当し、弁護活動そのものは、各単位会の弁護士が担当します。
(3) 裁判員制度と法教育
  司法改革の主要課題の一つである裁判員制度は、今から3年後の平成21年5月までに実施されます。憲法が国民主権を謳いながらも、市民が司法の分野に直接関わることはありませんでした。そこで、市民が裁判に直接参加することによって市民の感覚を裁判に反映させようとして実施されるのが裁判員制度です。
  今から3年後に実施が予定されていながら果たしてどれだけの市民がその仕組みを知っているのでしょうか?
  今後、当会は、種々の機会を利用して、法曹三者一体となって、市民に対し、広報活動を展開する所存です。
  去る5月3日のどんたくに際しては、検察庁、弁護士有志や市民やく200人が、裁判員制度の広報宣伝のために、パレードに参加しました。
  又、学校教育現場において、法律の背景にある基本的な価値観(正義や公平)や社会のルールを認識理解させ、そのような価値観に基づき問題を解決する能力を育成する「法教育」が必要です。当会は、中学・高校の社会の授業において、「法教育」を学んで貰うため、講師派遣出前授業を展開しています。これによって、中高生が将来の裁判員制度の担い手として成長して下されば幸いです。
(4) 高齢者・障害者支援センター(あいゆう)の法人化と福祉の当番弁護士の全国展開
  平成12年4月から高齢者の介護保険制度と成年後見制度が導入されると同時に、当会は高齢者・障害者支援センター(あいゆう)を設立しました。
  今や「あいゆう」の活動は、平成12年9月から実施された福祉の当番弁護士制度と相まって、行政や医療機関、施設関係者に絶大なる信頼と支持を獲ち得たと自負しています。
  当会は、現在「あいゆう」の法人化を検討しています。
  併せて、福祉の当番弁護士制度を刑事の当番弁護士同様、全九州並びに全国に展開したいと考えています。
(5) 弁護士過疎地対策と法律相談センターの拡充
  司法改革の重要課題のもう一つに、弁護士過疎地対策があります。我が県内にも弁護士が存在しない地域があります。
  私は、弁護士過疎地対策の一つは、法律相談センターの拡充ではないかと考えています。当会の法律相談センターは、昭和60年4月に発足し、現在の天神の法律相談センターを開設して20周年を迎えます。
  現在では、福岡県内に法律相談センターが19ヶ所存在します。法律相談センターの数としては、東京の弁護士会に劣らず全国第1位です。当会は、福岡県民のために、「いつでも、どこでも、誰でも」容易に司法にアクセスできる体制を作っていきたいと思います。

5.行動の基本指針
  ところで、昨今の商道徳や、行為規範を逸脱した幾多の社会現象(例えば、耐震偽造問題、ライブドアの粉飾決算、公共工事の談合、架空請求、オレオレ詐欺等の事件)は、一体何が原因なのでしょうか?
企業は、その活動に際して、所謂、社是、綱領といったその会社の行動の基本指針があったはずです。それが、規制緩和というお題目の下で、従来のタガがはずれた感が否めないのが、作今の情勢です。国家行動の基本指針は、所謂、国是といわれ、日本国憲法がそれに該当します。今、基本的人権の尊重と恒久平和を目標とする日本国憲法が改正されようとしています。国家の綱領ともいうべき憲法の改正については、慎重にあるべきだと考えます。国家のタガとも言うべき、憲法を軽々しく緩めるべきではありません。
 先日、ある明治時代創業の某商事会社にあいさつに伺ったところ、九州支社長室には、会社の綱領が掲げてありました。
?所期奉公  ?処事光明  ?立業貿易
という三つの言葉です。企業活動は営利を目的とするのは、当然です。しかし、企業活動の基本は、公に奉仕するという精神が大切であるとその会社は昔から考えてきたのです。明治時代に創業者が考えたこの会社の行動の基本指針は、今も普遍の光を放って輝いています。

6.座右の銘
 我々弁護士の行動の指針は、弁護士法1条の「基本的人権の擁護と社会正義の実現」であることは言うまでもありません。
 さて、私が個人的に行動の指針又は座右の銘としているものは、「積誠動人」という言葉です。私の修猷館高等学校時代の恩師小柳陽太郎先生から戴いた言葉です。これは、『誠を積んで人を動かす』とよみます。孟子の言葉、「至誠人をも動かす」と同じ意味です。金を積んで人を動かす方もおられますが、最後に人の心を動かすものは、誠心、誠意であると確信しています。私は、今後これらの言葉を行動の指針としつつ、皆様を始めとする関係者各位と連携しながら、福岡の県民、市民のために真に役立つ弁護士会活動を展開して参りたいと思います。どうか、本日御列席の皆様には、当会の活動をよく御理解のうえで、御支援、御協力を下さいますようにお願いいたします。

 終わりに、本日は、粗酒粗肴ではありますが、本日の宴が、お互いの交流の契機となり、実り多いものになりますように祈念申し上げて、ごあいさつとさせて戴きます。
 本日はどうもありがとうございます。
                                               以上

(於ホテルオークラ福岡)

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