福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2006年4月10日
未決拘禁法案の廃案を求める会長声明
声明
2006(平成18)年4月10日
福岡県弁護士会 会長 羽田野 節夫
本年3月13日,「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案」(いわゆる未決拘禁法案)が国会に提出された。
しかし,同法案には,代用監獄を存続させていること,未決拘禁者の処遇原則として「無罪推定を受ける者にふさわしい処遇」を規定していないこと,未決拘禁者と弁護人との接見や外部交通に不要な制限があること等,多くの問題がある。とりわけ,代用監獄を存続させながら,その廃止の方向性を明示していないことはきわめて重大な問題であると言わざるを得ない。
捜査と拘禁の分離は国際人権法の求めるところであり,勾留中の被疑者・被告人は,捜査機関とは分離された拘置所に拘禁されなければならない。ところが,我が国においては,拘置所の代用として警察の留置場への拘禁が長期間許されてきた。このため警察の留置場は代用監獄と呼ばれ,いまや勾留中の被疑者の98%が代用監獄に留置されている。
代用監獄には,警察の意に沿う被疑者には便宜を与え,否認している被疑者にはいつ食事にありつけるかわからない,いつ房に戻って眠れるか分からないと不安にさせる等,捜査当局が,劣悪な環境の下での身体的拘束・収容を自白強要の手段として利用する実態がある。代用監獄が虚偽自白と誤判を生み出す温床となっていることは,これまでの数多くの冤罪によっても明らかである。死刑再審無罪事件においても,すべて代用監獄において虚偽自白が強制的にとられたことが誤判の最大の原因となっている。本年3月31日に当会が主催した「代用監獄の廃止を求める市民集会」においても,無罪を主張していた被疑者が,代用監獄での長期間におよぶ拘禁期間中に,劣悪な環境の下で,連日10時間以上におよぶ取り調べを受け続け,捜査官より自白を強要された複数の事例が報告された。
このような弊害があるため,代用監獄は,国連の規約人権委員会が2度にわたり廃止に向けた勧告を行う等,国内外から厳しく批判されてきた。
しかるに,同法案は,警察内部での拘禁部門と捜査部門の分離を定めるだけにとどまり,代用監獄はそのまま存続させ,その廃止・漸減への道筋すら展望していない。警察内部において拘禁部門と捜査部門を分離しても,警察が被疑者の拘禁を執行,管理することに変わりはない。そのような方法で捜査のための拘禁の利用という代用監獄の弊害を解消することができないことは,警察庁が捜査部門と留置部門を分離したとする1980年代以降も,代用監獄での自白強要事例が後を絶たないことからして明らかである。
したがって,同法案が代用監獄をそのまま温存させ,その将来的な廃止すら展望していないことに対しては,厳しく批判せざるを得ない。
以上より,当会は,同法案には強く反対し,同法案についは廃案とした上で抜本的な見直しをするよう求めるものである。