福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2005年10月21日

『15年目の釜山訪問』

会長日記

福岡県弁護士会 会長 川副正敏

 七月一七日から一九日までの三日間、恒例の釜山地方弁護士会訪問をしました。
 一九九〇(平成二)年の姉妹提携開始以来一五年が過ぎ、この間の交流の積み重ねによって、普段着の付き合いをすることができるようになりました。ただ、今年は「日韓友好の年」であることや釜山側会長の意気込みもあって、大変な歓待を受けました。
 今回の訪問で印象に残ったのは、外見的には、街の様子がこの数年間で大きく変容し、真新しい白亜の裁判所・検察庁の各庁舎、弁護士会館を含め、高層ビルが林立していて、良くも悪しくもグローバル・スタンダードな都市空間になっていることでした。美しい浜辺のリゾート地・海雲台にも、二、三〇階建のホテルやマンションが建ち並び、夜は花火大会と見まがうような原色のネオンの海となって、人工の美しさを誇示しているようでした。
 内容面では、表敬訪問をした検事正の口から、「被疑者の人権保障」、「捜査過程の透明化、民主化」という言葉が繰り返し出たことです。「日本では、捜査官と被疑者の人間的信頼関係を通じてこそ被疑者は真実を話すから、被疑者取調べの録音・録画化は自白を導くのを阻害するといった捜査側の意見があるが、どう思われるか」との私の質問に対し、検事正は苦笑しながら、「私たちはそうは考えない。自白獲得目的の取調べであってはならない」と自信に満ちて言われました。\n 他方、地元新聞社のインタビューでは、記者側から、「取調べの録音・録画化が捜査段階での供述の証拠能力を補完する役割を果たし、公判を有名無実化して、むしろ被疑者・被告人の人権保障に逆行しかねないのではないか」との危惧が指摘されて、私の意見を求められました。\n 可視化が現実化するにつれて、各方面で本質に迫った活発な議論が交わされている実情を管見する思いでした。
 いずれにしても、伝聞法則のあり方など、日本とは制度面での色々な違いがあるため、一概に比較することはできないものの、弁護士会はもちろんのこと、マスコミ、さらには官の立場にある人々も、国際的人権水準に近づき、達成しようとの熱い思いがみなぎっていることを肌で感じました。
 この原稿が月報に掲載されるころには、釜山側が来福する日程も確定していると思います。今回先方から受けた歓迎に少しでも応えるためにも、多くの会員が関連行事に参加されるようお願いいたします。
 公式行事での私の挨拶の一部を以下に記して、今回の訪問に臨んだ思いの一端をお伝えします。
 「今年三月二〇日に福岡を襲った地震に際し、ファン・イク会長から心温まるお見舞いと激励のお言葉をいただきました。本当にありがとうございました。
 さて、私が初めて釜山市を訪問したのは一九九〇年三月一日、サム・イル・ヂョル(三・一独立運動記念日)の日でした。
 この年、釜山地方弁護士会と福岡県弁護士会は姉妹提携を開始しましたが、私もこの仕事の一端を担当したことを密かに誇りに思っております。
 当時の貴会の会長はパク・チェ・ボン先生であり、当会の会長は亡き近江福雄弁護士でした。お二人が固く握手する姿に大変感動したことを想起しています。
 それから一五年の歳月が流れ、今回釜山に到着した昨日、七月一七日は奇しくもチェ・ホン・ヂョル(成憲節。憲法制定記念日)の日です。このように、私は、一五年前も今年も、貴国のとても大切な日に訪問できたことをうれしく思っています。
 さらに、今年は貴国の独立六〇周年、日本との国交回復四〇周年に当たります。このような歴史的な年に福岡県弁護士会を代表してこの場に立つことのできる私は大変に幸運です。\n この一五年間、姉妹交流を続け、友情を深めてきた両弁護士会の歴代会長をはじめ、国際委員会の委員など、多くの会員の皆様に心から感謝いたします。そして、これからも次の一五年、三〇年に向かって、両弁護士会とそれぞれの会員の交流を一層深め、本当に身近な友人として、揺るぎない信頼関係を築いていきたいと思います。
 今、日本では、裁判員制度や捜査段階の被疑者国選弁護人制度などの刑事訴訟手続改革、法科大学院制度などの法曹養成制度改革といった司法制度全体の大きな改革が行われています。これらの改革は、市民に身近で、市民に開かれ、市民が参加する司法を目指すものです。弁護士会としても、このような基本的な考え方に立って改革を進めてきました。
 しかし、制度を作る段階から具体的な実行の段階に入ると、様々の難しい問題が出てきています。改革の時代には、夢や希望が大きければ大きいほど、それに比例して、克服しなければならない課題も多く、また大きなものになるのは避けられません。
 そのような困難に直面したとき、私は、六〇年前に福岡の地で非業の最期を遂げた貴国の偉大な詩人、ユン・ドン・ジュ(尹東柱)の詩『新しい道』の中の次の言葉を思い出して、自分を勇気づけています。
  我が道はいつも新しい道
  今日も…明日も…
  川を渡って森へ
  峠を越えて里へ」

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