福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2005年9月28日
「ゲートキーパー問題を考える・その2」
会長日記
会 長 川 副 正 敏
一 日弁連理事会の審議結果
ゲートキーパー問題に関する日弁連執行部の新行動指針について、六月一六日と一七日に開催された日弁連理事会で審議・採決が行われました。結果は、賛成六九、反対七、保留五、棄権〇の圧倒的多数で可決されました。
採択された新行動指針の要点は次のとおりです(詳細は月報六月一日号参照)。
「依頼者の疑わしい取引の報告義務制度の立法化に反対しつつも、その動向を踏まえ、会規制定を行うことも視野に入れて、次の行動指針について会内合意の形成に努めるとともに、関係機関との協議を進める。
(1) 「疑わしい取引」の範囲は、客観的に疑わしいと認められる類型に限定する。
(2) 守秘義務の範囲は、この制度によって新たに制約されることがなく、訴訟手続を前提としない法的アドバイスの提供についても守秘義務の範囲内であることを明確にする。
(3) 報告先は日弁連とし、いかなる形でも関係省庁の影響を受けないものとする。」
二 私の意見
当会選出の日弁連理事である私と近藤副会長はいずれも反対を表明しました。\n 私が理事会の席上で発言した意見の要旨は以下のとおりです。
「会員に対する刑事罰を背景とした官公庁への権力的報告義務制度の立法化が不可避の状況にある中で、日弁連執行部がこれを防ぐために、『疑わしい取引』 や守秘義務の範囲に関する第一次的判断権を日弁連とする必要があると判断し、よりましな選択として、日弁連を報告先とする自律的制度を提起されたこと自体は理解できる。
しかし、マスコミを含めた一般国民はもとより、多くの会員の間でも、この制度が守秘義務とこれに支えられた依頼者との信頼関係を基盤とする弁護士業務のあり方に根本的な変容をもたらしかねない重大な問題であるとの切迫した認識には至っていないといわざるをえない。
日弁連執行部は、本行動指針に基づいて、いわば条件闘争を行った末に、結果的に三つの条件を獲得できなかったときは再度全面的な反対運動に取り組むと言われる。しかし、このような会内外の状況下では、その段階になって改めて運動を展開するエネルギーを生み出すのは極めて困難なことではないだろうか。
遅ればせながらとはいえ、事態が切迫した状況に直面している今こそ、中長期的なたたかいをも見据えた抜本的反対運動の構築に向けた大方の会員の共通認識を醸成することがそれに劣らず重要だと考える。\n 現時点では、そのための全会的な取組みがなされたとは言えないと思う。そのような段階で条件闘争の方針を打ち出すことには賛成できない。」
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この案件について、県弁執行部は極めて重大な問題であるとの認識に立ち、日弁連からの情報提供とあわせて、Fニュースや月報で問題点のご報告と意見聴取をしてきました。また、定期総会・常議員会に諮り、関連委員会での検討もお願いしました。しかし、残念ながら当会内での議論を十分に深めるには至りませんでした。\n このような中で、執行部内で議論を重ねつつ、私自身、ぎりぎりまで判断しあぐねましたが、最終的には、右のような理由で、現段階ではこの行動指針には反対せざるをえないとの決断をした次第です。
結果的にはごく少数派でしたが、賛成を表明した理事の多くも、各単位会内では賛否の意見が拮抗しており、迷った末の判断だと述べていました。\n その意味で、今回の日弁連理事会決定は、その票差から受ける印象とは異なり、ぎりぎりの苦渋の選択であったといえます。
三 今後の展開など
日弁連執行部は、採択された新行動指針に基づき、これから法務省等との厳しい協議に臨むことになります。
そして、その結果如何によっては、今年度中にも、日弁連を宛先とする「疑わしい取引」の報告義務を定める会規制定如何が理事会・総会に付議されることになる可能性があります。その段階では、新行動指針の三条件が実質的にどこまで獲得できたか、あるいはその見込みがあるかといった点を含めた判断が迫られます。\n このように、新行動指針に基づく日弁連のこれからのたたかいは、基本的には「疑わしい取引」の報告義務制度に反対の姿勢を堅持しつつも、立法化不可避の状況下では、当面、報告義務制度の中に頭書の三条件を確保して、可能な限り毒素を取り除くことにより、弁護士業務における守秘義務と弁護士会自治を守るとともに、中長期的には制度自体の廃止を追求していくということになります。\n いずれにしても、議論を重ねたうえで組織的決定がなされた以上、全単位会・全会員が一丸となって、この方針に基づく報告義務制度の最終的な廃絶に向けた日弁連の取組みを支えていかなければなりません。
会員各位の一層のご理解とご協力をお願いします。