福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2005年8月31日

共謀罪の新設に反対する声明

声明

2005(平成17)年8月31日

福岡県弁護士会会長  川 副 正 敏

 「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するために刑法等の一部を改正する法律案」(略称「刑法・組織犯罪処罰法等改正案」。以下「本法案」という)は、先に閉会した第162回国会では廃案となったが、政府は次期国会での成立を期しているとのことである。
 しかし、福岡県弁護士会は、以下の理由により、今後も、本法案第6条の2に規定されている、いわゆる共謀罪については、その立法化に対して、強く反対する。

1 本法案における共謀罪の概要は次のとおりである。
(1) 「長期4年以上の刑を定める犯罪」に関して、「団体の活動として」、「当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者」は、2年以下の懲役又は禁固に処する。
(2) 「死刑又は無期もしくは10年以上の刑を定める犯罪」に関して、同様の遂行を共謀した者は、5年以下の懲役又は禁固に処する。
2 第一に、共謀罪は、犯罪の実行着手前の意思形成段階に過ぎない共謀それ自体を処罰の対象とするものであるが、この点は、法益侵害又はその危険性のある行為があって初めてこれを処罰するという、現行刑法の大原則である行為主義に真っ向から反している。
第二に、犯罪の合意そのものが処罰されることになり、ひいては思想、信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由などの憲法上の基本的人権が重大な脅威にさらされることは避けられないといわなければならない。すなわち、共謀罪では、会話や電話、メール等の内容自体が犯罪を構\成することになるため、その内容を察知するのに盗聴捜査が拡大され、犯罪捜査に名を借りた国家による私的生活への介入に途を開く危険性が極めて高く、その結果、思想、信条、表現の自由に対する萎縮効果が発生することは、歴史上も明らかである。\n3 また、共謀罪は、長期4年以上の刑を定める犯罪に関する共謀を処罰しようとするものであるが、その結果、共謀罪が適用される罪名に関しては、政府答弁によればその総数は615種類にのぼることが明らかになっており、道路交通法などといった市民生活の隅々に及ぶ法律に規定されたおびただしい数の行為類型に関する「共謀」が処罰対象にされることになる。
その結果、例えば、市民団体がマンションの建設に反対するために工事現場で座り込みをすることを相談しただけでも、組織的威力業務妨害罪の共謀罪が成立する可能性すら否定できないものであり、これを口実とした警察の強制捜査が行おこなわれ、住民運動や労働運動の抑圧になりかねないという事態も危惧されている。\n4  本法案に関する政府の提案理由によれば、本法案は、2000(平成12)年10月に採択された「国際的な組織犯罪防止に関する国際連合条約」(以下「国連条約」という)の国内法化を図るためのものであると説明されている。しかし、本法案の共謀罪は、「越境性」や「組織犯罪性」を要件としていない結果、いわゆる越境的組織犯罪集団とは関係のない、国内の政党、市民団体、労働組合、企業等もすべて取締りの対象にすることができるようになってしまっている点でも、明らかに不当であるといわざるを得ない。政府は、国連条約の解釈上、越境性や、組織犯罪性は要件とされるべきではないという立場にたつものであるが、そもそも、条約上は、国内法化にあたって、これらの限定を付することは、何ら妨げないものであって、むしろ、テロ犯罪防止のための立法化を進めるという観点からは、これらの限定を付することが正しいといわなければならない。
5  当会は、国際的な組織犯罪、いわゆるテロ犯罪に対して国際的な協力体制を整備することの必要性を否定するものではない。
しかし、その国内法制化に藉口して、広範な市民の人権侵害が引き起こされる可能性があり、捜査機関の権限の不当な強化が行われかねない立法を許すことは、本末転倒であって、到底、容認することはできない。\n  よって、当会はその立法化に強く反対し、政府に対し、直ちにその立法化を最終的に断念するよう求めるものである。

以 上

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