福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2005年8月17日
会 長 日 記
会長日記
会 長 川 副 正 敏
一 各種団体の総会行事
例年五、六月は、当会や日弁連だけでなく、各種団体の年次総会の季節。業際ネットワーク参加組織(司法書士会、土地家屋調査士会、公認会計士協会、税理士会、行政書士会、社会保険労務士会、弁理士会)のほか、調停協会、人権擁護委員会連合会、宅地建物取引業協会、福岡BBS会(付保護観察少年の支援団体)等々、多くの団体から来賓出席の案内が来ます。主催者の役員や他の来賓諸氏など、各界の指導的立場の方々との面談を通じて、弁護士会を大いに宣伝する機会と考え、最優先で出席するようにしています。
これらの会合では、祝辞などの公式挨拶だけでなく、司法制度改革をめぐる諸問題の中から、それぞれの団体に関連する話題を取り上げ、懇談かたがた意見交換をすることに努めてきました。
二 日弁連定期総会での討論
五月二七日、日弁連の第五六回定期総会が開催されました。この総会での重要議題は「司法改革実行宣言」(全文は日弁連総会資料として配付済)であり、圧倒的多数で可決されました。
私は、以下のような賛成討論をしました。
一七世紀のフランスのモラリスト、ラ・フォンテーヌの言葉に、「議論するだけなら議員は大勢いる。実行が問題となるとだれもいなくなる」というのがあるそうです。
それは、今私たちがとるべき態度ではないと思います。
私たちは、「市民と手を携え、分かりやすく、利用しやすい、頼りになる司法を実現する」という旗を掲げ、一九九〇年の第一次司法改革宣言から数えると一五年の歳月をかけ、内外の厳しい議論や様々の勢力との確執を繰り返しながら、戦後改革に次ぐ困難な司法改革運動を展開してきました。
その結果、昨年末までにほぼその骨格ができあがった制度の多くは、国民の参加による透明で公正な、隅々まで法の支配が貫かれる社会を築くという私たちの理念を実現する上で、もとより完全なものではないにせよ、少なくとも大きな橋頭堡を築いたものだと考えます。
他方で、今次改革の目玉ともいうべき裁判員制度や被疑者国選弁護制度を始めとする刑事司法改革分野においては、いわゆる人質司法や調書裁判の打破、捜査過程の可視化等々、積み残された大きな課題が山積しています。
司法支援センターについても同様です。法に掲げられた事業は、私たちが法律扶助協会とともに、これまで実践してきた様々な権利擁護活動の延長線上のものであって、長年にわたる運動の成果と評価できると思います。しかし、犯罪被害者救済制度や過疎地対策などに見られるように、対象事業の種類や内容の点で、なお十分でないところがあるといわざるをえず、その組織と財政の規模を含めて、解決すべき難しい問題も少なくありません。\n また、センターの運営面では、弁護士会の主導性や個々の弁護活動の自主性・独立性を確保するための制度的担保をどうするのか、いわゆる自主事業の委託化の是非とその場合の展望をどう考え、いかに対処すべきかなど、焦眉の急を要する重要な課題が横たわっています。
しかし、そのことのゆえに、私たちが刑事弁護や法律扶助の公益的活動から離れ、あるいは、司法支援センターへの参加を回避するなど、制度の実行・実践に少しでも手を緩めるようなことがあれば、それこそ、一六年前にわが九州・福岡から始めた当番弁護士活動など、これまでに私たちが営々と積み重ねてきた努力は水泡に帰するだけではなく、かえって市民の信頼を根底から失うことになりかねないと思います。
私たちは、この司法改革運動の出発点がそうであったように、今こそ、現場での地道な実践活動を積み重ねることを通じ、広範な市民の信頼を勝ち得て、実践の中から改革を発想し、市民とともに運動を作り上げてきたという原点に立ち返ることが必要です。新たな制度を私たちの血肉とした上で、さらなる改革に向け、ここに指摘されている諸課題に全力で取り組んでいかなければなりません。
そのようなときに当たり、この宣言を発することは、司法改革の実行に向けた日弁連の結集力と不退転の決意を会の内外に表明し、その存在感と主導性を一層大きなものにすることに資するものだと考えます。\n 以上の理由により、私は本宣言案に賛成いたします。
会 務 報 告
副会長日記
副会長 三 浦 邦 俊
県弁総会も終わって六月になり、今年は、薫風香るかのようなさわやかな季節が続いていたが、早々に梅雨入りとなってしまいました。会務の方は、快調ですよと申し上げたいところではありますが、二ヶ月経過して、担当委員会や、弁護士会全体の動きが漸くつかめてきました。特に司法改革の実行段階と言われ、日弁総会でも、司法改革実行宣言なるものが、決議されるゆえんが理解出来たところで、自ら担当する委員会の役割を考えると、多少のめまいを覚えながらも、これから秋にかけて、具体的な企画を考えなければならないと身を引締めるところと、半分ボヤキも出るような六月であります。\n 全体の状況から申し上げれば、今年の目玉といわれる日本司法支援センターと裁判員制度問題に関して、前者は、関連する委員会を集合させた支援センターの委員会で活発な議論が行われた結果、単位会の意見集約としては、相当なものが出来あがりそうで、やれやれという雰囲気ではありますが、他方、司法支援センターにどのような内容のものを盛り込んでいくかという点は、これから、何年にも渡って議論を戦わせなければならず、その中で、弁護士及び弁護士会が、どのような役割を果たせるのかという点が、絶えず検証されなければならないと思われ、七月には、扶助協会の担当者研究会も控えています。\n 他方で、平成二一年五月から実施予定の裁判員制度に関しては、国民に開かれた司法をという点を標榜した弁護士会は、刑事裁判に対する国民参加の意義を広く国民に広報していく責務を担っています。この点で、弁護士会は、残念ながら立ち遅れているといわざるを得ない面がありますので、第一に、県弁護士会のホームページに裁判員制度を広報する記事の掲載を計画しています。第二に、企業や、公民館の集まり、学校等の団体に対して、裁判員制度の説明をする制度を作り、実際に出前の講演等を実施することを企画する予\定です。第三に、国民向けには、刑事弁護は何故必要であるのか、何故、刑事手続に国民の参加が必要なのかなどという点を判りやすく説明する必要もあります。第四に、具体的に裁判員となる人には、無罪の推定、伝聞証拠の排除など、刑事司法に関する原則の説明も必要となってきます。さらに国民向けの広報を広く捉えると、これも法教育という概念に入れようという動きもあり、学校等にも、積極的に働きかける必要もあるのではないかという議論も出てきています。現在の限られた会員数と各会員が会務に割ける時間に照らすと、国民から期待されている役割を果たしていけるのかという点が、そもそも、問題とされるような状態であるのかもしれませんが、これから、相当精力を注いで、創意工夫をしていかなければならないと思っています。具体的には、裁判員制度実現本部、刑事弁護委員会などが議論の中心になるかと思われますが、今秋には、手始めにシンポの企画をすることを検討しています。弁護士、弁護士会の力量が問われる場面ですので、各会員には、関心を持ってもらいたいと思います。
他方、本年九月一六日には、アクロス天神で、「高齢者障害者権利擁護の集い」のシンポジウムが開催される予定ですが、この関係で、福岡県、福岡市、北九州市等の福祉関係の方々も参加されての関係諸団体連絡会が、毎月、弁護士会で開催されています。一〇年ほど前から、北九州市から始まった高齢者、障害者関係の委員会活動ですが、今では、委員会活動の成果で、弁護士推薦委員会にかかる推薦案件中で、福祉関係の委員の推薦が相当数を占めるなど、この方面における弁護士会の活動実績は高く評価されており、シンポには、福祉関係の行政の職員の方が多数参加されると思われます。実行委員会は、アクロスを満席にすることを目標に準備を進めてありますが、シンポには、県知事、福岡市長も来賓として挨拶されることが予\定されております。
執行部としては、裁判員制度の関係でも、着実な成果をあげたいと考えております。
以上とは全く関係ない話ですが、四月に挨拶廻りをおこなって感じたことは、「弁護士」というのは、やはり結構使える業種であることでした。この点は、二つの意味があります。一つは、弁護士業務として、まだまだ未開拓の分野がありはしないかという点です。例えば、領事館関係を廻っても、貿易関係の相談があるなどの話を聞いたりしましたが、弁護士業務の拡大に向けて検討すべき点があるのではないかと感じました。この点は、業務委員会と連携を取って、何らかの成果に結び付けられないかと考えている次第ですが、本年度に、形に出来なくても、継続して検討されるべき点であると思われます。二つ目は、「行列のできる法律相談所」というテレビ番組の影響でしょうか、マスコミ的には、弁護士に、番組に出演してもらいたいというニーズが結構\あるという点でした。この点は、既に、若手の会員の方に、声をかけたりしていますが、尻込みをせず、チャレンジして欲しいと思っています。昨年の担当副会長よりは、押しが強いと思いますので、声がかかったら、宜しくお願いしたいと存じます。
勝手に自らの担当分野のみの雑感を記したようになりましたが、本年度執行部の二ヶ月を振り返ると、川副執行部は、会長の強力なリーダーシップのもとに、順調に滑り出しております。既に、会務全般に関する議論をするため、五月二九日には、一日の合宿をこなして、各役員が、担当すべき分野の課題の確認をしました。果たして、この調子で、一年を乗り切ることが出来るかという点については、各役員それぞれの努力にもかかるものですが、山積する課題にめげないだけのチームワークは、既に、確立されているものと思われます。検討結果を、会務に反映させるために、七月頃には、委員長会議等を開催することを予定しています。
2005年8月22日
刑務所の医療行為に関する要望
意見
福岡刑務所長 殿
2005年6月7日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
同人権擁護委員会 委員長 小宮和彦
貴所所属の法務技官医師Y氏は、申立人X氏からの胸のしこりの症状の主張について、X氏に対して、問診及び触診のみしか行わずに女性化乳房との診断をしただけで、超音波検査、乳房撮影あるいは生検(病理細胞検査)や血液検査など、その原因究明のために必要な検査をせず、さらに、その後X氏から受診希望があったにかかわらず、何ら医療行為を行っていません。\n このような診察態度は、国が被収容者に対して負う一般社会の医療水準と同程度の医療を提供する義務に反しており、X氏の人権を侵害するものと言わざるを得ません。
つきましては、貴所におかれては、今後、X氏はもちろんのこと、すべての被収容者に対し、必要な医療行為を尽くして、一般社会の医療水準と同程度の医療を提供されるよう、要望致します。
以 上
覚せい剤後遺症(疑い)者の懲罰・処遇に関する警告及び勧告
意見
福岡拘置所長 殿
2005年8月5日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
同人権擁護委員会 委員長 小宮和彦
1 警告について
申立人X氏は、貴所に勾留され、従前から覚せい剤後遺症の診断の下に投薬を受けていたところ、幻聴を自覚したために200・年・月・日午後・時・分ころ、貴所職員に投薬を申し出たが拒絶されました。その結果、申立人は、「薬を早よやらんかー。」等と房全体に響き渡る大声を発し、さらに職員の制止に従わず窓ガラスを殴打するなど、極度の興奮状態に至りました(以下「本件興奮状態」といいます)。
X氏の本件興奮状態に対し、貴所の懲罰審査会は200・年・月・日、それが同人の覚せい剤後遺症による自制困難な状態での行為でなかったかどうかについて十分に調査することなく軽屏禁7日の懲罰を科し、同日から執行しました。\n しかし、覚せい剤後遺症による自制困難な行為に対して懲罰を科すことは、責任無能力者に刑事責任を問うことと同様に責任主義に対する重大な違反となります。ところが本件興奮状態は、X氏の幻聴という覚せい剤後遺症と時間的に接着して生じており、それ自体が覚せい剤後遺症であると疑うべき行為であったと認められます。そのような行為に対する懲罰の審査においては、それが覚せい剤後遺症による自制困難な行為ではなかったことが確認されなければ懲罰を科すことは許されません。
したがって、この点についての十分な調査、判断を経ないままX氏に懲罰を科したことは、適正手続に違反し、X氏の人権を侵犯したものといわざるを得ません。
つきましては、貴所におかれましては、懲罰審査においては、対象となる行為が精神病等による自制困難な状態での行為でないかどうかを十分に調査・判断され、精神病等による自制困難な状態での行為である場合には懲罰を科すことがないよう警告いたします。\n
2 勧告について
貴所は、200・年・月・日に貴所に移監された当初から勾留期間を通じて(一時的な保護房への収容期間を除く)、X氏を、第二種独居室に収容していました。貴所所長がX氏を第二種独居室に収容すると決定するに際しては、警察から覚せい剤後遺症による幻聴及び妄想等の精神症状があり精神病院通院歴もあるとの引継があったのみで、医師の診断はなされておらず、それ以上にX氏の具体的な自傷のおそれを認めるべき専門医の診断はなく、その他の具体的な自傷のおそれを認めるべき客観的な事情も認められていませんでした。
ところで、第二種独居室は、被収容者に突発的な異常行動による自傷のおそれが認められる場合において、綿密な動静観察によってこれを防止するために設置されているものです。しかるに、その設備・備品に照らし、同室はその居住性等において、一般の独居房に比して著しく劣っており、その被収容者にとっては、一般独居房に収容された者よりも著しい人権制約を受けることは否めません。
したがって、被収容者の第二種独居室への収容は実質上の不利益処分であって、かかる第二種独居室への収容の可否については、貴所所長の自由な裁量に委ねられるものではなく、収容時において被収容者について具体的な自傷のおそれが認められる場合に限るべきです。
ところが、X氏については、医師による具体的な自傷のおそれの診断はなく、その他に具体的な自傷のおそれを認めるべき特段の事情も確認されていません。にもかかわらずX氏を第二種独居室に収容したことは、適正手続に反し、貴所所長の裁量を逸脱した違法な収容であって、X氏に対する人権侵犯といわざるをえません。
つきましては、貴所におかれましては、第二種独居室への収容にあたっては、その対象となる被収容者について、単に病名等のみによるのではなく、精神科専門医の詳細な診断等を行った上で、現に具体的な自傷のおそれがあると判断された場合に限りなされるよう勧告いたします。
以 上
2005年8月31日
共謀罪の新設に反対する声明
声明
2005(平成17)年8月31日
福岡県弁護士会会長 川 副 正 敏
「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するために刑法等の一部を改正する法律案」(略称「刑法・組織犯罪処罰法等改正案」。以下「本法案」という)は、先に閉会した第162回国会では廃案となったが、政府は次期国会での成立を期しているとのことである。
しかし、福岡県弁護士会は、以下の理由により、今後も、本法案第6条の2に規定されている、いわゆる共謀罪については、その立法化に対して、強く反対する。
1 本法案における共謀罪の概要は次のとおりである。
(1) 「長期4年以上の刑を定める犯罪」に関して、「団体の活動として」、「当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者」は、2年以下の懲役又は禁固に処する。
(2) 「死刑又は無期もしくは10年以上の刑を定める犯罪」に関して、同様の遂行を共謀した者は、5年以下の懲役又は禁固に処する。
2 第一に、共謀罪は、犯罪の実行着手前の意思形成段階に過ぎない共謀それ自体を処罰の対象とするものであるが、この点は、法益侵害又はその危険性のある行為があって初めてこれを処罰するという、現行刑法の大原則である行為主義に真っ向から反している。
第二に、犯罪の合意そのものが処罰されることになり、ひいては思想、信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由などの憲法上の基本的人権が重大な脅威にさらされることは避けられないといわなければならない。すなわち、共謀罪では、会話や電話、メール等の内容自体が犯罪を構\成することになるため、その内容を察知するのに盗聴捜査が拡大され、犯罪捜査に名を借りた国家による私的生活への介入に途を開く危険性が極めて高く、その結果、思想、信条、表現の自由に対する萎縮効果が発生することは、歴史上も明らかである。\n3 また、共謀罪は、長期4年以上の刑を定める犯罪に関する共謀を処罰しようとするものであるが、その結果、共謀罪が適用される罪名に関しては、政府答弁によればその総数は615種類にのぼることが明らかになっており、道路交通法などといった市民生活の隅々に及ぶ法律に規定されたおびただしい数の行為類型に関する「共謀」が処罰対象にされることになる。
その結果、例えば、市民団体がマンションの建設に反対するために工事現場で座り込みをすることを相談しただけでも、組織的威力業務妨害罪の共謀罪が成立する可能性すら否定できないものであり、これを口実とした警察の強制捜査が行おこなわれ、住民運動や労働運動の抑圧になりかねないという事態も危惧されている。\n4 本法案に関する政府の提案理由によれば、本法案は、2000(平成12)年10月に採択された「国際的な組織犯罪防止に関する国際連合条約」(以下「国連条約」という)の国内法化を図るためのものであると説明されている。しかし、本法案の共謀罪は、「越境性」や「組織犯罪性」を要件としていない結果、いわゆる越境的組織犯罪集団とは関係のない、国内の政党、市民団体、労働組合、企業等もすべて取締りの対象にすることができるようになってしまっている点でも、明らかに不当であるといわざるを得ない。政府は、国連条約の解釈上、越境性や、組織犯罪性は要件とされるべきではないという立場にたつものであるが、そもそも、条約上は、国内法化にあたって、これらの限定を付することは、何ら妨げないものであって、むしろ、テロ犯罪防止のための立法化を進めるという観点からは、これらの限定を付することが正しいといわなければならない。
5 当会は、国際的な組織犯罪、いわゆるテロ犯罪に対して国際的な協力体制を整備することの必要性を否定するものではない。
しかし、その国内法制化に藉口して、広範な市民の人権侵害が引き起こされる可能性があり、捜査機関の権限の不当な強化が行われかねない立法を許すことは、本末転倒であって、到底、容認することはできない。\n よって、当会はその立法化に強く反対し、政府に対し、直ちにその立法化を最終的に断念するよう求めるものである。
以 上