福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2005年7月13日
諫早湾干拓事業差止仮処分事件の許可抗告決定に関する会長声明
声明
平成17年(2005年)7月13日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
当会は,諫早湾干拓事業の問題につき,有明海沿岸の属する4県のうちの1つの地元単位会として,日本弁護士連合会や九州弁護士会連合会が行う調査やシンポジウムにつき重要な役割を果たすとともに,福岡県有明海漁業協同組合連合会をはじめ,個別の漁業者や周辺業者に対して被害調査を行い,有明海の漁業者の全体が,今や廃業の危機に陥っていることを明らかにした。
しかしながら,去る5月16日,福岡高等裁判所は,事業と漁業被害との法的関連性を否定して,佐賀地方裁判所の仮処分決定を取り消し,工事差止めを求めた有明海沿岸の漁業者らの申立てを却下した。\n 日本弁護士連合会は,6月9日付けの会長声明において,この高裁決定が事業と漁業被害との法的因果関係の認定につき,自然科学的な証明まで要求する判断手法をとったことについて,遺憾の意を表明するとともに,国に対して中・長期開門調査の実施を要求した。\nこの決定につき,漁業者らが申し立てた許可抗告に対して,6月27日,福岡高裁は上記因果関係の論点について,これを許可する決定を行った。\n 当会がこれまで行った被害に関する調査からは,ノリ養殖の被害には地域差があること,ノリ養殖には漁業者の努力という要素が入るためノリの販売枚数だけでは被害の程度が推し測れないこと,大牟田地区の被害が深刻で共販組合を維持できなくなったことなどが明らかとなっている。これらの調査結果を踏まえると,福岡高裁が「昭和54年から平成16年までの有明海沿岸4県のノリ養殖の生産量の推移からは,現在のところ,ノリ養殖の生産量自体の減少を認めることはできない」としてノリ養殖の被害をノリ養殖の生産枚数だけの検討で否定した判断には強い違和感を覚えるものである。
そして,農林水産省有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会が提言し,さらに前記日弁連会長声明でも提言されている,中・長期開門調査は,漁業被害を改善するための方策を検討するうえで,現時点で採りうる唯一の手段であると考えられることから,国に対し,早急に中・長期開門調査を実施するよう求めるものである。