福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2005年6月23日
少年法等「改正」法案に反対する声明
声明
平成17年(2005年)6月23日
福岡県弁護士会 会長 川副 正敏
少年法等改正法案が、平成17年3月1日の閣議決定を経て今国会に提出され、6月14日に衆議院での審議が始まった。
この改正法案は、
(1) 低年齢非行少年に対する厳罰化。
(2) 触法少年・ぐ犯少年に対する福祉的対応の後退、警察官による強制捜査権の付与。
(3) 保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する施設収容処分の導入。
などの点において、極めて重要な内容を含むものである。
しかし、以下に述べるとおり、これらの施策には少年法の理念や保護観察制度の根幹に関わる重大な問題があり、当会は、4項で述べる国選付添人制度導入の点を除いて、本法案に強く反対するものである。
1 少年院送致年齢の下限(14歳)の撤廃
本法案は、昨今社会問題となっている低年齢少年による非行事件を契機として、少年に対する厳罰化を唱える一部の世論に押される形で、少年院送致年齢の下限を撤廃し、法的には幼稚園児であっても少年院に入院させることを可能としている。\n しかし、そもそも14歳未満の少年による事件の凶悪化ということは統計上認められず、この点を厳罰化の根拠とすることはできない。ちなみに、本法案の提案理由説明でも、「いわゆる触法少年による凶悪重大な事件も発生するなど」という記載にとどまっており、従前よりも凶悪化傾向が生じているという分析はなされてない。
また、低年齢の少年に対しては、ひとりひとりの心身の発達状況や家庭環境などに配慮したきめ細やかな指導を通じて、個々の少年の健全な成長発達を促すことが求められる。とりわけ、重大な事件を犯すに至った低年齢の少年ほど、被虐待体験を含む複雑な成育歴を有していることが少なくない。その意味で、低年齢の触法少年については、個別の福祉的、教育的対応を専門とする児童自立支援施設における処遇こそが適切であって、主として集団的矯正教育を行っている少年院での処遇にはなじまない。
現に、児童自立支援施設においては低年齢の少年に対する福祉的教育的指導を行うべく多大な努力が行われているのであって、ここになお一層の専門性強化とこれに要する人的物的資源の充実が求められるところである。しかるに、そのための施策は著しく貧弱なものにとどまっている。にもかかわらず、その抜本的な改善に着手することもないまま、単に14歳未満の少年の少年院送致を可能とすることをもって、低年齢少年の非行に対処しようとするのは、本末転倒といわざるを得ない。\n
2 触法少年・ぐ犯少年に対する福祉的対応の後退
本法案は、触法少年・ぐ犯少年に対する警察官の調査権限を定めるとともに、さらに触法少年に対しては一定の強制処分手続を行うことができるとしている。
そもそも、低年齢の少年やぐ犯少年に対する調査は、児童福祉の専門機関である児童相談所のソーシャルワーカーや心理相談員を中心として進めるべきである。児童の福祉や心理、発達段階に応じた表\現能力等についての専門性を有していない警察官に質問権限を認めることは、少年に対して真に求められる教育的・福祉的対応を後退させるばかりか、少年を萎縮させ、かえって真実発見に支障を来す結果をもたらす危険が大きい。\n
3 保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する施設収容処分
本法案は、保護観察中に遵守事項に違反した場合に、少年院送致などの措置をとることができる制度を設けている。
しかし、現行法においても、保護観察中の遵守事項違反に対しては「ぐ犯通告」制度などが存在しており、それに加えて新たな制度を創設する必要性について現場の意見を徴するなどの検証は全くなされていない。
そもそも保護観察は、少年の自ら立ち直る力を育てるため、保護観察官と保護司が少年との信頼関係(そこでは、ときには遵守事項を破ってしまったことも素直に話せる関係が存在することが必要である)を前提にして、長期的な視点から、少年に対しねばり強く働きかける制度である。ところが、本法案は、「少年院送致」を威嚇の手段として遵守事項を守るよう少年に求めるものであり、保護観察制度の実質的な変容を図るものである。また、こうした制度を設けることは、一事不再理ないしは二重の危険の法理に実質的に反するばかりか、いたずらに厳罰化を図るものである。
現行の保護観察制度は相応に機能しているのであって、この制度のさらなる実効性を確保することこそが求められている。そのためには、何よりもまず保護観察官の増員や適切な保護司の確保といった方策が実施されるべきであり、制度の本質を変容させてはならない。\n
4 全面的な国選付添人制度の実現を
本法案は、ごく限定的ではあるが、従前の検察官関与とは切り離して国選付添人制度を導入している。
これは当会が全国の弁護士会に先駆けて実践してきた身柄事件全件付添人活動がここ数年、全国に波及していく中で、これらの実績に基づいて有用性が証明され、国としてもその成果に配慮したことによるものである。その意味で、国選付添人制度の導入は、我々のこれまでの活動が実を結び、将来の全面的な国費による付添人制度への橋渡しになりうるものとして一定の評価をする。
しかし、その対象事件は極めて限られているなど、なお著しく不十分なものにとどまっている。\n 我々は、さらに、全面的な国選付添人制度の実現を強く求めるとともに、今後とも、少年付添人活動の一層の充実に努めていく決意である。