福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2004年2月13日

教育基本法の『改正』に反対する会長声明

声明

福岡県弁護士会 会長  前田 豊

平成16年(2004年)2月13日

 中央教育審議会は、2003年3月20日、文部科学大臣に対して、「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」と題する答申を行った。同答申\は、「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成を目指す観点から、今日極めて重要と考えられる教育の理念や原則を明確にするため、教育基本法を改正することが必要である」と結論づけ、教育基本法改正の具体的方向を示している。 政府は同答申を受け、教育基本法改正に向けた連立与党内協議を重ねており、今国会にも改正法案が提出される可能\性がなおある。
 これに先立ち、2002年4月、福岡市の小学校6年生の通知表の評価項目に、「国を愛する心」の文言が掲げられた。当会は、愛国心という内心の問題を成績評価を通じて強制することは人権侵害のおそれが強いとして警告を発したが、2003年4月から使用される通知表にも、同趣旨の項目を入れようとする動きがあった。また、上記答申\が掲げた理念に対応して構成された「心のノート」が、全国1100万人の小中学生に配付され、既に「心の教育」が始まっている。
教育基本法は、国のための人材づくりという戦前の教育を反省し、「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期する」ために制定された。同法は、憲法が保障する「教育への権利」を実現するための教育法規の根本法であり、準憲法的な性格を持つ法とされている。したがって、その改正を検討するにあたっては、憲法の理念や、子どもの権利条約などが示す国際準則を指標として、これを積極的に押し進める方向で検討されなければならない。
 しかるに、上記答申及びこれに基づく法改正の方向は、国家に有為な人材作りを優先させるものであり、憲法が保障する「個人の尊重」に基づく「教育への権利」とは正反対の方向を志向しているといわざるをえない。また、公教育の場において「国を愛する心」を押し付けて個人の内面価値にまで立ち入る点は内心の自由を保障する憲法19条に、宗教的情操に関連する教育を「道徳を中心とする教育活動の中で」行うとしている点は国の宗教的活動を禁じた憲法20条に、それぞれ抵触するおそれがある。さらに、国・地方公共団体の責務について規定するにあたり、教育行政が「教育内容」にも積極的に介入することを認めることは、「教育内容に対する国家的介入はできるだけ抑制的であることが要請される」とした最高裁判決(旭川学力テスト判決・最判昭和51年5月21日)にも反するものである。
当会は、2003年9月13日、「教育基本法『改正』を問う」市民集会を主催し、講演とシンポジウムを通じて上記のような同答申の問題点があることを明らかにした。また、粕屋町議会をはじめ全国197自治体の議会において、「教育基本法改悪反対・慎重審議を求める決議」が採択されている(2003年10月3日現在)。
 当会は、上記のような憲法・教育基本法の根本理念に反する中央教育審議会の答申に基づく教育基本法「改正」に反対する。\n

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2004年2月24日

消費者保護基本法改正についての会長声明

声明

福岡県弁護士会 会長  前田 豊

 平成16年(2004年)2月24日

 1968年消費者保護基本法が制定されたが、その後、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の構造的格差が一層拡大し、消費者被害が増大した。本通常国会で、自民党の議員提案により、消費者保護基本法の大幅な改正案が上程される見込である。そこで当会は、自由民主党要綱案(以下「要綱案」という)がそのまま法案化される可能\性に鑑み、以下のとおり、意見を表明する。\n
  消費者保護基本法には、消費者と事業者との間に経済力、交渉力等の構造的格差が厳然と存在することに鑑み、消費者政策の基本理念が、「消費者の権利擁護」であることを明確に定めるべきである。\nこれに対し要綱案は、消費者政策の理念として、「消費者の自立支援」を強調しているが、「消費者の権利」を二次的・補完的なものとして消費者保護政策の縮小・後退を容認するもので、強く反対する。
  消費者には、公正な取引条件・取引方法の提供を受ける権利及び消費者団体を組織して行動する権利があることを明確にすべきである。
要綱案はこの点に触れていない。しかし、公正な取引条件と取引方法の提供がなければ消費者は適切な選択ができない。また、個々の消費者が自らの権利を行使したり、その意見を消費者政策に反映させることは極めて困難であるので、団体訴権を実現する上でも、消費者団体を組織し行動する権利をも明確にする必要がある。
  消費者に「責務」を負わせることは消費者政策の理念に反するので、現行法どおり「消費者の役割」とすべきである。
これに対し、要綱案は、「国及び地方公共団体の責務」「事業者の責務」と並列的に、「消費者の責務」を規定するが、消費者に対し、事業者と対等な「責務」を負わせることは、消費者政策の基本理念であるべき消費者の権利擁護と明らかに矛盾する。要綱案は、行政及び事業者の法的責務を軽減し、消費者政策の後退を容認することになりかねないものであり強く反対する。
  国及び都道府県の苦情処理・紛争解決機能の強化を積極的に位置づけるべきである。\n要綱案は、苦情処理体制として、市町村は苦情の処理のあっせん等に努めなければならないとした上、都道府県は、市町村(特別区を含む)との連携を図りつつ、主として、高度の専門性又は広域の見地への配慮を必要とする苦情の処理のあっせん等を行うものとしている。ところが、国については、直接、苦情処理のあっせん等をすることを予定していない。しかし、広域的な消費者被害への対応や事業者規制権限への連携を強化するためには、国及び都道府県の苦情処理の機能\を拡充することこそが必要である。

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