福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2003年8月 1日
司法修習生の給費制維持を求める声明
声明
福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成15年(2003年)8月1日
司法は、法の支配の理念に基づき、政治部門と並んで社会を支える重要な柱であり、この司法の運営に直接携わるプロフェッションである法曹に対しては、国民が個人の尊厳・基本的人権を享有する主体として自律的な社会生活関係を維持・形成し、発展させていくために必要な法的サービスを提供するという役割を果たしていくことが期待されている。制度を活かすものは人であり、そして21世紀における司法の役割の増大に応じて、その担い手である法曹(弁護士・検察官・裁判官)の果たすべき役割も、より多様で広くかつ重くなっていく。そのため、法曹の質と量を大幅に拡充する事が不可欠とされている。
かくして、新たな法曹養成制度は、21世紀の司法を担うにふさわしい質を有した法曹を確保するため、従前の司法試験による選抜ではなく、法科大学院を中核とする法曹養成制度に改め、法科大学院での履修に続いて、新司法試験を経て実務修習を中心とする司法修習を実施することになった。その際、司法修習制度は、これまでの実務修習制度の有用性に鑑み,この新制度のもとにおいても引き続いて実施することとされたものである。
ところで現在、従来から司法修習生に対して給与を支払っていた制度(給費制)を維持するかどうかが検討されている。
しかし、上記のとおり、法曹養成制度は単なる職業人の養成ではなく、国民の権利擁護、法の支配の実現にかかわるプロフェッションたる法曹を養成するものであり、したがって、法曹の養成は、国及び社会にとって極めて公共性・公益性の高い重要事項である。
そして、弁護士は、基本的人権の擁護と社会的正義実現の担い手であるのに加えて、各種公益活動、公的弁護、公設事務所、法律相談センターなど公益性の高い分野を担い、実行する人的資源であり、その公共性、公益性が高い点においては、裁判官あるいは検察官と全く同様である。
従って、法曹養成とりわけ司法修習に対しては、可能な限り国費が投入されるべきであり、そうすることが国と社会に活力を与え、透明で公正なルールに従って適正かつ迅速に紛争解決をはかり、法の支配を貫徹することを可能\とするものである。
司法修習生には、給費制の反面、修習専念義務が課されており、他の職業に就いて収入を得る方法を閉ざされている。従って、修習専念義務を課したまま給与を支給しないことは合理的均衡を欠き、また当然、司法修習生の生計の維持を困難とする。
加えて、司法修習生になる前に2年ないし3年の法科大学院に在学することから,その間に多額の学資や生活資金が必要となる。この経済的負担はそれ自体極めて重大な問題であるが、その上司法修習生に対し給与を支給しないことは、負担を一層増大させるものであり、経済的打撃はさらに大きくなる。そして、この経済的負担の大きさゆえに、多くの有用な人材が法曹を目指すことを諦めることも懸念される。
そこで、法科大学院における学生の経済的負担を軽減するべきことはもとより、司法修習生に対する給費制を維持して、修習に専念できる態勢を整備すべきである。
これに対し、給費制に代えて貸与制を採用するとの意見があるが、多額の負債を抱えて新人法曹としての生活をスタートさせることは、その後の返済を考えると、到底好ましいものとは思われない。
法曹には多種多様な人材が求められるものであるが,経済的負担の大きさから一定の富裕層のみからの偏った人材しか輩出されなくなるとすれば、それは極めて憂慮すべき事態を招来するものであり,司法制度改革審議会意見書の趣旨にも反することとなる。
よって、司法修習生への給費制度は今後とも堅持されるよう強く求めるものである。