福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2003年5月21日
有事法制に反対する会長声明
声明
福岡県弁護士会 会長 前田 豊
平成15年(2003年)5月21日
有事法制法案が5月15日衆議院を通過し、現在参議院で審理中である。
この法案は、当初の政府案を修正したものであるが、「武力攻撃予測事態」の定義や範囲はなお曖昧である。また、「武力攻撃予\測事態」と周辺事態法でいう「周辺事態」の異同や、武力攻撃事態対処法と周辺事態法がどう連動するのかは依然として不明確であり、周辺事態法又はテロ特措法との連動いかんによっては、憲法が認めていない集団的自衛権と同様の結果となることも懸念される。さらに、有事認定の客観性も十分に担保されているとはいえず、国会による事前の民主的コントロールも確保されているとはいえない。有事における首相の地方公共団体や指定公共機関に対する指示権・代執行権は当面凍結されたものの何ら変更がなく、有事において民主的な統治機構\や地方自治を維持することができるのかという疑問は払拭されていない。民間放送局を含むメディアが有事に政府の統制下におかれる危険性も完全には排除されていない。しかも、国民的な議論が尽くされたものとは言いがたく、衆議院における徹底した議論も行われていない。
いうまでもなく、この法案は、わが国の進路を決定し、国民の生命と安全そして憲法と基本的人権に関わる重要な法案である。当会は、このような憲法原理に関わる重要法案について、十分な国民的議論も国会審議もないままに、そのまま参議院において可決され成立することには反対せざるを得ない。\n この法案は、以上のとおり、平和主義、基本的人権の尊重、国民主権主義という憲法原理に抵触する重大な疑念が存在するものであり、当会は、その廃案を求めるものである。
2003年5月27日
取調の全過程の録画・録音による取調の可視化を求める決議
決議
2003年5月27日 福岡県弁護士会 会長 前田 豊
1 日本国憲法及び刑事訴訟法は、被疑者・被告人に黙秘権を保障し、自白の強要を禁止している。しかし、実際の取調べは、密室で行われ、暴力、脅迫、利益誘導等によって被疑者・被告人の権利が侵害・形骸化され、様々な冤罪事件や誤判事件の温床となってきたことは周知の事実である。また、現行の刑事訴訟法が、伝聞法則を徹底していないために、密室での取調べによって作成された自白調書の任意性・信用性をめぐって、刑事裁判の長期化が生じている。\n
2 このような弊害を排除するためには、伝聞証拠の排除を徹底する必要があり、また自白偏重・自白強要を排し捜査を適正化するためには、その過程を容易に検証できるように、取調べの全過程を録画・録音する、いわゆる取調べの可視化が必要不可欠である。
イギリスでは、17年前から取調べ状況を録音する取調べの可視化が法制化されている。また、国連の規約人権委員会(自由権)は日本政府に対し、代用監獄における被疑者取調について「電気的手段により記録されるべきことを勧告」している。
現在ではCD、DVD等の記録媒体の急速な進歩により、大量の情報を記録して保存することが可能となっており、そのためのコストも安価なものとなっている。この意味でも取調べ過程の可視化はより実現性の高い制度である。これが実現すれば、取調べ等の適正化、裁判の充実・迅速化に大きく寄与することは明らかである。\n
3 また、今国会では「裁判迅速化に関する法律案」が提出されている。さらに、司法制度改革審議会では、市民が刑事裁判に参加する裁判員制度が議論されている。裁判の迅速化の促進は当然であるが、審理の充実が損なわれてはならないこともまた当然である。市民にわかりやすい裁判を迅速かつ充実して行うためには、争点に応じた集中的な審理が求められ、事件の実体判断にこそ、より集中した審理が尽くされるべきであるが、そのためにも、取調べ過程の可視化は不可欠の要請である。
以上のように、憲法・刑事訴訟法の基本理念である人権の擁護と迅速かつ充実した裁判の実現のためにも、警察官・検察官による取調べの全過程を録画・録音することが制度化されるべきであり、当会はその実現を強く求めるものである。