福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2024年10月25日
能登半島地震に関し、法テラス支援特例法の制定等による法的支援の継続を求める会長声明
声明
第1 声明の趣旨
1 国は、令和6年能登半島地震(以下「能登半島地震」という。)について、東日本大震災における対応と同様、被災地に住所、居所、営業所又は事務所(以下「住所等」という。)を有していた者であれば資力を問わず日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)における法律相談援助、代理援助等を受けられること、裁判所の手続のほかにADRなどについても代理援助・書類作成援助の対象とすること、事件の進行中は立替金の返済が猶予されること、などを含む法テラスの業務に関する特例法を制定すべきである。2 国は、現在1年以内とされている総合法律支援法第30条第1項第4号における政令による指定期間を柔軟に延長することが可能な法改正をし、令和7年1月1日以降も法テラスにおける能登半島地震の被災者に対する資力を問わない無料法律相談の実施を可能とすべきである。
第2 声明の理由
1 能登半島地震の発災から約10か月が経過した。内閣府の非常災害対策本部の発表によれば、令和6年10月1日時点での被害状況は、死者・行方不明者が404名(うち災害関連死が174名)、負傷者が1336名、半壊以上の住家被害が2万9244件となっており、平成23年に発生した東日本大震災以降最大の被害が発生している。また、10月1日時点において、石川県内では、依然として348名の被災者が避難所での避難生活を余儀なくされている状況である。被災地では、復旧に向けた関係各位の懸命な活動が続いており、徐々に復旧が進みつつあるが、被災地へのアクセスの困難さや自治体、関係事業者のリソース不足もあり、公費解体の遅れ等の問題も生じている。
2 能登半島地震は、令和6年1月11日に、政令により、総合法律支援法第30条第1項第4号に規定する非常災害に指定されており、法テラスにおける「大規模災害の被害者に対する法律相談援助制度」(以下「被災者法律相談援助制度」という。)の適用対象となっている。この制度は、政令で非常災害と指定された災害について、発災後最長で1年間、被災地域に住所等を有する者に対し、資力を問わずに法テラスにおける無料相談を実施する制度であり、過去には、平成28年の熊本地震、平成30年7月豪雨、令和元年東日本台風、令和2年7月豪雨にも適用された。
能登半島地震の被災地では、法テラスの事務所における相談に加えて、事務所へのアクセスが困難な地域には移動相談車両(法テラス号)を派遣するなどの対応がとられており、被災者法律相談援助制度は、能登半島地震の被災者の法律相談ニーズに応えるうえで重要な役割を果たしている。
3 上記のとおり、被災者法律相談援助制度は、発災後最長1年間という期間が定められており、能登半島地震についても、令和6年12月31日までの期間が定められている。
その一方で、上記1でも述べたとおり、発災後約10か月が経過した現時点においても、依然として多くの被災者が避難を余儀なくされており、公費解体も十分には進んでいないなど、生活再建の入り口にすら立っていない被災者も多数存在する。被災者支援制度の基礎となる罹災証明書についても、判定そのものやその基礎となる資料の情報公開等について問題が指摘されており、被災者からの相談も継続すると考えられる。また、被災地では、災害関連死の認定数も増加しており、災害関連死の申請に関する相談や対応も継続する可能性が高い。これらに加えて、各種の支援金の申請、地震に起因する紛争の解決、自然災害債務整理ガイドラインに基づく債務整理を含む債務の処理など、さらに多数の相談ニーズや紛争処理のニーズが生じることが容易に予想される。
さらに、能登半島においては、令和6年9月20日からの大雨によって、激甚災害(本激)に指定される規模の災害が発生し、能登半島地震の被災者が復興途上で再び被災するという事態も生じている。
特定非常災害に指定される規模の大地震と、激甚災害に指定される規模の大雨との複合災害という、極めて稀かつ酷な事態に直面した被災者に対する法的支援の必要性は、同大雨の前よりも一層高まっている。
このような状況であるにもかかわらず、被災者法律相談援助制度が1年間で終了するとすれば、被災者に対する法的支援としては十分とは言えないものと考えられる。
4 平成23年に発生した東日本大震災の際には、上記の総合法律支援法に基づく非常災害の指定の制度はまだ存在しなかったが、発災から約1年後の平成24年3月23日に、「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律」が制定され、同年4月1日から施行された。この特例法による制度は、被災地に住所等があった者であれば、資力を問わず法テラスにおける法律相談援助、代理援助等を受けられること、裁判所の手続のほかにADRなどが代理援助・書類作成援助の対象となること、事件の進行中は立替金の返済が猶予されることなどの特色があり、当初は3年間の時限立法であったが、令和3年3月31日まで期間が延長された。
能登半島地震については、東日本大震災以降最大規模の被害が生じていることに加え、上記のとおり、災害からの復旧や生活再建が様々な事情から停滞していることからすれば、同地震に関しても同様の特例法を制定し、法テラスによる支援を継続すべきである。
5 また、今後も確実に生じる被災地における法律相談ニーズに十分に応えるため、総合法律支援法の改正により、現在1年以内とされている同法第30条第1項第4号における政令による指定期間をより柔軟に延長することを可能とし、令和7年1月1日以降も法テラスにおいて能登半島地震の被災者に対する資力を問わない無料法律相談の実施を可能とすべきである。
この改正は、能登半島地震のみならず、今後発生する可能性がある大規模な自然災害への対応を考えても、必要な法改正であると考えられる。
2024年(令和6年)10月25日
福岡県弁護士会
会長 德永 響
2024年9月26日
「袴田事件」再審無罪判決を一日も早く確定させることを求めるとともに、改めて速やかな再審法改正を求める会長声明
声明
1 本日、静岡地方裁判所(國井恒志裁判長)は、いわゆる「袴田事件」について、袴田巖氏(以下「袴田氏」という。)に対し、無罪を言い渡した。二度にわたる再審請求を経て再審開始が確定し、再審公判が開かれ、本日、無罪判決が言い渡されたものである。当会は、本判決を高く評価し歓迎する。
2 「袴田事件」は、1966年(昭和41年)6月30日未明、静岡県清水市(現:静岡市清水区)のみそ製造販売会社専務宅で一家4名が殺害され、同宅が放火されたという事件である。静岡県警は、1966年(昭和41年)8月18日に同社従業員であった袴田氏を本件の犯人として逮捕した。袴田氏は、当初無実を主張していたものの、その後関与を認める自白をしたことなどもあり、起訴された。袴田氏は一審の公判では否認していたものの、静岡地裁は、1968年(昭和43年)9月11日に袴田氏に死刑を言い渡した。控訴及び上告も棄却され、1980年(昭和55年)12月12日に同判決が確定した。
しかし、その後も、袴田氏は無実を訴え、再審請求を続けてきた。その再審無罪判決までの闘いは非常に長期に及んだ。
3 第1次再審請求は約27年間もの長期に及んだが、棄却されて終わった。第2次再審請求について、静岡地裁(村山浩昭裁判長)が再審開始を決定し、併せて死刑及び拘置の執行停止を決定したのは2014年(平成26年)3月27日のことであった。
ところが、この再審開始決定に対して検察官が即時抗告をするなどしたため、同決定の確定まで9年もの期間を要した末に再審公判が開かれ、本日、無罪判決がなされたものである。
逮捕当時30歳であった袴田氏は現在88歳である。実に逮捕から58年以上もの長きにわたって犯人であるとの汚名を着せられ続けたことになる。人生の大半を自己のえん罪を晴らすための闘いに費やさざるを得なかったその余りの残酷さは筆舌に尽くしがたいものがある。このような残酷な立場に袴田氏を置き続けたことについて、検察官はもとより、刑事司法に携わるすべての者が深く猛省せねばならない。
4 そこで、当会は、検察官に対し、更なる有罪立証がもはや許されないことを自覚し、本日の無罪判決を尊重して上訴権を放棄し、直ちに無罪判決を確定させる所要の措置を講じることを強く求める。
5 なお、わが国では、死刑判決が確定した後、再審によって無罪判決が出された事件が過去に4件ある(免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)が、今回、「袴田事件」がこれに加わることとなる。
死刑は、人の生命を奪う不可逆的な刑罰であって、死刑判決がえん罪であった場合、これが執行されてしまうと取り返しがつかない。「袴田事件」は、その危険性に改めて警鐘を鳴らすものである。
誤った死刑判決に基づく死刑の執行を防ぐには、死刑制度を廃止する以外に途はない。当会は、引き続き死刑制度の廃止を強く求める。
6 同時に、「袴田事件」は、現行の再審法の不備を改めて浮き彫りにしている。現在の再審法には再審請求審の手続をどのように進めるかという再審請求手続における手続規定が定められておらず、証拠開示のルール(再審における証拠開示の制度)も設けられていない。
現に、第1次再審請求の即時抗告審である東京高裁(安廣文夫裁判長)は、事実の取調べ(刑訴法43条3項、445条)として証人尋問等を実施するか否かは裁判所の合理的な裁量に委ねられるべき問題であり、証拠開示についても同様であるとしていた。
このような問題は、他の再審事件でも同様に見られるところであり、まさに制度的・構造的な問題であるといわざるを得ない。
そこで、当会は、「袴田事件」のみならず、「大崎事件」や「日野町事件」などについて、繰り返し再審請求手続における証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、再審請求手続における手続規定の整備を含む、再審法の全面的な改正を求める会長声明を発してきた。
ここに改めて、政府及び国会に対し、再審法の改正を強く求める。
2024年(令和6年)9月26日
福岡県弁護士会
会 長 德 永 響
2024年9月 5日
当会会員の逮捕に関する会長談話
会長談話
当会の会員である竹内佑記弁護士が、公文書である民事裁判の判決書を偽造し、依頼者に提示した疑いがあるとして、2024年9月4日、逮捕されたとの情報に接しました。
上記被疑事実に関して、当会に対し懲戒請求が申立てられ、当会も会立件による懲戒手続に付し、現在、手続が進行している状況ですが、今後は刑事裁判における無罪推定の原則に則り、捜査及び裁判という公の手続によってその真偽が明らかとされることになります。
当会は、弁護士業務に密接に関連する民事判決を偽造・行使した疑いで逮捕されたことについて、きわめて重大なこととして厳粛に受け止めています。また、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の職務を全うするため、全会員に対して、あらためて弁護士としての自覚と倫理意識の覚醒を強く求めるとともに、すでに進行中の懲戒手続を迅速かつ適正に進めることによって、弁護士及び弁護士会に対する市民の皆様からの信頼回復に向けて、鋭意努力する所存です。
2024年9月5日
福岡県弁護士会
会 長 德 永 響
2024年9月 2日
会長談話「子どもの権利条約に参加して30年」
会長談話
1989
だから、
みなさんは、
2024
2024年7月10日
旧優生保護法最高裁大法廷判決を受けて、全ての優生手術被害者に対する被害回復の実現を求める会長声明
声明
2024年(令和6年)7月3日、最高裁判所大法廷は、旧優生保護法違憲国家賠償請求訴訟について、同法のいわゆる優生条項が憲法13条及び14条1項に違反することを明らかにした上で、被害者らの賠償請求を認容する判決(以下「本判決」という)を言い渡した。
旧優生保護法は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」として1948年に制定された法律である。
同法が個人の尊厳と人格の尊重を定める憲法13条、法の下の平等を定める憲法14条に違反することは明白であるが、1996年に母体保護法に改正されるまでの48年間もの長きにわたって存続し、その間、少なくとも約2万5000人に不妊手術が実施されたほか、優生思想に基づく教育がなされるなどの優生政策が推進されたのである。
その結果、日本の社会には優生思想が深く浸透し、今もなお障がいを有する人々に対する根強い偏見差別が存在している。
国は、優生保護法が改廃された後も、不妊手術の実施なども「かつては合法であった」などと強弁し続け、国連や日弁連の勧告などにも耳を貸さなかった。
それでも、2018年に不妊手術を受けさせられた被害者が仙台地裁に国家賠償請求訴訟を提起したことがきっかけとなって、いわゆる一時金支給法が制定されるに至ったが、真の権利回復にはほど遠い状況であった。
しかも、国は、各地の同種訴訟において、旧優生保護法の違憲性を認めることを回避した上で、改正前民法第724条後段の除斥期間の経過により被害者の損害賠償請求権は消滅したと主張してきた。
しかし、本判決は、このような国の主張を一蹴し、国が除斥期間の経過を主張して損害賠償責任を免れることは著しく正義・公平の理念に反し、到底容認できないと述べた上で、国の除斥期間の主張は信義則違反又は権利の濫用で許されないと判断した。15人の裁判官が、全員一致で、国の主張の根拠とされてきた最高裁判所平成元年12月21日第一小法廷判決を見直すことを明言し、これにより、全ての被害者の権利回復の途がひらかれたのである。まさに、画期的な判断である。
当会は、最高裁判所が旧優生保護法による被害者の声を正面から受け止め、人権保障の最後の砦としての役割を果たしたことを高く評価する。
国は、本判決を厳粛に受け止め、旧優生保護法による全ての被害者に謝罪するとともに、被害の全面救済に向けた取り組みを早急に開始すべきである。
当会としても引き続き、旧優生保護法による全ての被害者の被害回復の実現に向けて、必要な提言、相談会の実施等の取り組みを行っていくとともに、今なお社会に存在する優生思想に基づく障がい者に対する差別・偏見を解消すべく活動していく決意である。
2024年(令和6年)7月10日
福岡県弁護士会
会長 德 永 響