福岡県弁護士会 裁判員制度blog

2011年5月 6日

裁判員裁判の判決の傾向


『季刊・刑事弁護』66号の森下弘弁護士による分析を紹介します。(な)

「2011(平成23)年3月6日の岐阜新聞によると、性犯罪や傷害致死については裁判員裁判の方がキャリア裁判官のみによる裁判よりも刑が重くなっているが、対象事件全体では、裁判員裁判のほうが執行猶予判決は多く、被告人側の控訴率はキャリア裁判官のみによる裁判を下回っているが、保護観察付きの執行猶予判決は多くなっている」

「性犯罪(強制わいせつ致傷罪も含む)や傷害致死などには、重罰化の傾向が認められるものの、他方において、それらの罪については、法定刑の最下限(強制わいせつ致傷および傷害致死については、それぞれ懲役3年以上)を少し(1年)くらい上回る求刑でも、執行猶予になっている事案は少なくない。
また、性犯罪といっても、強制わいせつ致傷罪の場合は、執行猶予の確率は高いが、逆に強姦事件の実刑率は高いという傾向が見てとれる。
そのような事案に対して、求刑自体が重い事件は、ほとんどが求刑どおりか求刑に近い判決がくだされており、認定落ちや心神耗弱などの責任減衰事由(情状としても)などがなければ、大幅な減軽は望みえないという傾向も見てとれる。
他方、貨幣偽造・行使罪の場合は、求刑自体が懲役3年程度であることの関係もあってか、ほとんどが執行猶予(実刑は1件だけか)となっている。
さらに、少年事件の逆送事件は、ほとんど求刑どおりになっている。もっとも、少年事件の件数は少ない」

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2011年5月 9日

高齢者犯罪の増加


『季刊・刑事弁護』66号の浜井浩一・龍谷大学教授(犯罪学)の「警察統計から見た日本の治安」を紹介します。注目すべき指摘がなされています(な)

「日本では、高齢層の検挙人員、起訴人員、受刑者人員が、最近、顕著に増加している。20年間で総人口の高齢化は2倍であるが、起訴人員は8倍、受刑者も6倍以上に増加している。刑務所の高齢化は一般社会の3倍以上のスピードで進んでいる。
1980年代には、万引きは少年犯罪であり、検挙人員は実に50%以上を占め、60歳以上の高齢者は10%に満たなかった。しかし、2006年には高齢者の割合は30%を超え、ついに少年の割合を超えた。今や、万引きは高齢者の犯罪といっても過言ではない。
最近、高齢者の孤独死が問題となっている。犯罪に巻き込まれることを恐れ、電話にも出ない、玄関に人が来ても対応しない高齢者が増えている。警戒心や犯罪不安の高まりから、自宅に引きこもってしまい、それが社会孤立を引き起こしてはいないか、いま一度考えてみる必要がある。」

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2011年5月10日

日本の殺人事件は一貫して減少傾向にある


前回と同じく浜井浩一教授の論文を紹介します。先日も集団登校中の児童の列にクレーン車が突っ込み大惨事が発生してしまいました。(な)

「1950年代の後半から、日本の殺人事件は一貫して減少傾向にあり、検挙率は95%前後で推移している。検挙率が高いのは、殺人の8割以上が顔見知りの間で、4割は家族間で起こるためでもある。最近、親が子どもを、子どもが親を殺す事件が多数報道されているが、これは、戦後一貫して日本の殺人事件の主要な特徴の一つでもあり、とくに珍しいことではない。なお、殺人の認知件数は、2009年に戦後最低を記録し、2010年にそれを更新している。殺人という観点から見れば、戦後、現在がもっとも安全な状態にある」

「客観的に見た場合、虐待を含めて殺害される子どもの数は減少傾向にあり、交通事故や水の事故で死亡する子どもの数は、その何十倍にも及ぶ。不審者対策として、交通量の多い街道沿いを進学路に指定した結果、よそ見運転の車が登校中の児童の列に突っ込む事故が起きたのでは本末転倒ともいえる。」

「殺人について見れば、1960年ぐらいから検挙人員(認知件数も同じ傾向)が下降傾向にあるが、その減少にもっとも貢献しているのは10~20代の若年層である。つまり、日本の殺人が減少しているのは、若年者による殺人が減少したからである。その半面、最近、この低下傾向が足踏み状態にあるが、これは60代の検挙人員がやや増加しているためである。こうした実態は、マスコミ等で喧伝されている少年非行の凶悪化・低年齢化とは正反対の現象といえる」

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