福岡県弁護士会 裁判員制度blog

2011年4月19日

司法権の担い手は裁判官のみではない

 裁判員裁判は憲法に反しないという東京高裁の判決を紹介します。平成22年4月22日の判決です。判例タイムズ1341号で紹介されました。(な)

○司法権の担い手は裁判官のみではない
 「憲法が裁判官を下級裁判所の基本的な構成員として想定していることは明らかであるが、憲法は下級裁判所の構成については直接定めておらず、(憲法76条1項では「法律の定めるところによる」とされている。)、裁判官以外の者を下級裁判所の構成員とすることを禁じてはいないと同時に制定された裁判所法3条3項が刑事について陪審の制度を設けることを妨げないと規定していることや、旧憲法(大日本帝国憲法)24条が『裁判官の裁判』を受ける権利を保障していたのに対し、現行憲法32条が『裁判所における裁判』を受ける権利を保証することとしていることからも、憲法制定当時の立法者の意図も、国民の参加した裁判を許容し、あるいは少なくとも排除するものではなかったことが明らかである」

○刑事被告人の権利を侵害するものではない
 「憲法は、76条2項、32条、37条などの規定によって、独立して職権を行使する公平な裁判所による法に従った迅速な公開裁判を要請し、そのような裁判を受ける権利を刑事被告人に保障しているのである。そして、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下、単に「裁判員法」という。)では、法による公平な裁判を行うことができる裁判員を確保するために、資格要件や職権の独立に関する規定等が置かれ、適正な手続のもとで証拠に基づく事実認定が行われ、認定された事実に法が適正に解釈、適用されることを制度的に保障するために、法令の解釈や訴訟手続に関する判断は裁判官が行い、裁判員が関与する事項については、合議体を構成する裁判官と裁判員が対等な権限を持って十分な評議を行い、その判断は裁判官と裁判員の双方の意見を含む合議体の過半数によって決せられることとされており、このような裁判員制度は憲法の上記要請に沿うものであって、刑事被告人の権利を侵害するものではない」

○国民の基本的人権を侵害するものではない
 「裁判員制度が裁判員に選任された者について、辞退事由が認められない限りその職につくことを義務付けているのは、裁判員制度が司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資する(裁判員法1条)という重要な意義を有する制度であり、そのためには広く国民の司法参加を求めるとともに国民の負担の公平を図る必要があることによるのであって、十分合理性のある要請に基づくものである。そして、その義務の履行の担保としては刑事罰や直接的な強制的措置によることなく秩序罰としても過料を課すにとどめ(同法112条)、一定のやむを得ない事由がある場合には辞退を認め(同法16条。なお平成20年1月17日政令第3号の6号は『精神上の重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当の理由』を辞退事由として規定している。)、また、対象事件については必ず公判前整理手続に付して争点や証拠を整理することとして集中的・計画的審理の実現を図り(同法49条)、出頭した裁判員に対して旅費・日当を支給する(同法11条)等、国民の負担を軽減する措置を講じている。裁判員制度の意義の重要性を踏まえて、これらの点を考慮すると、裁判員になることが義務づけられているとはいえ、それは裁判員制度を円滑に実施するための必要最小限度のものと評価することができ、そのような制度が憲法13条、18条、19条等に抵触するとはいえない」

○表現の自由を侵害するものではない
 「憲法21条が保障する表現の自由も公共の福祉による合理的で必要やむを得ない程度の制限を受けることがあるところ、裁判員、補充裁判員及びこれらの職にあったものに守秘義務を課すことは適正な刑事裁判を行うために必要不可欠なことであり、裁判員法108条に規定する内容の刑罰を伴う守秘義務を課すことは憲法21条に抵触するとはいえない」

○財産権を侵害するものではない
 「上記の裁判員制度の目的が公共の福祉に合致することは明らかであるし、所論が指摘する財産上の不利益が生じる可能性があるからといって、裁判員制度を設置した立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとはいえない」

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