福岡県弁護士会 裁判員制度blog
2010年10月28日
サマーセミナー
8月27日、自由法曹団東京支部が「裁判員裁判、どう取り組む、どう闘う」というテーマでセミナーを開きました。そのときの助言者としての田岡直博弁護士の指摘(抜粋)を紹介します。(な)
○ 量刑傾向は不変
「求刑を超える判決を受けた。これは公判期日に被告人が不合理な弁解を始めたために反省していないと判断されたから。被告人が不合理な弁解をしている事件は難しい。
裁判員裁判になってからの量刑傾向はほとんど変動していない。基本的には求刑の7割から8割程度であり、当初予測されていたほどには重くなっていない。裁判所は、行為責任を原則として量刑の幅を設定し、その範囲内で特別予防的考慮を加味するという考え方をとっているので、量刑データベースが絶対的な影響を与えているのだろう。
もっとも、性犯罪については、量刑傾向がやや重くなっている。姦淫未遂、わいせつ未遂の事案は、精神的被害を考慮して、重くなっている」
「自白事件については、量刑データベースが利用されているため、検察官の求刑は低めに推移している。検察官は、論告でも被告人に有利な事情にかならず触れており、フェアの姿勢に徹している。そのため、求刑越えの判決は2件しかない。性犯罪は重罰化していると言われるが、極端に重罰化しているとは言えない。通り魔的な犯罪なども、重罰傾向にある。被害者参加の事件は、裁判員は『被害者なのだから、怒るのは当然』などと冷静に受けて止めており、重くなっていることはない」
「量刑傾向は変化していないが、個々の量刑要素の評価はかなり多様化している。若年、反省、謝罪、示談、前科なしといった裁判官裁判であれば当然に刑を軽くする情状として考慮されていた量刑要素が、裁判員裁判では必ずしも考慮されていない。示談しているといっても、示談するのは当たり前やないか、示談しなかったら重くするのは分かるが、なぜ示談すると軽くなるのかとなってしまうことがある。したがって、なぜ軽くすべき事情なのかを丁寧に説明する必要がある」
○ 更生可能性に着目した判決
「裁判員は、更生可能性に着目している。保護観察付き執行猶予の比率が飛躍的に増えている。反省して二度と犯罪を犯さない人については以前よりも軽くなっている。家庭内の殺人事件などで、同情できる事情があるときは、執行猶予判決も出ている。
不合理な弁解をしているときは、重くなる。これまでに出された求刑超えの判決は、いずれも多数の同種前科があった事件である。
裁判員は、法的な主張よりも、事実を重視している。殺意はないから傷害でもいいが、殺人未遂と同じくらいの刑にする、と考える」
「無罪判決(一部無罪、認定落ちを含む)が少なくとも6件出ている」
○ 事件数は予測を下まわっている
「事件数は、予測を下回っている。1年間の新受件数は、1898件で、予測件数2324件を下回っている。5年間で半減した。昨年、急に減少したのではなく、一貫して減少傾向にある。
強盗致傷事件は1100件から500件に減っている。覚せい剤取締法違反はいったん減少したが、最近また増えており、以前と同程度になっている。その結果、千葉地裁だけが予測件数に届いており、それ以外の地裁は軒並み減っている。東京本庁は事件数が少ないので、4部減らして、21部から17部にするという。その分の人員は千葉へまわすことになる」
「検察庁は事実認定が厳しい事件でも、起訴に踏み切る姿勢である」
○ 審理期間は4日以上が多い
「実際には、3回以内で終結できる事件は多くない。もっとも多いのが4日間であり、10日を超えるものもある」
「審理期間は、起訴から判決までの期間は6,7か月、否認事件は7,5か月であり、当初の予測より短くなっている」
○ 裁判員の選任
「裁判員に選任されたいと言っている人は、法学部出身の人で法律論をふりかざすなど、あまり良くない人も多い。ところが、選任されたくない、不安であるという人は、慎重に判断をするから、評議でも良いことを言うということもある。なので、選任されることを希望していいないからと言って、不選任にする必要はない」