福岡県弁護士会 裁判員制度blog
2010年5月11日
刑務所の処遇
「季刊・救援情報」65号(5月10日)に27年間の刑務官の体験をもつ坂本敏夫氏のインタビューがのっています。刑務所の処遇を考えるうえで参考になりますので、その一部を紹介します。(な)
重罰化、厳罰化の流れは深刻である。重罰化、厳罰化の流れのもとで、刑務所の収容率は増えている。平成19年末で、過剰収容となっている施設は全体の64%を占めている。とくに、無期懲役は、以前であれば20年もすれば仮釈放を許されていたが、今はほとんど仮釈放で出ていない。平成19年は一人もいなかった。最近では終身刑のような状況である。現在1600人の無期懲役囚がいる。
刑務作業の仕事がバブル崩壊の直後に比べても5分の1と少なくなっている。
かつて作業収入は全国で200億円を超え、収容費を確保していたが、仕事の量が減り、質が落ち、金額がひどく減っている。平成8年で受刑者数4万人で125億円稼いでいた作業収入は、平成19年には受刑者数7万人で58億円と大幅に減っている。一方で、収容費は平成8年に283億円だったものが、収容者の増加もあって平成19年には532億円に跳ね上がっている。
規律秩序が維持される集団管理の鉄則は、刑務所長の命令に問答無用で絶対服従させること。所長の命令は刑務官と受刑者の両方に及ぶ。刑務官を国家公務員法と各種内規(服務規程や懲戒規定など)で縛り、受刑者を刑事収容法令と受刑者生活心得などの規則で縛りつける。
管理第一主義で規律秩序の維持が掲げられた刑務所には、本来の改善更生のための個別の教育が入り込む余地はない。
集団処遇でも四苦八苦しているところに、個々の受刑者に焦点を当てた個別的矯正処遇に必要な時間と場所、そしてスタッフのどれもないというのが実態である。
法律で義務づけられた矯正教育は、法務省の通達により、月に2回のみ行うという形式的なもの。刑務所長が平日を矯正教育の日と定め、免業(仕事は休み)として、居室にビデオまたは録音を流して視聴させ、課題を与え、レポートを書かせている。
すべての受刑者に同じものを見せたり聞かせて、同じ課題を与え、改善更生の意欲を見る評価に利用している。受刑者たちは、制限の緩和と仮釈放のために、いやいやレポートを書かされている。
これが新しく取り入れられた矯正処遇の実態。日々の処遇という点ではテレビカメラや各種の警備システムがなかった1970年代までの刑務所の方が教育的だった。
過剰収容で、ただでさえ刑務官やスタッフの人手不足なので、なるべく件数を減らしたい。
工場担当の刑務官は、30人から100人ぐらいの受刑者を一人で受け持つ。
刑務官は、受刑者以上に規律に縛られていて、勤務中以外は受刑者と関われないという現実がある。