福岡県弁護士会 裁判員制度blog
2010年4月20日
裁判員裁判と厳罰化
『法と民主主義』447号に石塚伸一教授が「裁判員制度シフトの終焉一厳罰主義の後始末」という興味深い論稿を寄せておられます。
私の関心をひいたところのみ紹介しますので、全文をぜひお読みください。(な)
刑法犯の減少
1997年に251万8074件であった刑法犯認知件数は、2002年に369万3928件(46.7%増)でピークを迎えた。しかし、その後、急速に減少しはじめ2008年に253万3351件(31.4%減)となり、11年前の数字に戻った。
被疑者国選弁護の適用拡大と裁判員裁判で捜査に手間がかかるようになった。殺人未遂は傷害、強盗致傷は強盗と窃盗の併合罪で処理すれば裁判員裁判を回避できる。日本の警察は、社会の耳目を集めるような「重大」事件の捜査に精力を傾注する体制に動いた。
刑事施設の過剰収容の約束
1990年代の中ごろから、刑事施設の被収容者数は徐々に増加していた。1994年ころから数百人ずつ増えはじめ1997年には5万人を超えた。その後は千人単位で増えつづけ、2006年に8万人を超えた。
収容率も100%を超え、一時、既決は115%、未決は70%を超えていた。
ところが、ここ数年、刑事施設の被収容者の数は徐々にではあるが、減少しはじめている。
矯正は、過剰収容を理由に刑務所の増設などを試みたが、高齢者や知的障がい者など、社会的に弱い立場にある人が増え、多くの問題をもった人たちの処遇に悩みはじめた。
社会内処遇の重要性が指摘され、更生保護と連携、福祉との協働が求められるようになった。
厳罰化の流れの中での予測は外れた
厳罰化の流れの中で、裁判員の情緒的判断で刑罰は重罰化し、検察官は重い罪名で起訴するようになるのではないかと予想されていた。
この予想は見事に外れた。2005年に入ると対象事件は減少しはじめ、2004年と2008年を比べると 1000件以上も減った。検察官による裁判員裁判回避、「起訴控え」とでもいうような現象が生じた。
実際に裁判員裁判が始まると、コストを重視する現実主義が優勢になった。検察官は冒険主義的な重罪による起訴と重罰の求刑を手控えるようになった。
死刑・無期判決の増加と減少
1991年から2009年までの確定死刑判決は年平均7.9件である。ところが、2004年以降はほぼ倍の平均16件である。
これを審級別に見ていくと、地裁では2000年~2007年の平均が13.6件、高裁では1年後の2001~2008年の平均が14.9件、最高裁では2004年以降2009年までが13.8件。
この突出して増加している期間を「大量死刑時代」と呼ぶことができる。
この期間の死刑判決は、地裁および高裁がそれぞれ100件。ほとんどの死刑事件は最上級審まで行くので、このうち20件程度が、現在、最高裁に係属している。しかし、地裁では2008年、高裁では2009年で「大量死刑時代」は終わった。
無期懲役の増加は、死刑以上に顕著である。1990年代の前半、徐々に増加していた確定無期懲役判決数は、2000年ころから急増し、2006年には135件でピークを迎えた。
現在、無期懲役受刑者の仮釈放はきわめて稀であり、事実上「終身刑」になっている。