福岡県弁護士会 裁判員制度blog
2010年3月19日
裁判員裁判の傍聴記(その9)
2月末に裁判員裁判を傍聴しました。
2日間かけて審理があり、3日目に判決が言い渡されます。
裁判官と裁判員の評議のスケジュールはまったく分かりません(公表されません)が、判決言い渡しは早くから3日目の午後3時半と予定されていました。
結果は重大な案件ですが、被告人も弁護人も控訴事実は認めていて争っておらず、当初から有罪であることを前提として、言い渡すべき刑の長さだけが争点でした。裁判官と裁判員の評議が尽くされたかどうか、外部からはまったくうかがい知れませんが、裁判の進行中でもちょこちょこと意見交換はあっていたのでしょうから、本件においては2日目の夕方までには結論が出ていたのではないでしょうか。
裁判官には、判決書という書面を作成する必要がありますので、その作成時間もいくらか確保しておかなければいけません。3日目の午前中と午後3時までが判決書を作成するための余裕時間として設定されていたわけです。私も、本件ではそれでよいと考えました。
判決言い渡しの時刻の10分前に法廷に入ると、既に傍聴席は満員でした。傍聴席は報道席のほうが多く確保されています。腕章を巻いた若い男女の記者が次々に入ってきて、大学ノートを膝の上に広げています。一般傍聴席もほとんど満席です。10分前に着いて良かったと思いました。今日は傍聴人のための整理券は発行されていません。それほど世間から注目を集めた事件でもありませんし、なにより判決宣告日が本日の午後3時半だというアナウンス(広報)があったわけでもありませんので、傍聴人が殺到すると言うことは考えにくかったのです。それでも、あとから来た人が廊下から何人か顔をのぞかせましたので、立会の書記官から、傍聴人があふれないように長椅子を運び込むように指示が出て、遅れてきた傍聴人も着席することができました。
今日もカメラ録りがあります。定刻5分前に裁判官3人が法廷に入ってきて、2分間のカメラ録りが始まりました。このじっとしている時間というのは、いつも緊張します。裁判官3人は、慣れているのでしょうね。じっと正面を向いて微動だにしません。
カメラが出ていくのと入れ替わりに、被告人が拘置所の職員2人にはさまれるようにして入ってきました。さすがに軽快とは言えない足取りです。スリッパをはき、ジーパンとブラウスという、これまでと変わらぬ服装です。若い女性なのに衣装替えというのはしないものなのでしょうか、これは、本人の意向なのか、それとも替え着を持っていないということなのか、少しばかり疑問に思いました。男性の被告人だったら、同じ背広姿でも違和感はなかったでしょうが、若い女性のときには、3日間、毎日同じ服装でいいのかなと考えたことでした。
被告人に続いて、補充裁判員が一人、裁判所の職員に誘導されて入ってきます。補充裁判員は評議には関与したのでしょうか。どこで任務が解除されるのかなと思いました。たしか、裁判員は判決宣告に必ずしも立会する必要はないとされていたように思います。それでも、判決書には、署名する必要があったはずです。ということは、判決書がいつ出来上がるかによりますが、恐らく評議を尽くしたと言えるまで評論していたはずですので、2日目の夕方に評議が終わっていたとしても、判決書が完成したであろう3日目にも裁判員は裁判所に出頭する必要があるはずです。そうだとすると、せっかくなら判決宣告にまで立会したいと思うのが人情ですよね。顔を見せた補充裁判員は、そんな気持ちから出頭したのではなかったのでしょうか。
補充裁判員は司法修習生の机の一つに誘導され、そこに座りました。昨日までの審理のときには、ヒナ壇の上、裁判員席のうしろに控えていましたが、今日はヒナ壇の下に降りてきたことになります。ちなみに、司法修習生は合計6人いたのですが、今日は、なぜか1人欠席していました。それとも補充裁判員に席を譲ったということなのでしょうか・・・。
書記官が被告人の腰縄・手錠を外すように拘置所の職員に指示し、外れたことを確認したところで、電話で連絡します。したがって、裁判員は腰縄・手錠姿の被告人を見ることはありません。
定刻より4分遅れて、ヒナ壇のうしろ扉が開き、裁判長を先頭として裁判官2人のあと裁判員6人が入ってきます。うしろから一番若い裁判官が入り、扉を閉め、9人全員がヒナ壇にそろったところで傍聴席に向かって一斉に頭を下げます。これは、いつもの儀式です。
裁判長が被告人を証言台の前に立たせて、本人であることを形式的に確認すると、判決の言い渡しに入ります。検察官の求刑よりは少しだけ軽い刑が言い渡されました。裁判長は判決の結論である注文を告げると、「量刑の点は長くなるので、着席して聞いてください」と被告人に声をかけました。被告人は黙ってうなずき、その場で椅子に腰をおろします。
量刑の理由は、かなり長く、丁寧でした。検察官の主張を基本的に取り入れましたが、一部は排斥しています。弁護人の主張もいくらか取り入れられていました。
被告人は刑を決めた事情を裁判長が読み上げているあいだ、身じろぎもせず、じっと聞きいっていました。
書かれた判決文はかなり丁寧でしたので、やはり、それなりに時間をかけたものと思われます。評議で出てきた意見も十分かどうかは分かりませんが、反映されているという気がしました。
裁判長は判決文を読み上げたあと、説論をはじめました。これを省略してしまう裁判官をたまに見かけますが、これはぜひ被告人の更生のためにも、励みになるような声かけをしてほしいと私は常日頃思っています。
裁判長は、このように言いました。
「あなたはまだ若いし、あなたなりに考えてやったことではあるでしょうが、さらに考えてほしいと裁判所は考えました。
これからの長い勾留生活のなかで大いに学んで、視野を広げてほしい」
判決の言い渡しが終わったのは午後3時48分でした。ですから正味15分ほど判決の言い渡しにかかったことになります。
判決言い渡しが終わると裁判長一人を残して裁判員も裁判官2人もうしろの扉から退出していきます。それを確認して拘置所の職員が被告人に腰縄・手錠をかけ、反対側の廊下のほうへ連れ出していきました。
それを見届けて、裁判長が扉から消えます。
おつかれさまでした。(な)