福岡県弁護士会 裁判員制度blog

2010年3月 4日

裁判員裁判・傍聴記(その2)

 2月下旬、ある事件の法廷を傍聴しました。
 今回は冒頭陳述です。
 検察官は3人ですが、そのうちの1人が法廷内の証言台のあたりに立ち、ぺーパーを手にして前を向いて冒頭陳述を行います。
 その直前にA3サイズのカラー印刷のペーパー1枚が裁判体の全員と弁護人に配られました。
 検察官は裁判体に向かって明瞭な口調で、本件に登場してくる人物の人間関係、事件の背景、犯行状況を要領よく述べていきます。パワーポイントをつかって図示され、文字が次々に浮かび出てきます。
 A3サイズ1枚に詰め込んでしまったため、かなり細かく、法廷内のモニター画面にうつった文字は傍聴席からは読み取れません。
 検察官が裁判体に話しかけるようなジェスチャーで話しても、ほとんどの裁判員は手元にあるペーパーをじっと見ていて、検察官の顔を見ている人はいません。
 法廷内のモニター画面は、検察官と弁護人の背後の上の壁に大きく設定されていますが、それを見ているのは、傍聴席と司法修習生くらいです。傍聴人にとってはありがたいのですが・・・。
 検察官は被告人の氏名や生年月日について声を低めたので、傍聴席からは聞き取れませんでした。わざと、聞きとりにくくしたのでしょうか。性犯罪のときには被害者の氏名・住所は省略することが認められています。しかし被告人について、そのような配慮がなされるとは思えません。
 検察官が15分ほどで冒頭陳述を終わらせると、次は弁護人による冒頭陳述です。
 弁護人はパワーポイントではなく、OHPをつかいます。それにしても字が小さくて、傍聴席からは読み取れません。OHPの何枚かのシートをもう一人の弁護人が操作していきます。
 裁判員は弁護人の顔を見る人はほとんどいません。下をうつむいているだけなのか、手元に何か書面を渡されているのを読んでいるのか、よく分かりません。
 弁護人は裁判体に向かって話しかけようとはしていますが、OHPの原稿をもとに話すため、下を向くことが多く、しかも、声が小さくて傍聴席からはよく聞きとれません。
 結果が重大な事案においては、弁護人の口調も沈鬱なものにしないと裁判員から無用の反発を危険があります。
 検察官は冒頭陳述の終了後、もう一枚A3サイズのペーパーを裁判体の全員に配布しました。これは、申請した証拠のリストとその要旨の説明したもののようです。(な)

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2010年3月 5日

裁判員裁判 傍聴記(その3)

 2月下旬、ある事件の法廷を傍聴しました。
 弁護人の冒頭陳述が終わったところで、裁判長が30分間の休憩を宣言しました。裁判員裁判の特徴の一つが、この休憩です。たびたび休憩があり、いずれも25~30分間と長いのです。したがって、単なるトイレ休憩ではなく、裁判員の人たちに一つ一つ手続の意味するところを解説しているのだと思います。また、そうしないと、裁判員をまじえた審議(評議)がカラ回りする危険があります。各自の意見はともかくとして、目の前で展開していることについての共通認識が積み上げられていかないと、誤解にもとづくとんでもない意見が出てこないとは限りません。
 午前10時55分再開です。その5分前に被告人は入廷し、裁判体が入廷する前に腰縄と手錠が外されます。検察官が弁護人も同意した供述調書などの証拠書類を紹介し始めました。
 遺体写真もありましたが、これは法廷内のモニターには映りません。裁判員は、机上にある小型ディスプレイに見入っています。
 検察官は、その映像を出す前に「遺体の写真は刺激の強いものではありますが、本件では欠かせないものですので、どうぞご覧ください」という注意を裁判員に向けて述べていました。
 そのあと関係者の供述調書の朗読に移りました。
 まず、主任検察官が、これから朗読しようとする供述調書は誰のもので、何か書かれているか、読みあげに何分かかるかを紹介し、男性の調書は男性の検事が、女性の調書は女性検事がゆっくりゆっくり読んでいきます。スローテンポで、それなりの抑揚もありますので、聞いていてよく分かります。
 しかも、大切なところは途中で主任検察官が「これから読み上げるところは犯行直後の様子が述べられています」というような短いコメントを入れますので、趣旨は明確です。おおむね、一つの調書の読み上げは20分以内でした。
 たまに、その供述調書に引用されている銀行取引状況の画面が法廷内の大きなモニター上で表示されますが、こちらは文字が細かく、読みとれません。
 午前11時50分に午前の部は終了し、午後1時10分に再開されることになりました(な)

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2010年3月 8日

裁判員裁判 傍聴記(その4)

 2月下旬、ある事件の法廷を傍聴しました。
 午後からも供述調書の朗読が予定されています。ただ、その前に、遺体などの写真は午前中に取り調べすみになったわけですが、実は被告人に示していなかったということで、検察官は被告人席のすぐ近くに行って写真を示しました。被告人は無言のまま見ていました。
 関係者の供述調書について、女性だったら女性検事が読むと先に報告しましたが、午後からは女性の調書なのに女性検事に読ませず、主任検事が自ら朗読しました。
 警察のつくった捜査報告書も取り調べられました。これは争いのない事件なので、時間の節約のために関係者の供述調書までは不要としたもののようです。
 犯行に使われたロープと包丁が被告人に示されました。
 このとき、検察官がロープを素手で扱っているのを見て驚きました。ビニール袋に入れておき、必要なら取り出すべきものだったように思われます。包丁のほうはガラス箱に入れて、しっかり固定されていました。
 いずれも被告人に示したあと、壇上の裁判官席に置かれました。裁判員にはあとで回覧するのでしょうか・・・。(な)

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2010年3月 9日

裁判員裁判 傍聴記(その5)


 2月下旬、ある事件の法廷を傍聴しました。
 午後からは、いよいよ証人尋問です。尋問の前に裁判長が検察官と弁護人の双方に注文をつけました。
 「両脇の裁判員から被告人の顔が見えなくならないように、質問するときの立つ位置に気をつけてください」というものでした。
 なるほど、裁判官3人、両脇に裁判員が3人ずつ座っていますので、両端にいる裁判員は、検察官や弁護人の立つ位置によっては被告人の顔が見えなくなる恐れがあります。
 検察官は質問するとき、法廷内が暑いため、背広の上着を脱いでシャツ姿になり、自席から動いて検察官席の脇に立って質問を始めました。気がつくと首から何かぶら下げています。どうやらマイクのようです。そう言えば、中央にある書記官の机の上にはカメラのレンズが見えます。レンズは小さな木の箱に覆われていて、あまり注意を引きません。ただし、裁判長は証人に対して証言は録音録画していますということは述べていました。証人の証言はビデオ取りされ、評議のときに再現できるようになっているのです。
 検察官の質問のあと、弁護人が質問します。双方の質問が終わったあと、いったん休憩します。再開後、裁判体からの質問が予定されていますが、裁判長が促しても裁判員からの質問はありませんでした。
 そこで、次に裁判官2人から、先ほどからの証人の証言の意味を確認するような質問がなされました。(な)

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2010年3月10日

裁判員裁判 傍聴記(その6)


 2月下旬、ある事件の法廷を傍聴しました。
 証人調べのあと、被告人の供述調書が朗読されました。
 被告人が女性だったからでしょうか、女性検事がゆっくり読み上げていきます。
 主任検事がその前に、これから読み上げる調書に何が書かれているか、簡単にコメントします。
 身上・経歴、犯行に至る経緯、犯行の動機、犯行の状況、犯行後の行動など、10通ほどの被告人調書が読み上げられ、被告人の心理状況や行動が明らかにされます。
 調書のなかで問答部分になっているところは、主任検事が問いを読み、答えを女性検事が読むというような役割分担もあります。
 犯行状況の再現写真も調書のなかで出てきますが、こちらのほうは、先の遺体写真とは違って法廷内のモニター画面に大きく映されました。
 被告人の供述調書の読み上げにちょうど1時間かかり、午後4時すぎに第1日目の裁判が終了しました。(な)

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2010年3月12日

裁判員裁判 傍聴記(その7)


 2月下旬、ある事件の法廷を傍聴しました。
 2日目となりました。今日もテレビカメラの前撮りがありました。2分間、じっと身動きしないというのも気疲れするものです。
 午前9時50分に裁判開始の予定ですが、カメラの調子が良くないようです。書記官の人たちがいろいろ操作して、ようやく動くようになり、被告人が入廷します。若い女性です。上はブラウスにカーデガン、下はジーパン姿です。いわゆるジャージ姿ではなく、町で普通に見かける女の子スタイルですので、違和感はありません。履いているのはサンダルですが、一見すると革靴のようにも見えました。裁判員に予断を抱かせないよう、被告人の衣装にも気をつけています。
 被告人の腰縄・手錠が外されたあと、裁判官たちが入ってきます。一番最後に左陪席の裁判官が入ってきて、扉を閉め、全員そろって黙礼してから着席します。法廷内の全員も立って黙礼して着席しました。
 昨日受けとった包丁とロープは持参されませんでした。どこかにしまってあるのでしょう。
 尋問の前に裁判長が被告人に注意します。
 「あなたも事件について好きこのんで言いたいことではないでしょうが、裁判所としても一生懸命に聞いていますので、できるだけ大きな声で言ってください」
 被告人は黙ってうなずきました。まずは、弁護人から被告人に質問します。
 質問項目を書いたペーパーを右手に持ち、自席に立って、左を机について、少し前傾した姿勢で質問します。これは実は私もよくする姿勢なのですが、傍聴席から見ていると、やはり前傾姿勢というのはあまり見栄のよいものではありません。被告人に対して熱心なあまり身をのり出しているという姿勢を示すものとも言えますが、改善したほうがよいようです。自戒の念をこめて報告します。つまり自分の席にむいて背中を伸ばして立ったほうが格好よく見えるということです。
 あとで、検察官もときどき同じような前傾姿勢をとっていました。
 弁護人の質問が40分間ほどあったあと、25分間の休憩に入ります。恐らく、このとき、裁判官が裁判員に対して、初歩的なことを含めて、いろいろ手続について解説しているのだと思います。
 休憩後に検察官から質問があります。検察官としては、前日に被告人調書の朗読によって基本的な立証は終えているという考えのようで、被告人の今日の答弁のいくつかについて、主任そして女性検察官の順で質問していきました。
 被告人の声は大きくなかったのですが、マイクが使われているようで、傍聴席にいてもはっきり聞きとれました。これまでの法廷では、証言台で前を向いてボソボソ話されるとマイクがないものですから、傍聴席からはよく聞きとれないということがありましたが、改善されたようです。
 検察官の質問が終わり、裁判長が弁護人に対して補充質問がないかどうかを確認しました。弁護人が質問はないと答えると、裁判長が午後からは裁判所のほうから質問しますといって午前11時20分、早い休憩に入りました。(な)

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2010年3月16日

裁判員裁判・傍聴記(その8)


 2月下旬、ある裁判を傍聴しました。
 検察官の論告・求刑そして弁護人の最終弁論があります。
 検察官は主任ではなく、女性検事が立ち上がりました。証言台の前に立って、左手に原稿を持ち、右手にパワーポイントを操作するためのペン型のスティックを構えます。
 本件は公訴事実に争いはなく、量刑が問われています。パワーポイントによって場面を次々と切り換えて話を進めます。被告人に有利な情状にもあえて触れます。被告人が若いこと、前科・前歴のないことは、あたりまえのこと、ごくごく常識的なことだと切って捨てました。
 そして、求刑として懲役12年としました。
 傍聴席からすると、この時点で初めてパワーポイントの画面によって求刑を知るわけですが、実際には、裁判員の手元にはA3ペーパー1枚が配布されていますので、気の早い人はペーパーを手にしたときに求刑が12年であったことを知ったことでしょう。
 論告のとき、多くの裁判員は手元のパーパーに目を向けていて、検察官のほうを注視している人のほうが少ないように見受けられました。
 求刑があったので終わりかと思うと、検察官は、つい先ほどの被告人質問をふまえて、次のように付言しました。
 被告人は、先ほど「後悔していない」と述べました。これは犯行直後の供述調書と同じ言葉です。検察官は、今日の時点で、被告人が謝罪の言葉を述べることを期待していたのですが・・・。
 このときには、もちろん、あらかじめの原稿があったわけではありません。用意していたペーパーは証言台の上に置き、裁判員の顔ぶれをしっかり見ながら語りかける口調でした。裁判員も検察官のほうをじっと見つめて、考えている気配です。やはり、このようにして裁判員との交流があったほうが効果的ではないかという印象を持ちました。
 次の弁護人による最終弁論に移行する前、裁判長は検察官の配布していたペーパーに誤記があるのを指摘していました。もちろん、直ちに検察官はそれを認め訂正手続をとることにしました。
 弁護人の最終弁論は、直前にペーパー1枚を配って開始しました。
 これから弁護人の意見を申し上げます。その内容は終わった直後にペーパーを配布しますので、裁判員の皆さんは、私の話をよく聞いてください。
 このように言って弁護人は熱弁をふるいました。
 パワーポイントは使わず、OHPです。両手を証言台について、裁判員たちを順繰りに見つめながら大きな声で最終弁論を展開していきます。キーワードを2つに設定して、それぞれにもとづいて展開するというやり方は、初めて見ましたが、裁判員の興味・関心をひきつけるうえでは有効だろうと思いました。
 最後に、結論として、弁護人は量刑として懲役6年が相当であると結びました。弁護人は裁判に対して、ペーパーを2種類配ることになります。そして、弁論用の原稿も別に用意していました。
 双方の意見が終わって、次の手続に移ると思っていると、突然、裁判長が大きな声で傍聴席に向かって話しかけます。
 「傍聴席の最前列の人」という呼びかけには、私も最前列にいましたから、ドキッとしました。そして、裁判長の次の言葉を聞いてある意味で安心しました。
 「寝るのなら、廊下に出てからにして下さい」
 えっ、何のこと、誰だろうと思って左のほうを見ると、なるほど、60歳ほどの背広を着た男性が大口を開けて眠りこけています。恐らく、本件とは関係のない人が暇つぶしを兼ねて軽い気持ちで法廷に入ってきたのでしょう。それにしても、ひどい話です。人が殺されたという事件で、弁護人が熱弁を奮っているのに大口を開けて最前列で居眠りするなんて信じられません。公開の法廷というのは、ときにとんでもないことが起きるものです・・・。(な)

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2010年3月19日

裁判員裁判の傍聴記(その9)


 2月末に裁判員裁判を傍聴しました。
 2日間かけて審理があり、3日目に判決が言い渡されます。
 裁判官と裁判員の評議のスケジュールはまったく分かりません(公表されません)が、判決言い渡しは早くから3日目の午後3時半と予定されていました。
 結果は重大な案件ですが、被告人も弁護人も控訴事実は認めていて争っておらず、当初から有罪であることを前提として、言い渡すべき刑の長さだけが争点でした。裁判官と裁判員の評議が尽くされたかどうか、外部からはまったくうかがい知れませんが、裁判の進行中でもちょこちょこと意見交換はあっていたのでしょうから、本件においては2日目の夕方までには結論が出ていたのではないでしょうか。
 裁判官には、判決書という書面を作成する必要がありますので、その作成時間もいくらか確保しておかなければいけません。3日目の午前中と午後3時までが判決書を作成するための余裕時間として設定されていたわけです。私も、本件ではそれでよいと考えました。
 判決言い渡しの時刻の10分前に法廷に入ると、既に傍聴席は満員でした。傍聴席は報道席のほうが多く確保されています。腕章を巻いた若い男女の記者が次々に入ってきて、大学ノートを膝の上に広げています。一般傍聴席もほとんど満席です。10分前に着いて良かったと思いました。今日は傍聴人のための整理券は発行されていません。それほど世間から注目を集めた事件でもありませんし、なにより判決宣告日が本日の午後3時半だというアナウンス(広報)があったわけでもありませんので、傍聴人が殺到すると言うことは考えにくかったのです。それでも、あとから来た人が廊下から何人か顔をのぞかせましたので、立会の書記官から、傍聴人があふれないように長椅子を運び込むように指示が出て、遅れてきた傍聴人も着席することができました。
 今日もカメラ録りがあります。定刻5分前に裁判官3人が法廷に入ってきて、2分間のカメラ録りが始まりました。このじっとしている時間というのは、いつも緊張します。裁判官3人は、慣れているのでしょうね。じっと正面を向いて微動だにしません。
 カメラが出ていくのと入れ替わりに、被告人が拘置所の職員2人にはさまれるようにして入ってきました。さすがに軽快とは言えない足取りです。スリッパをはき、ジーパンとブラウスという、これまでと変わらぬ服装です。若い女性なのに衣装替えというのはしないものなのでしょうか、これは、本人の意向なのか、それとも替え着を持っていないということなのか、少しばかり疑問に思いました。男性の被告人だったら、同じ背広姿でも違和感はなかったでしょうが、若い女性のときには、3日間、毎日同じ服装でいいのかなと考えたことでした。
 被告人に続いて、補充裁判員が一人、裁判所の職員に誘導されて入ってきます。補充裁判員は評議には関与したのでしょうか。どこで任務が解除されるのかなと思いました。たしか、裁判員は判決宣告に必ずしも立会する必要はないとされていたように思います。それでも、判決書には、署名する必要があったはずです。ということは、判決書がいつ出来上がるかによりますが、恐らく評議を尽くしたと言えるまで評論していたはずですので、2日目の夕方に評議が終わっていたとしても、判決書が完成したであろう3日目にも裁判員は裁判所に出頭する必要があるはずです。そうだとすると、せっかくなら判決宣告にまで立会したいと思うのが人情ですよね。顔を見せた補充裁判員は、そんな気持ちから出頭したのではなかったのでしょうか。
 補充裁判員は司法修習生の机の一つに誘導され、そこに座りました。昨日までの審理のときには、ヒナ壇の上、裁判員席のうしろに控えていましたが、今日はヒナ壇の下に降りてきたことになります。ちなみに、司法修習生は合計6人いたのですが、今日は、なぜか1人欠席していました。それとも補充裁判員に席を譲ったということなのでしょうか・・・。
 書記官が被告人の腰縄・手錠を外すように拘置所の職員に指示し、外れたことを確認したところで、電話で連絡します。したがって、裁判員は腰縄・手錠姿の被告人を見ることはありません。
 定刻より4分遅れて、ヒナ壇のうしろ扉が開き、裁判長を先頭として裁判官2人のあと裁判員6人が入ってきます。うしろから一番若い裁判官が入り、扉を閉め、9人全員がヒナ壇にそろったところで傍聴席に向かって一斉に頭を下げます。これは、いつもの儀式です。
 裁判長が被告人を証言台の前に立たせて、本人であることを形式的に確認すると、判決の言い渡しに入ります。検察官の求刑よりは少しだけ軽い刑が言い渡されました。裁判長は判決の結論である注文を告げると、「量刑の点は長くなるので、着席して聞いてください」と被告人に声をかけました。被告人は黙ってうなずき、その場で椅子に腰をおろします。
 量刑の理由は、かなり長く、丁寧でした。検察官の主張を基本的に取り入れましたが、一部は排斥しています。弁護人の主張もいくらか取り入れられていました。
 被告人は刑を決めた事情を裁判長が読み上げているあいだ、身じろぎもせず、じっと聞きいっていました。
 書かれた判決文はかなり丁寧でしたので、やはり、それなりに時間をかけたものと思われます。評議で出てきた意見も十分かどうかは分かりませんが、反映されているという気がしました。
 裁判長は判決文を読み上げたあと、説論をはじめました。これを省略してしまう裁判官をたまに見かけますが、これはぜひ被告人の更生のためにも、励みになるような声かけをしてほしいと私は常日頃思っています。
 裁判長は、このように言いました。
 「あなたはまだ若いし、あなたなりに考えてやったことではあるでしょうが、さらに考えてほしいと裁判所は考えました。
  これからの長い勾留生活のなかで大いに学んで、視野を広げてほしい」
 判決の言い渡しが終わったのは午後3時48分でした。ですから正味15分ほど判決の言い渡しにかかったことになります。
 判決言い渡しが終わると裁判長一人を残して裁判員も裁判官2人もうしろの扉から退出していきます。それを確認して拘置所の職員が被告人に腰縄・手錠をかけ、反対側の廊下のほうへ連れ出していきました。
 それを見届けて、裁判長が扉から消えます。
 おつかれさまでした。(な)

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2010年3月25日

裁判員裁判の傍聴記(その10)


 2月末にあった裁判員裁判を傍聴しました。これは弁護士会のモニターに応募したものです。
 裁判員裁判については、これまでのところ全件が報道されています。初めのころのように傍聴希望者が殺到して傍聴整理券が発行されることはなくなりましたが、それは公判日の予告が一般にはなされないことも大きいと思います。
 ところで、私が傍聴した裁判員裁判は、新聞によると、裁判の前日にあった裁判員裁判の選任手続に、出席義務のある33人のうち28人が裁判所に出席したとのことです。出席率は85%です。これは大変な高率だと思います。
 ヒナ壇に座った男女各3人の計6人の裁判員は生まれて初めて、今後まず経験することはありえないというなかで、大変真剣に聞いていました。
 やはり日本人って、真面目なんだなあと、つくづく思いました。
 裁判員になりたくはないけれど、あたったからには呼ばれたら出ていくし、選ばれたら、それなりに尽くそうというのが一般の日本人の感覚ではないでしょうか。
 裁判に市民が加わることによってもたらされる裁判の緊張感は、日本の刑事裁判を大きく変えていくものだと私は確信しています。 (な)

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2010年3月26日

裁判員選任手続の実情

『法の支配』156号(2010年1月号)に最高裁事務総局の斉藤啓昭刑事局第一課長が「裁判員裁判の実施状況について」として、裁判員選任手続の実情を紹介しています。(な)
 10月31日までの判決46件について、選任手続の実施状況をみると、事件ごとに選定された候補者は合計4200人。同封した調査票の回答にもとづいて、70歳以上、学生といったいわゆる定型的辞退事由に当たるとして辞退等が認められた候補者が764人。重い病気やけがによる辞退等が認められた候補者を加えて、呼び出さない措置がされた候補者は1176人だった。呼出状を送付した候補者は3024人。選定された候補者に占める割合は72%。
 次に、質問票により辞退を申し出るなどして呼出しの取消しが認められた候補者が944人だったので、選任手続期日に出席が求められた候補者の数は 2080人。最初に選定された候補者に占める割合は49.5%。
 出席者の中には、呼出状が不送達となり現実には出席が期待できない候補者が含まれているので、これを除くと出席率は91.5%。
 選任手続期日で辞退が認められた候補者が204人、理由のある不選任となった候補者が7人、理由を示さない不選任となった候補者が229人、くじにより不選任となった候補者が937人であった。最終的に選任された裁判員の数は278人、補充裁判員の数は116人だった。
 選定された候補者のうち、最終的に辞退が認められたのは合計2218人 (52.8%)であるが、このうち90.8%に当たる候補者は、選任手続期日前に、すなわち裁判所に出向くことなく辞退が認められた。
 そこで、審理期間が3日程度の事件の選任手続をイメージすると、当初70人から100人程度の候補者が選定され、このうち20人から30人が調査票の回答にもとづく辞退等が認められる。50人から70人前後の候補者に選任手続期日のお知らせ(呼出状)及び質問票が送付され、その回答にもとづいて、さらに20人から30人の候補者が辞退(呼出取消し)を認められる。残った30人から40人程度の候補者のうち、9割近い候補者が選任手続期日に出席し、当日の辞退申し出や不選任請求を経て、最終的にくじで裁判員及び補充裁判員が決まる。
 9割という候補者の出席率は、無作為抽出を基本とした、国民の刑事裁判への参加制度をとっている諸外国と比較しても、きわめて高い数字である。

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