福岡県弁護士会 裁判員制度blog

2009年7月28日

「45%の人こそ頼りになる」

 前の検事総長の但木敬一氏(現在は弁護士)が本年3月25日に法曹会館で「日本人と裁判員制度」という講演をしたものが東大法曹界ニュースに掲載されています。
 検察庁サイドから裁判員裁判をどう見ているのか、よく分かる面白い指摘がなされていますので、抜粋して紹介します。(な)

 「だいたい今の色分けで言いますと、約3割の人は、絶対嫌だ。それから45%の人が、嫌だけど義務だから出る。20%の人が、俺は行く。こんな色分けです。この45%のこの人たちをどっちに見るかによって、物事の判断はまったく変わってきます。
 正直に私は申しますと、実はこの45%の人こそが裁判員裁判でもっとも頼りになる人だと思っています。日本人は決して手を挙げて、俺は人を裁きにいきたいんだという人が多数になるわけがない。それから、今まで一度もやったことがないことですから、誰もまず俺のところに来ないでほしい。まず誰かがやって、それがうまくいって、俺もできそうだったらやってもいい。
 これは、日本人の当たり前の発想であって、つまり45%の人たちが普通の日本人の反応をしていて、義務だから行くというのは非常に大事な言葉であって、嫌だけど俺は行くぞ、というのが日本人としての表現方式であると思っています。ただ、それは残念ながら法曹三者が金や太鼓をたたいて、みんなどんどん積極的になってくださいよと言うけど、やっぱり始めてみて実際にうまくいくかどうかをみんな見ている状態だと思いますね。
 だから、体験した人の情報をどうやってみんなに行き渡らせるかというのはすごい大事なことなんです。初めてやった人たちがうまくいっているのかどうかという情報ですから、これはすごい大事な情報です。だけど、一方で守秘義務というのがあるから、それと衝突しているのも間違いない。これをメディアと裁判所で今まだ話し合っている最中だと思うんです。ぜひ合理的なランディングをしてもらいたい。基本的には、国民の協力を得なければできない制度だから、できるだけ情報は公開してもらいたいというのが私の切なる希望です。
 まったく革命的な制度ですから、初めから100%うまくいくとは僕は思っていないんです。定着するまでに5年、10年かかる。それを覚悟してやらなきゃいけない。悪いところはどんどん直していく。ためらうことなくどんどん直していったらいい。今の守秘義務も、もう1つうまい解決方法はないかなと初めから思っています。
 私は、これが円熟して完熟の域に達するのは、今の高校生とか、中学生とか、小学生が、法教育というのはいよいよ教育指導要領の中に入ってきます。教科書の中にも少しずつですが、記述が入るようになります。この子たちが大人になって参加してくるころが、完熟すると思います。
 逆に、司法への国民参加をやめるという方向の選択が将来ともにあり得るかと言えば、それはないと私は思っています」

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