福岡県弁護士会 裁判員制度blog
2009年3月30日
模擬裁判の成果と課題
これまで全国各地で実施された模擬裁判の反省点をふまえて最高裁判所(事務総局刑事局)が検討した結果が判例タイムズ1287号(09.3.15)に紹介されています(「模擬裁判の成果と課題」)ので、2回にわけて、ごくごく一部を紹介します。実務のうえで参考になると思いますので、興味をもったら、ぜひ原典にあたってみて下さい。(な)
○ 量刑についての評議資料
従来どおりの総花的な情状事実の列挙によっては、裁判員に的確に主張を理解してもらうことは困難であり、当事者においてもいずれの量刑事情を重視すべきか、当該量刑事情が具体的な求刑・量刑意見にどのように結びつくかなどといった点についての説得的な説明方法をふくめ、論告・弁論の在り方を一層検討していく必要があろう。
論告・弁論においても裁判員裁判用の量刑検索システムを意識した意見が展開されることが望ましい。もしこれにもとづくもの以外の量刑資料を用いた求刑または量刑意見がなされた場合、とりわけ特殊な裁判例が引用された場合は、裁判員を混乱させるおそれがあるのみならず、当事者の主張した量刑資料が妥当であるかを確認するために判決書などの証拠調べが必要となって、裁判員の大きな負担ともなろう。
もとより、当事者が独自の量刑資料の提出を強く求めた場合、これを制限することはできないものの、当事者の求刑または量刑意見を評議の議論の中で的確に反映させるためには、当事者においても、裁判員裁判用の量刑検索システムにもとづく量刑資料を使用し、当該事案の個別事情の存在を主張して、量刑分布の中に当該事案を位置づけて求刑・量刑意見を述べてもらうことが有益であろう。
論告・弁論において、各量刑事情は、総花的でなく、重要度を考慮して位置づけられる。量刑評議においては、そうした各量刑事情全体を基にして1つの視点を提供する論告と、別の視点を提供する弁論を、それぞれ全体として説得的なものとして評価できるかどうかを検討していくものであるべきである。
この検討の結果、量刑評議において到達する事件全体の構図・見方について、「論告が全面的に正しい」とか「弁論が全面的に正しい」という結果になることはあるかもしれないが、まれであろう。同一の事情に関しても「論告の言い分はもっともであるが、弁論にもうなづける部分がある」ということが多いのではないか。判決の量刑の理由は、この検討の結果をそのまま記載するものとなろう。
刑期の議論だが、裁判員裁判では、刑の量定に関しても国民の率直な視点や感覚が反映されることが前提となっている。しかし、刑法所定の刑罰の幅は広く、事実認定をしたあと、検察官の求刑や弁護人の量刑意見はあるものの、それ以外の判断材料のない状態で具体的な量刑意見を述べよと言っても、それは裁判員に不可能を強いるものであろう。
そこで何らの手がかりが必要となろう。裁判員裁判用の量刑検索システムにもとづいて作成される量刑分布グラフは、この手がかりのための有効な方策として作成されたものである。量刑分布グラフを提示することをためらう必要はないであろう。
量刑分布グラフを示す場合には、あくまでも具体的な量刑意見を述べてもらうための参考資料であり、量刑分布グラフに示された量刑の幅に必ずしも縛られる必要はないであろう。
量刑分布グラフを示す場合には、あくまでも具体的な量刑意見を述べてもらうための参考資料であり、量刑分布グラフに示された量刑の幅に必ずしも縛られる必要はないことについて、適切に説明しておくことが必要であろう。