福岡県弁護士会 裁判員制度blog
2009年3月25日
模擬裁判の成果と課題
これまで全国各地で実施された模擬裁判の反省点をふまえて最高裁判所(事務総局刑事局)が検討した結果が判例タイムズ1287号(09.3.15)に紹介されています(「模擬裁判の成果と課題」)ので、2回にわけて、ごくごく一部を紹介します。実務のうえで参考になると思いますので、興味をもったら、ぜひ原典にあたってみて下さい。(な)
○ 公判における供述調書の朗読
供述調書については、その実質的な内容を全て公判廷に顕出するためには、基本的に、全文朗読または限りなくこれに近い要旨の告知(供述調書の全文を一言一句読み上げることまでは要しないといった程度の要旨の告知)の方法によることになろう。
そうした方法により、裁判員に書証の内容を的確に理解してもらうためには、書証の内容自体が犯罪事実と重要な情状事実に即した簡にして要を得たものとなっていることが必要であるとともに、朗読の仕方に工夫が必要となってこよう。
○ 評議のあり方
裁判員裁判の審理は、公判廷での審理そのものによる心証を形成できるようなものでなかればならず、審理が終わればそのまま評議が可能な状態となっていなければならない。評議を行うために裁判官から審理の説明が必要となるような審理であってはならないのである。
評議では、審理での当事者の主張立証、最終的には論告・弁論を参考に、検察官の主張する主張する事実が、弁護人の主張立証したところを踏まえても、合理的疑いを容れない程度に立証できたかを議論する。
こうした評議の在り方は、裁判員裁判において、裁判員の負担を軽減しつつ、裁判員と裁判官が一体感を持って実質的な評議を行い、適正な事実認定および量刑に至るための実践的な指針としても、正しい方向性を持つと思われる。
もっとも、必ず論告・弁論に記載されたとおりの順序で評議をしなければならないというわけではない。そのように形式的に考えてしまうと、評議が硬直化し、ともすると裁判員の自由な意見表明を阻害することにもなりかねないであろう。この点、公判前整理手続において的確な争点整理がされていれば、通常は、評議においても論告・弁論に記載された順序で議論がされることになると考えられる。
評議においては、裁判員には裁判官が持っていない視点や感覚の提示が期待される一方、それは単なる裁判員の意見・感想のぶつけ合いの雑談であってはならず。裁判官においても、犯罪や刑の本質、自らの知識と経験に根ざした証拠評価の観点などを裁判員と同じ目線で提示することによってはじめて、裁判官と裁判員との真の協働を実現することが可能となる。
裁判員裁判のもとでも刑事裁判の本来の真相解明機能は損なわれないのと同じ意味で、裁判官の専門性は少しも損なわれない。いや、犯罪や刑の本質などを非法律家と共有できる専門性を求められるということでは、より高い本質的な専門性が必要とされるのである。
評議においては、裁判官としても、自己の意見を過不足なく正確に述べることが必要であろう。ただし、その際は、裁判員の意見にも真摯に耳を傾け、裁判員との対話により、より説得力のある結論が導き出され得ることを常に念頭に置いて議論することが肝要であろう。