福岡県弁護士会 裁判員制度blog
2008年5月29日
合理的な疑問(合理的な疑い)
『裁判員のための法廷用語ハンドブック』(三省堂)より、引き続き紹介します。(な)
○ 弁護人による最終弁論の例
証拠を見て、証拠にもとづいて、皆さんの常識に照らして「有罪であること」に少しでも疑問があったら、有罪にはできません。
皆さんの常識に照らして「無罪なのではないか」という疑問が残らない程度に検察官が証明していないのであれば、有罪の判決はできません。
裁判員の皆さんは、「被告人が犯人か、犯人ではないか」という結論を出すことにこだわる必要はありません。皆さんの常識に照らして証拠を検討した結果、検察官が証明しようとしていることについて、少しでも疑問があれば、皆さんは無罪の評決をしなければなりません。
皆さんは被告人が犯人か犯人でないかを決めるのではなくて、犯人だと断定することに「疑問があるか、ないか」を判断すればよいのです。有罪と無罪を分けるのは、この点です。
○ 評議のとき、裁判官の発言の例
有罪と判断するには、皆さんが証拠にもとづいて判断して、被告人が間違いなく犯人であることが確実であると言えなければなりません。
もし有罪らしく見える証拠があったとしても、皆さんの常識から見て犯人でない可能性が残る場合には、それは「確実」とは言えません。
○ 刑事裁判における「有罪判決」のルール
刑事裁判では、検察官が主張していることと弁護人が主張していることと、どちらが正しいのかを判断するのではありません。検察官は、被告人が有罪であることを証明する責任を負っています。検察官がこの証明に失敗した場合には、被告人は無罪となります。
裁判員は、検察官が有罪の証明に成功したかどうかを検討すればよいのです。
検察官は、合理的な疑問を残さない程度の証明を行わなければなりません。合理的な疑問を残さないという意味は、裁判官と裁判員が審理のなかで現れた証拠を検討して、常識に照らして、検察官の主張(被告人が有罪であること)が間違いないと言い切れるということです。したがって、被告人が有罪であることが常識に照らして間違いないとまでは言い切れないときは、被告人が有罪であることについて合理的な疑問が残ったということになり、検察官は有罪の証明に失敗したことになります。このときは、被告人は無罪となります。