福岡県弁護士会 裁判員制度blog
2008年2月20日
裁判員の心を動かす情状弁護
日弁連委員会ニュース(2月1日号)に、争いのない強盗殺人事件での裁判員模擬裁判において、裁判員の衝撃的な発言が紹介されています(鍛冶伸明弁護士)。
長いあいだ法曹三者において常識としてきたことが通じないというのです。なるほどと思いましたので、紹介します。(な)
「これまでの一般的な情状弁護にやり方では通用しないことが明らかになった。
本事件の被告は、事件当時21歳であり、前科もありません。また、事件については深く反省している。この場合、弁護人としては、最終弁論で、『被告人は反省している。若年で、前科もない』と指摘する。裁判官が被告人に有利な事情として考慮してくれたはず。
弁護人は、最終弁論において、これらの事情を酌量減軽すべき事情のひとつとして当然のように指摘した。評議では、裁判官もこの点を取上げて、『若いし、前科もないのだから、酌量減軽すべき』と述べていた。
しかし、ある裁判員は、『前科がないのは当たり前。私のまわりには前科がある人などいない』と指摘し、前科がないことは被告人に有利な事情ではないという意見を述べた。
また、他の裁判員は『何の罪もない人が1人殺されている。若いからといって許されるものではない』という意見を述べた。
さらに、『たとえば同じ30年でも、20歳の人の30年と60歳の人の30年とでは重みが違う。60歳の人が30年としたら、20歳の人は50年、60年が上限でもよい』などと、『若い』ということが、むしろ不利な事情であるという指摘をする裁判員もいた。
『反省』については、『反省するのは当たり前。もし反省していないのであれば、本当に情状酌量の余地がなくなるが、逆に、反省しているというだけでは、有利な事情にはならない』という意見もあった。
被告人が反省していること、若年であること、前科がないことなどは、被告人に有利な事情であると当たり前のように考えていたが、それは、裁判員には通用しない。反省していること、若年であること、前科がないことなどが、なぜ被告人に有利な事情なのかを丁寧に説明する必要がある」