福岡県弁護士会 裁判員制度blog

2007年10月15日

裁判員の認識と誤解

 仙台で裁判員模擬裁判をやったときの裁判員の反応が日弁連新聞の記事になっていました。大変、参考になると思いますので、ここに紹介させていただきます。仙台弁護士会の橋本治子弁護士の書かれた記事です。紹介にあたって少し手直ししています。(な)
 事件は、コンビニで万引きした23歳の若者が、逮捕を免れるために店長を殴り、怪我を負わせたという(事後)強盗致傷です。争点は量刑についてでした。
○ 往生際が悪い?!
  被告人が自白しつつ犯行態様について一部争ったところ、往生際が悪い、争う意味があるのかと感じた人がいた。
○ 「ハンコウヨクアツ」って何?
 「反抗抑圧」の意味を誤って理解していた裁判員がいた。被告人の「犯行」が被害者によって「抑圧」されたと考えた。
○ 「示談」は当然?!
  示談は、して当然、といった意見が出た。
  示談を成立させるのがどれほど大変な作業か、市民に理解してもらうのが今後の課題。
○ 「監督」できない?
  情状証人(被告人の母親)に対する評価は低く、「結局、被告人を十分に監督できていなかったではないか」という結論で終わった。
  被告人を信じて待っている人がいるということが、被告人の更生にどれほど重要か、いかにして理解してもらえば良いのか、さらなる工夫が求められている。
○ 科刑の誤解
  1年単位で刑を科すと誤解している人がいた。また、本件は前刑の執行猶予が取り消される事案だったが、一番重い量刑を述べていた人が、執行猶予が取り消される懲役刑を加算して意見を述べていたことが評議の最終段階において判明(したがって、実は裁判員の中で一番軽い量刑意見だった)。実際の事件では、このような重要な点に関して誤解が生じないようにする必要がある。
○ 評議の仕方
  1人ずつ意見を述べるのがいいのか、無記名投票がいいのか。量刑資料の取扱いについてはどうすべきか。まだまだ検討すべき課題は多い。 

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2007年10月22日

裁判官と裁判員の着席位置

 最新の『季刊・刑事弁護』(52号)に、裁判員裁判のもとでの活発な評議を保障するために、その着席位置も大切だという指摘がなされています。なるほど、と思いましたので、紹介します。(な)
○ 大阪では裁判官と裁判員が交互に座るという方式でした。
○ 東京もそうでした。
○ 千葉も今はそうです。
○ 京都も今はそうです。前は裁判官3人がホワイトボードの前に並ぶ従来型でしたが、6月のときは、裁判員1、裁判長、裁判員2、同3、右陪席、裁判員4、同5、左陪席、裁判員6の順番でした。
○ 座る位置というのは非常に重要で、裁判員と裁判官が交互に座って、裁判官チームが一緒になって座るのは避けたほうがいい。
○ 裁判官が3人揃って座って、そして右も左も黙っているというのは、意見を言わないけど明確にこちらは「裁判官チーム」だと裁判員に示していることになる。

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2007年10月29日

裁判員裁判の評議のすすめ方

 評議の司会は誰がするのか、裁判官の発言はどうあるべきか、『季刊・刑事弁護』52号に、各地の模擬裁判員裁判の経験をふまえた座談会の記事がありました。とても参考になりましたので、紹介します。(な)
○ 裁判長は司会に徹して、裁判員の発言を求めるような評議をすすめた。裁判長は一生懸命に意見を聞こうとするが、なかなか裁判員の意見が出てこなくて、裁判官と裁判員だけの一方通行の単線化した議論になっていた。どうしたら「議論の複線化」ができるか。
○ 東京では、司会は右陪席にやらせて、裁判長は何かあったときに議論を修正するときにしか発言しないというように進んでいた。
○ 司会を担当している右陪席は、自分の意見はほとんど言わないで、ほかの人に言わせていた。
○ 大阪では、裁判長が最初に「この点について皆さんどう思われますか」とオープンな質問で口火を切った。
○ 裁判員がいろいろ話をはじめると、「この点はどう思われますか」と、右陪席が疑問をぽんと挟む。右陪席は、裁判員の意見が一つの意見に収斂されてくると、また別の視点をぽんと入れる。そういう意味で多角的な検討を可能にしているような状況だった。
○ 右陪席はホワイトボードに皆さんの意見を書いたり、ときに自分も発言してみたりしていた。
○ 発言を振るのは常に裁判長というわけではなくて、裁判官それぞれが裁判員に振っていた。裁判官同士も、誰が司会進行役と限定せず、いろんな立場に立っていた。
○ 視点をいくつも入れる。それも裁判官の考え方として出すわけではない。誘導の形で出すのでなく、「この点についてはどう思われますか」というように、議論に新たな視点を投げ込むという感じで、非常に上手にすすめていた。
○ 京都では、裁判官3人の発言の割合は裁判長が8、右陪席が1.5、左陪席が0.5くらい。裁判長が司会進行もやり、裁判員の発言を要約するが、要約の仕方やそれを受けて裁判員へ振る質問の仕方自体に裁判長の意見が入っていた。誘導したい方向性も見えている。だから、発言を振られた裁判員は、こう答えないといけないと思ってしまう。
○ 裁判官の右と左で意見が分かれるときは、積極的にそれを言ったほうがいい。ただし、言うタイミングもある。あまり早く言うと、裁判官は知識もあると思われているし、情報もある。必然的に、裁判員が裁判官の意見に従ってしまうという結果が生まれる。そこが難しい。

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