福岡県弁護士会 裁判員制度blog
2007年3月 6日
法廷用語の日常語化(その4)
教唆するとは、他人をそそのかして犯罪をやる気にさせること。
この言葉は一般用語としても使われており、それほど難解ではないと中間報告書でコメントされています。しかし、そうでしょうか。読み方だって難しいように思いますが、いかがでしょうか。
岩波の国語辞典では、おだててそそのかすこと。法律で、犯罪を行おうと思うように他人にし向けること、となっています。教唆扇動という言葉が例としてあがっています。
法律用語としては、? 教唆犯が処罰されるのは主犯が成立するときであるが、特別法でその例外が定められているときも処罰対象となること、? 教唆犯に近い概念として「共謀共同正犯」があり、厳密さを求めると詳細な説明が必要となる、ともされています。
どのような場合に、この教唆するという言葉が法廷に出てくるか。中間報告書には、3つあげられています。
? 教唆を受けて実行行為をした人が起訴されたとき
たとえば、殺人事件の実行行為をした人の裁判で、○○の教唆のもとに殺人を犯したと説明される。
? 教唆自体が処罰の対象になっているとき
たとえば、殺人教唆で起訴され、○○を教唆して、と説明される。
このときには、どんなときに教唆犯が処罰されるのか法律的な説明が必要になってくることがある。
? 共謀共同正犯で起訴され、教唆だとして争うとき
たとえば、共犯ではなく、単に教唆したに過ぎないと主張することがある。このときには、教唆と共謀共同正犯の違いは当然に必要になる。
以上をふまえて、中間報告書は次の2つを論点として提起しています。
その一つは、法律上の教唆犯の成立条件を厳密にイメージして説明する必要はなく、一般用語としての説明だけで足りるのではないか。
主犯が実行行為を行ったときに処罰されるという説明は、かえって裁判員を混乱させるのではないか。共謀共同正犯との違いは、それが問題となるときに限って説明すればよい。
その二は、教唆は犯罪を実行させることか、犯罪をやる気にさせることか、ということ。実行に着手したかどうかは起訴段階で既にクリアされているから、裁判員に対する説明として重要なのは、そそのかして、やる気にさせること、である。
なるほど、そうかもしれません。というより、そうなのでしょう。でも、これを言葉だけで裁判員に分かってもらうというのは、なかなか大変な気がします。実際、あまり一般になじみのない用語ですからね。(な)