福岡県弁護士会 裁判員制度blog

2005年12月19日

裁判員制度全国フォーラム in 福岡

副会長
三浦邦俊


 平成一七年一〇月一日午後一時から、福岡市のスカラエスパシオにおいて、裁判員制度全国フォーラムin福岡が開催されました。これは、裁判所が年間予算五億円をもって始めた裁判員制度の普及活動の一環であり、全国五二都道府県で、同様の普及活動を、各地方裁判所が、電通に企画をさせ、各地元新聞社の共催で実施するものの先陣を切って、福岡ほか全国五箇所で開催された裁判員制度の一般市民向け広報活動であり、約四〇〇名収用の会場は、ほぼ満員の状態でした。参加応募の段階で、五名分の応募をおこなってみましたが、全部外れてしまうほどで、まずは、第一弾の市民向け広報は、周到な準備もあって順調に滑り出したと評価できます。以下は、当日のフォーラムの概要を報告するものです。

 龍岡資晃福岡高裁長官の挨拶のあと、最高裁が作成した「刑事裁判〜ある放火事件の審理〜」が上映されました。内容的には求刑までですが、刑事裁判の概要が、一般の人でも良くわかるように製作されたビデオでした。予算をかけられる点が羨ましいとは思いましたが、お願いすれば貸して頂けそうな内容です。

 引き続き京都大学法学部の酒巻匡教授による「刑事裁判とはどのようなものか? そこで裁判員は何をするのか?」と題する基調講演がおこなわれ、裁判員制度が、重大な刑事事件について一般市民に有罪、無罪の判定と、刑の量刑を担ってもらう制度であることの説明と、環境整備として、裁判員の負担を軽減するような制度の運営やサポートの実施など専門家の責務が大きいこと、また、裁判員のための経済的なサポート及びプライバシーの保護がおこなわれなければならないとの指摘がありました。

 その後、酒巻教授、作家の夏樹静子さん、歌手の早見優さん、大名校区自治連合会役員の井上鴻一さん、川口宰護判事、矢吹雄太郎検事、上田國廣弁護士をパネリストとし、西日本新聞社研修局社会部長の児嶋昭さんがコーディネーターとなって、パネルディスカッションがおこなわれました。口火を切ったのは夏樹さん。現在の裁判の印象は、見えない、聞こえない存在であった。全て傍聴をしていても、何がおこなわれているのかわからない。事件の全体が法廷に出される制度ではない、裁判の公開といっても傍聴席向けの法廷ではなかったため、法曹三者が勝手に何かやっている、裁判官は遠い存在であるとの厳しい指摘。これを受けて川口判事が、わかりにくい裁判となっている原因について、第一に調書を多用する裁判となっていること、第二に、手続が法定されおり、専門家が、この法定の手続に乗っ取って進める制度となっていること、第三として、法律用語が多用されることがあげられるとの説明をされました。さらに、裁判員制度導入の意義については、一般の人の社会常識が裁判に反映される。判りやすい裁判の実現により裁判が身近なものとなる。裁判が社会に影響を与え、より良い社会の実現へつながる。三権のうち司法のみが国民の参加がなかった。この制度導入は国民主権の実現となる。司法への参加による法、民主主義、正義などの学習が実現出来るという説明がおこなわれ、矢吹検事が、日本は世界一安全な国という言葉は死語となった。安全な国日本を取り戻すためには刑事裁判のあり方が重大な意味を持つ、国民参加によってより適切な裁判が実現出来るとの補足説明をされました。

 これに対して、井上さんの方から、裁判員制度はどのようなものになるかという観点から、法律的な知識がない裁判員は裁判官と同じように判断できるのかという質問がおこなわれましたが、川口判事からは、法律的な問題は裁判官が整理し、裁判員には事実認定だけをおこなってもらう、中間的な評議をおこないながら、個別の争点については意見を交換しながら進めることになるから心配はいらない、裁判員には社会経験に基づく意見を出してもらうようなっているとの説明がありました。この点に関しては、夏樹さんから、裁判をコンパクトにし過ぎてしまうと事実関係におこる陰影が落ちてしまう可能性があるとの意見が出されました。他方で、公判前整理手続で争点を落とさないようにしなければならない。裁判の過程において新たな事実が発見されることも事実であり、弁護人の負担は相当増える、費用的に見合わないので刑事事件しないという傾向が出るかもしれないという意見も出されました。

 市民から、守秘義務があって、裁判が終わって、家に帰っても何も話すことが出来ないのかという質問がありましたが、川口裁判官から、評議が自由に行われることを担保するために守秘義務があるという趣旨であるので、評議の過程とその核心部分や、プライバシーに関する部分について守秘義務があるだけで、何でもかんでも秘密という趣旨ではないとの説明がありました。また、被告人から有罪の判断をしたことで報復を受ける恐れはないのか、その恐れがないように、裁判員は被告人から見えないようにすべきではないかという意見もでましたが、裁判員の個人情報については被告人らの関係者が知り得ないように工夫してあるので報復の心配はない、裁判では被告人の話を直接聞くことが判断をする上で必要であるので、対面をしないということは出来ないとの説明がありました。さらに、市民からは、裁判員を辞退することが出来る場合があるのか、仕事が忙しいということで辞退できるのかという質問などありました。

 最後に、法曹三者から一言という形となりましたが、川口判事が、裁判員制度は裁判に社会常識を反映させるために制度であるので、裁判員には普通の気持ちで参加して欲しいとの発言をされ、矢吹検事は、国民に理解してもらえる裁判の実現は、法曹の責任であるとの発言をされ、上田弁護士からは、裁判員制度のもとでは、弁護人と被告人の十分な意見交換が必要となる。そのためには、保釈が認められなければ十分な打合せも出来ない。捜査の可視化や、被告人の服装など裁判員の判断を誤らせない工夫も必要である等の意見が述べられました。

 また、直接の媒体を持たない司法とすれば、マスコミに対して理解を求めて、マスコミに広報活動に協力して頂く点が大きいという意見も述べられていました。

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