福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
ウォーク
2010年6月 1日
裁判員裁判施行後1年を振り返って(談話)
2010年5月21日 裁判員本部長(会長)
市 丸 信 敏(35期)
昨年5月21日に裁判員裁判が施行されて1年が経過しました。 市民の皆様が刑事裁判に直接参加することによって、無罪推定などの刑事裁判の原則に忠実な「よりよい刑事裁判」が実現するとの観点から、当会は、司法への市民参加の意義を訴え続けてきました。
実際に、市民感覚が裁判に活かされていることは、判決の「量刑の理由」に現れています。従来は当然のように情状として斟酌されていた被害弁償の事実や被告人の年齢も、裁判員裁判では、なぜそれが量刑に影響するのかということが評議の場で議論され、裁判員の納得を得てはじめて量刑の理由として記載されているようです。このことによって、法律専門家にとって当たり前だった事実の評価、すなわち法律専門家の常識が、本当に常識といえるのかが、問い直されつつあります。
また、裁判員にとっては、裁判員裁判はおそらく一生に一度の体験です。実際の事件で、裁判員は、長い審理時間、集中し、真摯に裁判に参加していたと報告されています。裁判員のその集中力や、審理に対する意識の高さは、審理に緊張感を与えます。このことが、法律専門家の、ひとつひとつの裁判に対する意識を高め、内容の充実をもたらすことが期待されます。
一方、裁判員の負担軽減の要請の許に、審理時間の短縮、法廷に顕出する証拠の制限が強調されすぎているのではないか、という懸念が、実際に裁判員裁判を担当した弁護人から示されています。確かに、長時間の審理は、裁判員の負担となるでしょう。しかし、それを避けるために被告人の防御権を侵害するようなことになっては本末転倒です。また、判断に必要な証拠が不足している状態で、被告人の有罪、無罪や量刑について評議することは、むしろ裁判員にとって心理的な負担となり、かつ、評議に要する時間の負担も増す可能性があります。内容の充実した審理こそ、刑事裁判の本来あるべき姿であり、裁判員裁判の目指すところでもあります。当会としては、裁判員裁判において本当に充実した審理がなされているかを検証し、改善に努めていきたいと思います。
被告人の権利を擁護し、充実した審理を実現するために、弁護人の役割が重要であることは言うまでもありません。検察庁が裁判員裁判に組織的に対応し、その公判に複数の検察官が立会っていることに鑑みても、複数弁護人体制が必要不可欠です。この間、当会では、被告人国選事件ではほぼ全件で複数弁護人体制を実現して来たところであり、今後もこの方針を継続し、そのためのサポート体制も拡充強化する予定です。
ただし、充実した審理を実現するためには、起訴される前の被疑者段階から弁護人が複数選任されることが必要不可欠です。しかし、刑事訴訟法上の障害等もあって、被疑者国選段階での複数弁護人は例外に止まっています。当会は、これまでも裁判所に被疑者段階での複数選任を要請して来ましたが、今後も積極的に求めていきます。 なお、当会は部会制をとっており福岡地裁久留米支部管轄地域には筑後部会、同飯塚支部管轄地域には飯塚部会があります。現在は、これらの支部管轄地区内で発生した裁判員裁判対象事件は、全て福岡地裁本庁に起訴されることになります。当会は、そのような事件については、やむを得ず、上記各部会と福岡部会が協力して弁護人を選任していますが、弁護人相互間や被告人との打ち合わせなどでの支障があることは否めません。また、筑後、筑豊地域の方が、裁判員候補者として福岡地裁本庁に呼出を受けている現状があります。これらの支部においても裁判員裁判が実施されるよう、裁判所の支部体制の整備を含めて、裁判所に要請していきたいと考えます。
さらに、未だに実現していない重大な課題として、自白偏重主義の撤廃、取調べの可視化(取調べの全過程の録音・録画)があります。志布志事件や足利事件などの冤罪事件では、捜査機関が虚偽の自白調書を作成していたことが明らかになっています。虚偽の自白調書により、市民が誤った判断をしないためにも、取調べの可視化が是非とも必要です。 当会は、被疑者・被告人の権利が十分保障された適正な刑事手続の実現を目指し、これらの課題の実現に引き続き全力を尽くします。
本年度は、いよいよ否認事件や極刑求刑事件などの重大・困難事件が次々と審理にかかることが想定され、裁判員裁判の定着をはかる上での正念場を迎えます。 当会では、さらなるノウハウの蓄積、経験交流を通じて会員の弁護技術を研鑽するとともに、弁護人アンケート、市民モニター、弁護士モニター等の情報の分析、裁判員裁判検証運営協議会での議論等々を通じてその運用改善に努め、また、施行3年後の見直しに向けての取り組みを持続していく所存です。
2004年5月 1日
紛争解決センターってどんなところですか?
紛争解決センター運営委員会 事務局長 大神 昌憲
1 福岡県弁護士会紛争解決センターついにスタート!
思い余って弁護士に相談したところ自分で裁判するように言われたが、裁判沙汰などとんでもない。弁護士に依頼して紛争を解決したいが弁護士費用が払えない。
裁判を利用したいが一般に公開されるし時間がかかりすぎて嫌だ。
このような場合、多くの市民は泣き寝入りを強いられていたと思います。
こうした市民の不満を解消するために、平成十四年十\二月二十日、福岡県弁護士会紛争解決センターがスタートしました。
2 紛争解決センターではどのような紛争を扱っていますか?
紛争解決センターでは、お金の貸し借りや各種事故の損害賠償請求、家庭内のもめごとや近所とのいざこざ、相続問題、従業員の解雇をめぐるトラブル、不動産の明渡請求、欠陥住宅問題や医療事故問題等、あらゆる紛争を迅速に解決することを目標にしています。
3 まずは法律相談から
このような紛争に巻き込まれた場合、是非とも紛争解決センターをご利用いただきたいのですが、まずは福岡県弁護士会所属の弁護士による法律相談を受けていただく必要があります。福岡県弁護士会が実施する有料法律相談(三十分五千円・消費税別途)でも、自治体等が実施する弁護士による無料法律相談でも結構\です。
といいますのも、紛争解決センターにおける手続きは紛争の相手方も参加してはじめて成り立つ民間の手続きですから、当該紛争が紛争解決センターの手続きに適しているかどうかについて、予め弁護士に相談していただくのが適切であるからです。
相談の結果、紛争解決センターによる解決を勧められた場合、その法律相談担当弁護士から必ず紹介状を書いてもらってください。紛争解決センターに紛争解決(仲裁)の申し立てをするに当たっては、紹介状が必要になっています。勿論、弁護士に依頼して、弁護士を代理人としたうえでの申\立も可能です。
4 申立
申立書は、福岡県弁護士会が各地に設置している法律相談センターなどに備え付けてあり、誰でも簡単に記入することができます。
申立書の受付など事務取扱は当面、天神弁護士センター(福岡市中央区渡辺通五-二三-八サンライトビル三階/○九二-七四一-三二○八番)と北九州法律相談センター(北九州市小倉北区金田一-四-二裁判所構内北九州弁護士会館内/○九三-五六一-○三六○番)の二ヶ所で行いますが(受付日時・月曜日から金曜日までの午前九時三十分から午後四時まで)、徐々に事務取扱センターを増やしていく予\定です。
申立に当たっては、申\立手数料が一件につき一万円(消費税別途)必要です(生活保護受給者は免除します)。相手方がどうしても手続きに参加してくれないまま手続きが終了した場合は、申立手数料の半額が返還されることになっています。
5 仲介人・専門委員
申立が受理されると、当該紛争を解決するに適した仲介人が選任され、第一回の仲裁期日が決められていて、相手方にも手続きに参加するよう通知されます。
仲裁人はすべて弁護士で、福岡県弁護士会に所属するベテラン弁護士を中心に構成されています。
建築紛争や境界紛争、医事紛争等、弁護士以外の専門家の助言を要する場合は、そのような専門家の協力を得ることもできます。
6 仲裁期日
仲裁期日においては、仲裁人が、申立人および相手方双方から、じっくりと話を聞いたり証拠書類の提出を受け、問題点を整理しながら一緒に解決策を考えていきます。もちろん、非公開で秘密が外に漏れることはありません。
仲裁期日一期日の時間は約二時間ほどを見込んでいます。
仲裁期日は、原則として、前途の天神弁護士センター又は北九州法律相談センターにおいて、平日の午前十時から午後五時までの間に実施されますが、場合によっては、紛争の現地や仲裁人の弁護士事務所などで実施されることもありますし、夜間や土曜日、日曜日に実施されることもあります。
なお、仲裁期日において、通訳・出張などを要した場合は、申立人及び相手方双方に、実費の負担をお願いしています。
7 和解の成立、不成立
このような仲裁期日を数度重ね(三期日を目途としています)、話し合いが成立すれば、担当の仲裁人(弁護士)が和解契約書を作成します。この場合、申立人及び相手方双方は、紛争の規模に応じて決められる成立手数料を紛争解決センターにお支払いいただく必要があります(例・百万円の紛争の場合、申\立人・相手方の成立手数料は各自四万円になります)。
残念ながら話し合いが成立しなかった場合は、手続きは和解不成立で終わることになりますが、すべてが無駄に終わるわけではなく、問題点が整理されたことによって、訴訟提起など次なる行動への大きなステップとなるはずです。この場合には、当然のことながら、成立手数料をお支払いいただく必要はありません。
8 最後に
紛争解決センターは、早くそして適正に紛争を解決したいという市民の皆様のご希望に沿いたいと心から考えています。
スタッフ一同お待ちいたしておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。
2004年4月 1日
法律相談センターの展開
〜市民のよき法律アドバイザーをめざして〜
HOW TO 法律相談 天神弁護士センターから
1 センターでの相談内容として圧倒的に多いのは多重債務関係についてであり、ついで離婚や相続等の家事問題が多いので、これらを具体例に引きながら、効果的に法律相談を受けるためのアドバイスをしましょう。
これはセンターでの相談に限らず、法律相談を受ける場合の全てに当てはまることです。
2 法律相談センターを訪れる際の留意点
まず、事前に電話予約をしてもらうことになります。そのときに予\め事前の注意などがあると思いますので、説明を聞いておいて下さい。
限られた時間の中で的確な回答を出していくためには、事件の内容を明らかにする書類(契約書、登記)などを持ってきてもらうことが必要です。実際交渉や裁判となった場合にこのような証拠は必ず必要となりますから、相談のときに集めておいて損にはなりません。ただし、いきなり全てを用意することは困難な場合がありますので、自分が持っている限りの関係書類を持ってきてください。これについては次のページに個別事件後とに必要書類の例を書き出してみました。
特に注意してほしいことが「時間厳守」です。センターでは、1人の担当弁護士が1日5、6人の相談者の方の話を次々と聞くことになるのですが、最初の相談者の方が10分遅刻すれば、後の5人も10分ずつ時間がずれ込んでいくことになるのです。予約時間の10分前には法律相談センターの方へ来ていただくことを守っていただければ、相談がスムーズにいくことになります。
3 事前の注意点
- 多重債務関係
誰に、いつ、どれくらい借りたのかが分かるような書類が必要です。特に、多重債務者の方の場合は、事前に債権者の一覧表(債権社名・住所・債権額など)を作成し、併せて収入関係や家族関係を明らかにする書類を持ってきてもらえると話がスムーズに進みやすくなります。
- 離婚
離婚には(1)当事者間での協議中、(2)調停中、(3)裁判中と段階があるので、それぞれに応じた書類が必要になります。(1)の場合は交渉内容を整理したメモ、(2)の場合は調停の経過や具体内容を示す書類(裁判所に双方が出した書類など)(3)に至っていれば(2)とあわせて調停不成立の証明書等が必要です。
- 相続
不動産や銀行預金などの財産がどれくらいあるのかのメモと、誰が相続人となるのかがはっきり分かる戸籍謄本や親族関係を示したメモを事前にまとめておいていただくと便利です。
- 交通事故
警察署が発行する事故証明書(県警本部で作ってもらえます)を持ってきていただければ事故の特定が容易になります。人身事故の場合は診断書も必要です。
- 一般民事事件
急に裁判を起こされて、どうしてよいのか分からず困っていると言うような場合は、裁判所から送られてきた訴状と証拠書類を必ず持参してください。
弁護士に事件を依頼せずに自分で裁判を行っている場合は、訴訟にこれまで提出されている資料は全て持ってきてください。
これらの書類の持参がなければ、相談が上手く行かず、書類を揃えてもう1回来て下さいということにもなりかねませんので、準備していただければ幸いです。
ドメスティックバイオレンスと子どもの虐待についての相談
Q ドメスティックバイオレンスとは何ですか?
ドメスティックバイオレンスとは、親密な関係にある夫や恋人から、妻やパートナーに対して振るわれる身体的・精神的暴力のことをいいます。警察庁が発表\している統計資料中のドメスティックバイオレンスの項目には日本で年間100人以上の妻が、夫から殺されていることが紹介されています。「怪我をされされた」という程度になるともっと多く、怪我をしても病院にもいかず、警察にも相談せず、となると、もっと多く、なるのです。
そういうと、会社員や公務員、自営業などなど社会で立派な生活を送っている人がそんなことするだろうか、暴力団だとか、そういう危ない人の話ではないのか、と思われる方も多いでしょう。しかし、実際には、一見普通の社会生活を送っていると思われる家庭のなかで、夫から妻に対して、ひどい暴\力が振るわれ続けているケースが少なくありません。
Q 弁護士は何をやってくれるんでしょうか?
まず、身の安全を確保し、落ち着いた生活を確保するために、どうすればよいのかを一緒に考えて、その後離婚なども含めてご相談にのります。
家庭内で行われる暴力は、被害を受けている妻も、逃げるに逃げられないことが多いのです。多くの人は、逃げても執拗に探されたり、押し掛けてくる、見つかれば、もっとひどい目にあう、ということをとても怖く思い、逃げること自体を諦めてしまったりしています。実際、妻が自宅を出ると、実家や友人宅を探し回ったり、怒鳴り込んだりする暴\力夫も少なくありません。このような時に役立つのが「保護命令」の制度(配偶者からの暴力及び被害者の保護に関する法律10条・通常DV防止法などといわれています。)です。身の回りを整理して、必要な一定の荷物を持って家を出たい。あるいは職場や、ようやく確保した生活場所に近づいてほしくない。このような時、(1)過去に夫からの暴力について警察やDV防止センター(各県の婦人相談所など)に相談したことがあり、(2)今後、生命・身体の安全を脅かすような身体的暴力を受ける可能\性が高いときは、裁判所に申し立てて保護命令を求めることが出来ます。(1)のように警察のなどに相談したことがなくとも、これまでの暴\力の実情を書面に書いて、公証人役場で宣誓陳書を作れば大丈夫です。このような場合、裁判所は、夫に対して、「2週間、自宅から出て行け(退去命令)」、あるいは、6ヶ月間、妻の周りや職場や生活場所をうろつくな(接近禁止命令)」という内容の二種類の命令を出すことができます。
もし夫が保護命令に違反すれば、刑事罰を受けることになります。また、保護命令が出た場合には、警察も得に慎重に警備を行ってくれます。
夫の暴力が怖くて、落ち着いて今後のことを考えることもできないようなとき、まず、身の安全を確保することはとても大切です。ゆっくりと食事をし、ぐっすりと寝る。日常生活の安全を確保してから、夫との関係も含め、これからのことを考えましょう。
また、生活場所の確保や、経済的な心配は弁護士だけでは解決できない問題ですが、弁護士会は各自治体の相談窓口や支援グループとも連携を取っていますから、一緒に協力しながら、問題解決にあたります。
暴力を振るう夫と離婚したいときにも、もちろん弁護士はご相談に乗ることができます。この場合にも、離婚手続きを進めるときに、さらに暴\力を振るわれるおそれがないようにしながら、手続きを進めなければなりません。最近は、調停や離婚訴訟においても、裁判所と連絡をとり、警備を要請したりすることが必要なケースもあります。また、手続きのなかで、暴力を認めない夫も少なくありませんから、そのような時に、妻の話をきちんと裁判所に理解して貰うために、弁護士が力を発揮します。
各法律相談センターなどにご相談いただくときには、「夫の暴力について相談したい」或いは「DV防止法の保護命令を相談したい」などとあらかじめ予約の際にお伝えいただければ、手続きに詳しい弁護士の担当日に予\約できると思います。一度、ご相談ください。
子どもの虐待について心配がある時にも、弁護士が力になれる場合があります。子どもの虐待は、児童相談所や保健所、学校や保育園、幼稚園、病院などたくさんの専門機関が力をあわせて解決しようと取り組みを進めている問題です。その中で弁護士は、特に、虐待している保護者(親など)と子どもを、一定期間別に生活させる必要がある時に、親権者変更や監護権者の指定という家庭裁判所への申立のお手伝いをしたり、児童相談所と協力しながら、今後のことを一緒に考えていくことになります。
各法律相談センターなどにご相談いただく時に、「子どもの虐待について相談したい」とお伝えいただければ、詳しい弁護士の相談日に予約できると思います。
高齢者・障害者 安心生活支援
〜ネットワークづくりをめざして〜
弁護士 岩城 和代
「あいゆう」の財産管理等サービスについて
Q1 「あいゆう」でしてもらえる財産管理サービスには、どんな種類・方法があるのですか?
A. 三つのコースがあります。
一つは、判断が十分できなくなったお年寄りや障害のある人のために、家庭裁判所に法廷後見などの申\立をして、「あいゆう」登録の弁護士が法廷後見人などになって管理していくやり方です。
二つは、お元気なうちに、自分が判断できなくなったときに備えて、あらかじめ公正証書によって信頼している特定の人に将来の財産管理を依頼するやり方です。これを任意後見制度といいます。さらに細かくいえば、この方式には「あいゆう」登録の弁護士が直接に財産管理の依頼を受けることもあれば、ご親族の方が依頼を受け、「あいゆう」登録の弁護士がその親戚を監督するという方法もあります。
三つは、「あいゆう」登録弁護士とお年寄りの方とかが直接に財産管理契約を結び、「あいゆう」がその弁護士を監督するという方法です。
一つ目については12頁を、二つ目については10頁をごらん下さい。ここでは、三つ目のやり方に話をすすめましょう。
Q2 三つ目のやり方については、どんな人が利用できますか? 隣のおじいさんは頭はしっかりしていますが、体が不自由で誰かのサポートを受けたいとおっしゃってるのですが・・・。
A. まさに、そのおじいさんのような、自分でお金のことは何でも分かるけれど、体が言うことをきかず、結局、自分のお金も自由に使えない方々のために、「あいゆう」独自の財産管理サービスを用意したのです。
一つ目と二つ目は、判断力が不十分になったときに初めて他人からサポートを受けることができる制度です。ですから、頭のしっかりしたお年寄りや判断力が十\分で他の障害を持つ方々は利用することができません。
でも、「あいゆう」登録弁護士の経験では、甥や姪は遠いところにいるけれど何十年も音信不通の状態で、一人暮らしを続けてこられたお年寄りが老健センターや特別養護老人ホームに入所されたあと、財産管理をする人がいなくなったケースなど結構\あります。このような方々に利用できる制度として、三つ目を用意したのです。
ぜひご活用下さい。もちろん軽い判断力の低下のある人でも利用できます。
Q3 実際に財産管理をする人は弁護士個人なのですね。その弁護士さん一人を信頼しておれば安心なのでしょうか?万一のことはありませんか・・・
A. ご不安は十分理解できます。「万一のこと」とは、弁護士が財産を着服したとか、財産どろぼうから取られたとかが考えられます。前者は、絶対にあってはならないことです。
そのため、「あいゆう」では登録弁護士向けにいろいろの研修を行って、弁護士のプロとしての力量を高めるよう日々努力を重ねています。また、弁護士は常に他人の金銭をお預かりする立場にありますから、倫理に関してもたゆまぬ研鑽を重ねています。いったん「あいゆう」登録弁護士が財産管理を受任した後は、「あいゆう」自身が団体として、四ヶ月ごとに皆様からお預かりした大切な財産の状況をチェックします。
また、泥棒が押し入った場合などに備えて、個々の弁護士とともに弁護士会は賠償責任保険に加入しています。ですから、どうぞ安心してお任せください。
Q4 財産管理だけしか頼めないのですか?
A. 財産管理に関係していることなら、毎日の生活費の支払いや身守りなど、希望されるほとんどのことを頼めます。
たとえば、生命保険や賠償責任保険の切り替え手続き、お亡くなりになった際のお葬式や祭祀ごと、納骨などです。
また、遺言の作成も依頼されたほうが便利だと思います。実際の介護行為はできませんが、介護する人や施設を見つけ、そこと介護・入所契約をすることもできます。
Q5 費用はどれほどかかりますか?
A. 財産管理等契約を結ぶときに、場合によっては二○万円以下の一時金がかかります。
実際に財産管理サービスを始めたあとは、月に一〜五万円の範囲内で、話し合いによって合意した額をお支払いしていただくことになります。
2004年3月 1日
犯罪被害者対策
被害者は何をなしうるのか
「N君、被害者がなしうる法的対策のフローチャート出来た?〆切はとっくに過ぎたけど。」
「難しいですよ編集長。被害者が法的対策としてやれるのは、刑事的(刑罰の手続)には刑事告発や被害届、民事的には損害賠償の裁判や仮処分(裁判前に迅速な仮の命令を求める手続)でしょう。フローチャートを作れって言うのは刑事裁判や民事裁判の流れを一目で見て分かる資料を作れということと同じですよ。そんな分かりやすいのがあれば苦労しません」
「ただ、被害者の法律相談を受けるカウンセラーによれば、被害を受けた人はパニック状態なので、法律手続きの説明を受けるだけでも、法律的に何が出来て何が出来ないかが分かり、自分の進むべき方向が見えてきて落ち着くと言われるんだけれどもね。」
「そのためには弁護士に直接相談するのが最も適切でしょう。だから弁護士会でも法律相談センターだけではなく、新たに被害者相談センターを設ける予定なのでしょう。」
「でも、犯罪被害者が自分の被害を訴えるのに心理的抵抗があって、相談窓口に出向くことが難しいといわれているのが問題でしょう。だから君がなるべく分かりやすい手続フローチャートを作って、この本に載せれば役に立つのに。」
「でも、犯罪被害も多種多様だから一筋縄ではいかないのですよ。刑事的にでも、分かりやすい例で言えば、強姦のような性暴力やドメスティックバイオレンスと交通事故のような交通犯罪では大きく手続きが違いますよね。被害者の対応手段も全く異なってくる。」
★ 『例えば、性暴力の場合はどうなるの。』
「性暴力やドメスティックバイオレンスは他の人の知らない所で行われるから、処罰を求めるためには被害者が加害者を告訴するか被害届けを出すのかいう判断とその手続きが重要になりますよね。その場合、相談を受ける者や告訴を受けた警察が事情を被害者に根掘り葉掘り聞くために被害者を傷つける二次被害の防止対策も大切となります。
民事的には被害者は加害者に対する損害賠償請求とその裁判ができますが、加害者に財産があるかどうかが重要です。加害者に財産がない場合、いくら裁判所が損害賠償を命じてくれても実際には取りはぐれてしまいますよね。性暴力の加害者の中には財産や資力のない人もいるでしょうから、そのような場合、裁判の手間(判決までには証拠書類を出したり、証人尋問をする必要性があり、時間がかかる。但し、第一回目の裁判に被告側が欠席したりしてなんの答弁もしないとか、請求の理由を全て認めた場合などに、直ちに判決されるのが例外である)や裁判の費用(訴訟を起こす際には規定された額の印紙を貼\り、返信や送信用の切手を予め納める必要がある)や弁護士費用をかけてまで、損害賠償を求めるかは大きな問題になるでしょう。加害者に資力があるかどうかは、殺人、傷害、窃盗などどんな犯罪被害においても民事上の救済に大きく立ちふさがる問題かもしれませんね。」
★ 『その点、たとえば交通事故であれば、どうなるの。』
「加害者が強制保険や損害保険に入っていることが多い交通事故の被害では大きく異なってきますよね。保険会社からは賠償金を取りはぐれることがありませんから。刑事的にも交通事故ならば、警察が事故処理に駆けつけますので、告訴や被害とどけなどの手続きはあまり重要ではなくなりますよ。」
★ 『その他、ストーカーの場合はどうなの。』
「ストーカーの場合は、ただ単につけ回すとか、電話をかけるとか刑事的には犯罪になりにくいといわれていますよね。
そこで、ストーカー本人や関係者にストーカー行為をやめるように通知をして、それでもきかないときには、本裁判には時間がかかり、被害が大きくなる可能性がありますので、周辺の徘徊などを禁じるという裁判所の仮処分をとることになるでしょう。それでも違反する時は、違反するたび賠償金を支払うように命じる仮処分をさらに申\し立てることになるのでしょう。ただ、仮処分は裁判所が迅速に命じますので、その担保として裁判所が定める供託金を納める必要があるのが本裁判とは違いますよね。」
「聞いていってみると、犯罪被害対策はケースバイケースのようだし、しかも法律的には決定的な対策がないようだね。」
「極端な話、犯罪によって人が亡くなった場合、どんな対策をとってもその人が生き返るわけでもないし、遺族の心の傷がなくなるものでもないでしょう。そのケースに応じた法的な対策が必要なことはもちろん、関係諸機関の総合的な対策が必要でしょうね。」
「そうだね。被害当初の相談窓口、心理的なカウンセラーや遺族の具体的生活を支援する社会福祉など、たくさんの総合的な対策が今後必要だし、それらを担う機関相互の協力も必要だろうね。」
2000年11月「ストーカー行為等の規制に関する法律」(ストーカー規制法」が施行されました。この規制法では、恋愛や好意感情のもつれから(一方的な思いこみも含みます)出たつきまといなどに対して、警察の警告や公安委員会の禁止命令を求めることができます。違反者には罰則の規定もあります。ストーカーは、放置すると重大な事件に発展することもあり、これまでの民事だけでの対応では被害者の安全を確保できないため、制定されたものです。(2004年5月)
民暴の被害を受けたらどうするのか
弁護士から見た対応マニュアル
福岡県弁護士会では、社会にニーズに応じるために問題ごとの各委員会を設けています。
民事介入暴力事件に対応するためには民事介入暴\力対策委員会がありますが、同委員会に基本的対応のマニュアルをまとめてもらいました。
1 警察や弁護士に相談する
まず、警察に連絡することです。
弁護士に知り合いがいれば、その弁護士に相談することです。弁護士に知り合いがいなければ、弁護士会に相談して下さい。相談する弁護士を紹介してもらえます。
結局、一人で悩まないことです。
暴力団員は、「俺たちは警察なんか怖くないぞ」と言うのですが、真に受けてはなりません。本当は警察が怖いから、そう言うのです。捜索を受け、逮捕されることは暴\力団にとっては大打撃です。そういう意味で現代の暴力団はビジネスなのですから、彼らは警察沙汰になるかもしれないというリスクは回避しようとすると考えたほうが良いのです。
そのために、現実には、警察に相談するだけで暴力団の不当な行為が止まってしまうことも多いのです。
あるいは弁護士に相談することによって、問題が公になりそうだと言うことで、暴力団の不当な行為が止まることも多いようです。
2 間違っても他の暴力団に相談しようとなどしない
時々、暴力団員を押さえられるような他の顔役の人に頼もうかという人がおられます。
しかし、そのような人に頼られると、かえって、その依頼そのものが犯罪行為に当たってしまったり、法外な報酬を要求されてしまい、かえって困ることになります。
3 暴力団が交渉を求めてきたら、どうするのか
- 相手方の素性の確認
まず面談したら、相手方の住所、氏名や素性を確認してください。「氏名不詳某」では警察も弁護士も対応できないことが多いのです。逆に、相手方の組織まで特定できていれば、後の対応は非常にやり易いのです。
- 面談場所や方法
暴力団が交渉を求めてきたら、相手方の主張を良く聞くことです。まず、相手方の主張を聞かないと始まらないことも事実だからです。何を要求しているか分からないが、とにかく怖いというのでは警察としても動きようがないでしょう。
しかし、面談するときには一人では絶対に会わないことです。一人であるとどうしても暴力団員の迫力に負けてしまうのです。また、間違っても、暴\力団員の事務所で会うことはしないで下さい。会うとしても、ホテルや喫茶店のような公衆の目の届くところで会うべきです。暴力団の事務所で会うということは、暴\力団の要求を聞かない限り、事務所から帰してもらえず、ついには監禁されることを覚悟せざるをえないとまで言っても良いのです。そうなると、結局、一時も早く帰りたい一心で、とんでもない約束をさせられるという目にあってしまいます。
- 交渉の内容
暴力団の不当な要求は巍然と拒絶してください。期待を持たせるような曖昧な発言をしないことです。曖昧な発言をして揚げ足をとられて大変なことになった人は多いのです。
そのような曖昧な発言の揚げ足を取るのが彼らの常套手段だと考えて下さい。間違っても、後で取り消せば良いなどと安易に考えて、暴力団との約束等はしないことです。
要求を断るのは怖いと考えられるのは間違いです。確かに断ると暴力団員はすごむことが多いでしょう。しかし、すごんだり脅したりすれば、彼等は恐喝になるのです。今後は暴\力団が警察に追及される立場になるのです。怖い目に会うことが却って有利な展開につながると考えて下さい。
もし脅かされたとすれば、直ちに警察に通報することも忘れないで下さい。
4 相談窓口の連絡先は下記のとおりです
- 弁護士会は民事介入暴力対策委員会を設けて対応に勤めています\n
弁護士会への連絡先は、福岡地区であれば天神相談センター(092-741-3208)
また、北九州地区は(093-561-0360)、久留米地区は(0942-30-0144)、筑豊地区は(0948-28-7555)です。
- 財団法人暴力追放福岡県民会議も設けられています\n
相談室(092-651-8938)です。
- 勿論、各警察署の暴力団係も相談を受け付けます\n
相談するときには、それまでの事実関係のメモ等を作っておいて下さい。民事介入暴力は機敏に活動する必要が多いのですが、被害者に一から説明を受ける時間がないことも多いのです。しかも慌てて取り乱している人が多いので、話の辻褄が合わずに困ることがあります。処理を急ぐのに、話が分からないときほど大変なものはありません。自分でメモを作ってくと、記憶が曖昧になることもありませんし、記憶の整理にもなるでしょう。
夫婦の姓は?
「早く結婚して姓を変えたい」「同窓会名簿に旧姓って書かれたい」、こんな女性の声に見られるように、女性にとって姓が変わるということは、結婚の象徴のようなものでした。
明治始め、庶民が姓を名乗るようになった後、夫婦同姓が法律上規定されたのは一八九八年(明治三一年)です。「妻ハ婚姻ニ因リテ夫ノ家ニ入ル」に示されるとおり、妻が夫の家の姓を名乗るという夫婦同姓でした。戦後改正された現行民法では、憲法に揚げる個人の尊重と男女平等の精神のもと、夫婦の姓は、二人の協議により夫または妻の姓のいづれかを選択することになりましたが、夫婦同姓は戦前と変わりませんでした。
そして現実にも、約九八%の夫婦が夫の姓を選択しています。昨年九州弁護士会連合会では、夫婦別性についてのアンケートを行い約ニ五○○人から回答を得ましたが、その中では、約八五%の夫婦が性の選択について協議をせず、約八九%の人が、当然と思って、あるいは世間一般がそうなっているのでという理由で夫の姓を選択していました。対等な協議による選択とは程遠い数字です。
しかし一方で、結婚して戸籍名は夫の姓にするが、社会生活では「旧姓」を使う「通称使用」の女性が増加し、企業でも女性が多く働く会社を中心に、この通称使用を認める傾向にあります。それでも、パスポートや健康保険証は戸籍名でなければならず、通称使用にも限界があります。そのため最近では法律上の結婚自体をしない「非婚カップル」も少なくありません。
生まれた時から慣れ親しんできた自分の姓名。姓と名前で一人の個人を表すものなのに結婚によってなぜ変わるのでしょう。「どうしてそんなに姓にこだわるの」という疑問を持つ方もあるでしょうが、反対に九八%の男性が姓を変えていないことからすれば、男性こそ姓にこだわっているとは言えませんか。\n
女性の社会進出が進み、働く女性が五割を越え、社会参加に対する女性の意識も高くなっています。その意味では、確立した社会生活の途中で姓が変わることの不便さが、このような議論を生んだひとつの理由ではあります。しかしそれ以上に、女性だけが姓を変える結果となっていることへの疑問、そこに根強く残っている「妻ハ婚姻ニ因リテ夫ノ家ニ入ル」という風習を敏感に感じるからではないでしょうか。女性の多くは「○○さんの娘さん」から「○○さんの奥さん」「△△ちゃんのお母さん」と呼ばれ続けます。そうではなく、○○△△という一人の個人として生きたいという女性の意識が、自分の名前、姓へのこだわりを生んでいると思います。
夫婦別性にすると、子どもの姓はどうなるのか、家族の一体感が失われるのではないかとの疑問も出されています。
ここでいう家族の一体感とは何でしょう。別性を実践している多くのカップルは、法律上の結婚という制度に支えられていないだけに、実質的な結びつきによって二人の関係が支えられていることを強調します。離婚や養子縁組などによって、血のつながりはあっても姓が異なる家族が一緒に暮らすことは珍しくありません。しかしそこに造られている家族の関係が同姓家族より薄いとは決して言えません。「家庭内離婚」などの言葉に示される形式的なまとまりや、家族が誰かに従う形での一体感ではなく、対等な個人の関係から生み出される家族の関係。これを一体感というかは別として、姓に左右されない夫婦・家族の関係を作ることこそ重要なのではないでしょうか。
子どもの姓もしかりです。現在日本弁護士会が提案している案では、夫婦の協議によって子の姓を決めるとしていますが。どちらの姓を名乗ろうとわが子に対する愛情は変わらないはずです。
夫婦同姓は、女性だけの問題だけではありません。結婚してどちらかが姓を変えなければならない夫婦同姓の制度では、二人とも姓を変えたくない場合、結婚できませんし、本当に対等に姓の選択を協議するとしたら、男性も姓の変換について真剣に悩まなければならなくなるはずだからです。
現在民法の家族法改正の中で、夫婦別姓が検討されており、選択的別性(同姓でも別性でも選択できる)制度が、有力視されています。
自分がいやなことを相手にも強制したくない、姓を自分の一部としてこだわり続ける、こんな自由を認めることはむつかしいことでしょうか。
夫婦別姓を認める民法改正は難航しています。法務省の法制審議会は96年に別姓を認める改正案を答申しましたが、自民党内の合意がえられず、国会提出は実現していません。今国会に向けても、自民党法務部会で議論がありましたが、見送りとなりました(2004年5月)