福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2025年4月号 月報
市民とともに考える憲法講座第15弾「武器としての国際人権」のご報告
月報記事
憲法委員会 副委員長 栃木 史郎(65期)
2月7日18時から、福岡県弁護士会館大ホールにおいて、市民とともに考える憲法講座第15弾「武器としての国際人権」というタイトルで、日本の人権状況向上を目指して国連人権機関への働きかけを続けてきた藤田早苗氏の講演がありました。藤田氏はエセックス大学人権センターフェローであり、「武器としての国際人権-日本の貧困、報道、差別」(2022年集英社新書)など多数の著書を出版されています。なお、講演会はZoomなしの会場のみであり、当日は雪も降る極寒のなかでも、100名を超える人が参加しました。
講演会では、人権とは何か、人権の普遍性、国際人権基準を遵守することの重要性、人権擁護のための個人通報制度や国内人権機関など、人権に関する様々な話をいろいろ聞くことができました。
●人権とは何か
人権について考えるうえでは、そもそも「人権とは何か」というのを考えることが重要です。小学校の授業で習う「人にやさしくしましょう」「思いやりを持ちましょう」というのとはまったく違うものです。生まれてきた人間すべてに対して、その人が能力・可能性を発揮できるよう、政府に助けを要求する権利が人権なのです。人権について正確な知識がなければ、人権侵害の被害を受けたとしても、その被害の存在すら認識できないことがあります。

●人権の普遍性
人権は西洋のものであると考える人もいますが、決してそういうものではありません。日本でも、たとえば、かつて「島原の乱」(1637年)が起きました。島原の乱は、キリシタンによる一揆という側面が強調されていますが、実際には、重税によって生活することができなくなった人たちが、自らの人権を守るために戦った、権力に対する闘争です。人権は、洋の東西を問わず、人間らしく生きるために必要なものなのです。
●国際人権基準を順守することの重要性
人権条約の締結国の実施状況を定期的に審査し勧告を与える機関として、国連欧州本部に設置された人権諸機関があります。2024年10月29日、同本部が設置する女性差別撤廃委員会は、日本に対し、女性が婚姻後も旧姓を保持できるよう夫婦の姓に関する法律を改正すべきことなどを勧告しましたが、日本政府は、その勧告を「一方的な声明で抗議せざるを得ない」と反論し、国連の「勧告は法的拘束力がないので従う義務はない」との姿勢を貫いています。しかし、勧告は国際人権基準にもとづいた判断であり、その内容には拘束力があります。建設的な批判をしてくれる「クリティカルフレンド」からの勧告を無視することはできないはずです。
●個人通報制度と国内人権機関
人権を擁護するための制度として、個人通報制度と国内人権機関というものがあります。
個人通報制度は、人権侵害を受けた個人が、国内の終審判決に不服が残るとき、人権条約機関に直接訴え、救済を求められる制度ですが、条約の「選択議定書」を批准する必要があり、残念ながら日本ではこの制度を使うことはできません。国内人権機関は、政府から独立した機関であり、人権教育や被害救済などを行います。世界では118の国内人権機関が設立されていて、韓国でも市民団体が極寒のなかハンストで訴えることによって設立がされましたが、日本ではまだ設立されていません。
個人通報制度のための選択議定書の批准も、国内人権機関の設立も、実現のためには「選挙でそれらを公約に入れなければ票を失う」と国会議員に思わせるようにしていく必要があります。
●尊厳ある生活の基盤となる人権
人権意識の問題は、私たちの生活にも影響します。昨今、日本ではインバウンドが急増していますが、それには、日本が「安い国」になってしまっているという背景があります
イギリスでは労働者が労働への賃金や報酬を守るために賃上げを要求するストライキが頻発し、所得とともに物価が上昇していきました。しかし、日本ではストライキは「迷惑なもの」「わがままなもの」と考え、賃上げを求めるストライキが発生せず、その結果、所得も物価も上昇せず、相対的に「安い国」なっていったのです。人権は、決して「迷惑なもの」「わがままなもの」なんかではなく、尊厳ある生活の基盤となるものと考えるべきです。
●公的な怒り
講演会の最後に、藤田氏は、「公的な怒りを表明する大切さ」を強調していました。不条理なことに対する「正当な怒り」がないところに社会変革はないのです。メディアに声を届けること、集会やパレードでアピールすることなど、私たちでも出来ることを、具体的なテクニックとともに教えてもらいました。
講演会のあと、藤田氏を交えて有志で懇親会をしました。このとき、藤田氏のこれまでの各地での講演会の様子、そして講演会に参加した弁護士側の感想など聞いて、参考になりました。『武器としての国際人権』という考えは弁護士にこそ必要な考えです。今後、会員向けの勉強会が企画されるはずです。会員の皆様にも藤田氏の話を聞いて、ぜひ今後の活動に生かしてほしいと考えています。