福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2025年2月号 月報

LGBTQ+当事者についての理解を深めるために

月報記事

LGBT委員会 委員 太田 信人(74期)

1 はじめに

2024年12月8日、福岡県弁護士会館にて「医療・教育の視点から見るLGBTQ+対応」と題する講演会が開催されました。当日は、事前の予想を大きく超えた50名の参加があり大盛況となりました。

当該講演内容について、簡単にですがご報告させていただきます。

2 LGBTQ+ガイドラインの説明

当会会員の皆様の下には、既に届いているかと思いますが、当会では、LGBTQ+に関する知識や状況、日々の業務において留意すべきことを記載した「LGBTQ+ガイドライン」が発行されています。これに基づき本講演会の前半部では、増永真希先生(76期)が当該ガイドラインの説明をしてくださいました。

増永先生は、LGBTQ+当事者は限定された場所にいるのではなく、どこにでもいるということを常に意識すべきということを冒頭にお話されました。というのも、現代社会において、LGBTQ+への社会的差別は依然として存在していることから、LGBTQ+当事者が他者にカミングアウトをしていない状況は往々にしてあり、カミングアウトされていないからといって周囲にLGBTQ+当事者が存在しないわけではないとのことです。そのため、私たちの無意識の差別的発言により当事者を傷つけている可能性があり、カミングアウトをされていなくても自分の周りにはLGBTQ+当事者がいるかもしれないということを意識しておくことが大切とのことでした。

弁護士として、相談業務を行う中でも、相談者の恋愛対象が異性であることを前提に話をしてしまうなど、私の無意識の言動により当事者に対して辛い思いをさせてしまっているかもしれないと改めて反省しました。

また、アウティングについても、細心の注意を持つことが重要と注意を促されました。アウティングとは、当事者の同意を得ずに、その人の性的指向や性自認などを他人に暴露する行為のことをいいますが、このアウティングによって、自死を選択する当事者も存在するなど、アウティングは命に係わる重大な問題であること、アウティングによって一度流出した情報は、コントロールができず、二重、三重のアウティングが行われ、事態はより深刻になるとのことでした。

その他、SOGIハラスメント(性的指向、性自認を理由としたハラスメント)や、弁護士として注意すること等、ガイドラインを引用してご説明してくださいました。

福岡県弁護士会 LGBTQ+当事者についての理解を深めるために
3 日高庸晴教授によるご講演

本講演会の後半部では、宝塚大学看護学部の日高庸晴教授をお招きして、「医療・教育の視点から見るLGBTQ+対応」と題して、日高教授によって行われたLGBTQ+当事者を対象とした26年間にも渡る研究データの説明、LGBTQ+当事者の医療機関や教育現場で置かれる状況、同機関等に求められる対応等をご講演いただきました。

(1) 性的指向と性自認に関連する国の主な動き

まず、「性的指向と性自認」に関連する国の動きについて、ご説明いただきました。我が国において、2015年以前は、LGBTQ+問題について、積極的に取り組まれていませんでしたが、2015年に文部科学省が「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施などについて」との通知を出し、学校に対して適切な対応を求めたことを皮切りに、LGBTQ+に関連する様々な通知や法改正等がなされ、直近(2023年)では「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(理解増進法)」が制定されるに至るなど、徐々に取り組みが開始されたとのことです。

(2) 教育現場での問題

上記のとおり、LGBTQ+に関する問題については、2015年以前は、国においてあまり積極的に取り組まれていなかったため、教育現場でもLGBTQ+の問題は優先度が低いとされていました。しかし、2015年以降の動き、とりわけ2022年に生徒指導提要が改正され、性的少数者の児童生徒への対応に関する項目が盛り込まれたことにより、LGBTQ+の存在を視野に入れた取り組みが行われるなど、優先度が高まってきたとのことです。

また、教育現場に関連する研究データも細かく示されました。例えば、「特に用事がないのに、保健室に行ったこと」、「与えられた制服に対する嫌悪」、「いじめ被害・不登校・自傷行為 生涯経験率」、「アウティング被害状況」等の詳細な研究データが示され、当事者が置かれる状況や、教育機関において当事者が安心できる居場所の重要性等についてお話がなされました。LGBTQ+当事者の「用事がないのに保健室に行った」割合が高いというデータから、当事者は、短い時間ですら教室にいることができない状況にあるとのお話は印象的でした。

いじめの問題も深刻でした。LGBTQ+当事者は、いじめ被害率・不登校率・自傷行為率が非当事者に比べて非常に高いというものです。当事者が受けるいじめの被害の内容も、「ホモ・おかま・おとこおんな」などの言葉によるいじめの他、服を脱がされて写真を撮られ、しかも現代では昔と異なり、その写真がSNSにアップされ、一生消すことの出来ない状況が続くなど悪質ないじめが実際に起こっているとのことでした。

増永先生のお話でもあったように、LGBTQ+当事者はアウティングや社会的差別のおそれから、自身のセクシャリティや悩みを打ち明けることが難しく、生きづらさを感じている当事者が多くいます。そのため、このような壮絶ないじめを受けても、いじめられている事実を誰にも打ち明けられずに苦しんでいる当事者が結果として自死を選択せざるを得ないのではないかと考えさせられました。

(3) 医療機関での問題

医療機関での問題も研究データとともにお話されました。多少の体調不良については、医療機関に行くことを我慢している(受診控え)LGBTQ+当事者が多くいるとのことです。

当事者が受診控えをするに至ったエピソードとして、ゲイである当事者が医療機関に行ったところ、洗いざらい説明させられた上で、他の医療機関に行くように言われたり、トランスジェンダー当事者が受診拒否にあうなど不適切な対応がなされたとのことでした。

私たちが当然のように受診している医療機関も、LGBTQ+当事者にとっては大きな壁になっているという現状も学ぶことができました。

4 さいごに

当会でも、LGBT電話相談を行っておりますし、近年、LGBTQ+問題がメディアでも取り上げられることが多くなってきていることからすると、私たち弁護士のもとにLGBTQ+に関する相談が来る可能性は高まっているといえます。また、相談者の中には、LGBTQ+当事者であるが、そのことを弁護士には伝えていないケースも多々あると思います(今までもあったかもしれません。)。そのため、当事者からの相談が来たとき等、無意識の差別的発言により当事者を傷つけないために、さらなる勉強が必要だと改めて実感させられ、本講演会は、非常に貴重な機会となりました。

日高教授は「LGBTQ+の健康レポート」という書籍も発行されており、本講演会の研究データの詳しい内容が記載されています。ご興味のある方は是非読まれてください。私も購入しましたので勉強したいと思います。

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